ブックトリップ~妄想世界冒険譚
抹茶かりんと
プロローグ 見知らぬ彼女
途切れ途切れに聞こえる、救急車の音。
猛烈な吐き気がやって来るたびに、意識が引き戻され、うっすらと目を開ければ、容赦のないめまいに襲われて、それに耐えきれずに、また意識が飛ばされる。
俺の体は、一体、どうしちまったんだろう……何か見えない力に蹂躙されるみたいに、猛烈な吐き気とめまいに翻弄されて、俺は繰り返し繰り返し、何度も何度も意識を奪われ続けた。
気がつけば、未だ猛烈な吐き気とめまいの続く中、ストレッチャーに乗せられて運ばれて行く、俺。
……ここ、病院か?……
そう思いながらも、吐き気をこらえるので必死で、俺はぎゅっと目をつぶる。いつまで続くんだよ、これ……
……誰か……マジこれ何とかしてくれよ……マジつれぇんだけど……
「……ホント、救い様のない馬鹿」
……えぇ?……
耳元で、少女の声が言った。
……なん……て?……
体が吐き気から逃れたがっているのか、また意識が朦朧とし始める。そんな中、再び聞こえたのは、少女の怒ったような声だった。
「絶対に、逃がさないから」
……え?……
「……逃がさないんだから……」
最後に付け加えられたささやくような声は、どこか決意表明の様でありながら完全に涙声で、それに思いきり気を引かれた俺は、残っていた気力を総動員して、微かに目を開けた。
見知らぬ少女が、泣いていた。
俺を見て……
なん……で?
怒りに震えながら、その瞳から、涙がとめどなく零れ落ちていく。
……俺を睨み付けたまま。
遠のく意識の中、俺、何かしたっけかな、とそんなことを思う。
「……ご……め…………ん……」
何だか良くわからないけど、そう口が動いていた。実際、声が出せていたのかは分からない。ただ、女の子をこんな風に泣かせてしまう理由が自分にあるのだとしたら、とりあえずそこは、謝っとかないとって……思ったんだ。
後に突きつけられる、理不尽な理由を、この時の俺はまだ知らなかったから。
それが、俺と、
多分、のちの人生が180度変わってしまうぐらいには、運命の出会いだった。
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