◇4
破棄エリアで
武器完成まで俺達は適当な鉄屑を武器変わりにし、剣の腕をあげ続けた。
騎士見習いの試験を受けるとなった日から武具の整備をする仕事がピタリと止まったのは、試験に向けて励めという事なのか何なのか.....試験内容も見えないまま時間は流れ、今日ララが完成した武器を持ってくる日───試験前日まで時間は進んでいた。
「試験内容って当日伝えられるのか? 何の準備も出来ないな.....」
俺はぼやくように溢し、固いイスへ腰を下ろした。
「さぁなー.....まぁ俺とカイトなら試験も楽勝だろ」
同室の相棒トウヤは前日に控えた試験への緊張も不安もなく、数分前から私物をしまい込んでいるボックスをガサガサと漁っていた。
時間を持て余してしまっている俺は別に飲みたくもないのに湯を湧かし、余ってた粉末を全て使う勢いで濃いめのコーヒーを入れていた。
「うぅ、苦っ.....トウヤ、コーヒーここ置くぞ」
「おぉ、ありがとう」
ラビッシュでは数ヵ月に一回、外から商人がくる。デザリアで許可を貰った商人が許可された商品だけをラビッシュで売る事ができ、俺達は日々回ってくる武具の整備───と言えば格好いいが、雑用に近い仕事をこなしてヴァンズを貰っている。外ではどのくらいヴァンズを稼げるのか知らないが.....俺達ラビッシュ民は休みなく毎日与えられた雑務をこなして一ヶ月あたりの報酬は1万ヴァンズ。下がる事はあっても上がる事のない仕事。
そのヴァンズも商人以外に使う事もなく、貯まったお金を持って商人から色々買い物するのが食事以外で唯一ラビッシュでの楽しみとも言える。幸い俺とトウヤは物欲が薄いのか好みの商品がないのか、一度の買い物で1000v使えば使いすぎたと言える。貯まったお金はララへの生産料金として払う事も考えているが.....武器生産なんて一生縁のない話だと思っていたので金額がわからない。
「あったあった!」
私物箱を漁っていたトウヤは目的の何かを発見したようで、満足そうな表情を浮かべ固いイスへ座った。俺の入れたコーヒーへ手を伸ばしつつ、トウヤは俺を見てニヤリと笑う。
「なんだよその顔」
「いいもの見せてやるぜ、カイト」
そう言い、トウヤはコーヒーをひとクチ飲み、
「───ッガ! なんだコレ!?」
俺の予想を遥かに越えた激苦コーヒーへの反応を見せてくれた。盛大に吹いたコーヒーは霧となり、テーブルを汚す。涙を浮かべたトウヤの顔が酷く面白く思え、俺は遠慮なく笑わせてもらった。
「おいおい、コーヒーは飲むものだぞ? それと、ちゃんとテーブル吹けよトウヤ」
「お前これコーヒーじゃなくて、オイルか何かだろ!? 舌が痺れて笑えないぞ」
「本物のコーヒーだよ。ただ.....残ってた粉末を全部使った激苦コーヒーだけどな」
俺もひとクチ飲んだ時は吹き出しそうになったが、トウヤが盛大に吹いてくれる事を期待し我慢したが、予想以上の吹きっぷりに笑いが止まらない。
テーブルを拭き終えたトウヤはまだ残る苦味に顔をしかめるも、話題は変わる。
「ララが来たら飲ませようぜそのコーヒー。それより───なぁカイト、知ってるか? 遠くの大陸には妖酒ようしゅっていう “アヤカシ” が造った酒があるんだぜ!」
苦味を消すような、楽しそうな表情でトウヤは紙切れを見せてくる。
ボロボロの紙切れには瓶のような写真と【和國産アヤカシ酒
「試験に受かって外で生活を始めて、大人になったら一緒に呑もうぜ。妖酒ってやつを! 約束な!」
外.....ラビッシュの外での生活か。憧れていたとはいえ、想像も出来ない別世界の話だ。
「......何年先の話をしてるんだよお前は」
