第21話

21話


ご飯を食べ終わり、片付けが終わったあと、僕はチャンスを待っていた。


母さんがリビングから出て行き、梨花と離れるタイミングを。


なのに………なぜか母さんは、梨花と共にキッチンにいた。


「ねえ、梨花」


「なに?お母さん」


「お母さんにも手伝えることある?」


さすがにお母さんぽいことでもしたくなったのか、そう話しかけていた。


何かを包むような。そんな抱擁間がそこにはあった。


「ないよ。仕事が逆に増えるから、もう、自分の部屋にでも行ってっ!!」


な、なんて冷たいんだっ!!


冷たくあしらわれてしまった母さんは、渋々リビングから出て行った。


………なんか、嫌な感じだが、チャンスだ。


その母さんを追いかけるように僕はリビングを出た。


そして、母さんの部屋に向かった。


コンコン!!ガチャ!!


僕はノックし母さんの部屋に入った。


母さんの部屋は本当に図書館そのものだった。どっちを見ても本、本、本……本当にすごいよな。これを大抵覚えているって言うんだから、尊敬はしている。


「ねえ、母さん」


「うん?急にどうしたの?」


「あのさ、部活にはいりたいんだけど……いいかな?」


どうなんだ?なんか拗れないといいんだが……


「うーん。そうよねー。そのお年頃だもんねー。なら、いいわよ」


緊張したのに、なんかあっという間だったな。


「じゃ、この書類にサインと、指紋を押してくれ」


と、僕はペンとその書類を取り出した。


母さんはささーっとサインしてくれた。


「あ、士郎。あのナイフ。大切にね」


「うん?あ、うん」


僕はさっさと、この図書館から出て行った。


なんでそんなこと言ったのか、わからなかったが、これだけは言える。疲れたな。


僕は自分の部屋に行くと、ベットに横たわり、いつの間にか寝ていた。


「おっにいちゃーん!!朝だよーっ!!」


「あべしっ!!」


い、いってえ……


いつも通りの起床だが……全然慣れねえし、痛えし……


そして、いつものようにまたズタズタと下に降りて行った。


*****


あんな毎日を過ごしていると、あっという間に、夏休みが明けた。


ジリリリッ!!!!


と、目覚ましがなった。


今日は学校だな。よし、しっかり四時に起きたし、梨花は多分起きてないはずっ!!


僕はさっと、家から逃げるように出て行った。


これ重いな………


とりあえず、新しい家というか、部活動を行う場所に行こう。


そういえば、なにをする部活か。なんて、聞いてないな。


「あれ?士郎くん?」


この声は………


「し、白崎さん!?」


な、なんでここにいんだ!?


「そんな大荷物持ってどうしたんですか?」


「え、えっと………部活に入ることになりまして…って白崎さんも荷物いっぱい持ってるじゃないですかっ!」


「士郎くんだったんですねー。井上先輩に、プールで士郎くん誘ってみましょうか?って聞いたんですけど、「べ、別にいいわよっ!」って言われちゃって、だから違う人なのかな?って思ってたんですけど、士郎くんでよかったですっ!」


と、澄み切った笑顔でそう言ってきた。


し、士郎くんでよかった………!?


「あ、え、えっと………知らない人だと嫌だな。と、思ってただけです」


と、頬をこの朝焼けのように、赤く染めてそう言ってきた。


やべえ……かわいいな。


「そうですか」


でも、どうせ白崎さんと井上先輩の知り合いなんて僕と、あのバカップルくらいしかいないしな………


あのバカップルの一人の火憐は他の学校だし、れんは……多分入る必要もないだろう。


「あれ?でも、あと一人居ないと部活できませんよね?」


「そうなんですよねー。でも、井上先輩もなにも言ってなかったし、大丈夫だと思いますよっ!」


「とりあえず、行きましょうか」


「はいっ!」


僕らは再び歩き始めた。


そして、しばらく歩いていると、白崎さんが、ふぅ……と息を切らしていた。


白崎さん辛そうだな。荷物が重いのかな?


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫ですよっ!」


「そうですか」


なんて言ったが、大丈夫じゃないっ!!そんなことは見ただけでわかる。


どうすれば、白崎さんに負担を掛けずに行けるんだ?


前みたいに、荷物を持って僕がダウンしたら、逆に迷惑だし………


ど、どうする!?


