ゴハンに

@carifa

第1話

「見えそうで、見えない。その絶妙さ加減に真実のエロチズムは存在していて、俺が駅の階段で床に顔を擦り付けて女子高生の短いスカートの中を覗き込まないのは、つまりは真実のエロチズム。いや……人間の性欲の根元とはいったいなんなのかを探求しているからだ。甘い林檎を食べたいからといって皮を剥いて食べてしまえば、その部分に備わっている養分を棄ててしまう。違うか?」

 野田美樹は雄弁に語る痴漢常習犯の男を見詰めてため息を吐いた。鉄道警察隊に入隊してから一年。この手の輩には既に免疫があるつもりではいたが、目の前に腰掛けた薄笑いを浮かべる男と取り調べ室のような閉塞空間で対峙するとやはり居心地が悪い。

「あのね、貴方の性癖がどんな変わったものでも私たちには関係ない。皮ごと食べたいなら林檎だって、キュウイだって食べたら良い。でもね、被害者の女性は貴方に下着を見せたくてスカートを身に付けてる訳じゃないのよ。床に顔を擦り付けてなくてもスマホでスカートの下から隠し撮りしたら同じじゃない?」

 美樹の問いに大きく頷いてから男が答える。

「そこだよ。見せたくないから、見たくなる。違うか? 人の欲望はどんな時でもタブーとされていることに近付くにつれて昂る。チュニの教えにも出てきている。教典第20章16。汝の欲望を解き放て、矢は刺さるべき場所を示す。警官のような仕事をしていても、この教えの意味くらいは解るだろ?」

 また、チュニの教えだ。そう思い、美樹は掌を握り締めて大きなため息を吐いた。

 ここ半年程、チュニの信者と名乗る犯罪者が極端に増えていた。軽犯罪から重罪まで被疑者達は免罪符と言わんばかりにチュニの名を出す。


 

「だから、それが間違いでしょ?


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