「今15だから.....5年だろ?」
「5年.....お前とはもう10年の付き合いか」
「なんだぁ? 年寄りくさいぞカイト」
そう呟き、激苦コーヒーをひとクチ飲みその苦味に再び苦しめられるトウヤ。
「お前は.....いい加減大人になれよ、トウヤ」
本当に外の世界へ出られるのか、本当に試験は受かるのか.....憧れよりも不安が俺の中では大きい。しかしトウヤは子供の頃から変わらず今も不安そうな顔を見せない。大人になれよ、と言ったが出来る事ならその性格を失わずお互い大人になった時、今日の話をしながら一緒に呑むのも悪くないな。
「俺達まだ酒も呑めない子供だろ。それより約束な!?」
「わかったよ、約束だ」
「よっしゃ! まぁ.....あれだ。俺がお前より出世してたら奢ってやるから安心しろってカイト」
「どういう間違いでお前が俺より出世するんだよ.....まぁ明日受からなきゃ何も始まらないし、頑張ろうぜトウヤ」
「夢がないなーお前。まぁでもそうだな。頑張ろうぜカイト」
◆
「にっっがっ、何この攻撃的なコーヒー! 頭痛くなるよこれ!」
「だろ!? 飲んだ瞬間、後ろから頭殴られたかと思ったぜ」
「そこまで苦いか!?」
武器を完成させたララが俺達の部屋まで届けてくれたので、お礼にコーヒーをご馳走した所、俺のコーヒーは攻撃的な味に仕上がっているらしい。
「私今日の夕方ラビッシュを出るのに、最後の最後でこんな不味いコーヒー飲む事になるなんて.....お腹壊したらラビッシュ戻ってきてふたりの武器壊すからね!」
「はぁ!? 俺も被害者だし、壊すならカイトの武器だけにしてくれよ!」
「別に悪くなったコーヒーを飲ませたワケじゃないし腹壊さないだろ! それより、ララは今日ラビッシュを出るのか?」
盛り上がる中でさらりと言われた言葉。ララは今日このラビッシュを出る。
「うん。今日の夕方、私を引き取ってくれる
ララと出会ってまだ日は浅い。明日は俺達がここを出る。それでも.....やはり仲間が居なくなるのは寂しい。でも、
「そうか、ありがとう。ララも頑張れよ」
「俺達が正式にデザリア軍に入団した時、また武器作ってくれよ!」
俺に続きトウヤもララへ言葉を送った。出会って間もないとは言え、同じラビッシュ出の人が外で生きていくなら、俺達は応援するし、俺達も負けずに頑張る。
「ありがとう、次会う時はマスタースミスになってるさ! その時は.....ふたりは軍のお偉いさんかな? 今日の生産料金はいらないから、外で会った時はたっぷりヴァンズを搾らせてもらうからね」
「そりゃ頑張らなきゃだな。正直今回の武器生産の料金なしは助かる、俺もカイトも始めてだったからビクビクしてたぜ」
「本当それだな。武器生産なんて一生縁がない話だと思ってたから嬉しかったけど、料金はやぱ怖かったな」
素直に感謝を伝えるのもいいが、俺とトウヤは素直な気持ちを伝えつつ、ラビッシュ相応の会話をした。俺もトウヤも有り金全部払うつもりだったし、足りないなら必死に稼いで払う気ではいた。
「最初の武器がララさんモデルって自慢になるよー? なんたって私はマスタースミスになる鍛冶屋だからね! っと、そろそろ私行くね。武器はここに置いていくから、明日頑張ってよ?」
「あぁ、お前も頑張れよララ」
「ありがとう、またな!」
名残惜しさもなく、ララは行ってしまった。俺達はララが部屋を出て数十秒黙っていたが、お互い明日の試験へ気持ちを切り替え───武器が眠る大きな革袋へ手を伸ばした。
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