「 “Fragment Dark Night ” ,you said...」


――Are You Ready?――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



僕は、自分にもう嘘はつけない。××を愛している。


だが、僕にとって、この世で一番大切なのは、愛すべき友人、チカだった。


底なし沼にはまって、出られなくなった僕に、手を差し伸べ、救ってくれたチカ。

暗黒のような世界を、まばゆく照らしてくれたチカ。



――チカは、僕のすべてだった。



チカにだったら殺されてもいいし、チカのためなら、誰だろうが偽り、欺き、殺せる自信があった。


その僕が、チカを殺すのか。


ためらわなかったといったら、嘘になる。



だが、覚悟は決まっていた。


僕は、チカを裏切る。

――そして、そのあたたかな手で、殺してもらうのだ――。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「千夜。チカは、もうすぐ死ぬよ。君を護(まも)って、ね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「――きたねえ手で、触んじゃねえ!!」


「……雷門。――オレを殺せ」


「……いい。もう、いいんだ。すべて、無駄だった。もう、嫌なんだ。これ以上千夜に嫌われるのも、これ以上、千夜が死ぬのをみるのも」




    (( ――さよなら、千夜 ))


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



……なんだ? ……なんだよ、これ。どうしてだよ。こんな、こんなはずじゃ。


あたしは、ああ、と言った。


――ああ。ああ。あああああああ。


あたしは、血まみれのまま動かない、チカの躰を抱いた。


まだ、生暖かい。あたしは、その唇に口づけた。


――何度も、何度も。

それでも、チカは、ぴくりとも動かなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



その時初めて、あたしは、すべてが遅すぎたことを知った。


もう一度、なんてない。これが、最期だったんだ。


――99回繰り返された、最期の一回だったんだ。


あたしのなかにも、一瞬で絶望が満ちた。


あたしが、チカを責めなければ。

あたしが、チカを拒絶しなければ。


……ああ。あたしが、チカを、殺したんだ――。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ふと、チカのあの笑顔を思い出した。


無邪気な、あの、ひだまりの笑顔が、なにかひどく、けがらわしいもので、汚れていく。


いや、汚れたのは、あたしだ。


もうチカに、触れることはできないだろう。


――あたしはもう、あいつに触る資格も、触られる資格もない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……許さねえ」


――チカ。


お前があたしから離れて行こうとするなら、あたしは、お前を取り戻す。

たとえ、嫌がられても、拒絶されても、かまわない。


もう、もう嫌なんだ。お前を失うのは。


あたしは、お前を手にするためなら、運命だって、書き換えてやる。



――この手で、魔女を倒す。


そして、新しい朝を、本当の朝を――。


……<永遠の夏>を、お前と迎えるんだ。



……あたしは、もう、二度と、諦めない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すまぬ。わらわのせいだ。赦せ。わらわも、後を追うから。……きっと、もう一度、捕まえてみせるから」



「いいんだ。もう、いいんだ。血闇。お前は、忘れていい。なにもかも。オレも――空魔(くうま)も、自分のことも」

「――また逢おう。……今度はオレが、必ずオレが、お前をみつけるから」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そう、××に嘘をつけばいい。

騙せばいい。こっぴどく、裏切ればいい。


そうすればきっと、××はオレを嫌いになって、憎んで、その柔らかな手でオレの首をしめるだろう。


――簡単だ。……簡単な、はずだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



崩れ落ちたオレは、誓った。


――もう一度、もう一度、オレにチャンスをくれ。


今度は、間違えたりしないから。


……今度は、必ずオレは、お前を護って、愛しながら死んでいくから。


まもなく、慈悲深い声が聴こえた。


「いいわ。あなたにチャンスをあげる。その代わりあなたは、あたくしの玩具となるのです」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



でも、この香り。この色。


……なんて美しい。――なんて、うまそうなんだ。

……もっと、みたい。――すすりたい。


……この液体を飲みほし、あの胸の奥に咲く、真っ赤な果実(しんぞう)に、かぶりつきたい。



「ちや……」


オレはゆらりと、千夜に一歩進み出た。


千夜の顔が、みたことのない感情で染まっていく――。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「――ち、か……?」


――ごぼり。


千夜のその唇から、赤い雫が溢れ出し、その表情が、絶望に染まっていった。



「……なん……、」



その続きは言わせなかった。


オレは、ぐい、とナイフに力をこめ、千夜の胸に、深く差し込んだ。



「――好きだったよ、千夜」


オレは、崩れ落ちる千夜を抱きしめながら、そうつぶやいた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



――It's easy? or crazy?


    that's love? OK,Then die.――



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


Fragment ~フラグメント~は、

「破片、断片、かけら」を意味する言葉です。


また、「断章、未完遺稿、残存断片物」

「ばらばらになる、砕ける、~をばらばらに壊す」

という意味も持ちます。


Dark ~ダーク~


「暗い、闇の」

「意味があいまいな,わかりにくい」


「秘した,隠してある」

「暗愚な,無知無学な」


「腹黒い,凶悪な,陰険な」

「光明のない,陰うつな.」


【語源】

古期英語「暗い,邪悪な」の意


Night ~ナイト~

「夜、暗闇」

「無知文盲(の状態); 失意[不安(など)]の時 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る