内閣情報調査室ライトノベル研究所 事前対策ユニット

HAWARD・project

第1話 序章

 反りをもった刀身が鋼でできた板金鎧を斜めに斬り裂く!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォ!」

 大広間をビリビリと震わせる僕のウォークライに全ての敵が一斉にこちらを向く!

 その殺気に満ちた凶悪な視線を仲間でなく自身に向けられた事に内心で満足感を得た僕の耳に仲間達の呟きが聞こえた。

「な、なんてムチャを――」

 あと一息なんだっ! 多少のムチャも覚悟の上!!

「押し通るぞ!!」

 足を開き、剣を引くと盾を前面に構える! 僕の構えを見ただけで気心の知れたパーティメンバーはすぐに戦術を理解してくれて、綺麗に散開する。

「!」

 仲間達の動きを確認した一瞬のスキ――その機を逃さず様々な武器が迫る!? ざっと見ただけでも右から戦斧と正面から連接棍フレイルと長柄剣グレイブ――それに矢が多数!! 代々、僕の家系に授けられる『鍛冶神の目利き』――鍛冶の神様によって与えられた武器を一見しただけで、その特性と長所に短所、現時点での有効的な対応策が頭に閃くという不思議な力のおかげで、どう動けばいいか僕を導いてくれる。

 次に取る行動を脳裏でイメージしながら魔物達をさらに挑発!

「こい! 全部止めてやる!!」

 空気を切り裂き数十本の矢が疾風迅雷の如く迫る! 盾を構え、最少の動きで剣を振るい、矢を叩き落とす! 突きこまれる長柄剣に身体を捻り躱す。

「どうした! これがヴァルハラ平原を征した魔王軍の精鋭かァァ! 僕を竜神の血を継承する、この僕を討ち取りたくないのか!」

 注意をひきつけるため発した怒号の後、自分の周囲に暗い影が墜ちているのに気づく!?

剣に嵌めこまれた蒼穹の宝玉が危険を報せるように明滅する!


 ガキィ!


 間一髪! 振り下ろされた大剣と僕の剣が衝突して火花を出す!

「いい一撃だった!」

 鍔迫り合いをしながら相手の眼前に顔を近づけ称賛を送る。そいつは黒い鎧のような皮膚を持ち頭の左右からねじくれた角が生え、大きく裂けた口に死んだ魚のような感情のない瞳が僕の言葉で僅かに揺れた気がした!?

 ガッ!

 そいつの胸元を蹴り上げ宙返りをして強引に間合いを開け――着地と同時に開いた間合いを踏込に利用して鍔元と柄尻を両手で握りこんだ剣に体重も載せて一気に振り下ろす!

 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

 金属を引っ掻く甲高い音を上げながら相手の盾と、その腕と胴が引き裂く!

 刹那! 相手の大剣を持つ肩が動くのを見逃さなかった!

「覇っ!」

 気合とともに肩を斬り落とし、腰の回転を利用した連撃の動きで首を飛ばした!

 討ち取った!――と、余韻に浸る間もなくなにかが空を切裂く音に振り向く!

 眼前に――大戦斧の刃が迫っていた!

「くっ……」

 前後左右には動いたのじゃ間に合わない!? 僕は体勢が崩れるのを覚悟で体勢を低くして躱し、再び危険を報せる蒼穹の宝玉――僕は上半身だけをなんとか半身ズラす!


 ヒュ――とす!


 軽い衝撃と同時に軽く小突かれるような感触――その後、ジワジワと染み出す様に痛みが広がり――思わず床に手を着いてしまう!

「勇者!」

 甲高い声を上げこちらに駆け寄ろうとする神官服の少女を僕は視線で来るなと訴え。

 パキ。

 乾いた音は刺さった矢を折ったモノ。

「へ、平気だ……」

 肺から出ていこうとする息に喘ぎながら、怪我の度合いを悟られないように意識して柔らかい表情を作る。

「まだだ……僕は……まだ倒れるワケにはいかない!!」

 床に剣を立て、杖がわりにして立ち足の震えを隠す。

 ヒュ――

 再び空気を斬り裂く音!

 今度はしっかりと軌道を読み切り胸に刺さる直前で掴みとる!

 がちゃ。

 グリーヴが地面を叩き跳躍! 背後から迫っていた横なぎの竜の尻尾を躱す!

「覇っ!」

 跳躍した先の真下には巨大な四脚龍――僕は剣を両手で持ち真下にいる龍へ向けて落下する!

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 耳を不快にさせる悲鳴と龍の青い返り血を浴び、その場を飛び退く。

「フ――フ――」

 連続で襲い来る魔物達に息が切れる! 僕は荒い息を整えようと床に手を――ハっとなって上を見上げたら大きな足が迫ってきた!


 ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!


 重い地響きと大量の埃が巻き上げ巨大な足が石畳の床にメリ込む!

 間一髪で避けた僕は疲労と埃にムセ、振り下ろされた足に一太刀!

 カッ!

 しかし、硬い音と共に付いた傷はとても浅い!?

「こ、こいつは!?」

 僕の三倍ほどもある体躯に鉄兜に包まれた頭部、胸部には深紅に輝くオーブが光り輝いていた。

「鉄巨人!? このフロアの守護者ガーディアンか!」

 鉄巨人がゆっくりとこちらを向くと、横なぎに拳が振るわれる!

 ガジン!

 咄嗟に盾で防ぐ! ――が、完全には防ぎきれず衝撃で大きく吹き飛ばされ壁に向かって吹き飛ばされる! 僕は壁に激突するまえに中空で体勢を整え壁に足の裏から着く!

 しかし――眼前にはバンザイをするような格好で両腕を振り上げる鉄巨人の姿!!


 や――やられる!


 覚悟した時――

「アイアンサイクロン!」

 ビキニアーマーに自身よりも長大な戦斧をもった少女が鋭い声とともに重い戦斧を振り回し、鉄巨人を薙ぎ飛ばす!

「疾風迅雷矢!」

 ハスキーな声とともに神速で飛ぶ矢が鉄巨人を射抜く! 矢の飛んできた方を向くとベレー帽のような物を頭にちょこんと載せ、左右で非対称の服――矢を構えた時に前面になる部分だけに装甲が施された鎧を着た少女の弓師が軽くウインクする。

 高速の矢に貫かれた鉄巨人は直後からパリパリと紫電が纏わりつき――やがて大音響とともに頭上から黄色の雷の柱が鉄巨人を蛇のように締め上げる!

「「「いま」」」」

 三人の仲間達の声が唱和する!

 僕は柄を思いっきり握り締めると――


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 雄叫びを上げズバンと鉄巨人の胸にはめ込まれた深紅のオーブを真っ二つに断つ!

 パリーンと涼やかな音とともに深紅のオーブは砕け散ると鉄巨人は動きを止め。やがて、ボロボロと崩れ去っていく。

 勝った…………のか……?

 残心を続ける僕の目の前でこのフロアの扉が重い音と共に開き、その先からビュウビュウと外の風が入り込んできた。その先にはテラスのような通路が見える。

「ついに――ついに王の間だ……くっ……」

 思い出したかのように受けた矢傷が痛みだす!

「勇者!」

 悲鳴のような声を上げて純白の僧服に身を包んだ黒髪の少女が僕の前にしゃがみ横腹に刺さった鏃と傷の様子を窺う。

 大げさだな……イテテ……。

「俺達はさきを偵察してくる。行くぞ」

「うん」

 ビキニアーマーの戦士が弓師に言うと、弓師は頷き二人は風の吹きこんでくる扉へと向かう。

「……ばか」

 二人が出て行ったあと、僕の前に屈んだ黒髪の僧侶が静かに洩らした。

「君を危険に晒したくなかったのだ。ああして僕が気を引けば敵の目は全部僕に曳き付けられるしね。それにこの剣が僕を守ってくれる」

 両頬を少女の手で押さえられる。知恵の樹と呼ばれる樫で作られたフレームに透明度の高い硝子を嵌めこんだ拡大鏡の向こうで責める様な視線がジっとこっちを見詰めていた。

「一緒に――一緒に歩こうって言ってくれたじゃない! もう――もう、あんなムチャしないで!」

 涙さえ浮かべて訴えかける少女に――幼馴染として幼い頃から一緒にいたけど、彼女のこんな顔はいつ以来だろう……?

「ごめん――もうしないよ」

 君が危険に晒されない限りは――っと、こっそり心中で付け足す。

「よし」

 ようやく笑顔を見せ押さえていた頬を解放してくれる。

「貴方のお父様の打ってくれた剣に守られているとはいってもムチャしちゃダメ! あたしの心がもたないのだから……」

「親父か――僕や母さんを置いて「鍛冶王に俺はなる!」と遺して伝説の剣を探しに旅たったロクでもない親父だけど……まさか本当に……」

「竜神の末裔だったお母様が持っていた品が剣の材料だったのよね? それを精錬できるのは鍛冶の神様に愛された貴方とお父様の一族だけ……そう考えると御両親が結ばれたのは運命だったのかしら……?」

