29話 撤退とその後
「はぁ……はぁ……」
ーーーどれだけ走っただろうか、あの女の魔族から何とか逃げられたのは運が良かった。
でも、もう限界だ魔族から逃げて来て10分位か……、足を強化してずっと走ってきたがそろそろ不味い。
疲れのせいか足に木の根が引っ掛かり背中から木にぶつかってしまった。
「ごはぁ!……ひゅー…ふぅー…」
走っていた速度のせいか思っていたよりも強く背中を打った様で息が思ったように吸えない。思わず咳き込むとどうやら喉に血が溜まっていたようで足下を血で汚した。
木に体を預けながら後の事を考える。
「ふぅ……ふぅ……、どうするかなぁ」
正直言って辛い、魔族との戦いで魔力も血も出しすぎた。アイツ等は無事街に帰れただろうか……、足止めするのが操られていたからと言っても頑張ったんだから無事でいて欲しい。
「あー…空が青……葉っぱで見えねぇや」
ふぅ、歩かずに帰る方法……あっ。
俺は懐からタクトから貰った魔法石を取り出す。
「はは……多分大丈夫だよな」
タクトは最後の最後にしてくれみたいな事を言っていた、なら今こそ使うべきだろう。魔法石を見詰めながら考えているとあることに気付いた。
「あれ?傷か?」
魔法石に一筋の傷が付いていた、傷の所を親指で擦ってみたが感触が無い……まさか!?
「まさか、まさか!?ーーー中かぁぁぁ………」
どうやら傷は表面ではなく中にあったしかも刻まれた魔法陣の近くにだ。
「へ、へへへ……本当に運が無い……!?」
何やら体を探られる感じがした、この感じは確か探知系統の魔法のはず……。だとしたら魔族が来るのも時間の問題か、迷う暇は無さそうだ。
「どうか壊れてません様に…壊れてません様に……!」
魔法石に魔力を込める、すると中に刻まれているのが"転移"だからだろうかものすごい勢いで魔力を吸い上げてゆく。
「おぉ!?こ…のぉ、大喰らいめぇ!」
俺の魔力がどんどん消えていく。タクトめ自分の魔力を基準にして作ったな! こんなに吸い上げていくなんて聞いてない……。
「ぜぇ、ぜぇ……」
お、終わったぁ……、魔法石は込められた魔力を使い俺の足下に大きな魔法陣を展開している。そして俺は残り少ない魔力を更に絞りだしたせいで頭がボーっとする。
「……あ、無事に……帰れる……」
眠い、でも今寝たら……。
そして魔法が発動し光が俺を包み込むと同時に俺の意識は落ちた。
夢を見た、俺と同じか少し上の女の子と中学生位の男の子が裏路地でどう見ても悪人らしき女性に襲われていた。
(あー、助けるかぁ……)
ぼんやりとした頭でそう考え即行動に移した。
そこからはあんまり覚えてない、疲れが溜まっていたのか何も考えずに動いてた気がする。でも何か掌で受け止めた様な?まぁいいや、痛みとか感じないし………。
「ん……あぁ?」
気の抜けた声を出しながら目を開けると天井、周りを見ると高そうな家具がチラホラと。窓を見ると日が差し込んでおり今が日中だと言うのは分かった。
……そうか帰って来れたのか俺は。
そう思うと気が抜けたのか自分が寝ているベッドに気が向いた。
「おぉ……、ふかふかだなこのベッド……」
体を動かし少しだけ跳ねようかと思ったが体が思った様に動かない。
「余り無理をしてはいけませんよ?」
「え?」
扉の方を見るといつの間にかメイドさんが立っていた。メイドさんは無表情で俺に注意してきた。
「えーっと」
「お客様はかなり無茶をしたようで、体はボロボロで魔力も空っぽなのに無理して出した様で……」
「……自分はどのぐらい?」
「4日です」
「よ、4日ですかぁ……」
「はい、それだけ休んでも体が動かせないのです、相当な負担を掛けていたとお医者様も言っておりました」
「な、なるほど……、その…助けてくれてありがとうございます」
すると無表情メイドさんはちょっと驚いた顔をして呟いた。
「……覚えていない? もしくは相当なお人好し?」
「ん? 覚えていないと言うのは?」
「ーーーいえ、何でもありません。それではこれ以上はお身体に障りますので失礼致します」
「あ、はい…ありがとうございます」
「何かあればこちらのベルを鳴らして下さいませ、ーーーそれでは」
メイドさんが部屋から出ていきしばらく呆然とした後に情報を整理する。
ここは部屋の様子、そしてメイドさんが居る事から貴族の屋敷にいるのだと思う、多分。てかそれしか情報が無いような……。
「ーーーもっとメイドさんから話を聞けば良かった………」
まぁ、過ぎた事を気にしてもしょうがない。取り敢えず帰って来れたんだし二度寝でもするか、こんな良いベッド何て二度と寝れないだろうし。
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