第8話

「クロフォードにはどれくらい人気がある?それに失政の原因は?」

ジョーが単純だが鋭い切り込みを入れる。真がそれに対して分かりやすく答える。

「この国の誰よりもある。国が不安定な時は過激な考えが最も支持されるもんだしな。それに失政が直接の原因になってるところもある」

「つまり王の不支持に比例してクロフォードが支持を得ているのか」

はーっと誰ともなしにため息が出る。正に相手は正義の味方ってわけだ。

「元々日照りや洪水が続いて農業の面で出来がここ数年悪かった。それに加えてブライアント、お前を前にして悪い気もするがお前たち南部の人間が大量にテクススに入り込んできて競争が激しくなり雇用が悪化したってのもある。従来は互いに刺激し合わないようにしていた両者を現国王とクロフォードの父が政策によってドンドン北上できるように、そしてテクススの人間が南下できるようにしたってわけさ」

「クロフォードの父?そりゃ何でまた。そこまでリベラルな奴から生まれた子供がここまで反動するのか?反抗期かよ」

呆れたようにジョーが吐き捨てる。まさかそんな理由で・・・・・・?

「父親も会ったことがあるが随分な変わり者だった。それが最大の失政の1つさ。まぁ他にもあってな、随分前に死んだ王妃との間には子供が1人いるらしい。らしいってのは未だに誰も公の場所に姿を現したのを見たことが無いんだよ。おかしな話だろ?」

「変な話だな。だけど失政ってほどの問題なのか?そこまで深刻じゃないだろ、病気かもしれないしな。それとも母親が死んだのと関係あるのか?」

真はブシューっとため息を吐いて話を止める。このことはどうやらブライアントも知らなかったようで身を乗り出して話に聞き入っていた。ジョーはこれも話の続きを何となく想像できた。バカみたいな噂話の類、だがこの国はそれが出来ないほど余裕がなくなっているってことなのか?

「2人の間の子供が人に見せられない、つまり血が混ざってるんじゃないかっていう噂話が国中に流布している。だから向うに有利な法案が通っているんだっていう結論までおまけつきだ。最も神聖でなければならない王家が腐敗しているっていう論法だ」

「そのトンデモ理論に何か証拠があるのか?」

「あるわけないだろ。父親も母親も生粋のテクスス人だ。あぁただ王妃の方は少し変わり者で、同じ変わり者のクロフォードの父親と仲が良かったらしい」

「だから国民が英雄を求めているのか。それが、血筋がはっきりしていて明確な反南部姿勢を打ち出しているクロフォードってことなのか?分かりやすいな」

「“失われた大地”を取り戻して王は自分の正当性を示さなければならないし、クロフォードは国軍の最高司令官という実権も掌握している。完璧に最悪なタイミング色々なことがぶつかったのさ。簡単に言うとみんな自分の事しか考えていない」

真はみなまで喋って種明かしをした。それにブライアントが上乗せする。

「奴らは今が現在進行形で犯罪状態にあるって言っている。それを解決する為に廃止された奴隷制を復活させる法案を通した。服を着て脚で立ち、食器を使って食事をするが所詮はサルだ。我々とは本質的に違う、そういう理論さ。おい聞いてるのか」

熱弁した割にジョーの反応が悪いと思ったら、当の本人は話を聞かずにひたすらブライアントのボロボロのタンクトップからはみ出した腕を見ている。そこには大小様々なタトゥーが刻み込まれていた。視線が気がついたブライアントはあぁと言ってグイと腕を見え易いように突き出した。

「このタトゥーにはちゃんとした意味がある。俺達は本当に信頼した相手、例えば親友や恋人、親や親戚、時には妻や子供とまで左右対称の模様を刻む。体に模様が多ければ多いほどその人間の交友関係の深さと広さを示すんだ」

「へぇー、それは面白そうだな」

真まで興味深そうに見つめる。得意になったブライアントが上を脱いで背中を見せるとそこには一面、鮮やかに大小様々彫られている。特に目を引くのは背骨に沿って背中の真ん中辺りに藍色の羽に線上の模様が入った大きな蝶が半分だけ彫り込まれている。

「すごいな、そんな緻密に彫れるなんてすごい技術だ」

真が感嘆の声を漏らす。そしてさっきの会話からある考えが思い浮かんで、からかうような笑みを浮かべて質問する。

「すると何か、もう半分は彼女のとこにあるのか?」

二へラっとにやけた顔が妙に腹立たしい。どうやら真の考えは当たっているが特に当たっているからといって嬉しいことも無い。

「そんなこと言ったらお前だって入ってるじゃないか」

ブライアントが今度はジョーのタトゥーを指摘した。だが、ジョーは手を振って否定する。

「俺のは立派な理由なんてない。ただのファッションだよ。ホントに入れたいから入れてるだけだ」

「でもそれは」

そう言って肩から半分ほど覗いてる女の顔を指摘する。デフォルメされていてリアルなものではない。おでこは出していて左右にウェーブがかった髪の毛が肩まで伸びている。目つきは優しそうだが確かに悲しみをも湛えていた。

「うん、あぁ気にするなよ。大したもんじゃない」

あからさまに手で腕に着いているバンドを引っ張ってきて隠した。怪しい素振りに問い詰めようとするがジョーは頑として話そうとしない。

「そのバンドは何だよ。真っ白だけど?」

「これか、こいつはあれさ、シリコンバンドさ。つまりまぁ、説明が難しいけどゴムみたいなやつ。これで腕とかを保護できるんだよ。こいつにはずっと世話になってる」

ブライアントはフーンとしげしげと見つめてから唐突に話を切り出した。

「こんなことを言うのもなんだけど、ちょっと提案があるんだジョー、真。さっきも説明した通りこのタトゥーは彫った相互の絆を意味している。どうだ?3人でそれぞれ同じ模様を掘ってみないか?」

「ん、俺は構わないぜ。真はどうだ?」

「俺もいいさ。まだどこにも掘っていないけどな」

「お、初物か?!」

「気持ち悪いな、俺はそっちの趣味は無いぞ」

「な、どうしてそうなるんだよ!!俺は違うぞ、待て待て、ジョーお前ならわかるだろ?」

「クンクン、くせーな。変態の匂いがする」

「うわわわわ待ってくれよ!!違う、違うんだ。ホントだよ」

あまりの慌てぶりに爆笑する2人。息も絶え絶えに真がジョーを今度はからかう。

「ヒヒ、おいジョー。その面とタトゥーまみれの恰好じゃチンピラと変わらないぞ!」

「はは、確かに否定できないさ。もともとそんな大差ねえことばっかしてたんだ。今じゃただただ懐かしくて、・・・・・・思い出したら腹立ってきたぜ!あの野郎・・・・」

郷愁を感じたり腹を立てたり忙しい男だ。

「????ホントに外国から来たんだな。そう言えばお前らの過去については聞いてない。話してくれよ。故郷はどんなところだった?」

そう質問されてジョーと真はお互いに顔を見合わせ合う。すげー嫌そうな顔だ。

「そういや俺たちも互いのことを知らないな。これを機会に真、話したらどうだ?」

「おう、そうだな。だけど俺は色々と複雑な事情を抱えてこっちに来た。話をまとめるのに時間がかかるからお前から先に頼む」

「いや、よくよく考えたら俺は説明しても理解してもらえないことだらけだ。こっちも時間がかかるんだよ」

そう言いあってほぼ同時にブライアントの方を見るとはもった。

「「また今度な」」

どんだけ言いたくないんだ・・・・・・?

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