 その後、小声で「あ、あたし達も……」そう言って左手薬指に嵌めた白く光る指輪を撫でる。なにを隠そう僕が贈った品だ。

「えへへへへへへへへへ――みんな気づかないね、コレに」

 嬉しそうに指輪を見ながら微笑を浮かべる。

「そうだね……祝福してくれるといいけど……」

「モテるもんねー」

 頬を脹らませてプイと横を向く。

「聖都の『真実の鐘』の下で言った事が僕の本心だよ」

「はい! 信じます!」

 向けられた者を優しい気持ちにさせてくれる笑顔。

「こうやって二人きりでいると子供の頃に初めて探検した幽霊の住む城の事思い出すね」

「そうね――でも、そろそろ行こ。未来を一緒に歩むために――」

 暗い室内の中で僕達の影は一瞬だけ重なり合う。

 立ち上がると恥ずかしさの余りお互い顔を合わせられなく、彼女も耳まで真っ赤にさせてそそくさと外に出て行った。

「最後の戦い――魔王城王の間か――」

 傷も癒え決意を新たに僕は扉に向か――

「!」

 モンスターの死体が累々と転がる視界が急速に暗転していく!

 な……なんな……だ……!

 そして僕は自分が倒れる音をまるで他人事のように聞いた。


 ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。


 重い音を上げて玉座の間の扉が開けられる。夜の月明かりよりもさらに濃い闇が支配する王の間に月と星の明かりが射し込む。

 続いて――順番に松明が灯っていき――徐々に奥まで露わになっていき最奥には――玉座に腰かけた仰々しい仮面を着け黒いローブを纏った者。

 そいつは立ち上がるとこちらを指し――まるでゲームのワンシーンそのものの様な光景。

「ブ「ぶーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、来てやったぞ、魔王よ。俺の部下になれ! そうすれば世界の六分の五を分け与えてやろう!」

 予定調和のごとく始まったであろうセリフを俺の口上が遮る。セリフを奪われたカタチになった魔王はこちらを指しながらそのまま石の様に硬直した。

「え!」

「ちょ――」

「なに言ってんの!?」

 突然の出来事に混乱するパーティの女三人。

「ふふふふふふふふふ。今まで黙っていたが俺は――」


「俺は魔王萌えだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「「「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」

 魔王+三人娘が人類の滅亡を聞かされた様な表情で声を上げる。

「――うっ――ひっく――ひどいよ」

 なぜかいきなり泣き出す白い服の女。フードと暗闇でハッキリと確認できないがどうやらこの娘が――

「聖都で――『真実の鐘』の下でこの指輪と一緒くれた想いは嘘だったの!」

 左手の薬指に嵌められた指輪を翳しながら涙ながらに訴えかけてきた事で全てを察した。

 なるほど、なるほど。最近多いね、こういう複数の女性に囲まれていても最後には一人のメインヒロインを選ぶタイプの話し。今回は仲間の一人と純な恋愛をしているパターンか――オーケーオーケ! なら、それを徹底的に蹂躙してやるまで!!

「ばーか! おまえが一番扱いやすかっただけだわ!」

「ぬう――事情はよくわからんが、おまえとても酷いヤツだな」

 魔王が俺を指しながらそんな事を言う。魔王に人格否定されるってのはある種、貴重な体験をした。

「しっかりしろ! どんな幻惑の魔法にかかったのだ」

 不用意に近寄ってきたビキニアーマーの女の腰紐と肩ストラップを剣で切断する!

 ぱさ。

 とても防御効果があるとは思えない柔らかい物が地に落ちる。「

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! なななななななななな――」

 腕で胸を隠すとその場で蹲る。

「「どういう事だ!」なの!」」

 僧服と弓女が凄い剣幕で問いかけてくる。

「どうもこーもない。俺の本命はただ一人――」

 僧服の女が一瞬こちらになにかを期待する視線を送ってくる。

「俺の本命は――」


「魔王だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 同時に魔王の仮面をはぎ取る。その下にはあどけない顔の幼女のモノだった。

「魔王が幼女だという事はすでに調査済み! いや! あえて魔王ちゃんと呼ばせてもらう!」

 そのまま魔王(幼女)を小脇に抱える。

「と、いうワケでここまで来たからにはもうおまえ達には用はない。故郷にでも帰って『武器と防具は装備しないと意味がないぞ』とか言っていた日々に戻るのだな。俺と魔王ちゃんはこれから人に言えないあ~んな事やこ~んな事をする予定なんでな」

 蒼穹の鎧に身を包み深紅のマントを羽織っているが言っている事は限りなくダークな俺は爽やかに片手を『シュタ!』と上げ宣言するとそのまま去――!

