第31話

「話は?」

「ついたわ。結論から言わせて貰えばあなた達の意見を少し聞いてみようって気になった」

「少し?聞いたからには完全協力だぞ?!」

危うくクソビッチという一言が出そうになったのをロイが懸命にフォローした。

「わかってます。そういうつもりで言ったんですよ」

ったくと舌打ちしてジョーの動画を再生する。

『これを聞いてるって事はもう既に決心ついたってことだよな?それなら後はべらべらべらべら喋るだけだ。第一に移動方法だが、お前らには敷地内を流れている川を下ってきてもらう。使う船はこちらで用意した。川をずっと下っていくとダリッジというデカい橋の真下を通っている。そこで俺と合流することになる。

そして決行の日時だが、ミラーノこれはお前がいなきゃ始まらない。いいか、よく聞け。決行の日は、お前の結婚式だ!!』

「結婚式?!」

ミラーノは衝撃のあまり立ち上がった。それを阻止する為に今回の作戦に乗るんでしょ?それを何訳の分からないことを・・・・。

「ちょっと真!どうなってるのよ、こんな話聞かせて!もう破談よ破談。話合いは終了です」

「い、いや、ちょっと待ってくれ。俺も何が何だかサッパリ。話には続きがありそうだ。せめて最後まで聞いてくれ」

真は慌てた。こんな滅茶苦茶な話聞いてないぞ!

『だからとりあえずミラーノ、お前は兄貴としっかり仲直りしておけよ。決行の日、その屋敷の中で少し派手に騒ぎを起こす。さぞかし盛り上がるだろうよ。そしたらその隙をついて三人で船に乗り込む。真に聞けばわかるが地図もある。その地図の赤い×印まで移動しろ。そこに船がやってくる。更にそこから青×の地点まで行って列車が来るのを待て。船から乗換えをしてドレスの手前まで行く。ドレス付近で列車を止めて山道に紛れ込む。かなり深いところまで坑道が続いているらしい。よほど金が欲しかったんだろう。まぁしばらくそこら辺に潜伏出来るからうまいこと山を越える方法を見つけるさ。これが大まかな計画だ。まぁあれだ。ラッキーなら成功するから気張るなよ』

後はブチっと動画が切れて暗幕が下がったかのように一切画面には映らなくなった。もしこれで全部ならとんでもないことがこれから起こる、そう真は確信した。

「これで、全部ですか?」

ロイが恐る恐る聞いた。同じ懸念を持っているようだ。答えたくはないがそうせざる得ない。

「らしいな」

「らしいって?もしかして真さん全く計画の内容知らないんですか?」

「そうなるな。ただ、恐らく総ての計画は全部あいつの頭にあるってことだけは言えるし、あいつがバカなら着いて行った俺達も馬鹿だってことだ。そのときは多少の諦めもつく」

「・・・・それってとっても危険なことじゃない?もし奴がここまで来て全部怖気づいてあたし達を売ったら?」

今日一番の正論だ。ここまで聞いてまともに信用できると考える奴は相当のバカだと、実際にジョーに会っていなかったら真も思っただろう。だがあいつを目の前にして実際に話してみるとそんな懸念は吹き飛ぶ。だからこそあの時、あの水辺であいつを仲間に取り込んだんだ。

