第3話「転・第二の邂逅」

僕が4コマヤンキー「D」に再会したのは高2の6月中旬でした。


Sとの関係が薄くなり、あまり話さなくなってから2ヶ月程が過ぎようとしていたその頃でした。突然Dから会わないかとのメールが入ったのです。

以前ちょっと話したように、「ヤンキー」のDとは、中学生の同級生でした。

中学のころ、クラスを仕切っており、誰にも手が付けられないような不良だったのですが、多分、僕だけはDを見る目が違いました。

彼とは小学生来の仲であり、僕はDと幼馴染みと言うほどでは無いですが、幼馴染みと言った方がイメージ的にはしっくりくるので、とりあえず幼馴染みと呼んでおきますが…、僕とDは幼馴染みでした。

そして、当時から、僕は、Dが幼いころに両親を失っており、今は親戚の家に引き取られていることを、知っていました。クラスメートの中だけだと、僕だけが知っていました。


Dはそのことを他人には極力伝えないようにしていました。僕は、たまたまお通夜を見かけてしまって、小学生のDにそれを聞かされたというだけです。

そのことは勿論、僕もクラスメートに言うことはありませんでした。

それと、前提的な話にもなりますが、まず僕は生徒会長という立場があったので、周りの人には、ヤンキーDと仲がいい素振りを見せるようなことはありませんでした。

なんせ、学校では対立していましたから。生徒会長VSヤンキーで。

でも、なんでじゃあメールがくるほどの仲になってるの?という話なんですが、それには小学生時代の背景があります。

家が近所だったということもあって、Dとは登下校が一緒でした。

中学生になるまでは、Dとは登下校で2人きりで話す機会が多かったように感じられます。


第1話で話した通り、小学生時代、児童会長になるまでは、普通にユーモアの効くアホで下らないガキンチョであった僕なので、Dとは楽しくぺちゃくちゃと、それはもう小学生らしく下らない話をして楽しんでいました。

その時から思っていたのですが、DもDで、やっぱりユーモアセンスがありました。Sも勿論ユーモアの塊みたいな語り口をしますが、「ユーモア」にもタイプがあるように思います。


Sは知的なネタを挟んだ計算的なユーモアだったり、ギャグだったりします。

芸人でいうとバカリズム的な。陣内智則と言ってもいいかもしれません。落ち着いていながらも、遊び心に溢れていて、方向性に独自性があって鋭い。

一方、Dは、バラエティーに出ているヤンチャな芸人的な感じ。罵倒したり、煽ったり、関西系の吉本芸人じゃないですけど、ツッコミがキレッキレで。体芸とか、顔芸も達者で、とにかく、1発屋芸人になるんじゃないか?ってくらいの爆発力を持ったボケとツッコミを併せ持っていました。勢いのユーモア。

まぁ、そんな感じのDですが、口が達者だったこともあって、小学生の頃からケンカも結構していました。


中学に上がった頃から、Dはちょっと悪びれはじめ、成績も悪くなり、素行の悪さが見え始めるようになりました。

そして、そういう輩は他にもやっぱり何人かは出てくる。

そうして、自然とDを取り巻く仲間も増え、ちょっとしたら不良連合が完成したわけです。Dはやっぱり口がたつこともらあって、その中でリーダーっぽい存在になっていました。

珍しいかも知れませんが、僕の中学は男女が凄く仲が良かったので、その不良連合も男女混合っぽい感じでした。まぁ、それは一旦置いといて。

それで、たまにそのDのグループがちょっとした問題を起こす。そうすると、僕が出動して、注意をする。Dと僕とは幼馴染み的な訳ですから、ケンカというか、言い争いにはなっても、Dのユーモアでサラッとかわされてしまう。

Dが更生すればなぁと思って、真面目に注意していたんですが、何ヶ月かたち、エスカレートとかはしなかったので、Dのグループとは注意をしたりしてる内に、普通に話す感じになってしまいました。


しかし、そうして話してみると、あまり悪い人達には思えなくなってくるから不思議ですね。

言ってしまえば、悪いことと言っても、筆箱を改造してたり、黒板におっきく落書きしたり。

イジメとかでは無かったので僕も看過していました。田舎の、わりかし少人数の中学だったかはかもしれませんが、ネットで色々な中学の悪さの情報を見て、それを信じられないほどには平和でした。

という訳で、Dとは中学に上がってかは一緒に登校はしなくなり、ヤンキーVS生徒会長で対立してたとはいえど、こんな訳で普通に仲良しでした。

一応対立してるからこそ、色々言い合える仲というか。

Dとは、上部だけの仲良しちゃん、みたいな関係を完全に捨てることの出来た会話が出来る相手でした。本当に。


そんな訳で、中学生のDとは屋上で一緒にパンをよく食べました。

Dは昼飯を食べるときになると、僕をちょくちょく呼びました。2人っきりで。昼飯に関してDは、あまり大人数で食べたくない、と言っていました。

昼食は勿論給食でしたが、僕とDは中庭の鯉の餌やり係になっていたので、余ったパンを回収しては鯉にやり、おまけに牛乳が貰えたので、残しておいたパンと牛乳を持って、餌やりの日には屋上で、牛乳を飲みながら2人でパンを食べたのでした。

