会議通話と花火大会

@yashizushi

1.平々凡々のちょっと下な「ボク」

 特別頭がいいわけでもなく、運動も苦手で、ケンカも出来ないような気の小さい「ボク」。

 生まれつきの持ち物といえば「体格の大きさ」と「落ち着き」くらいで、家庭訪問の時は決まって「生活態度」が褒められた。そこは親も認めているようで、唯一自分の取柄とりえであると昔から思っていた。


 中学生に入学する頃には、三歳差の弟と、六歳差の妹のおかげで「面倒見の良さ」も評価対象に入ってきた。ただの遊び相手としか思って居なかったが、親からすれば「大きな反抗期を迎える訳でも無く、弟妹きょうだいの仲を取り持ついいお兄ちゃん」として見られていたらしい。

 ただ、これだけでコンプレックスは改善されるはずもない。

 「運動が苦手」という点で、休み時間のサッカーや体育のバスケットではただの状態。その上「気が小さい」ということもあり、自然と皆の輪から外れるようになってしまった。


 そうなってくると、僕と同じく、運動の苦手なクラスメイト数人と過ごす時間が多くなっていった。

 教室や図書館に集まり、やる事といえば「ただ話す」くらいしか無いのだが、ボクはここで自分のことを話す楽しさを知った。

 日々の出来事、家の事情、最近買ったマンガや昨日食べた物などなど。思い出せる限りのことを毎日話し合った。


 そんな中学生活も終わりそうな冬のある日、いつものように話をしていたクラスメイトの一人と「パソコンの話」になった。



 「そういえば、パソコンってお前の家にもあるの?」



 普段から使えている訳ではないが、家にあるのは事実。自分の父親が使う時に少しタイピングをさせてもらえる程度だと伝えた。



 「ええ!インターネットとかしてないの?もったいないなあ~。『チャット』ってやつで色々な人と話せるんだよ。俺らも最近始めたんだ」



 ……それって、危なくないのか。よくは分からないが、幼心に「知らない人」という立ち位置が妙に気持ちを遠ざけた。



 「だいじょぶだよ~。別に本名でやる訳じゃないからさ、自分の名前をそのまま使う人なんてそんなに居ないよ。何だったら今日うちに来て少しやってみたら?俺、自分のパソコン持ってるから貸してあげるよ」




 パソコンなんて滅多に使えない物だと思っていたボクにとって、彼の「自分のパソコンがある」という言葉に目がくらんだ。気持ちは既にお邪魔する気満々だった。

 目的は「チャットの体験」というよりも「タイピングが出来る」という点だったことは謝らなければいけないが。



 「じゃあ、早く準備して行こう!今日は親も居ないからいくらでも出来るぜ!」


 そんな彼を見ながら、ボクも帰宅の準備を急ぐ。



 ―――ここから僕の人生は、ちょっとずつ変わっていく。

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