恋人は左手

台上ありん

僕のカノジョ、身長42センチ。体重は秘密らしい。

 僕の恋人は、左腕しかない。それは一般的にいう「隻腕」とはちょっと違う。ガチで左腕しかない。

 頭も胴体も脚もない。もちろん目も口も鼻もない。五体のうちのひとつしかない、と言ったらわかりやすいだろうか。

 身長はおよそ42センチメートル。ヒジの上から約5センチくらいでちぎれている。と言っても傷口はすっかり皮膚で覆われていて、丸っぽくなっている。

 体重は、教えてくれない。一度無理やり彼女の手首をつかんで体重計に乗せようかと試みたが、彼女はびっくりするほど抵抗して、暴れまくった。その後、ひどく怒られた。

 彼女の名前は美しいに雨と書いて「みう」というのだが、僕はいつも彼女のことを「みゅう」と呼ぶ。

 みゅうは、腕しかないということを除けば、普通の26歳の女性だ。特技は料理。

 みゅうの見た目が見た目なので、あまり外に連れ出すわけにはいかないのだが、もともとボードゲームやトレカが趣味のインドア派だったので、家にこもりっぱなしでもそれほど苦痛ではないようだ。

 ちなみにみゅうは将棋アマチュア四段の腕前で、詰将棋も十七手くらいならけっこう簡単に解いてしまう。対局では四間飛車の使い手だ。


 一方で僕のことはといえば……。僕は森岡健二。23歳。リフォーム会社のサラリーマン、営業パーソンをやっている。

 だからみゅうは年上の彼女ということになる。僕の1Kのアパートで、僕とみゅうが同棲を始めて約2か月。まあ、いろいろと不便なこともあるけど、そこそこ仲良くやっている。


 言うまでもないことだが、僕はみゅうを愛している。

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