………クッソ。僕は人間として成長していないっ!一週間前くらいに、間違えを見つけたってのに、それをどうするかまで考えてなかったじゃねえか………情けねえ………


でも、今は落ち込んでいる場合じゃないんだ。


少しでいい。白崎さんを楽にする方法………


なにがある?そういえば、白崎さんは僕の後ろについて来ている。


そ、そうか。荷物を持たずにできることあるじゃないかっ!!


と、僕は歩く速度を白崎さんに合わせて、歩いた。


そうすると、白崎さんは若干楽そうになった…………と、思いたい。


*******


暫く僕らは歩き、目的地に着いた。


「つきましたね……」


「つきましたね。大丈夫ですか?白崎さん」


そこは、白い壁が少し剥がれたりと……まあ、よくある少し古い年期の入ったアパートだった。


「大丈夫ですっ!早く行きましょう」


と、いいながらさっさと、そのアパートに入っていった。


かなり元気だった。


よかった………


僕は先に行ってしまった白崎さんを追うように、そのアパートに入った。


「遅いわねっ!待ちくたびれたわよっ!」


入った瞬間、罵声が飛んできた。


そうかな?まだ約束の時間より………てか、約束なんてしてねえけどな……


「う、うるさいうるさーいっ!!」


と、いいながら、どこから持ってきたかわからない新聞紙を丸めて、僕を殴ってきた。


いってえ……本当に紙かよ……なにかの鈍器と間違えてもおかしくないぞこれ………


「ちっ!死なないのね」


「なにっ!?僕をGだと思ったのか!?」


「まあまあ、そのくらいにして下さいよ。先輩」


「そ、そうね」


ふぅ……


よかった。本当に死ぬとこだった。


「とりあえず、荷物置いてきなさい」


と、井上先輩がそう言った。


「はい。でも、どこに置けばいいんですか?」


「えっと……部屋がないから、リビングかな?リビングはここをまっすぐ行ってそこだよ。で、右の部屋は女の子限定の部屋だから、入ったらダメだよ?」


「………わかりました」


家から持ってきたスリッパを履き、僕は言われた通り、まっすぐ進むと、一つのドアに突き当たった。そのドアを開くと、広い部屋に着いた。


その部屋には四人掛けのダイニングテーブルセット、テレビ、クローゼットなどがあった。その横にキッチンもあり、で、結構広いな。10畳くらいありそうだ。


そして、荷物の入っているバック無造作に適当に放り投げ、一つため息をついた。


そして、そのダイニングテーブルセットの椅子に腰掛け、テレビに電源を入れた。


朝だしニュースばっかりだな。


仕方ない。荷物の整理でもしようかなーっと。


と、僕は立ち上がり、先ほど無造作に投げたバックのとこに行き、荷物を持つと、クローゼットの前まで行った。


服、結構入ってるし、入れとこうかな……


と、思いクローゼットを開こうとすると、なにか小さい文字が出てきた。


二宮士郎のクローゼットという表示だった。


すげえ……こんなとこに最新の技術かよ………


僕は適当にクローゼットの中に服を入れた。


終わったな。


一通り、準備というか、片付け終わると、人影に気づいた。


………え?なんだ?なんかいるんだが……


あれ?誰だ?ジャージを着て、部屋の隅で、本読んで縮こまってる人は、あれがもう一人だよな?


影薄すぎだろっ!!全然気づかなかったぜ。


でも、緊張する必要なんてない。あの体格。男だ。


あーあ。誰かいるなら教えておいて欲しかったな。と、思いつつ僕はこの人に声をかけた。


「あの、こんにちは」


「あ…あ………こ、こんにちは……」


近くに来てみたが、よくわからなかった。この人なんか、髪を前に下ろして顔があんまり見えないし、眼鏡かけてるし、きょどってるし、オタクみたいになっている。


「えっと……すいません。僕、二宮士郎って言います」


「あ、二宮さん……僕です。島崎汐です」


え……ちょっと待って!?


本当に島崎汐!?


プールであった時と全然違うじゃないか……


あの時はおしゃれな爽やかイケメンって感じだったのに、今はもう、一言で言ってしまえば、残念なオタクじゃねえかっ!!


「あの、これから……よろしくお願いします………」


「あ、は、はぁ」


話すことなんてないし……なんだろう。気まずいというか……


てか、初対面じゃないんだし、怯えることないのにな。


「なんでそんな部屋の隅にいるんですか?」


「………こっちの方が落ち着くから」


「そ、そうなんですか……」


やっぱり、気まずいな。


バンっ!!


そんな時、リビングの扉が勢いよく開いた。


「ウッシーっ!!士郎っ!!大変っ!学校行かないと!!」


僕はふと時計を見た。


や、やべえっ!!あと三分で遅刻だっ!!


