◇3
自由とは選択肢が多い事。
どれを選んでも、必ず自分に責任が付いてまわる。
間違えてしまわない様に人は誰かと自由を求めるのではないか?
孤独に押し潰されない様に、みんなで自由を求めるのではないか?
ハッキリと自由を語れる人は存在しないと思う。
自由とは生きていく中で重要ひとつだが、それが全てではない。
茜の知り合いの言葉らしい。
私は自由とは何でも出来て、何でもしていい事だと思っていた。全てだと思っていた。
魅狐を殺す事を選んだ茜は、その責任...期待した人間達に結果を見せる責任があったと言う事なのか?
自由は孤独の事なのか?
見てみたい。
自由を求めている人達を。
許されるなら...求めてみたい。
私も必死に自由を。
◆
みんなの所...サクラ採掘の仕事へ戻る気はないが、人に見せられない姿になってしまった私は島を出る事も出来ないので、この森で茜と生活を始めた。
茜はビーストハンターになったのに私みたいな人を出してしまった事に責任を感じているのか、一緒にいてくれている。
「おはよう。調子は?」
「おはよう茜、変わりはないよ」
毎朝、このやり取りをする。
家族がいて、友達がいる人は当たり前のやり取りだろう。
でも私には初めてで、嬉しくて元気になれる。
この気持ちが幸せと言えるなら、私は今幸せを感じている。
しかし現実は残酷だ。
変わりはないよ と言った私の右眼は何も見えなくなっていた。
足は重く、腕の痛みは日に日に増加する。
もう自分の身体とは思えない程...感覚が遠い。
痛みはハッキリしているのに、指先を動かそうとしてもすぐに反応してくれない。
足も同じ。転ぶ回数が一気に増えた。
毎朝早起きして山を登る生活はなくなったものの、歩く事が大変になり始めていた。
サクラ採掘をしなくてもいい日々は嬉しいが、侵食は無慈悲に進む。
水溜まりに落ちた葉の様に、逃げ場もなく...ただ水が全体を呑み込む様に。
「あ、そうだ。あなた名前は何がいい?」
「なまえ?」
茜は森で狩った動物の肉を調理し、朝食を作る。
ホコリっぽいパンよりも美味しい食べ物。毎朝茜は「いつか綺麗なパンを一緒に食べようね」と言ってくれる。
しかし今日は名前の話を。
「そう、あなたの名前。身体が治ったら好きに生きるために名前があった方いいでしょ?」
「私の名前...」
名前を持つ事など、考えもしていなかった私は声をごもらせる。
「今すぐじゃなくても。素敵な名前を考えておきなさいね?それがあなたになるのだから」
名前...私は名前がほしい。でも、もう私は終わる。
死ぬのか、モンスターになってしまうのか...どちらも同じだ。
名前を持って、終わりそうな今を未来に繋げて、自由に夢を追いかけたい。
茜みたいなビーストハンターに、優しい人になりたいっていう私の───。
「可愛らしい名前がいいんじゃないかな?あなたとても.....!?」
茜の姿が霞む。
声が凄く遠くなる。
呼吸が満足に出来ない。
突然私を襲った現象は海の中に落とされた時のようで、視界がぼやけて音が遠くなって、呼吸が出来なくなる。
必死に喘ぎ、空気を吸っても喉が空気を押し出す様で。
唯一感覚がある左半身。
左腕に何かが刺さる痛みを感じた数十秒後、落ち着く様に海から眠りへと落ちた。
───きっと茜が助けてくれたんだ。
だから私は安心できる。
起きたらお礼を言おう。
そして、私の夢を言おう。
私には叶えられそうにない夢だけど、聞いてもらおう。
私の終わりはすぐそこまで来ている。
今のでそれがわかった。
だから...最後は茜と笑って話したい。
夢を見る自由を私は選ぶ。
そして...茜に私を終わらせてもらおう。
モンスターになっちゃう前に。
人間のまま、私は終わりたい。
それが私の今求めている幸せなんだ。
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