第2話 働き先
ある春の日、朝ご飯を食べると畑に行く父親が、テーブルに残っていた。ジュリアは妹のマリアと一緒に朝食で使った皿を洗いながら、何か変だと感じる。
「ジュリア、此処に座りなさい」
食器を洗い終わると、マリアは鶏の卵を集めておいでと家から追い出され、両親とテーブルについた。
「お前も13歳になった。そろそろ、働きに出ても良い頃だ」
ジュリアは、母親が数日前に良い服を着て出かけたのは、自分の働き先を決めて来たのだと察した。姉達も13歳から働いていたので、ジュリアは不満には思わない。
「何処に働きに行くの?」
ジュリアは、住み込みで無いと良いなぁと思う。
「それが……領主様の屋敷の下働きでもと頼みに行ったのだけど、今は生憎とあきがないと言われたんだよ……」
母親が言葉を濁すので、村から出て行くのだと気づいた。
「お前は字も読めるし書けると、女中頭さんに言ったら、お知り合いの屋敷のメイドの口を紹介して下さったの。下働きより給金も良いし、重労働じゃないから、きっとお前にも勤まるよ」
そう言いつつも、不器用なジュリアにメイドが勤まるのだろうかと、母親は心配そうだ。
「知り合いのお屋敷って、何処にあるの?」
領主様の屋敷でなくても、隣町とかなら通えるかもしれないし、住み込みでも年に数回は帰って来れるかもと期待する。
「それが……首都のヘレナなんだよ。領主様の娘さんが嫁いだ先の親戚なんだとか……」
首都と聞いて、目に涙を浮かべたジュリアを母親は抱きしめる。
「そんな遠くに働きに出たら、帰って来れないわね」
ジュリアを追い出すような気持ちになり、母親はこの話は断ろうかと一瞬迷った。しかし、この不器量な娘を嫁に貰ってくれる男もいないかもしれないので、一生床を這いつくばって拭く下働きより、メイドの方が良いだろうと考える。
「お前の為には、メイドになった方が良いんだよ」
ジュリアは遠い首都に行ったら、もしかしたらこの家に帰ることは無いかもしれないと、悲しく思った。
「ほら、そんなに泣くんじゃないよ。新しい服を作ったんだ、着替えてごらん」
四女のジュリアはいつも姉達のお下がりだったが、遠い首都に働きに行くのだからと母親はマシな格好で送り出したかった。布は相変わらずの灰色の毛織物だったし、まだ成長するだろうと少し大き目に縫ってあった。
「お母ちゃん、ありがとう」
それでも、今までのお古と違い、裾は床まであるので、ガリガリの細い足が隠れているのがジュリアには嬉しかった。
「それと、下着も新しいのを何枚か用意したよ。ツギがあたっていては、他の使用人に恥ずかしいだろうからね」
小さな布包みには、着替えが用意されていた。ジュリアは本当に出て行くのだと、実感が湧いてきた。
「身体にだけは気をつけるんだよ」
そう言うと母親は拾った時に首に下げていたペンダントをジュリアに与えた。
「お母ちゃん……」ジュリアも自分が家の子では無いのは、幼い頃から知っていたが、家では誰も口に出さなかった。
「もし、お屋敷で我慢できなくなったら、このペンダントを売って帰っておいで。このペンダントは銀でできているから、きっと馬車代にはなるよ」
どこまでも現実的な母親と違い、ジュリアは自分を捨てた親の持ち物だったのだとペンダントを眺めて固まった。
『私の親は、育ててくれたお父ちゃんとお母ちゃんだけだわ! 赤ん坊の私を捨てた酷い人なんてしらない!』
捨ててしまいたい程の腹立ちを感じたが、母親の忠告どおりに首都の屋敷でしくじった時には路銀にしようと首に掛ける。
「ジュリア、お前はぼんやりしているけど、ちゃんと働いてメイドとしてやっていくんだよ。それと、しっかりと食べなきゃ駄目だよ」
母親の忠告は延々と続きそうだった。
「もう、そのくらいで良いだろう。お屋敷まで馬車で送って行くぞ」
しかし、畑仕事をしたい父親に急かされて、馬車に乗り込む。
「お姉ちゃん、首都のヘレナに行けるだなんて良いなぁ」
羨ましがるマリアの頬にキスをして、給金が出たら何かプレゼントを送ると約束する。
「お母ちゃん、マリア! 手紙を書くからね~」
残された二人は、手紙をくれても読むのは苦手なんだけどと、相変わらず変わっているジュリアに苦笑する。ゲチスバーグにも学校はあるが、収穫した後で雪が積もるまでしか通わないし、ジュリア以外は自分の名前と簡単な計算ができたら良いだろうとすぐに辞めたのだ。
「お母ちゃん、お姉ちゃんはメイドなんてできるかな?」
妹にまで心配されているが、母親は女中頭さんが考えてくれるだろうと任せることにした。
「さぁ、そろそろ町に出稼ぎに行っていたお兄ちゃんも帰って来るだろう。ベッドを用意しておかなきゃね」
マリアは自分もあと数年で働きに行くのだから、しっかりしなくちゃとシーツを戸棚から取り出した。母親はマリアなら心配しないのだけどねぇと、溜め息をついた。
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