03 襲撃・3

「「どーも、リージョンでーす♪」」


 美女たちの挨拶の前に、海賊たちは唖然としていた。

 嵐のように暴れ狂い、全てを奪いつくす伝説の女海賊『リージョン』。その名を語る女性が、何の気配も無く突然彼らの前に現れたからである。しかも2人――赤い癖毛の長髪、不敵な笑みと釣り目を持つ顔、巨大な球体を抱えた胸に引き締まった肉体、そしてそれらを覆う黄色のビキニ1枚と言う、全く同じ姿形の美女が。

  

「な、な……どうなってんだよ……?」

「し、知らねーよ……」


 たかが2人の女性の前にうろたえ始める屈強な悪どい男たちと言う光景は、それを眺めて笑うリージョンの思いのように、ある意味滑稽なものであった。だが、彼女たちに笑われる海賊たちは彼女たちに反撃を与える余裕が無くなり始めていた。一切の予兆も無く、鏡に映った姿よりもそっくりな人間が目の前に2人も現れると言う異常事態、混乱しない人などいないだろう。

 しかも、男たちを襲う異常事態はそれだけに収まらなかった。


「……う、うわああああ!!」

 

 突然悲鳴を上げた1人の男の方向を見た男たちは、自分たちの目と耳を疑った。疑わずにはいられなかった。

 自分たちの近くで不敵な笑みを浮かべる2人のリージョンと全く同じ姿形、頭からつま先、胸の大きさやビキニの色、さらには拳銃やナイフの持ち方まで何もかも全く同じ、もう2人のリージョンが、男たちを追い詰めるように再び姿を現したのだ!


「「「「ふふ、全員あたしだぜー♪」」」」


 まるで海から湧き上がってきたかのように突然現れ、嵐の如く心を恐怖で揺さぶる4人のビキニ姿の美女――全ては、海賊たちが冗談だと疑わなかったあのリージョンの話と1箇所を除いて全て一致していた。彼女たちは「1人」ではない、何から何まであらゆる物が全く同じ、『1種類』の美女の集団だったのだ。そんな事、人間たちの世界では考えられない常識外れの事である。


 四方から聞こえる微笑みを前に最早完全に戦意を失いかけた男たちだが、彼らのリーダー格である『兄貴』だけはまだ諦めていなかった。


「……ええい!お前ら怯むな!相手はたかが4人じゃねーか!」


 そう、例え全てが同一の存在とは言え、目の前に現れたリージョンの数はたったの4人。それに比べて、自分たちは何十人もいて、しかも力はこちらの方が上、勝算は十分にあるではないか、と彼は他の海賊の男たち、そして恐怖に怯えそうな自分自身を鼓舞した。自分たち無敵の海賊がここで倒されるわけには行かない、そのようなプライドを必死に心に抱こうとしていたのである。そんな『兄貴』の姿を見て、他の男たちも何とか気合を入れ、目の前の敵を抹殺しようと動き始めた。


「何がリージョンだ!たかが4人の女じゃねえか!」

「そうだ、俺たちのほうが強い!強いに決まってら!」


 そして、男たちの集団が4つに分かれ、数の暴力で4人のリージョンを打ち負かそうと動き出した、その直後だった。



「「「「「「「「「「「「待ちな!!」」」」」」」」」」



 その声は、4人のリージョンと全く同じものだった。だが、その数は明らかに4人どころではなかった。それが何を意味するのか分からなかったが、恐怖に包まれて体の動きを止めてしまった男たちに、その大量の声は一斉に告げた。『リージョン』の数が4人しかいない、そんな事誰が言ったのか、と。


 その直後、この絶海の孤島での勝者はリージョンである事が確定した。

 ビキニ姿の彼女がこの島に上陸し、悪どい海賊の男たちの中に紛れ込んでいた時点で、既に彼女たちのほうが圧倒的に有利だったのだ。たった1人だけでもこの場所にリージョンが現れたと言う事は、この秘密の場所は既に彼女たちに筒抜けであったと言うことになるのだ。それも1人でも4人でもない、『リージョン』と言う海賊集団に。


「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」…


 1人、2人、4人、8人――男たちの周りに、次々と美女が現れ始めた。赤い癖毛の長髪、不敵な笑みと釣り目を持つ顔、巨大な球体を抱えた胸に引き締まった肉体、そして黄色のビキニ、その姿、形、声、全てが全く同一であった。


「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」「よう♪」…


 そして、あっという間に数十人の男たちの周りは――


「ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」ははははは!」…


 ――何百、いや何千人もの『リージョン』に埋め尽くされてしまった。

 彼女たちの笑い声は、男たちの悲鳴をかき消すのに十分すぎるほどの音量であった。四方八方、どこにも隙間無く巨大な胸やビキニ姿の体が包み込み、男たちに一切の反撃も効果が無い事を彼女たちは否応無く告げていた。助けてくれ、どうか許してくれ、と言う嘆きの声すら出し始めた海賊の男たちだが、時は既に遅かった。


 そして、ひとしきり笑い続けた後、大量の美女たちの瞳は、獲物を見つけた猛禽のように鋭く冷酷なものへと変わり、そして一斉に告げた。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「じゃ、海賊の皆さん♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 ぜーんぶあたしに渡してもらおうか♪ 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 言葉通り、島に存在する全ての物が『リージョン』に埋め尽くされたのは、それから僅か10分にも満たない間の出来事であった。屈強な男たちがいくら切り刻んでも、リージョンは次から次へと無尽蔵に海の底から湧きあがり、青い空と海に囲まれた島の全てを肌色と髪の赤色、そしてビキニの黄色で埋め尽くしながら、全てを自分たちで包み込んでいったのである。


 そして、リージョンの伝説の犠牲者と成り果てた男たちが意識を失う直前に見たものは、何万人にも膨れ上がったビキニ姿の美女の大群によって呑み込まれていく、絶海の孤島の最期であった。

 

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 広い海のどこかに潜むと言う、謎の女海賊『リージョン』。海の底から現れて、嵐のように荒れ狂い、そして引き潮と共に去っていく。その構成員は、黄色いビキニ1枚を身に付けた巨乳の美女「リージョン」のみだと言われている。


 だが、それは彼女が『1人』しかいない、という意味では決して無い。この海賊団を創り上げているのは、何十何百、いや何千何万もの数で満たされた、全く同一の存在、1人にして大勢。それが女海賊集団『リージョン』なのだ。


 一体彼女は何者なのか、どこから来て、どこへ消えるのか。それを知る者はこの世界にはほぼ存在しない――。



「やれやれ……相変わらずだね、リージョン」



 ――とある豪邸の一室で、彼女たちの活躍を逐一眺めていた、1人の青年を除いて……。

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