罰ゲーム

黒猫くろすけ

第1話

 負けた。見事に負けた。完膚無きまでに負けた。言い訳が出来な

い位にね。


「さぁ、もう分ってるでしょうね?」

 私の永遠のライバル、美月がニヤニヤ笑いながら言った。今更な

がらにそのドヤ顔をハッ倒したい! と思ったけれど、それは出来

ない。約束は約束だ。女だって、【二言は無い】時があるのだ。


 ほんの三十分前、私と美月はいつもの様に言い合いをしていた。

放課後の教室。それが問題だった訳じゃない。だってそれはいつも

の習慣だから。


 美月と私は家も近所、誕生日も一日違い。中学二年生の今に至る

まで、幼稚園からずっと同じクラスだった。成績だってほぼ同じ。

まぁ、見てくれだけは私の方がちょっとだけ勝ってるかな? と思

うけど、多分それは彼女も同じで、自分の方がちょっとだけ可愛い

わって思っているに違いない。女の子は多分みんなそうだ。

 いわゆる幼馴染。そんな美月と私は何かにつけて張り合ってしま

うんだ。


 今日の話題は彼氏についてだった。彼氏。今の私たちに一番興味

のある話題。勿論私は彼氏なんていない。憧れの人は……いることは

いるけれど、それは乙女の秘密。

 美月も、彼氏はいない。それは私が一番よく分っている。なのに

美月は余裕綽々で言ったのだ。


「あんた彼氏がいないの? 遅れてる~」って。

「あんただっていないじゃないの! 何ミエはってんのよ!」

 そう言った私に美月はふふん、と含み笑いで答えた。その顔は自

信満々だ。

「え? ウソ? あんたいつの間に?」

 私は美月のその顔を見て、ちょっと狼狽した。

 美月はそれには答えず、言ったのだ。


「じゃ、勝負しましょうよ。もしあんたが勝ったら私の彼氏の事を

話してあげる。で、あんたが負けたら罰ゲーム。これでどうよ?」

 勝負を挑まれて断ったなら女の名折れだ。負けたら罰ゲーム? 

望む所だ。私が負けるなんて今は考えられない。これまでの勝敗は

確か、私の三百六十五勝三百六十四敗二百七十分けで私が勝ってる

んだから。

「ようし、望む所だ! 勝負したろうじゃないの!」


 で、今。私は負けた。勝負はポーカーだった。五回勝負で三回連

続負けた。

「あんた、素直ね。と言っても褒めてるんじゃないのよ? 馬鹿だ

って事。簡単なイカサマも見抜けないなんてね」

「イカサマだったの? あんた……」

「そうよ。悪い? でも、勝負は勝負。イカサマが見抜けなかった

あんたが負けなのよ」

 私はぐうの音も出なかった。確かにそうだ。今回の勝負、私の完

敗だ。


「じゃ、罰ゲーム決定! そうだな、じゃ、誰かに告白してもらお

うかな」

 美月はまるで猫が地上に這い出てしまったモグラをいたぶるみた

いに、私に言った。

「告白って誰によ? 私、好きな人はいないんですけど」

 当然ウソだが、私はそう言った。と、美月は提案したのだ。

「分ってるわ。だから私がある人を指定してあげる。あんたはその

人に告白するのよ」と。


 次の日の放課後。私たちは校門で洋平が出てくるのを待っていた。

洋平。彼も私たちの幼馴染。幼稚園からずっと同じ。だから洋平は

男と言うよりも仲間、弟という感じかな。

 そんな洋平に罰ゲームとして告白をするのはちょっと気まずかっ

たが、後であれはシャレだったのよで通じる相手だから、私は割り

と気楽だった。美月も気を使ってくれたのだろう、そうも思った。


 で、いよいよその時。洋平がやってきた。

「ねえ、ちょっといい? 大切な話があるんだけど?」

 困惑顔の洋平を校舎裏に連れて行って、そこで罰ゲームの始まり

だ。


「あのね、私あなたが好きなんだけど?」

 私はストレートにこう切り出した。だってこれは罰ゲーム。駆け

引きはいらない。それを聞いた洋平は笑顔で答えた。

「へへっ、ありがと。でも、何の罰ゲームだよ? お前がそんなコ

ト言うなんてさ。でもごめんね。一応答えておくわ。俺、隣のクラ

スのケイと付き合ってるんだわ」

「へえ、知らなかった。あんたもちゃっかりしてるのね。じゃ、お

幸せに」

 私は素直にそう思った。いつも私たちの後ばかり追いかけてきた

洋平がね。いつの間にやら立派な男の子になったものだ。


 やれやれ、とにかくこれで罰ゲームは済んだ。洋平の後姿を見送

りながら、隣にいる美月に

「さて、これでいいんでしょ? 罰ゲームはこれで終了ね」

 そう言って彼女を見ると、うつむいたままじっとしている。あ

れ? と思っているうちに、地面に数滴何かが零れ落ちた。涙? 

そう美月が泣いている。声を押し殺して。


 え? どういうこと?

 その時、私ははっとした。そういうことか。意地っ張りの美月ち

ゃん。洋平の事が好きだったのか。私を使って洋平の事を調べたか

ったに違いない。それが……こんな結果に。罰ゲームは美月の方じゃ

ない。馬鹿な子。同時になんていじらしい…


 私は美月の肩を抱くと言った。

「私振られちゃったわ。でもいいの。洋平なんかよりずっといい男

がそのうち現れる気がするの。美月の彼氏だって洋平よりずっとい

い男なんでしょ? だから、ね?」


「うん。当たり前でしょ」

 そう言うと美月は顔を上げた。涙でグチャグチャな顔を。


 そうして今回の罰ゲームは終わった。勝敗もこれで五分と五分。

多分明日からも美月と私の勝負は続くのだ。今度の罰ゲームは私か

ら仕掛けてやろうじゃないの。ねえ美月?


 私は美月と肩を並べて歩きながら、そう心に誓ったのだ。素敵な

彼氏ができるまで! ううん、この寿命が尽きるまで! ライバル

関係はまだまだ続く。


(多分、美月とは死ぬまでライバル。そして大切な友達……)

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