「ミラーノ、その可能性は恐らく低いし考えるな。そんなことを考え出したらきりがない。疑念と懸念が腐るほど出て来る。忘れろ」

命令口調が気に入らないミラーノは更に突っかかる。正論を言えることも味方した。

「真!私たちの命までかかっているのよ?・・・・・・馬鹿げてるわ。止めましょう」

「バカ言え!ここまで喋って止められてたまるか!勝手な行動は慎め!」

「命令しないで!わたしは犬か何かとは違うの!勘違いも甚だしいわ!」

始まってしまった。こうなったらどっちも絶対に引かない。

「そうだな、おまえは犬じゃない。物分り悪いサルだな!きゃーきゃー騒いで結局何もリスクを犯そうとしない。臆病者根性丸出しだ!」

「侮辱よ!!誰がサル?あんたじゃない!全部どうせあの男の受け売りでしょう!それを自分で考えたみたいに言ってるけど!ただの物まねザルじゃない!」

「てめー、殺すぞ!お前みたいな世間知らずのガキに何が分かる!あぁ?!自分で服も着れないような間抜け面して、いい気になって俺に説教だと!」

「ガキ、ガキってあんたにはそれしか言えることないの?!それにあんたこそ粗野で凶暴な無教養の人間が言う言葉を使って恫喝してよっぽど獣よ!この野獣!!消えうせろ!」

はぁはぁと荒い息をついてミラーノが吐き捨てた。吐いた唾は呑めないとはいうが正にそこら中に噛みついて収拾不能だ。

「・・・・・・・・わかった。この計画はお前らなしでやる」

真は切り捨てる。こんなガキを相手にしている場合じゃない、そうはっきり告げた。

「待ってください。それじゃどうやってこれから進めるんですか。それに僕らはまだ下りるって決めたわけじゃ・・・・」

「お前の相方は目がマジだ。それに・・・・・・・・・」

「怖気づいた奴いても迷惑なだけだ。決して役には立たない」

そして真は踵を返して部屋を出た。


「それで?」

「うるせー察しろよ」

不機嫌になりながら戻って来た真は悪態を吐きながらドカッとソファーに腰を下ろして酒を呷る。しかもそれはブライアントが楽しもうと思ってせっかく氷を入れて液体全体が冷えるようにと置いておいたものだった。

「あー!それ俺の・・・・・・」

「あぁ?!いいだろ別に。この部屋の酒は全部俺のもんだぞ!」

相当強い酒だ。それを水でも飲むかのようにグビグビといったら明日の朝酷い目に会うぞと警告したにも拘わらず、今度は瓶ごと直接飲み干した。

「うるへー、ひっく、でいじょーぶだよ。俺は、結構、強いんだよ酒。こんなんで執事が務まるかぁー。お前もこっち来て飲めよ」

まるっきり酒場の酔っ払いだ。ブライアントがそれを断ると今度は怒りだした。

「んだとぉ、てめー人の酒勝手に注いで飲みやがって。それを俺が注いだ酒は飲めないなんてどういう料簡だ?こっち来いブライアント」

「ちょちょちょっと待てよ。それより成果の方を聞かせてくれよ?どうだったんだ?納得してくれたか?」

「それ、より?!・・・・・・それってのはどーゆーことだ?俺の酒がその程度って意味か?それとも俺と飲むことがその程度だってことか!?テメーいい加減にしろよ!とにかく飲め飲め!話はそれからだ」

いい加減にするのはテメーだよ、1発ぶん殴って気絶させてやろうかこの酔っ払い。どうせ明日になったら二日酔いで何も覚えていなんだろうから行けるかものな。

そう考えて拳を固めたブライアントの目の前で急に真が前方に突っ伏して動かなくなった。一瞬急性アルコール中毒を疑ったがすすり泣きの声が聞こえる。それにブツブツ何かを薬中(ジャンキー)のように呟いているので耳を澄ましてみた。

「畜生、どうせ俺なんて誰からも尊敬されないし、仕事は多いし、部下はダメ出し、指示する側は適当で気分屋だし。畜生、どうなってるんだよ。どうして俺がこんなにも苦労しなきゃなんだよ?俺が何したんだ?それにガキどもはガキどもで俺をまるで信用しないし・・・・」

真の日ごろの恨みつらみが赤裸々に聞くことが出来た。でも聞かない方がよかった。何だよ、完全に失敗してたのか、しょうがねーな。これ以上こんな粗大ゴミみたいな奴と一緒にいたら精神衛生上悪いからな、一丁計画の第2段階に移りますか!

いつまでもブツブツ言っている真を独り残してブライアントはコテージを出た。ちゃんと真の服のポケットをまさぐって鍵を取ることも忘れずに。

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