第22話 障害者限定の就職説明会

 時は、オバマが到来したちょうど一週間後。何の運命の巡り合わせかは分からないが、全く同じ場所で就職説明会が行われた。

 俺は久しぶりにスーツを着て、就職説明会へと望んだ。天気はどんよりとしており雨が今にも降りそうだと感じた。


「………………ついてねぇな」

降りそうだな。と空を見上げた瞬間、顔に冷たい何かが当たる。俺はこれは何か不吉な事が起きる前兆なのではないだろうか? と意味の分からない予感を感じつつ持っていた傘を開き、雨が降り始めた事に騒いでいるであろう外国人のそばをすり抜けて、早歩きで会場へと向かった。


***



 会場に到着し受付へと進むと、係の人が慌ただしそうに他の人の応対をしていた。確かホームページには第1回と書いてあったし、まだ不慣れなのかもしれない。そう考えておおらかな気持ちで列に並んで自分の順番を待つことにした。


 受付を終えたらパイプ椅子が並んでいる会場に案内され、開始時刻まで待機するように言われた。

 何の気なしに周りを見渡すと、車椅子に乗っている人から、義足っぽい人。それに至って正常に見える人など様々だった。まぁ、正常に見える人は俺みたいに精神障害者なのだろう。


 企業説明会が開始されると、正直どうでもいいと思われる各会社の人事からメッセージやアドバイスが始まる。正直、アドバイスの1つや2つで就職がイージーモードになる事が無いということは3年前にニートから脱却しようとした時に知っている。むしろ、アドバイスを真に受けず、自分らしさ全開で行ったほうが俺の場合はうまくいったのだ。そういう経験から俺はアドバイスを適当に聞き流した。

 次に企業からの一言PR。これも話半分に聞いておいた方がいい事を3年前に知っている。現に今、壇上で話している技術系の企業だが、「様々な障害者が会社で働いております」と言っているが、どのような仕事をしているかは一切口に出さない。こうもかたくなに、どのような仕事をしているかを言わないとなると技術系の仕事では無く、草むしりとかトイレ掃除だとかをやらされているのではないかと疑ってしまう。


 企業のPRも終わり、いよいよ本番。各企業と面談が出来る時間が始まった。俺の狙いはもちろん、前の会社の親会社と面談することだ。ここで面談する為にこのイベントに参加したと言っても過言ではない。しかも1対1でブース面談してくれるとの事。これ以上のチャンスはそうそう無いだろう。そう考えた俺は一目散に親会社のブース目掛けて突撃した。


「ここ大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫ですよ」

とブースにいる人事の人に形だけの確認。俺が一番にこのブースに来たんだ。先客がいるので後でお願いしますと言われたらこのイベントに瞬間移動の使い手がいる事を疑わなくてはならなくなるだろう。

「面接ですか? 説明ですか?」

え? 面接もしてくれるの? 何にも準備してないんだけど……。というか説明会って書いてあったから面接の準備は全くしてないんだけど……。

「説明……というより質問よろしいですか?」

ここで面接をお願いします。というほど馬鹿では無い。準備をしていないので、相手に不信感を与えるだろうし、そもそも時間の無駄だ。当初の目的を忘れてはならない。俺はそう考えて企業の説明を聞くより、その過程をすっ飛ばして質問とするという行動に出た。

「質問ですか。いいですよ、どうぞ」

「はい、では早速……。御社では障害者採用をされていますが、精神障害者を今まで1名も採用されていないのはなぜですか?」

1名も採用していない。と言った瞬間、人事の人が何でこんなことを知っているんだ? という顔になったが気にしない。カクヨムでは書いてないと思うが、裏で色々動いていたのだ。例えば前の会社の人事に親会社の情報について訪ねたり、民間の職業紹介事業者を用いたりしてな。

「そうですねー……」

と切り出してから人事の人は3分位語ってくれた。長くなるので簡潔にまとめるが、今までに精神障害者の方は面接に来ていたのかもしれないが、採用に値する人はまだ来ていない為、精神障害者の採用人数が0となっている。との事だった。

 でたよ。逃げの説明。と俺は思った。書くに値しない出来事だったのでカクヨムには書いていないのだが、他の合同会社説明会にもちょくちょく参加しているのだ。障害者を積極採用しています。という会社に対してこのような質問をすると、帰ってくる回答が大体これだ。なので俺は少し違う所から攻めてみる。

「そういえば、平成30年に『精神障害者雇用義務化』という法律が施行されるんじゃないかという噂がたっておりますが、それに関してはどのようにお考えですか?」

「そうですねー……」

これも長くなったので省略。簡潔にまとめると、施行されてから考えるとの事。

「でしたら、その時は私を実験台として雇ってみたらどうですか?」

と提案するが、笑って誤魔化されるだけ。うーむ……結構本気なんだけどな。

 その後は会社の事や、他の障害者がどのような仕事に付いているか質問してお開きになった。ようするに精神障害者雇用義務化が施行されないと、精神障害者を優先的に採用する気は無いらしい。恐らく他の精神障害者を採用していない会社もこんな感じなのだろうな。だから皆して同じような回答をするのだろう。


 その後は適当に他の企業のブースを回った。企業PRの時に「様々な障害者が会社で働いております」と言った会社に突撃して、

「PRの時に様々な障害者が会社で働いておりますとおっしゃっておりましたが、アスペルガー症候群の方は働いていらっしゃいますか?」

と質問したら、症状の軽い方が働いているとの回答を貰って、調子に乗った俺は

「私も精神障害者なんですけど、働けますか?」

と質問したら、ちょっとアスペルガーを強く感じるので難しいと断られ、落胆したような出来事もあったが、何とか無事に就職説明会を終わる事が出来た。相変わらず雨は振り続いていたが、俺の心は半年前の疑問が解決できて不思議と晴れやかな気分……にはならなかったが、親会社の人事から率直な意見が聞けたので一応満足できたという事にしておこう。

 さて、明日から就職活動をまた頑張りますかね。

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