「がぶり」

 魔王のかみつき→俺に四〇〇のダメージ!

「うを!!」

 くっ! さすが! ラスボスの魔王だけあって攻撃力は半端ではない! あまりの痛みで思わず小脇に抱えた魔王(幼女)を離してしまった。

「ふー、ふー。か、か、勝手にやっておるといいわ! ボク――我はこのまま逃げる」

 ざっざっざっざっざ→魔王(幼女)は逃げ出した!

「バカめ!」

 しかし――勇者にまわりこまれた!

「魔王戦は逃げられないのだよ!」

「勇者のおまえが言うのかよっ!!」

 魔王のなかなか鋭いツッコミを受けつつ。

「ぐふふふふふふふふふふ。おまえが最終形態では全裸になる事も既に調査済み! さぁ、どんな事をしても――俺と闘ってもらうぞ」

 俺が両手をワキワキさせながらにじり寄る。

「くっ……魔王より邪悪なヤツ……」

「それとも俺に世界の六分の1を与えて分割統治するか?」

「ん? 六分の一でよいのか? 欲のない奴――」

「おう! 幼女と俺だけのめくるめく世界だ! 男とか一五過ぎた女とかには興味ありません! 従って六分の一で十分だ――一五歳過ぎたらちゃんと返してやるから安心しろ」


「「「「性癖特化型なだけだった!!」」」」


「大なり小なり幼女の嫌いな男など存在せんわ! 見ていると自然と顔がゆるんだりするのだぞ」

「で、では、ヨコシマな気持ちはないというのじゃな?」

「ある! ペロペロしたいぞ!」


「「「「思ったより外道だった!!」」」」


「勇者! どうしちゃったの! 小さい頃二人でオバケ退治した私の事かばってくれた優しい勇者はどこにいちゃったの?」

「あれは――あの頃はおまえが幼女だったからだ!」


「「「「昔から外道なだけだった!!」」」」


「今の俺にとって、成長して汚れちまったおまえなど鼻毛出したおっさんほどにも恋愛感情が湧かんわ」

「がーん!! おっさん……私、おっさん……しかも鼻毛でてる……」

「わかったら、故郷に戻って『ここは○○村だよ』とか言ってコビでも売っていろ!」

 言い捨てて魔王ちゃんに向き直ると、二つの影が庇うように立つ。

「本当の敵はおまえだ!」

 大きな戦斧の陰に隠れて裸体を隠しながら戦士。

「それ以上近寄ったら射抜きます!」

 俺に向かって弓に矢を番える弓師。

「さようなら……」

 背後から目の端に涙を浮かべて長杖を構える僧服の女。

「お、おまえ達、ボク――我を助けるというのか?」

 魔王ちゃんが若干涙ぐみながら三人を見つめる。

 俺はマントを『バサー』と翻し、

「よかろう! みんなまとめて相手してやる!」

 俺はパチンと指を鳴らす。

「へ?」

 弓師は矢を番えたままの姿勢で硬直する――全裸でなにも持っていないが番えたまま姿勢のままで――

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 弓師は悲鳴を上げ、こちらに背を向け蹲る。ベレー帽がなくなり中に詰めていた長い髪が真っ白な背中に流れる。

「こ、こっちみんな!」

 足元に転がる石コロをこっち向かって投げる!

「弓師だけあって狙いは正確だな」

 飛んできた石を軽く籠手で払い落す。

「……くっ。な、なにをした?」

「なぁーにおまえの装備品に移動魔法をかけただけの事。ちなみに行先は一日のうち二三時間三〇分(残り三〇分は賢者タイム)はエロい事を考えているダンスィー高国だ。国内にある全ての書物のエロワードには例外なく赤線が引かれている国。いまごろはクンカクンカされたりされているかもな」

「な――!!」

 一瞬、立ち上がりかけ自分の惨状に気づいて再び蹲る弓師。

「弓師! ぎ、逆に考えるのだ。こんなロリコン野郎に見られても――」

「そういうコトは斧の陰に隠れてないで出てきてから言ってください!」

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ――ここにきて仲間割れか?」

 全裸にするコトで戦闘不能にした二人だが、念には念を入れて――

「もっとも、この水鏡の盾は写したモノを世界中の水に映し出す効果がある。その、あられもない姿を全世界に晒されたくなかったら大人しくしていることだ」

 これでこの二人は動けない。さてと、あとは――俺は魔王(幼女)とそれを庇うように立つ僧服の女に向き直る。ちょっと事情があって、この僧服の女には あまり思い切った手段はとれない。

 ここは先ほどの予想外にダメージを受けた、あの一言を――

「退けよ。鼻毛のおっさん」

「がーん!! せっかく忘れかけていたのに……」

 涙目になった僧服の女は四つん這いになって床に両手をつくと分かり易く落ち込んだ。

まるでそれを合図のように周辺の光景が変る!

