第25話

「何で山の上に建てるんだ?奴らバカか?行きにくいだろ」

かなり走ったせいで息が弾んでいるブライアントがその怒りの矛先を基地の立地に向ける。ジョーは笑いながら悪いのはテメーだと小突いた。

「そりゃここが基地だからだろ。敵の侵入を少しでも遅らせるために丘の上に建てたんだろーな。それに本来は、見ろよ」

ジョーが指さした方向には線路が上の基地の方まで続いていて、今ちょうど、列車がゲートをくぐって入っていった。基本的に移動が蒸気機関なら多少便が悪い所にあってもそれほど大きな問題は無いというわけだ。ずるい、と呟いたブライアントを急かしてジョーは基地の金属製の大きな門の前まで歩いていく。国旗がはためいていて、守衛がむき出しの銃を構えて鋭い目つきで警戒している。

「止まれ、止まれえ!ここは軍事施設だ。民間人や関係者以外立ち入り禁止だ。立ち去れ!」

「おいおい、ここは民間の鉄道だろ?それを軍が占有するってのはどういうことだ?」

兵士が怒鳴りちらしてジョーたちを追い払おうとするのをジョーはワザと滅茶苦茶なことを言って相手の神経を逆なでする。

「貴様らどこの田舎者だ?新法が制定されたのを知らんな?ったくこれだから田舎者が都会に出てくると・・・・いいか、これから南部の戦線が完全に沈静化されるまでは王国の全鉄道は陸軍の指導の下に運行されることに決まったんだ!」

「なるほどじゃあお前たちはこの基地の軍人か?」

「そうだ。兵長のアシクだ。どうだ、これで分かっただろ?これ以上いると連行するぞ!」

軍の記章を見せながら2人に向けて今度は銃口を向ける。だがジョーが幼児のある相手はこんな兵長なんていう三下じゃない。ワザと大仰な態度で嫌味なエリートを演出する。

「なるほど、つまりは、君たちは我々の存在すら知ることを許されないとても階級の低い下々の一般兵ということがよく分かったよ。報告を受けていない、と」

「報告?一体何を喋ってるんだ?バカが、人を甘く見るなよ外国人め!」

アシクは本気で怒って威嚇射撃とはいえ明確な敵意を持ってブライアントの足元へ銃撃した。粉々に吹き飛んだ地面を満足げに眺めて捨て台詞を吐いた。

「ふん、おい小僧!作り話も大概にしておくんだな。それとも何か、後ろの黒豚野郎から変な薬物でも盛られたか?現実を知らないと殺されることだってあるんだぞ!」

ブライアントがいきり立って突っ込んでいこうとするが近づく前に撃ち殺されるだけだ。必死に背でジョーは押しとどめた。それから威厳を崩さずにアシクを睨みつけた。

「区別が付いていないのはどっちの方だろうな?後悔は先に立たないぞ」

「は、馬鹿か、もし極秘任務だとしても貴様のような無教養の馬鹿面に後ろに控えているのは更に馬鹿面の黒豚野郎!まともな軍人が信用すると思うか?」

ジョーはピっと委任状を抜き出して相手に見えるように封筒の印章を見せる。

「軍人じゃない、この間抜けが!」

「軍人でもない者がどうして、そんな物を持っている?それこそ不自然すぎる話だろ?」

さっきまであれほど偉そうだった相手の態度が一気に軟化した。それどころか小役人特有の旗色の悪さを感じ取る鋭敏な感覚が働いたようだ。それに銃声と言い争いの声が次々に基地内から他の兵士たちを引きつけたようでドヤドヤと次々に人が集まって来た。さっきまで隣で一緒にジョーたちを睨みつけていたアシクの部下も自分は発砲もしていないし暴言も吐いていませんと我関せずの様子だ。いよいよ逃げ道が無くなったアシクは青ざめた顔で辛うじて残った力を振り絞って震える手で紙を受け取った。ジョーは後ろにいるブライアントを振り返ってニヤッと互いに勝利の笑みを浮かべる。

「どうだ、しっかり見てくれ。クロフォード卿が一体何をお前に命じていた?」

「まさか、本当だったとは、しかし、いや・・・・信じられん!!」

か細く今にも消えそうな声でそう言ったがもう騒ぎは止められない大きさになっていた。さっきまで偉そうに構えていたライフルはすっかり自信を失った手からずり落ちて地面にあった。ジョーは近づいていき肩に手を置いて最後通牒を満面の笑みで突き付けた。

「お前の意思など関係ない、信じろ。王国軍総司令官クロフォード・ファーマー卿の直筆のサイン。これ以上何がいるんだ??」

「・・・・・・・・う、まぁ・・・・」

「それじゃ、そこを開けてもらおうか。アシク兵長、いや、元かもしれないな」

遂に難攻不落に思えたハポン要塞の中に1発の銃も1滴の血も流さずに侵入が成功した。

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