大好きです!

黒猫くろすけ

第1話

その男の子は生まれつき、恥ずかしがりやだった。


 言葉を話せるようになっても、家族以外の他人とは口もきけなか

った。


 両親は心配して何度となく病院にも連れて行ったが、身体には異

常なし。精神科医にも特に心配する事も無いでしょう、そう言われ

た。


 そんなだから幼稚園に上がる前までは、近所の猫達が唯一の友達

だった。


 不思議な事に、人に寄りつかない野良猫達が、彼にはよく懐いた。


「ねえ、あそこんちのユウくん、いつも猫といるわね。不思議」

「気味悪くない? あ、でも、悪い子じゃないよね。だって動物に

優しいのは」


 周りの人達から疎外されそうに見えても、実は不思議ちゃんとし

て認められていたのは、彼が本当に優しい心の持ち主だったからだ。


 そんな彼も幼稚園にあがると、集団生活というものに次第にでは

あるが慣れていった。挨拶は勿論、他人とのコミュニケーションも

覚えていった。


 しかし恥ずかしがりやは相変わらず。男友達は沢山出来たが、女

の子は少し苦手だった。


 そんな彼も一人の男の子。中学生になると好きな子が出来た。あ

の子に優しくしたい。あの子とお話がしてみたい。

 けれどやっぱりそれは無理な話。ただでさえ女の子とは話せない

のに、ましてや。


 ある時、クラスのお楽しみ会で告白ゲームをすることになった。


 男女に分かれて、お話をして、男子がお気に入りの子を指名する。

指名された子は、その男子を受け入れるかごめんなさいをするか。

その時、先に自分のお目当ての子が指名されたら【ちょっと待っ

た!】コールで自分も名乗りが上げられる。その中から女の子が男

子を一人選ぶか、全員にごめんなさいをするか。そんなたわいもな

いゲーム。


 ついにその時はきた。10人対10人でゲームが始まった。


 彼はもちろん話が出来ない。ただ、赤くなってうつむいているだ

け。


 そしてついに告白タイムに突入。彼の好きな子が早速指名された。

やっぱり彼女はクラスでも人気者だったのだ。


 その途端、あちこちから【ちょっと待った!】の声!


 彼も思わず【にゃ~!】と叫んだ。


「え?」


 周りは水を打ったかのように静かになってしまった。それはそう

だ、無口な彼がやっと口にした一言。それが事もあろうか

【にゃ~!】なのだ。


 しばしの空白の後、教室中は大爆笑! 無理は無い。けれど……


 彼は何度も大きな声で【にゃ~】を連発した。その心は【大好き

です!】に相違なかった。


 窓の外ではいつの間にか、猫達が集まり始めていた。


 そんな中、彼女は例の彼の手を取ると言った。


「にゃ~!」


「え?」


 またクラスは静かになったが、教室に居た女子達は拍手をした。


 その拍手は次第に大きくなって、やがて事実に気づいた男子達の

不平不満も飲み込んで、猫達の間を抜けて空へと響いていった。

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