 魔王ちゃんと三人娘は飴細工のように溶け、周辺も溶け始める。


『世界の崩壊!』


 まさにそう呼ぶに相応しい現象。

 さすがにもう慣れたが最初の時は結構慌てたモノだ。


 身体をムダなく包むリクライニングチェア――『創造石の扉へと至る道』(ダ・ビンチ・ゲートウェイ)と呼ばれるワケワカラン機械に接続された椅子の上で目蓋を開ける。

「おつかれさまぁ~。魔王萌えで幼女好きパーティの女の子を容赦なく全裸にするサイテーの勇者様なんてよく思いついたねぇ~」

 ホンワカした口調で白衣を着た少女がこちらに来て手足の拘束を解く。

「咄嗟の思いつきだったけど、いいアイディアだったろ? 以前の反省点を活かして今回はおもしろおかしくいってみたんだ」

「ん~……。本当にロリコンじゃないよねぇ~?」

「おいおい。本気に取るなって――芝居だ、芝居!」

「本当ぃ~?」

「ああ。個人的な趣味嗜好の自由は尊重する――が、俺、個人としてはロリコンなんて隕石に直撃されて滅びればいいと思ってる」

 室内はさきほどの禍々しい魔王城とは違い近代的な室内、大型のコンピューターが数台置かれ、部屋の中央には巨大なモニタが設置されている。

「ヒミコは?」

「完全に沈黙ぅ~作戦成功だよぉ~」

 俺は室内に備え付けられた巨大モニタの方へ目を向ける。

 そこにはジャージ姿で黒髪の少女――さきほど僧服を纏っていた少女と瓜二つの娘が両目を『◎』に口を『Д』なカタチにして機能停止していた。気のせいか? 『Д』のカタチをした口からプシューと黒い煙が上げている気がするが……?

「乙女の夢をあそこまで蹂躙するなんてやりすぎだよぉ~」

 白衣の女――イサナさんはコーヒーを啜りながら呆れたように呟く。

「なんの、なんの終わり良ければオールオーケーって言うじゃねぇか。それに手段なんて選んでいられる状況じゃないのはわかってるだろ?」

「そうだねぇ~。人類の未来が懸かってるんですものねぇ~、何か飲むぅ?」

「んじゃ、カロリーゼロのモノで」

 飲み物をとりにいくイサナさん。その間も俺の視線は世界の命運が懸かっている少女を見つめる。

 二一世紀の現代。大国同士の大きな戦争――国家総力戦規模は起きないとされている。

 その現代を滅ぼしてしまう可能性をもった少女。

 いや、まあ……にわかには信じられん話しだけど……俺が知ってるのはスカウトされた時から今日までの作戦オペレーションだけで――視線を巨大モニタからさっきまで座っていたチェアに向け――さすがに体験しちまったからには信じるしかないんだわ……。

元々、世間一般よりかなり数奇な人生を送っていた俺はこの組織に入った事で決定的になった。

「タ・ク・マく~ん~」

 イサナさんの少し甘えたような口調にそっちを向く。

「どっから出したソレ!」

 手持ち式対空ミサイル――ハンドアローと呼ばれる筒の銃口がこっちを向いていた!

「乙女の身体には絶対領域っていう男性が持っていない特殊空間があるんだよぉ~」

「へ、へぇ~。で、でもそのミサイルってイサナさんの身体より大きくねぇ?」

「絶対領域は自身の女子力に比例して大きくなっていくからぁ~エイ!」

 カシャコンという音とともに発射装置が押し込まれ――ミサイルランチャーから大量の紙片やら紙の帯やらが飛び出し盛大な音とともに俺を紙で巻き巻きする。たぶんミイラ男みたいな外見になってると思う。

「いまので任務タッセー五〇件だったんだよぉ~お祝いのクラッカぁ~」

 同僚の派手な祝い方と、ほのぼのボイスを聞きながら俺――物質解析者で高校生で生徒会長で軍師で検事で勇者で魔王で英雄で竜神の血族でゾンビハンターでヴァンパイアの血筋で剣術が堪能で立ち居合術の達人で腕にナニかが封印されていて、目にもナニかが封印されている――etc.etc、たぶん、あと四十個ぐらい続く肩書きを思い起こし『もうフツーの高校生じゃないな』と自嘲した。

そんな俺も少し前までの肩書はひとつだった。

でも、やはりフツーではなかった。

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