第3話 祖国? 見知らぬ国?

 グローリアは孫娘が生きていたと知った時から、引き取って育てようと部屋を用意していた。

「この部屋が気にいると良いのですけど」

 グローリアの侍女のキャリーとルーシーは、カーテンを開けて、寒いけれど窓も開け放す。

「まぁ! 海が見えるのね! お祖母様、ありがとうございます」

 ジュリアが港の様子が見えると喜んでいると、シルフィードやリュミエールが集まってきた。

『ねぇ、手紙は書かないの?』

 マリエールも部屋にやってきて、お役に立とうと催促する。

『後で書いたら、届けて貰うわ!』

 グローリアは精霊などは見えないが、ジュリアが空中に向かって話している口調から、孫の名前を貰ったシルフィードが来ているのだと察した。

「さぁさぁ、手紙を書くより、先ずはお風呂ですよ! キャリー! ルーシーにお風呂の使い方を教えてあげてね」

 グローリアとしては、孫のジュリアの側で世話を焼いてやりたいが、港に出迎えた貴族や騎士などの接待もしなくてはいけない。ジュリアの世話をルキアス王国から連れてきたルーシーと、旅の間も一緒だったキャリーに任せると、自分も部屋で風呂に入る。

「まぁ、下の階からお湯を運んで来なくても良いのですか! 便利ですねぇ」

 キャリーはイオニア王国では精霊達が色々と生活を便利にしてくれているのだと説明する。

「この緑陰城には地の精霊達が昔から住み着いているので、こんなに冬でもバラが咲いているのですよ。もちろん、ゲチスバーモンド伯爵領の収穫も豊かです」

 ルキアス王国の首都ヘレナから、イオニア王国のゲチスバーモンド伯爵領に付いてきたルーシーは、田舎に行くのだと考えていたし、港から見上げた緑陰城は昔の城塞ぽかったので、不便な暮らしをするのだと覚悟していた。

「まぁ! 本当に内部は住みやすくなっているのね」

 キャリーにトイレも水洗なのと教えられて、ルーシーはここでの侍女の仕事は楽チンだと喜ぶ。その間、ジュリアは誰がこの精霊達を動かしているのだろうと不思議に思っていた。

「さぁ、ジュリア様、船旅の汚れをおとしましょう」

 ルーシーもキャリーも、ジュリアが時々ぼんやりしているのに慣れてきていたし、精霊使いとは浮世離れしたものだと悟ってきていた。

『少しぼんやりとされているから、私達がしっかりとサポートしなくては!』

 二人は目で確認して、ジュリアを風呂に入らせると、さほど多くはないが荷物をほどいたり、洗濯が必要な物を下の洗濯係りに持って行ったりと忙がしく働く。

『私も数ヶ月前はルーシーとああして働いていたのに……』

 清潔なタイル張りの浴室には、曇りガラスから冬の光が差し込んでいた。ジュリアは微かに柔らかい手触りがするお湯を手のひらですくうと、顔にぱしゃりとかけた。

『港に出迎えた人達は、お祖父様のお友だちや知り合いなのね……私は祖国に帰ったのかしら? それとも見知らぬ国へ来たのかしら?』

 父や母が生きていたら、この孤独感は和らいだのだろうかと、ジュリアはゲチスバーグの家族やベーカーヒル伯爵家の人々を懐かしく思う。しかし、祖父母や先ほど挨拶してくれたハトコとかを考えると、自分の故郷なのだとも感じる。

「さぁ、ジュリア様、髪を洗いましょう!」

 自分で洗えると抵抗するが、ルーシーとキャリーはバラの香油入りシャンプーだとか、コンディショナーだとか、次々に出してきて、ジュリアの言うことなど無視して洗いだす。

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