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積田 夕

第1話

11月も下旬になると、行きつけのドラッグストアでは、特別コーナーを大掃除アイテムが占拠し始める。

こまめに掃除していれば大掃除なんて必要ないのに、と、美香子は横目でチラリと眺めながらその前を通り過ぎた。

毎日丁寧に棚の埃を払い、掃除機をかける。

3日に一度はキッチンもピカピカに磨き上げる。

トイレも、新品同様の輝きを失わないよう、毎日洗剤で内側を磨き、本体と床を拭く。

窓ガラスは1週間に一度、水拭きする。

いつ誰が来ても笑顔で迎え入れられるよう、掃除は行き届いているはずだ。

もちろん掃除だけが仕事じゃない。

毎日の食卓を取り仕切るのも美香子の役目だ。

家族の健康を考えて、毎日31種目の材料を揃えて調理する。

朝食ひとつ取っても、和食ならご飯に味噌汁、丁寧に魚を焼いて漬物を刻む。

洋食ならパンにコーヒー、果物と野菜のスムージーを小さなグラスに入れて、卵料理はその日の気分で目玉だったりスクランブルだったり。

時には中華のお粥で、疲れ気味の胃をいたわる。

洗濯も毎日、洗濯機に任せきりではなく、下着やタオル以外はすべて手洗いだ。

形が崩れないようにタライの中で泳がせるように優しく洗い、汚れが多い時には押し洗いする。

洗濯物が乾けば、そのまますぐにアイロンにかかる。

夫のワイシャツにはいつも糊付けし、娘のハンカチにはアイロンの後にローズポプリを忍ばせる。

美香子の毎日は、こうして過ぎていくのだ。

もちろん傍(はた)から見れば、自分が几帳面で妥協を許さない、窮屈な人間だという自覚はある。

娘の友達の母親たちは、幼稚園のバスのお迎え時間まで外でランチを愉しんだり、遠出をして買い物をしたりしているようだ。

たまにはそういう過ごし方もいいと思うけれど、毎日の日課をおざなりにしてまでやりたいとは思わない。

以前はそういうお誘いもあったが、今では声をかけてくれる者は誰もいなくなった。

寂しいと思うこともあるけれど、余計な気を遣って疲れるよりはよほどいい。

買い物リストのメモを見ながら、まずは特売の棚を見て品物を選ぶ。

いつも使っているキッチン洗剤はそこには無く、定価の棚を探しに行く。

いつもの香りを手に取ると、その斜め横に冷蔵庫の脱臭剤が目に入った。

一旦カゴに入れたものの、購入を辞めて元の場所に戻さずに放っていかれたものだろう。

美香子はため息をついて、品物を元に戻そうと手に取った。

そういえば……。

特別な大掃除はしないけれど、年に一度、冷蔵庫の中身を全部出して庫内を拭きあげる仕事があるのだった。

もう寒くなってきたし、そろそろそれをやってもいいかもしれない。

リストには書いていないけれど、その脱臭剤も購入することに決めた。

明日は雨の予報だから、洗濯物をお休みして冷蔵庫の掃除をしよう。

美香子は、店から出て空を見上げた。

雨雲が西の空に広がっているのが見える。

向こうの方はもう降っているのだろうか。

明日どころか、こっちも夕方には降り始めるかもしれない。

洗濯物を外に干したままだわ、と、美香子は慌てて家路についた。


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