◇3



2人の貴族と喧嘩になりトウヤだけではなく俺も綺麗に巻き込まれ、2対2でやりあったのは数時間前の話。

どうやらここへ来ていた貴族達はデザリアの見習い騎士らしく、俺とトウヤの話を聞き観察のためここに足を運んだとか。


ラディッシュ出身の騎士にこっぴどく怒られはしたが、最後に「よくやった」と小声で言っていたが俺達は聞かなかった事にした。

喧嘩の結果をどう決めるべきなのかわからないが、正直俺もトウヤも貴族相手に負けていなかった。幼い頃から凄腕の剣客にマンツーマンで剣を習える貴族は強い。でも俺達も無駄に毎日過ごしているワケではない。

幸い、相手側の両親が温厚な大人だったため、子供の喧嘩で終わったが、プライドの塊を集めたような貴族ならば俺達はあっさり死刑になっていたらしい。その後俺達は医務室で怪我を見てもらい、今自室ですることもなくボーッとしている。


「今日は仕事こないな」


鉄板張りの天井を眺め、トウヤは気抜けした声で言う。

たしかにいつもならば仕事.....武具の整備が入るタイミングだが、今日はその気配もない。


「こないな」


と、俺も天井を眺め気抜けした声で返す。

少し錆が見える天井の鉄板.....いつもならすぐに破棄エリアへ向かい、鉄板を調達して張り替えるが.....今はとてもそんな気にはなれない。

視線を天井からテーブルへ下ろすと、折れた剣が2本テーブルに並んでいる。


「.....さすがに折れちゃうと俺達には直せないよな」


武具の整備は出来る。しかし、破損した武具の修理は俺達には不可能。

俺はボロボロの剣へ手を置き、直せない事を言うとトウヤは、


「あぁ......そういうのはスミスって人の仕事だろ? スミスは女かな?」


「さぁな」


無理に話題を変えようとするも、表情は曇りのままでテーブルに並ぶ折れた剣を見ていた。寿命といえばまさにそれだろう。武装は消耗品だと大人達は言っているし、武具の整備を押し付けられている俺達も酷い傷の武具を見れば変え時だと思ってしまう。


それでも、この剣は別だった。


「なぁカイト」


「ん?」


「こんな言い方よくないのかもしれないけど.....」


そこまで言い、クチごもるもトウヤの言いたい事はすぐにわかった。


「多分、勝てた」


俺は答えを先に言い、トウヤへ視線を流した。


武器があの貴族と同等ならば、さっきの喧嘩は勝てただろう。それは俺も思っていた事だが、それをクチにするとこの剣のせいにしているようで嫌な気持ちになる。


「.....ま、終わった事だし今さら言ってもな! 今日は仕事ないっぽいし “破棄エリア” 行こうぜ」


両膝をポンと叩き、トウヤが言った破棄エリアは───ゴミ山だ。毎日どこから運んでくるのか大量のゴミが投げ込まれるエリアが、このラビッシュにはある。さっきの見習い騎士.....貴族が言っていたラビッシュの意味が俺の頭で再生された。それを感知したのか、同じく再生されたのかはわからないがトウヤは呟く。


「ゴミ溜めでも何でもいいさ。俺達は見習い騎士になって、正式に騎士になって、ラビッシュも悪くないって事を国のお偉いさん達に見せつけてやろうぜ」


「.......、だな。まずは武器を拾いにいくか」


「いい武器見つけてもあげねーぞ? カイト」


「使えなきゃいい武器も意味ないぜ? トウヤ」



ラビッシュがゴミ溜めという名称だった事実を知らされ、納得できた反面───惨めな気持ちも生まれた。でも今はそんな気持ちさえ消え、俺達は見習い騎士の試験へ向け新たな武器を探しに競うように破棄エリアを目指し走っていた。





「相変わらず凄いな.....ここは」


俺は久しぶりに来た破棄エリアの圧迫感に圧されていた。

天井付近に設置された破棄レールから吐き出されるように流れ込むゴミの滝。鼻を麻痺させるような刺激臭に軽く眼を細める。


「ここ見るとさすがに.....ゴミ溜めってのは納得いくよな」


同じように眼を細め、トウヤも破棄エリアの圧迫感に立ち止まる。

この国は.....イフリー大陸は何をしようとしているんだ? 毎日毎日ゴミをここへ流して......このゴミは何をしている過程で出るものなんだ? 私生活で出るゴミとはとても思えない、鉄や謎の液体。

しかしこのゴミで俺達は助かっている部分もある。部屋や廊下の鉄板や武器もそうだ。まだ使えるランタンや布なんかも落ちてくる。正直このゴミの滝が止まれば俺達ラビッシュ民の生活は一気に変わるだろう。


「これだけゴミがあれば、武器のひとつやふたつ落ちてるだろ。探そうぜカイト」


「あぁ、そうだな」


何かを求めて破棄エリアへ来たのは久しぶりで、宝探しでもしている気持ちになれるので嫌いではないが......同時にこんな生活をしなければ生きられない自分達に惨めさを強く感じてしまう瞬間でもある。


