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歌謡曲が流れる車内に二人


ハンドルを握り歌詞を口遊くちずさむ健太と空を仰ぐ真


空は澄んで高く、その手前を小さな白い雲が流がされていく。


「健太」


「うん?」


「トイレ行きたい」


「うむ、次のパーキングまで待ってくれ」

健太はアクセルを強く踏んで速度を上げる。


「小さいけどあってよかったな。」娘に同意をお求めるが既にいなかった。

走る後ろ姿を見て数日前の姿と重なる。


これでよかったのかな。

自身の選択が間違っているたのではと何度も悩んでいる。

もやもやしている腹から出た溜め息が白く色付いた。

流されていく雲のように悩みもどこかに流されればいいのにと思った。


缶コーヒーを飲んでいると「健太おなか減った」照れくさそうに俺の裾を引っ張る真の姿があった。そういえば朝からなにも口にしていない。

「そうだな、めしにするか。あと俺の服で手を拭くな」


建物は小さく入っている店は少なくコンビニと山宥という店しかなかった。のぼりには門前きしめんとかいなり寿しとかが書かれていた。

「きしめんでいいか?」娘に聞くと「きしめんって何?」真顔で聞かれたので、麺類と答えた。真は「グー」とお腹を鳴らした。


暖簾のれんをくぐると鰹節と醤油の甘い香りが鼻をぬけた。

「健太いなりも食べたい」裾をぐわんぐわん引っ張り催促する。

真の食欲は最高潮に達したようだ。


きしめんといなりのセット600円を二つ頼んだ。

「すぐにできますから待っててね」おばちゃんがそう言うと

真はコップに水を汲みテーブルに腰を落とした。

あれ? おかしいな俺の分のコップがテーブルに見当たらないのだが...。

「きしめんといなりのセット御待遠様おまちどうさま


無言で食べる真がふとこちらを見る。

きしめんの湯気で俺の眼鏡が曇っているのをみて「グフッ、ケッホ、ケッホ」むせる娘を心配して「大丈夫か?」と言ったらいまだに曇る俺の眼鏡がツボだったらしく、しばらく笑いをこらえながらきしめんを食べていた。




「これからどうするの?」


あの日から数日で転校手続きから転職先、引っ越し先等を決めたりでバタバタして真に何も説明していない。

「美咲さんの故郷に行こうと思うんだ」


「お母さんの?」


「うん」


口の中をモゴモゴしながらお互いを見るが、また曇っている眼鏡にハマる真。





「着いた。おい、まこと着いたぞ」


目を開けると緑色に囲まれた古いお屋敷があった。そこから人が出てきた。


「仁美さんおせわになります」


「健太君、遅かったね。待ちくたびれて死んじまうとこだったよ」

「そうだ。真ちゃんは?」


「まこと、おばあちゃんだぞ。挨拶しなさい。」


「車で寝とると風邪ひくよ。家でおやすみ」

しわくちゃのおばあちゃんが窓越しに言った。

寝起きでボーとしている頭がスーと鮮明になっていく。

辺りを見渡した。

緑しかなかった。

外へ出るとちょうど日が暮れていく。

光を放っていた太陽が光を飲み込むように沈んでいく。

緑は次第に黒くなっていく。


「まこと?」


「健太ここで暮らすの?」


「うん」


「・・・」

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