ある日、焼きそばパンが出て、それを屋上で食べようという話になり、屋上でのんびり2人で焼きそばパンを食べました。

それが「あの」4コマの元ネタになっています。そう、レジェンドを貰った4コマです。


ほのぼのしてます。

僕もヤンキーも幸せそうです。

実は、今迄言ってなかったのですが、このタイミングで1つカミングアウトしたいことがあります。

はい、実は……、4コマと事実とでは「全く」異なる点が1つあります。

これはかなり驚愕すべき点になるんですがら、その点、実は「性別」なんです。

このヤンキーD、実際にも「ヤンキー」とは言ってましたが、今まで「男」だったとは一言も言ってません。

そう、実は、このモデルとなったヤンキーは「女子」だったんです。

女子Dは元々男らしい性格でした。しゃべり方も男っぽかったですし。ただ、メールとかの文面には絶対と言っていいほど語尾に「笑」がついてるのがメチャクチャギャップでした。


いわゆるスケバン的な感じです。女ヤンキー。しかも、えらいツッコミしてくるし、ボケ倒す。それに罵倒もされる。

だから、あまり僕も異性としては意識していませんでした。

なんだろう、イメージでいうと、またスケットダンスになっちゃいますけど、ヒメコ的な感じですかね。週刊少年ジャンプで連載してたスケットダンスという漫画です(2度目の紹介)。

そして、このヒメコ……じゃない、Dには意外な特技がありました。

ある日、「絵しりとりしね?」とDが言ってきました。とりあえずやってみると、え?めちゃくちゃ絵がうまい。

Dがマンガ上手、というギャップに気づいたのは中学2年くらいの時でした。見せてもらったマンガを見て「嘘だろ!?」と叫びましたが、本当に絵が上手でした。あと、構成も今思えば上手でした。

しかも、描いているのはギャグマンガ。

これは本当にびっくりした。

友達にも見せず、こっそり描いているらしいのです。

ギャグセンス…も勿論、絵が本当に痛快で、コロコロコミックのギャグマンガのようなテンポの良さがありました。

Dの会話上のテンポも、流石、ヤンチャな連中の中心にいるだけあって、確かに鋭く、切れがあり、小気味いい。仲間内のヤンチャなやり取りはともかく、そのテンポの良さを活かしたギャグ漫画に関しては人一倍才能があるんじゃないか、と思いました。


そうして、Dの新たな1面に気がついたのもつかの間、個人塾に入ることになり、受験期が始まり、Sに会い、あっという間に卒業の時期がやってきました。

そして、卒業し、別々の高校に行くことになり、久々に再開した、高1の6月。これにてDとの過去編終了です。

久々に会うことになり、何を話そうかなと思いつつも、真面目とユーモアの板挟みについて、Dに相談しようか最後まで迷っていました。

しかもこの時、部活でミスをしてしまったり、特別コースの実験でも幾つか失敗を繰り返していて、失敗に怯えて、自分に自身がなくなっていた頃でした。

Dと話せば何かが変わるかもしれない……。

そんなことを漠然と考えながらも、遂にDと再開しました。


まず色々と、他愛もない話をしました。Dは高校になっても、話は全然変わっていませんでした。容姿は……少しだけ大人っぽくなっていました。ギャルっぽいわけじゃないです。ただ、少しチャラいながらちゃんと女子高生してる感じでした。

少し話をした後、Dに「最近どう?笑 なんか頑張ってる?」と聞かれました。僕は……

「とりあえず」、勉強とかいろいろ頑張っているよ、と言った感じで現状をDに報告しました。「とりあえず」、今まで通りに。と。

そうすると、Dは一言、こう言い放ちました。


「お前、面白くないなあ」

……Dの普通の指摘だったはずなのに、なんだか僕を稲妻が貫いたような感覚が襲いました。


「面白くない」、なんだ、僕って「面白くない」?え?どうなんだそれって。一貫の終わりか?「人生が面白くない」と言ってるのだろうか。

いや、別に面白くなくなって生きていける。でも苦しい。面白い方がいいのでは?いや、でも面白いのメリットってなんだ?え?