そう、学校だったのだ。


学校に必要な荷物を持ち、僕ら4人は走り始めた。


あと二分っ!!


「井上先輩。あれは誰ですか?」


「しかりん。いまはいいから、行こうっ!!」


へぇ……


ここってやっぱり、学校の付近なんだな。


なので、一分少しで着いた。


そうか、白崎さんとは会ってないのか……


昇降口で、井上先輩と島崎汐さんと別れ、僕らは教室へ走った。


ふう、セーフ。


僕は窓側の一番後ろの席に座り、白崎さんはその横に座った。


「ギリギリ間に合いましたねっ」


「そうですね」


隣同士の僕らはひそひそと話していると、起立、礼、着席。と挨拶があった。


それから三十分くらいのHRがあり、夏休み終わって初日、宿題等々が回収され、そして、即帰りとなった。


「もう、帰りなんですねー」


「そうですねー」


「じゃ、帰りますか」


「はいっ!!」


僕らは学校指定の手提げカバンを持ち、教室から出るようとしたその時っ!


「遅いっ!士郎。しかりんっ!!」


「いや、約束なんてしてないですよっ!」


朝に聞いたような罵声が飛んできた。


そして、横には島崎さんも立っていた。ん?なんだ。学校ではプールの時と同様、爽やかイケメンなんだな。

それで、赤色の上履きってことは……三年って先輩か。


「早く行きましょ」


「あ、はい」


あー。僕のツッコミは無視なのね。と、少し悲しくなりつつ、僕らは学校から出た。


なんか、これってお泊まり会の時のような緊張感があるな。


でも、それが日常になるんだよなー


なんて、考えていると、着いていた。


ん?え?あのアパートじゃないぞ?


これって……スーパーじゃないか


「ちょっと、今日の夜ごはん作るから、ここ寄るわよっ!」


と、井上先輩が言うと、


「はいっ!」


と、白崎さんは目をキラキラさせながら、猫のように体をスリスリと、井上先輩に寄せている。


く、くっそ………僕も料理作れればな……


羨ましい………


「とりあえずしかりん離れて」


「は、はい……すいませんっ!取り乱してしまいました」


と、照れている白崎さんも可愛いっ!!


「じゃ、何食べたい?」


「カレーッ!!!」


と、また、がっつくように白崎さんが叫んだ。


子供みたいだな。


「じ、じゃ、カレーにしましょうか。そうと決まったら、早速買いましょうかー」


と、言ってさっとカートにカゴを乗せ、手慣れた手つきで、カレーに必要な具材を取り分けて、レジに走って行ってしまった。


てか、速すぎだろっ!!


そして、僕ら三人は、取り残されてしまった。


「行っちゃいましたね………」


「ですね………」


「なぎっちゃ……井上は料理とかになると、凄い張り切るんですよねー」


「へ、へぇ……」


なんか、この人とは話しにくいな。


と、僕がもたついていると、白崎さんが助け舟を出してくれた。


「とりあえず、追いかけましょう」


ありがとう。白崎さん。


「そうですね」


と、便乗し、そして、僕らは井上先輩を追った。


「遅いわね。もう、終わったわよっ!」


と、自慢げに言ってきた。


まあ、確かにこの量の会計と袋詰めを僕らが来るまでに出来たのは凄いと思う。だが、そんなドヤ顔で言わなくてもいいと思うんだが………


「は、はあ……」


「何ボケっとしてるの?早く持ちなさいよ」


………なんだろう。僕はあまり怒りっぽくは無いんだが、これだけはちょっと、カチンとくるな。


僕は無造作にそこにあった袋詰めされた物を持った。


「じゃ、帰りましょうか」


「はい……」


そして、僕らはスーパーから出て、今度こそ帰った。


先頭を井上先輩。その横に並ぶように島崎先輩。井上先輩の、後ろに続くように白崎さんが歩いていた。


僕はというと、それからかなり後方にいた。


てか、なんで僕だけなんだ?男というか力仕事できるだろ。島崎先輩も。


こんなんじゃ、パシリじゃねえか……


「早くしなさいよっ!二宮」


「少し待ってくださいよぉーー」


と、言うと白崎さんが前から来てくれた。


「大丈夫ですか?持ちましょうか?」


……………天使だ。天使がいる。


なんでこんなに白崎さんは優しいんだっ!!


だけど、ここは男としてかっこいいとこを見せないとっ!!


