36話 突然の黒幕

「………」

「ーーー、ーーーー」

「…いや、だからなにいってんのかわかんねーって……」


流石に本命の相手と会うことになるとは思わなかったが丁度いい機会だと色々問いただそうとした。結果は前回と同じ、何を言ってるのかまるで分からない。声を出しているのは分かる、なのに頭に入って来ないのだ。


「まぁ、いいや俺はお前に文句が言いたいだけだからな」

「?」

「なんで操る様なマネをした、何がしたいんだお前は」

「ーーー」

「あーいや喋んなくていいから、どうせわからん」

「………」

「……はぁ…」


どうすればいいんだこの空気……。

前回会った時とはだいぶ違う。まず声だ、コエノ大きさの問題か所々聞き取れなかったが"言葉"は聞こえたが今回は音しか聞こえない。

そして何よりも雰囲気が違う。いや、雰囲気というか感情と言うべきかもしれない。前回はまるで人形みたいな無表情で平坦な感じで喋っていたが目の前にいるのは何処か必死さが感じられる。


「なぁ、お前はどのぐらいの人を操って犠牲にした?」

「! ………」


アルテミシアは俺の言葉に顔を強張らせ俯いた。


「なんだよ……その感じ…」


前髪の隙間から見えるアルテミシアは唇を噛み悔しそうな表情をしていた。


「使徒って、なんだよ。どうしてこんな事を続けてるんだ?」

「……ーーー、ーーー。」


アルテミシアは何かを伝えようと口を開くが聞こえるのはただの音。言葉は伝わらない。


「お前、実はーーー」

「アルテミシア様、こちらにいらっしゃいましたか」

「ーーー!」


突然隣から声を掛けられ見ると白い翼が付いている男が立っていた。

アルテミシアはその男を見ると何かを言ってる様な音を出す、すると男はアルテミシアの耳元に口を寄せ何かを呟いた。


「? あんたは…」

「ん?あぁ…、どうも初めまして今代の使徒コウタ君。私の名前はグラーグと言うんだ宜しく」


グラーグと名乗る男は俺に人の良さそうな笑顔を向けながら言った。何故かその顔を見ると鳥肌が立った。


「……男にそんな笑顔をされても気持ちが悪いだけなんだが……」

「ははっ、君はこの状況でよくそんな素直な感想を言えるね」


確かにこの場には使徒と呼ばれた者達を操り命を散らした張本人とその仲間、俺の味方はいない。

その事に気付き少し身を硬くするがグラーグはそんな俺を面白そうに見る。


「なんだ?」

「うーん、興味深いなぁーと」

「だから何が…」

「能力が制限されてるとはいえ、アルテミシア様の精神汚染を耐えるなんて驚きだよ! 何か特別な物があるのか、それともただ図太いだけなのか………」

「それはあの魔族が言ってくれなかったら無理だった」

「確かに切っ掛けはあれだ、だけど行動の誘導は出来たけど精神までは行けなかった。そもそも指摘された程度で解ける程アルテミシア様の洗脳は甘くはない」

「じゃあ図太いだろ俺は」

「ふむ……まぁ期待出来るかな……」

「それよりも聞きたい事がーーー」


グラーグに使徒の事などを聞こうとすると後ろから誰かに体を掴まれる。アルテミシアだという事は予想は出来るが急にどうしたのか不思議に思いながら声を出そうとすると背中越しにとてつもない重圧を感じる。


「アルテミシア様?」

「ーーーお願い」

「な!?くっ、離せ!」


体を掴む力はアルテミシアの華奢な外見からは想像出来ない様な力を出していた、今も骨を砕き潰しそうな程の圧力を与えている。

体を懸命に動かし無理だと悟りアルテミシアの腹を蹴り押し引き剥がそうとする。

すると今までの圧力が嘘の様にすんなりと引き剥がせた、予想外の展開にそのまま転んでしまう。


「いってぇ……、な…何が……」


地面から起き上がりながら振り向く、するといつの間にか息が掛かる程近くに寄ったアルテミシアの顔がそこにあった。


「ーーー!」

「ーーお願い」


目の前にすると改めて感じる重圧、息が苦しくなり体が金縛りにあった様に動かない。

目の前の顔は神様と言うだけあって以上な程に整っていて親しみを感じられる様な雰囲気ではない、それは表情や感情が見られないからかもしれないが……。


「お願い、これまでの犠牲になった人やこの世界の人、勇者の為に」


恐らくみんなの為に魔族達に"使徒の能力"を使えと言っているのだろう。自分の能力は理解している、この前の魔族との戦いの時に腰の宝石…使徒の証と言われてる物に触ったのを境にそういう知識が少しずつ流れ込んできた。

そしてアルテミシアは無視できない言葉を言った。


「そして私の為に死んで?」

「あ"?」


今まで口すらも満足に動かせなかったのにその言葉を聞いた瞬間思わず声が漏れた、だが今の俺はそんな事を気にする程の冷静さすら無かった。

ただアルテミシアの言った言葉に怒りを覚えていた。

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