第27話


「いやぁ、もう充分頂いておりますぞ」

グビグビと椀に並々注がれた強い酒を飲み干してクーパーは上機嫌だった。一体どんな無理難題を押し付けられるのかとビクビクとしていたがそれが存外、基地に備蓄している酒を持ってこさせて司令室で酒盛りを始めだすのだ。それもジョーは盛んに俺について来れば昇進間違いなしだとか、クロフォード卿にはよくよく言っておくとか耳障りの良い言葉を並べてクーパーを煽った。

「いや、そんなんでは足りんな!!もっと呑め!これは昇進祝いなんだから!!」

「感無量であります!!不肖クーパーもう1杯いかせてもらいます」

かなりのアルコール度数の酒を一気にかっくらう。外では一般の兵士にも特別に酒がふるまわれていて敷地内のそこら中で酒盛りが始まり嬌声が上がる。

「兵長えらく機嫌がいいじゃないか、いったいどうした?」

「それがどうやら栄転するらしいぞ!」

「へーそれで俺らにも酒をね・・・・」

「どうでもいい。呑めっていわれたんだ、最高に愉しもうぜ!!」

約300人の常駐兵士がお祭り騒ぎで大暴れし軍紀も何もあったものではない。この日を境に基地の警戒レベルは大幅に低下していくこととなる。


深夜、バカ騒ぎがようやく終演に達して兵士たちが思い思い、廊下や地べた、椅子の上や机の上に寝転がり爆睡している中、1人それらの喧騒から離れて隅にいたブライアントが出てきた。この馬鹿どもなら今すぐ虫けらのように300人全員殺すことだって可能だ。ジョーに無断で殺してしまおうか、そう考えて懐からナイフを引き抜いた。手近に涎を垂らしバカ面で寝ている兵士の喉元に迫ろうかというとき、後ろから肩を掴まれて強引に引きはがされる。

「What the fuck are you doing??

(こいつらホントに何考えてるんだ??)

大声は出さなかったもののあまりの衝撃でブライントは口から心臓が飛び出るのではないかと思うほど口が大開になった。もちろん後ろにいたのはジョーだがあれだけ飲んだというのに全く顔色も足取りも変わらず隙が見えない。

「どーしたんだよその顔。怖いお化けでもでまちたか?よちよち大丈夫ですよブライアントちゃん」

うるせーと乱暴に上機嫌のジョーを突き飛ばしてふて腐れる。ジョーはまだまだ笑っている。これだから酔っ払いは嫌いなんだ。ブライントは後ろを一切振り返らず司令室へ戻るとソファーの上にふて寝した。


翌朝、パチモンの制服をこっそりゴミ箱の中に捨ててジョーは適当にクーパーのロッカーからスペアを拝借した。ノリでビシッと決まったそれを着こなして当たり前のように司令室のフカフカの椅子に腰かける。

「これは特使殿朝早くから一体どうなされた?」

若干の疲れと眠気を覗かせながらもさすがにそこは司令官、背筋をしゃんと伸ばして直立する。ジョーは相変わらず偉そうに机をトントンと叩きながら本題に入る。

「本日より準備に入ろうと思っているのだが、直接の指揮を執りたい」

「はぁ、もちろん構いませんがそのようなことでわざわざお手数をおかけしなくても私がやりますが・・・・」

「いや今回失敗が許されない。お互いのためにもな」

軽くウィンクしてクーパーを丸め込むとまんまと実権を握りきった。ここまでくれば長い物には巻かれろの精神でクーパーはもう話の整合性や軍紀というものも一切考えないようになってしまった。大人しく兵士たちをまとめて広場に集めるために部屋を出ていく。その後姿を眺めてくっくっくと笑いをかみ殺してブライアントがやって来る。

「何が、お互いのためだ。お前のためだろ?」

「お、お前は昼間になると元気が出て来るな、夜はやっぱり怖いか?」

昨日のネタでからかい軽くいなすジョーに対してブライアントの真っ黒の顔にしゅっと朱が入った。ジョークだよと睨みつけるブライアントを宥めるとジョーは更に無茶な要求を突きつける。

「悪いけどお前、基地を出て、真のところに行ってくれるか?」

「はぁ!!嫌だよあんな遠い所にここから行くなんて」

「何だ?やっぱり1人じゃ怖いか?」

「んな、バカ言うんじゃねーよ!誰がそんな・・・・・・」

「なら行けるだろ?今頃あっちもお前を必要としているはずだ」

ブライアントはこれ以上反駁できない。行くのを渋ってこれ以上ガキ扱いされるのはごめんだし、それにジョーには考えがあるようだった。

「分かったよ、分かった。行くよ、ただ、ホントに大丈夫だろうな?」

その他諸々総てを込めての一言だ。それに対してジョーは人差し指で相手を指さして自信の一言。

「任せとけ!」


ブライアントを出発させてジョーは改めて基地内の散策へと繰り出した。目当ての物を探すために色々な倉庫が密集している場所へ向かう。そのうちの1つに当たりを付けて中に入る。ドラム缶が山のように積み上げられた、いわゆる化学物品の貯蔵庫だ。探しているのある金属。これだけの量が貯蔵されていればきっとあるはずだ。ドラムの中身を示す紙が貼ってあるのを丁寧に眺めて探し出す。遂に何百とある中その1つの前で足が止まった。

「こいつだ・・・・・・見てろよ」

誰に言うでもなしにこれからの計画の緻密さと壮大さに独り思いをはせてそう呟いた。

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