28話 とある姫と青年の出会い

私が彼と会ったのは偶然だった。




「ね、姉さん……」

「大丈夫… 大丈夫だから」


裾を掴み震えている弟に言葉を掛ける。

声は震えていないだろうか?足は動くだろうか?頭は回るだろうか? そんな事ばかり考えている。 どんなに立場が上の人間も条件さえ整えれば下の者に討ち取られる。今の私がそうだ。私の力は私自身の力では無く私の周りにある物や人の力だ、だからその加護から外れれば私はそこらの娘となんの変わりも無いのだ。


「ーーーやーーっとみつけたぁ」

「!?」


裏路地の曲がり角から出てきたのはヒョロ長の女、白髪のショートで右目が髪で隠れている。女は両手に持った短剣を弄びながら楽しそうに笑いながら近づいて来た。


「アハハ、まさか自分からこんな所に入って来るなんて……、よっぽど恐かったんだ?」

「くっ……」


元々は大通りにいたのに裏路地に行けば撒けるかもしれないなんて思ってしまったのが失態だった。普通に考えれば人通りの多い所にいれば相手は襲いづらいし助けだってすぐに来た筈だ。


「っ……!ね、姉さんは僕が守る……!」

「あら、勇ましい」


弟が腰の剣を抜き私の前で構える。足は可哀想な程に震えている。『貴方は逃げなさい!』 と言うのが私の今出来る役目なのに声が出ない、自分が情けなくて腹が立つ。だけどここで怒鳴り散らしても意味はない……。いや、大きな声を出せば誰かが駆けつけてくれるかも。


「ーーーじゃあ、もう終わりね」

「ぐぁ!」

「ジーク! ……弟にこれ以上手を出してみなさい、貴方を絶対に殺してみせる………」

「口だけは達者ね……、死ね。ーーー!?」


突然女は両手の短剣を左側にクロスさせた、すると同時に何かがぶつかり女は後ろに下がった。そして女の居た場所には一人の男が立っていた。

男はボロボロだった至るところに血が染み込んでおりだった、男は体をふらつかせながら目を虚ろにし、ーーー消えた。


「あー、面倒!」


男はいつの間にか女の後ろから剣を振っていた、女はそれをギリギリで防ぎ壁を蹴り三次元の動きで対抗した。


「これならあんたも来れないでしょ?」


女の挑発なんて聞こえないと言わんばかりに腰の鞘を抜き出し虚ろな目を女に向ける。


「っ……、気色悪い目をしやがって……!」


女の速度が増す、壁を蹴り上から、時には地を蹴り下から。様々な方向からの攻撃を男は剣と鞘でいなしている。


「姉さん……大丈夫?」

「あっ、ジークこそ怪我は?」

「打撲ぐらいかな………、凄いねあの人」

「えぇ、ただあの人はもう限界な気がするの」

「確かに、ボロボロだし今にも消えてしまいそうな感じだね……」

「えぇ……、! あと少しで助けが来るわ!」

「良かった、あっ!」


弟の驚いた声を聞き男の方を見直すとそこには剣が砕かれ鞘もどっかに飛ばされてしまった姿があった。


「ホントムカつく、あんたのせいで楽しむ時間が無くなったじゃない。そもそも武器の時点であんたの負けは決まってるの、そこらの剣と魔剣じゃあ戦いにならないわ」


男はその話を聞いていたのか聞いてないのか、体を揺らしながら一歩、また一歩と女に近づいて行く。女はその姿に何かを感じたのか思わず後ろに下がってしまう。瞬きを数回し目を開けたら男は女の右腕を絡み付き折ろうとしていた。


「えっ!いつの間に!?」


女は焦りながらも右手の短剣に魔力を込める、すると爆発が周りで起きた。男は爆風に飛ばされ此方まで飛ばされた。今のは避けきれなかったそうでうめき声が聞こえる。


「がぁ!?はぁ……かぁ……」

「ーーー流石に焦ったわ、武器が無くなってもやろうとするなんて」

「な、なんで傷ついて無いんだ?」


爆炎の中から女が腕を擦りながら出てきて、弟が驚く。ーーー恐らくあの短剣の効果であろう。魔剣の中には所有者には効かない攻撃魔法等が使える……、なんて話を聞いた事がある。


「この短剣の効果でねぇー、短剣から発動した魔法は所有者の私には効かないのよ。まぁそれなりに魔力を喰うんだけどね」

「そんなデタラメな……」

「彼女が言ってる事は本当よ……。ーーーなっ!? 無茶よ!」

「………まだ立つんだ……」


いつの間に男は更にボロボロになった体をを無理矢理立たせていた、その手には何処から拾って来たのか分からないが黒い短剣を持っていた。


「は?……あんたいつの間に取ったのよ」


どうやらさっき腕に絡み付いた時に女の腰に着けている数ある内の一つを取ってきたようだ。恐らく彼が持っている短剣も魔剣であろう。

彼は体の怪我を感じさせない動きで女に攻撃を加える。斬る、突く、殴る、蹴る。色々な攻撃を混ぜながら女を追い込んでいく。


(あれ?動きが良くなってきてる?)


そして彼の姿が段々と薄れていくのを感じる、"来る"そう思った瞬間に彼が消え、次の瞬間には彼の短剣が女の右腕を貫いた。


「ぐぅ!このガキがぁぁ!」


女は左の短剣で首を狙う、彼は避けきれないと悟ったのか自分の手を差し出した。

掌を貫く短剣をそのまま握り混んだ、そして彼は頭を後ろに引き思いっきり頭突きを噛ました。


「なっ、なんて無茶な……」

「ぐぅ……」


彼は右手に短剣を刺したまま左手の短剣を構え女を見る、すると曲がり角から数人の騎士が現れた。女はそれを見て舌打ちをして彼に言った。


「チッ、いるのよね街に一人や二人あんたみたいな化け物がさ……。今回は引かせて貰うわあんたのせいで大赤字よ……」

「行かせると思っているのか?」

「はぁ、加護持ちとは今は殺りあいたく無いわね……」


女はそう言うと、真っ黒な石を取り出し何かを呟いた、すると女の後ろに黒い道が出来た。


「まさかゲート?」

「あら、流石姫様よく知ってるわね」

「逃がすか!」

「止めなさいアイン!」

「ですが……」

「発動した時点で捕まえるのは難しいわ、無理して行っても貴方が危険に晒されるかもしれない」

「……わかりました」


私達が話している間に女はゲートから逃げた様だ。そして私達の意識はここまで私とジークを護って戦ってくれた彼に移る。


「姉さん、今は怪我の手当てをしないと!」

「そうだったわね、アイン彼を城に!」

「わかりました」






これが私と彼の出会い。彼はいつも自分は勇者じゃない、みんなに言われるような凄い奴じゃない。とか言ってるけど全てが終わった今だから言うわね……。


私や貴方の周りは、貴方の事を"英雄"だと思ってる。

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