テロリストはこのクラスに

星成和貴

 学校にテロリストが来たら、なんて想像はきっと、誰でもしているだろう。しかし、それが実際に起こることはまずない。少なくとも、俺はそんな話を聞いたことはない。もしかすると、誰かの陰謀により、秘密裏に処理されているだけで、今までも学校を狙ったテロは数多あったのかもしれない。

 しかし、と俺は自分の席から前を見る。教壇に立つ一人の人間。背丈は俺と大して変わらない。しかし、その手にはこの下らない日常生活では見ることがない銃が握られている。

 ゆっくりと、その銃を持ち上げるとそいつは言った。


「大人しくしろ!」


 テロリスト。まさにそれだった。

 俺はこの状況を何とかしようと思い、思案する。あいつに勝てるのか、と。体格はほぼ互角と思える。つまり、素手であれば勝てる可能性もある。しかし、あいつが格闘技を習得していたら?いや、俺もこの日のために妄想鍛練イメージトレーニングは欠かしたことはない。

 しかし、それだけでは心許ない。俺は机の中を手の感覚のみで探る。そして、武器を見つけた。多段無限刃カッターナイフ。確かに、射程、威力ともに俺の方が脆弱だ。しかし、懐に入り込めば、俺の絶対領域間合いに入れば、勝機はある。そして、あの銃を奪うことができれば形勢逆転だ。

 俺は武器を握りしめ、テロリストを凝視する。視線が交差する。やつも俺の方を見ている。一瞬、時が静止した。やつは銃をゆっくりと持ち上げ、俺に向け、近付いてくる。


「……おい、お前、動くな」


 ヤバイ。気付かれたか?しかし、好都合だ。このまま近付いてくるのなら、俺のこの武器でその腕を一閃、銃を奪ってやる!


「ゆっくりと手を挙げろ!」


 くっ……、俺は渋々両手を挙げる。もちろん、何も持たずにだ。

 今やつを刺激するのは得策ではない。今はまだ待つんだ。必ず、また好機は巡ってくる。

 俺の方へテロリストが歩いてくる。銃はまっすぐ俺の心臓を狙っている。あと少し、あと少し近付けば手が届く、そう思ったとき、教室の扉が開かれた。そこから現れたのは俺より遥かに体も大きく、がっしりとした体格の男。テロリストの仲間か?武器は持ってはいない様子だが、隠しているかもしれない。油断はできない。その男が口を開いた。


「いつまで遊んでいるんだ?」


 その言葉は目の前のテロリストに向けて発せられた。万事休す。こいつに勝つ映像ビジョンが俺には見えない。絶体絶命だ。

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