「いえ、このくらいどうってことないですっ!」


「そうですか。じ、じゃ、頑張ってくださいねっ!」


と、にこやかにそう言ってくれた。


……やっぱりかわいいな……


それから、僕は白崎さんの応援で部活の家に着いた。


「着いたわよっ!日常部の家に」


「…………え?初耳なんですけど……」


「あ、士郎には言ってなかったっけ?日常部って名前で、その名の通り日常を過ごす部活よ」


「へ、へぇ……」


そんなふざけた名前の部活で、よく通ったな。


「ま、とりあえず、家に入りましょうよ」


「はいっ!」


僕はさっさと荷物を置くために、即座にリビングそばのキッチンに駆けた。


「ふぅ………」


「お疲れ士郎っ!じゃ、リビングでのんびりしててねっ!」


と、笑顔な井上先輩。


………………おつかれなんて言うんだ。


「な、何よっ!早く戻りなさいよっ!」


さすがツンデレっ!!


「は、はい」


僕は知っている。この人を怒らせたら怖いってことは。


僕はキッチンから逃げるように、リビングに行った。


リビングには白崎さんと島崎先輩がいた。


だが、会話はない。


そして、なんだ?あの格好はっ!!


白崎さんは部屋着だろうか。ウザギの着ぐるみを着ていた。


か、かわいい………


なんて言えばいいんだ。こ、これは……ギャップ萌えってやつか?


「し、士郎くん………ど、どう?」


……顔を赤くして言わないでくれよ。こっちがにやけてしまうだろっ!!


「え、えっと……」


素直に言うべきか?誤魔化してにやけるのを阻止か?どっちだ?


これは……


と、悩んでいると妹の顔が浮かんだ。


「素直に言わないから、彼女の一人もできないんだよっ!」


的なことを言ってたな。


なら、ここは素直に、いくら恥ずかしくたって、あいつのように、恥ずかしいが、言うしかねえっ!!


「か、かわいいですよ」


と、なんとかにやけそうな顔を手で覆いながら、そう言うと


「そうですかっ!ありがとうございますっ!!」


白崎さんは嬉しそうな笑顔で、そう言った。


なんだろう。すごい反応が新鮮だ。


前は少しオブラートと言うか隠れてるというか。そんなところだったが、今はストレートに、感情が豊かにと言うべきだろうか。


そう、全て伝わってくるのだ。


これは……あれか?


こっちが素直に言うから、素直な反応が見れるのか!?


「ねぇ、士郎くん?」


「あ、す、すいません」


「少し……お話ししたいんだけど、いいかな?」


「あ、はいっ!喜んで!!」


うっしゃー。なんでかわかんないけど、話し相手になれたぞっ!!


妹よ。ありがとう。感謝してる。


「あの、えっと………うーん……」


と、白崎さんは悩み始めてしまった。


多分、話題だな。お話ししたいとか言っておいて、何も考えてないところとか………全く、白崎さんは最高だぜっ!!


「あっ!」


何か閃いたらしい。


と、僕は少しの期待を寄せその言葉に耳を傾けた。


「えっと、もうすぐ、体育祭ですねっ!!」


………そういえばそうだった。


また、あの馬鹿げた体育祭か……


「今年はなにするんでしょうねー」


「ですねー。あの部活対抗のやつ。見てて面白いですよねー」


「ですよねー」


「「あはははははは」」


と、笑っていると


井上先輩がキッチンからエプロン姿でリビングに来た。


「馬鹿ねっ!あんた達もあれに出るのよっ!!」


「……………え?」


あ………………部活じゃんっ!!


「そ、そういえばそうですねっ!!私あれに昔から出てみたかったんですよっ!!」


衝撃の告白だった。


あれに出たいってのか!?


普通なら、王道のリレーなどがある。だが、この高校は全く違う。


まあ、年度年度で違うのだが……大抵は決まっている。学校全体を使ってやる何かだ。


前の年はサバゲだったっけなー


でも、サバゲと言っても、なんか変なルールがある。弾丸一発撃つ度に中二病チックなことを言う。という意味のわからないルール付きのものだ。


例えば、


「ストライクバレットッ!!」や、「ジャスティスブレイクッ!!」などなど、と叫んでいたっけな。


よく、あんなこといえるよな。とか、思いつつそのバトルを見ていたら、変な奴が紛れていた。


「僕の美貌に撃ち抜かれちゃえよ。バンっ!」


とか、言ってそいつはトリガーを引き、女の子を撃った。


女の子を撃つくらいなら撃たれた方がマシだっ!!とか言う人もいるだろう。だが、戦いだから、これは仕方ない。


そんなかわいそうなシーンだったんだが、その、女の子は、サバゲ的には負けていたのだが、混乱したのか、手元にあった銃でその男をズタズタになるまで、打っていた。


それもそのはず。その中二病とナルシストを履き間違えてしまったその痛い奴は、なんというか、そう、オブラートに包むこともできないような、3秒でも目を合わせると目が腐るんじゃねえか!?と思わせるくらいのとんでもないブサイクなのだ。