「......お? 剣だ」


発見した剣を手に取ってみるも、刃は折れ、残っている部分もボロボロ。これじゃ使えない。トウヤも似たような状態の武器を発見し、溜め息混じりに笑い俺達は同時に剣を捨てた瞬間、


「おーい! 今捨てた剣、まだ使えるよー!」


と、どこからか響く声が俺達へ向けられる。

辺りをキョロキョロ見渡すも、破棄エリアは広く、ゴミ山は人ひとりくらい簡単に隠れさせる。


「カイト、今の声誰だ?」


俺のもとへ寄ってきたトウヤは一応剣を拾っていた。俺も捨てた剣を拾いあげ「さぁ?」と答え辺りを見渡すと今度は人影を捉えた。ミントグリーンの髪は毛先に少々癖を持ち、どこか個性的な雰囲気を醸す。


「よかった、それまだ使える剣だから捨てちゃ勿体無いよ」


「「.......誰だ? 」」





破棄エリアで立ち話も.....と、俺達は見知らぬ───と言ってもラビッシュ民で間違いない───人物を部屋へ招いた。


「ここが2人の部屋なのかー! って、私の部屋と全然変わらないけどね」


鉄板張りの室内をぐるりと見渡し言う人物とは数分前に破棄エリアで会ったばかりなので、名前も何も知らない。


「どこの部屋も同じだろうな.....で、キミはどうしてこの剣を?」


「おぉ! これも2人の剣!? ポッキリ折れてるねーでもまだまだ戦えるよ、この子達」


俺の話に耳を向けずテーブルの上にあった折れた剣へ興味を示す人物は折れた剣を見て、まだ戦える、と言った。この言葉に俺とトウヤは固まった。どう見ても、もう戦えない折れた剣。ラビッシュで生活しているとはいえ、さすがに折れたボロボロの剣をまだ使えると言うのは.....言い過ぎだ。


「あ、自己紹介しとく! 私の名前はララ。見ての通りラビッシュ民で、来週からデザリアの鍛冶屋へ引っ越す事になってる! キミ達が噂の.....カイトとトウヤでしょ?」


「デザリアの.....」

「.....鍛冶屋!?」


俺達はララと名乗る人物の発言をリレーするように繰り返した。デザリアはこの街の事、鍛冶屋は武器や防具、アクセサリなどの装備品を生産する職業......つまり、スミスだ。


「この剣まだ戦えるって、まさか」


トウヤが手に持っている剣とテーブルで眠る剣を交互に見て言うと、ララはニヤリと笑い、


「そのまさかだよ。私は来週でいなくなる。キミ達も来週でここを出るでしょ? 同じラビッシュ出身だし、最後の仕事として剣を作ってあげたくて、見習い騎士の試験を受けるって噂を聞いた日から、私は毎日あの破棄エリアにいたんだよ!」


見習い騎士の試験を受ける事はすぐに広まり、同時に俺とトウヤの名前もラビッシュに広まっていた。試験を受けるなら今よりいい武器を求めて破棄エリアへ来るのでは? と予想しララはずっと俺達を待っていたのか。


「まだ戦えるってよ、カイト」


「あぁ、俺も出来る事ならこれで戦いたかった」



腹の底で何かが熱くなる。

言葉に出来ない感情が俺達のモチベーションを面白いほど高めてくれた。


「ララ! 俺とカイトの剣、作ってくれ!」


「この剣とさっき拾った剣、足りないようなら探してくるから、頼む!」


「そのつもりだったし、材料は今全部集まったよ。剣に限らず欲しい形や使いやすい形を教えてよ。でも、作る前に......身体拭かなきゃ破棄エリア臭いなぁ。タオル借りるね! タオル!」


俺達とは温度が少々違う様子だが、ララは武器生産を快く引き受けてくれた。


「どんな武器にする!? 俺はスゲーのがいいな!」


「スゲーのじゃ全然伝わらないと思うぞトウヤ。俺は.....大剣にしようかな」


「お前が大剣!? その身長で!?」


「身長は関係ないだろ!」


「ハハハ、ふたりは仲良しだね! 大剣でも長剣でも何でも大丈夫、いつかマスタースミスと呼ばれるララが作る、ラビッシュ最後の生産! バッチリ決めるよ!」


ララは俺達を見て親指をビシッと立てる。上着を脱ぎ身体を拭いていたララは恥ずかしがる様子もなく、当然のように───上半身は裸。


「「 お、おい、ララ! 服着てからこいよな! 」」


ミントグリーンの髪と癖毛、線の細い身体と顔立ち、自分の事を私と呼ぶララ。間違いなく女性───


「ハハハ! 面白いね! 言う必要もないと思ってたけど私一応男なんだ。ちゃーんとあるよ? 確認してみる?」


「「 ..........は? 」」



───ではなく、男性だった。







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