雨上がりの空と雪解けの泥
@yukihara
第1話 プロローグ
春の中ごろに僕は軍隊に入った。わざわざ僕が通う技術高等学校まで軍の募兵官がやってきて、普段はあまり間近に見ることのないいろいろな物を見せてくれたのだ。
普通の兵隊が持っているライフルに、訓練用の手榴弾、将校用の拳銃はどの学校で行われる説明会でも見れるけれど、僕が通っていたのは技術系の学校だったから他ではなかなか見ることの出来ないものも見ることが出来た。
例えば、機甲部隊が装備している主力戦車だとか、最新式の機関銃だとか。
初めて見て、触れたそれらに最初はすごく興奮した覚えがある。だって、戦車、かっこいいし。街で流行っている漫画はどれもこれも軍人が主人公で、大体が戦車部隊の指揮官なんだ。黒い制服にくしゃっと潰れたような形の制帽が彼らのトレードマークで……。
まあ、入隊した後に知ったことだけれど、戦車は数を間に合わせる為の軽戦車だったし、機関銃も十五年前には最新式だった代物だし。ようは無知に付け込まれうまく騙されたってわけだ。
何よりも僕達の気を引いたのは、各兵科の将校用の制服だった。僕達は将校になる法的な条件を満たしていたし(無事に学校を卒業できれば、だけど)、参考の為に持ってきたとのことだった。これも入隊後に聞いた話なのだけれど、なんでも軍服は宣伝相とかいう役職の人がただひたすらかっこよさを優先させて服飾デザイナーに作成されたものだそうで、事情を知らない子供がかっこいいと思うのは当たり前のことだったわけだ。これもおそらくは募兵官の確信的な犯行で、その他の展示品で入隊に靡かなかった生徒を軍隊に引きずり込む切札ということなのだろう。
そんな訳で、僕たちはまんまと募兵官の誘いに乗ってしまい、安い俸給と引き換えに貴重な青春を国家に売り渡す事になってしまったのだ。
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