3-2. 冬の気配(5)

          *

 ショウと別れてから二度目の夕日が目の前にあった。

 今日一日、ユウキはまだかまだかとショウを待っていたのだが、ショウは一向に姿を現さなかった。

 待つ間、狩りをして鳥を捕まえたり、無駄に川から水をんでみたり、たきぎを拾ってみたりとしていたが、その程度のことで気がまぎれるはずもなく、結局は街道が見える茂みに身を隠し、ショウが通りかからないかと見張ることに落ち着いたのだが――。

 いくらなんでも遅い。まさかこの場所に気づかなかったのだろうか。それともショウの意図を読み間違えてしまったのだろうか。そうユウキが焦り始めたそのとき。

「ユウキ?」

 まさかの背後からの声だった。ユウキはびくりとして振り返る。

「ショウ!」

 喜びを告げるはずの声は悲鳴に変わった。ショウの見るも無残な姿に、ユウキは息を飲んだ。

 真っ先に目が向いたのは顔面の大きな青あざ。頬や口の周り、そして右目の周りまでもが青くなっている。失明はまぬかれたのだろう、まぶたれて開きにくそうではあるが、その奥の瞳はしっかりとユウキをとらえていた。

 服もひどいものだった。そこらじゅうが泥で汚れ、裂けていたり、破けていたりしている。その隙間から、剣で切られたと思しき傷や擦り傷も見えていた。この様子では打撲も全身にあるだろう。

 幸いにも動けなくなるほどの怪我ではなかったようだが、見ていて痛々しいことには変わりない。

「……ひどい。すぐ手当てしなきゃ」

「大丈夫だよ。それより遅くなってごめん。心配かけた」

「で、でも……」

「手当てはしたよ。このくらい大したことないって。逃げ切れて良かった」

「――うん」

「野営場所は?」

「あ、こっち。暗くなってきちゃったね。足元気をつけて」

 気遣うように声をかければ、ショウがふふっと笑った。

「なんか変な感じだな。ユウキにそう言われるの」

 そもそもユウキが先導すること自体まずなく、足場を気遣う機会などなかった。気が利かない人のように言われるのは少々不満だったが、今日ばかりは目を瞑る。

 ユウキはショウと再会できたことで心から安堵していた。

「戻ったら鳥があるから一緒に食べよ」

「あぁ」

 食事を終えてもショウは詳しいことを話さなかった。だが、何か気になることがあるのは確かだろう。時々変な顔をする。

 ユウキの方は何事もなかったので、これといって報告することもない。ずっと不安を抱えてはいたがそれだけだ。

 ユウキはショウと合流できたことで緊張が解け、気づけばあっという間に眠りに落ちていた。自分でも驚くほど一瞬のことだった。

 だからユウキは気づかなかった。時折ショウが苦痛に顔を歪めていたことに。


 翌日、ユウキたちは夜明けとともに出発した。

 順調に足を進めていたユウキたちだったが、周囲が完全に明るくなって間もなく、道の真ん中でショウが倒れた。

 ユウキは慌てて駆け寄り、そして顔を歪める。

 たき火の明かりや、夜明け時の薄暗さの中ではわからなかった顔色の悪さがはっきりと見て取れた。その瞬間、後悔が襲う。どうしてもっと早く気づけなかったのか、もっと気遣ってあげられなかったのか、と。

 恐る恐る伸ばした手をひたいに当てて、ユウキは愕然とした。

 これまで歩けていたのが奇跡のようだった。それほどの高熱にショウは見舞われていた。

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