第6話 精霊使い

 セドリックは離宮での修行で、真底から疲れていた。ルーファス王子と隣国イオニア王国からの亡命してきた精霊使いに、初歩的な講義を受けたのだ。


 ルキアス王国にも魔力を持つ者はいたが、イオニア王国ほど活用されていなかった。イオニア王国は精霊達を使って、豊かな暮らしをしていたが、十数年前から内乱が起こり、国が荒れていた。


「国が荒れると、精霊達もいなくなるのかな? アドルフ王はイオニア王国を治める能力に欠けているのだろうか?

 精霊使いを外国に亡命させるだなんて、自分の首を絞めているようなものだろうに……」


 人目を避けて、離宮でルーファス王子と精霊使いの練習をしたのだが、精神を集中するのがこれほど疲れるとは知らなかった。セドリックは自分の部屋はやはり寛ぐなと、夕食まで一眠りすることにした。




 ジュリアは半地下の召使い用の食堂で、伯爵家の方々の食事が終わるのを待っていた。


「今夜はセドリック様が帰宅されたから、食事も長くなってるわね」


 離宮でのルーファス王子との生活を質問されているのだろうと、メイド達は噂をする。ジュリアはセドリック様もルーファス王子も知らないので、黙って先輩達の話を聞いていたが、台所のオーブンからチラチラと火の妖精が舞うのが見えて困っていた。


『なんて綺麗なの……でも、見ちゃ駄目なのよ! ぼんやりしていたら、クビになっちゃうもの』


 必死で美しい妖精から目を逸らそうと努力していたが、いつもよりハッキリと見えるので苦労していた。


「ねぇ、ジュリア! さっきから呼んでいるのに!」


 下げてきたお皿を洗うのを手伝ってと、調理助手をしているサリーに頼まれる。


「あっ、ごめんなさい、今朝は早かったからうとうとしてたわ」


 ルーシー達は皿洗いは調理助手の仕事だと、席を立たない。晩餐会などの時は、メイド達も手伝うが、普段は手が荒れるのを嫌うのだ。


 ケインズ夫人は通りがけに気づいて、ジュリアは骨身を惜しまないと評価した。


『ジュリアがもう少し器用で、ぼんやりしなければ、シルビア様の侍女に推薦するのだけど……』


 シルビア様が社交界にデビューされるのは、未だ数年後なので、ケインズ夫人はジュリアを厳しく教育してみようと考えた。




「今日は疲れたので、先に休ませて頂きます」


 セドリックはサロンでの話を切り上げて、部屋に戻った。


「セドリック様、お着替えをお手伝いします」


 従僕候補のトーマスが、脱いだ上着などを片付けてくれるのは助かるが、未だお互いに慣れてないので、余計に時間が掛かった。


 やれやれと、セドリックはベッドの上に横たわる。蝋燭の光が部屋の鏡に反射して、小さな精霊の影が舞っている。


「なんだか、離宮よりもハッキリ見えるような……」


 異国の精霊使いに、初歩の初歩である精霊を見る訓練を受けたが、なかなか精神を集中しないと見ることも難しかったのだ。


「全然、見えない」と根をあげたルーファス王子とセドリックの為に、精霊使いが集めてくれたら、なんとか見ることができるようになった程度だ。


 疲れていたセドリックは、もしかしたら修行の成果が今頃でたのかなと、眠りに落ちた。  

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