様々な考えが頭を巡り、謎の感覚が感情を包んでいました。

とりあえず、安定に、優秀にあればいい、と思っていた僕の中で、何らかの歯車がこの拍子に動いていきました。

この「人生の歯車が変わった」かのような感覚は久しぶりでした。

「面白い人生」とは。このキーワードを、この時貰いました。

Dのこの一言を受け、……僕は今迄の自分を振り返ってみました。

始めは、小学校低学年の頃は「穏やかに生きよう」と思っていたのが、じゃんけんで負けて班長になり、児童会長の立候補者がいないから、班長の中で決めることになり、また負けて、児童会長候補になったところ。


当選したあの瞬間にも「人生の歯車が変わった」と感じました。

その感覚通り、そこから岐路は変わっていきました。

それからは、「みんなの手本にならなくちゃ!」という子供ながらの純粋な心が肥大化していき、結果、勉強も運動も優秀にこなすことを自分のアイデンティティとして確立させたがってきました。

そう、僕を苦しめた「真面目」のスタート地点がここにありました。あの時、じゃんけんで負けていれば、こんなことにはならなかったでしょう。

こうして、過去を振り返った時に、何を失ったかというものが明確に見えてきました。そして、この時に変わった「歯車」の軸、その正体に気が付きました。

そしてDに再会し、「面白くない」の意味が分かりました。自分自身の人生に一貫して通っていた軸、「ユーモア」を完全に忘れかけてきたこの時。

「人生の面白さ」ということを強く自覚したのがこの瞬間でした。更に言えば、自分自身の人生そのものに「面白さ」とか「柔軟さ」がないと気が付いたのがこの時でした。


よく考えれば、読んできた偉人も、優秀でありながら、とんでもなくイレギュラーな人生を送っている。自分にはこれがない。安定しているだけで、面白くもなんともない。これって果たして「人生」と言えるのだろうか?

中学生の頃に谷川俊太郎の詩に感銘を受けたことを思い出しました。

「生きる」ってなんだろう、と多感になるこの時期に谷川俊太郎の「生きる」を読み、様々な行動が「生きる」だと知る。

それを通り越して、ようやく、「生きる」の芯にあるような、柔軟な生き方に気づかされました。


失敗も、成功も、生きるの内。ということです。

これまで、カチカチだった自分は失敗を恐れて、「失敗しちゃだめだ」と自分に言い聞かせてきました。

でも、それは違いました。「失敗してもいい、その後、起き上がることが重要なんだ」と気づきました。7回転んでも、8回起き上がればいい話なのです。

どんな人生でも、後から振り返って語れるような「面白い人生」ならいいじゃないか、と思ったのです。


失敗も、ユーモアに包んで面白く考えていこう。

この時のDの発言が無ければこうは思いませんでした。

そして、これからの自分の人生をより豊かにしていくためにも「ユーモア」の勉強をしなければ!と決意しました。

バリバリ硬派な生徒会長だった僕が、ユーモアの足りなさをちゃんも自覚し、「面白さ」を、研究しようと思ったこの瞬間から、漫才や、ゲームや漫画に、ちゃんとしたユーモアを探すようになっていったのです。

更に、思い返せば、「ユーモア」とは何かを自覚していなかった僕にとって、過去の僕の落書きとか、趣味で作っていた創作ゲームとかが、こんなに面白いとは!ということに気づかされました。


そうです。小学校6年生で児童会長になるまでの少年時代、振り返ればそこにはユーモアがあったのです。自分にもユーモアができる才能の断片はあるんじゃないか…?過去の落書きノートを見てそう思った僕は、それを元に更なる落書きを描いたり、創作ゲームを作ることに挑戦し始めました。

Dに、そうした創作物を見せて「面白い!なにこれ!」と言ってもらえた時、創作をもっとやって他の人にも見てもらいたい、という気持ちが芽吹き始め、いつしか大きくなっていきました。


この時に、ようやく、「生徒会長」という固い自分から少し脱却し、新しい自分、否、元々いたけど気づかなかった自分の気持ちにスポットを当て、創作という形でユーモアを発揮していく、自分の2面性、「スタイル」が確立されていったのです。

結局、高校でも生徒会長の役職をやることになりました。これは中学の時と比べても、忙殺、忙殺、忙殺、の日々でした。部活も、海外研修のアレコレもあり、本当に忙しかったですが、充実していました。以前も別のノートで書きましたが、そんな中に、ちょくちょくSの誘いがあって「息抜き」を確保しながら、スタイルとして、「ユーモア」を確保することが出来たのは大きな成長です。


ただの真面目な生徒会長ではなく、ユーモアを研究して、取り入れられた結果、無理をすることなく、楽しく、柔軟に会長生活を送れた、高校の「会長」になりました。

そして、更に「ユーモア」に触れていきたいと思った僕は、漫才を見たり、ギャグマンガを読んだりし始めました。大喜利にも参加してみたいと思うようになりました。それが、仕事に追われる日々の癒しになりました。

そして、ある日、Dに言われたのです。


「ねえ、ジャンプの巻末に『バトよん』っていうコーナーがあるんだけど、応募してみない?笑」

「バトよん?」

(続く)

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