童謡 〜先生と生徒〜

穂波 類

第1話 雨降りお月さん

「雨ふ〜りぃお月さ〜ん雲のぉかぁげ〜♪

お嫁ぇにぃ行くと〜きゃ〜誰とぉ行ぃく〜♪」



エリ

「先生っ!今唄っていらっしゃった歌の事なんですけどっ!」


先生

「あ〜、雨降りお月さん、ですね?何か質問でも?」


エリ

「はいっ!月が雲の陰になってますよね?で、雨が降ってるって事ですけど、どの程度の雨なんですか?あんまり降ってたら月が何処に隠れてるかもわからないと思うんです!」


先生

「あ〜、雲。あんまり降ってないんじゃないですかね〜。」


エリ

「煮え切らない返事しないで下さいっ!ちゃんと論理立てて教えてくれないと、気持ちわるいですっ!」


先生

「あ〜。この後歌詞がだねぇ。 ひとりぃで〜唐か〜さぁさしてぇゆぅく〜♪と続くんだがね、花嫁さんは当然花嫁衣装を着ているでしょう?で、それでも自分で唐傘をさして行ける、って事は大した事ない雨、って事じゃないかね?」


エリ

「成る程!よく解りました!で、そのあとまだ続くんですよね?」


先生

「あ〜。続きはだねぇ。唐か〜さぁ無いと〜きゃ〜誰とい〜くぅ、シャラシャ〜ラぁシャンシャ〜ん鈴つ〜けえたぁ〜お馬〜に揺られぇてぇ濡れてぇゆぅくぅ〜♪ はい一番おしま〜い♪」


エリ

「先生!おかしいです! だ・れ・と、って言ってて馬!って変です!なんで人間じゃ無いんですかっ⁉︎」


先生

「あ〜。それはだね〜。馬は友達、って言うだろう。そこですよ、そこ。」


エリ

「適当な事言わないで下さいっ!ちゃんと論理立てて教えてくれないと困ります!」


先生

「あ〜。だからねぇ、擬人化だよ擬人化。それによって花嫁の孤独がわかるじゃないか。月影朧な時雨降る夜‥‥馬が花嫁を背にうなだれながら山あいの道を往く‥‥静かな夜道に馬のひづめの音だけが響く‥ほぉら、ポッコポッコ。美しい光景じゃないかね」


エリ

「先生‥‥ポッコポッコ、が美しくないです。」


先生

「情緒だよ、情緒。」


エリ

「わかりました。情緒って事でなんとかします。でも、先生!唐傘ない時は馬、って事ですけど、この花嫁は唐傘が買えない程貧乏なのになんで馬を持ってるんですか?おかしいですよ!整合性が取れません!」


先生

「あ〜。それはだね〜。便宜上だよ、便宜上。この歌を作った野口雨情は良く考えている。ひとりでお嫁に行く時に女性があれもこれも持って馬に乗ったら美しくない。そこで雨情は考えた。そうだ!花嫁道具は先に嫁ぎ先に送った事にしよう。嫁入りの日は晴れの予報だったけど天気予報が外れてしまった、と。雨情はメッセージを隠してるんだ。」


エリ

「まさか、雨降って地固まる。じゃないですよね?」


先生

「素晴らしい!流石僕の生徒。君にはもう教える事はない!」


エリ

「え⁉︎先生!それじゃ困るんですけど!まだ2番が残ってるじゃないですか!」


先生

「いや〜、先生感動だ!ひとりでこの喜びを噛み締めたいからこれで失礼するよ!オーヴォア‼︎」


エリ

「は?何フランス語で挨拶してんのよ!ちょっと!まだ終わってないわよーーーっ!」




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