それで、女好きで告白魔だ。


告白された可哀想な人達は皆、犠牲者と呼ばれていた。そんなやつだが、尊敬できる点もある。それは神経の図太さだ。あんなに告白できるあの図太い神経が欲しいぜっ!


今回はまともなのがいいな。


「その話は一旦置いておいて、ご飯にしましょっ!」


「あ、はいっ!」


料理が出来上がったみたいだ。


「全員分持っていけないから、ちょっと手伝って」


「はいっ!」


******


僕は、料理を運び、セットした。


「「「いただきます」」」


僕らは一斉に、挨拶をすると、白崎さんがすっごい速さで食べ始めた。


幸せそうな顔でカレーを口いっぱいに頬張っている。かわいいな。


早速僕も一口。


……なんだろう。普通のカレーだ。そう、一般的に知られている、普通にうまいカレーだ。


だが、少し違う。


僕はもう一口ご飯と一緒に食べ、味わってみた。


やはり、少し違う。ん?…………あまり辛くない?そして、この風格のある大人の甘さがある。なんなんだろ?全然わからねえっ!リンゴ?か?いや、リンゴにしては爽やか過ぎるしな。


「気づいたようねっ!」


と、この料理を作った人が僕の心を見透かしたように、そう言った。


はっ!!な、なんだと!?知らぬ間に妹の料理で鍛え上げられていた、味覚でわからなかった……だと!?


「このカレーの中に入っているのは……」


「な、なんですか!?」


「マンゴーよっ!!」


…………嘘だろ。


マンゴー?


初体験だ。


「美味しいでしょ?」


「は、はいっ!」


と、白崎さん。


これ、やみつきになっちまうな。


島崎先輩は、なにも言わないが、嬉しそうだ。


ぼくらは会話もなにもかもを忘れ、このカレーのうまさに、のめり込んでいった。


「「「ごちそうさまでした」」」


「お粗末さまでした」


「美味しかったですっ!」


「ねえ、しかりん。お風呂いかない?」


「え?でも、片付けとかしないと、ダメじゃないですか?」


「いいのよ。ね?士郎」


と、凄い眼圧で言ってきた。


断ったら、殺される。


「は、はいっ!僕が片付けておきますっ!」


「って、ことだし、行きましょっ!」


「は、はい」


と、言ってあの二人はお風呂に行ってしまった。


あの先輩はというと、やはりなにもしない。


くっそー。先輩だからなんも言えねえしな………


僕は一人、もくもく皿洗いを始めた。

そんな時、壁が薄いのか、お風呂に入っている二人の声が聞こえてきた。


「しかりん。いい胸してるわね」


「な、なんですか?ちょっ、嫌。やめてくださいっ!!ひゃんっ!」


「いいでしょ。減るもんじゃないんだしぃ」


「ら、らめぇ………おかしくなっちゃうぅ……」


や、やべえ……ダメなのはわかる。でも、もっとやれっ!と思ってしまう自分がいるっ!!


い、いかんいかん。とりあえず皿を洗ってしまおう


「やりましたね。お返しですっ!」


「そこは……や、やめなさいよっ」


「やめませんっ!」


「あ、だ、ダメだって言ってるじゃないのっ!ひゃんっ!!」


だ、ダメだ。ふざけやがって。この年頃にそれはまずいだろ………


「ねぇ、しかりん。そろそろ出ましょうか」


「は、はい……」


やべえ。来ちまうよ。まだ終わってねえっ!!


先輩に殺されるっ!!


や、やばいって早く終わらせる。でもカレーって落ちにくいよな………


僕は必死に、そう本当に死に物狂いで洗い物をした。


ガチャ!扉が開いた。


「お風呂空いたわよー」


ふ、ふう……よかった。どうにか終わった。


「あれ?士郎どうしたの?顔が死にかけてるわよ?」


「なんでもないです」


「じゃ、お風呂入っちゃって、お話ししときたいこともあるしね」


「はい」


と、言うと僕は、風呂場に向かった。

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