◆17



ポルア-村の人達はエミちゃを助けてくれた。

ワタシの事も、助けてくれた。


意識を失っていたエミちゃは今も眠ったまま。

ワタシはいち早く目覚め、毎日彼女を見守る。


村人の話だと、命に別状はないらしい。でも眼を開くまでは安心できない。


起きて。エミちゃ。



「ん...、痛った、、」


声が届いたのか、エミちゃは眼を開き身体を動かした。


「あ、おはよエミちゃ」


彼女はワタシを見て、部屋を見渡して黙る。


「大丈夫?」


右手に持つコーヒーをテーブルへ置こうと動くと、左腕から灼熱が全身を走る。

奥歯を噛み、痛みを噛み殺し、ワタシはエミちゃを見る


返事なく無言で立ち上がり部屋を出ようとするエミちゃ。扉の前で小型犬モードのクゥが唸りをあげる。


「...なにコイツ、ねぇ この犬どかして」


ナイスだよクゥ。今エミちゃを行かせると絶対また無茶するに決まってる。


「寝てなきゃダメだよ」


「アンタが寝てればいいじゃん」


どこか冷たい...棘のある声で即答するエミちゃ。ワタシは数秒間を置き、言う。


「怪我してるんだから寝てなきゃダメだよ」



何を言われてもワタシはエミちゃを止める。

納得してくれたのかベッドへ戻り座る。

辺りを見渡し、現状整理を始めるエミちゃへ、なぜポルア-村にいるのかを教えた。


「ワタシがクゥにエミちゃ乗せて、一番近くの村へ走ったの。火傷とか傷があったし起きなかったからね」


どうしてかわからないけど、助けたかった。

きっと、この先エミちゃの様な人が必要になる気がしたんだ。ワタシにじゃない、世界に。


「なんで殺さなかったの?起きないならその隙にサクっと殺っちゃえばよかったじゃん」


この状況でもワタシを敵として見るか...凄い覚悟だ。


「戦意がなくなったって言うのかな?ワタシも必死だったんだよね」



本当に必死だった。

他人の事でここまで自分が必死になれるとは知らなかった。

湯気が立つマグカップをクチへ運び、一口飲みワタシは質問する。


「昨日の...クリアストーンだよね?セツカ様は何処に居るの?..、あ、任務の事はもういいゴメンね」



鋭い瞳をワタシへ向け、今にも暴れ出しそうな雰囲気を纏うエミちゃ。しかし突然眼を開き、言う。


「昨日!?」


変に高くなる声を響かせ、ブツブツと何かを言い、指折り数え始める。

そして言う。


「ねぇ、クリアストーンってどこでゲットできるの!?急いでるの!」


やっぱりクリアストーンで間違いなかった。何の為にクリアストーンを?まさか...。

嫌な予感が胸に溜まる中、必死に自分を落ち着かせて、マグカップをテーブルへ置き、とりあえずエミちゃの質問に答える。


「クリアストーン自体がレアモノだから今日明日でゲットするのは無理だよ」


その言葉を聞いたエミちゃはそのままベッドに倒れる。

自分の服装を見て、フォンを操作するも、納得いかない顔を浮かべる。


「ねぇ、わたしの防具知らない?」


フォンポーチを確認して防具を探していたらしい。クリアストーンを失っても、まだ行動するつもりなのか?

ワタシは質問する事をやめ、エミちゃへ答える。


「宿屋の店主が預かってると思う。けどアレもう使えないと思う」


エミちゃと数回会話をすると、フォンをベッドへ捨て、また倒れる。

産まれた沈黙を逃さず、今度はワタシが質問する。


「あのクリアストーンでポルアー村の人達を魔結晶にしようとしてたでしょ?」


ワタシの言葉に素早く反応し、誤魔化す様にエミちゃは言う。


「なんなの急に」


「昨日のエミちゃ、酷い顔してた。何があったの?」


「何でもない」


クリアストーンの使い道は教えてくれない...か。


「そっか...もし今クリアストーンがあってポルアー村に居て、ワタシの言った事をするつもりだったなら、今度こそ本気でエミちゃへ剣を向けなきゃならない」


ワタシがそう言うと、エミちゃは眉を寄せ怒りの色を含む声を吐き出す。


「わたしよりも先に剣を向けなきゃならない相手が居るんじゃないの?」


「え?」


「え?じゃないよ。あの廃村の事は何も調べてないの?後でバレても罪にならないの?ふざけるな!そもそも騎士が確りしていたらセッカもこんな事にならなかったんじゃないの!?」


話が全くわからない。

それもそうだ...フィリグリーに言われるがまま、ワタシは行動した。自分の意思だと思って行動していたが、これはフィリグリーの...騎士団の犬としての行動でしかない。


現状を知らなきゃならないのはワタシの方だ。


エミちゃは怒りに染まりながらも、話をしてくれた。時折ワタシを挑発する様な言い方をするも、ワタシはエミちゃと戦う気はないし、何より無知な自分が嫌。

言葉の中にエミちゃも、セツカ様も助けるヒントが隠されているかも知れない。


エミちゃが話してくれた内容の中で気になる事があったので、ワタシは質問する。


「どんな連中に捕まってるの?」


「眼のとこだけ隠した仮面の連中」


え...それ、嘘だ。

それはワタシのギルド ペレイデスモルフォが外で情報収集や行動する時に装備させているアクセサリ。この辺りじゃウチのギルドしか使っていないアクセサリ...。


先日メンバーと話した時、りょうちんは人工魔結晶の生産レシピを持っていた...。


「クリアストーンの事...人工魔結晶の事もその連中が?」


「うん、人工魔結晶作って持ってくればセッカ返すって。期限今日までなのよね、だからわたしいくね...クリアストーン無くなったし、もうアイツ等ブッ飛ばしてセッカ返してもらう」



嘘だ。だってりょうちんはワタシの、ワタシの言葉に賛成してくれた。ドメイライトを潰す事じゃなく、フィリグリーを排除してドメイライトをいい国に、もっと平等になる国にする為に...。


どうしよう。

どうすればいいの?


どうすれば...ワタシがどうにかしなきゃだ。

とにかく、とにかく今はエミちゃを止める事を優先しなきゃ、ギルドマスターとしてエミちゃと向かい合った時、本当にエミちゃを殺さなければならなくなる。


とにかくエミちゃをこの村に留めさせる様に。


「多分それ...ギルドだよ。ギルド ペレイデスモルフォ」



ペレイデスモルフォはこの大陸だけではなく、ウンディーでも有名になっている。


冒険者を目指しているなら名前くらい聞いた事あるハズだ。


「マカロン?知らないし」



....この子は無知すぎる。

冒険者になるなら情報は大きな武器になると言うのに、一体この子は今までどんな努力をしてきたんだ?


エミちゃの言葉に呆れつつ、空気が変わらない様にワタシは答える。


「マカオン、アゲハ蝶の別の呼び方かな」


「ふーん、どうでもいいや」


ワタシの言葉に耳を向ける事もせず、アイテムポーチの調整を始めるエミちゃ。

ワタシはエミちゃを怖がらせる様に言う。


「どうでもよくないよ。そのマカオンって人、相当強いし迷いなくセツカ様を魔結晶の材料に使うと思う」


そう...。きっとセツカ様が皇族だと知ればりょうちんは迷わず...エミちゃも危険だって事を察して。


「そうなる前にセツカ様を殺したい。って訳っすか、ほんと素晴らしい騎士道だこと」


怖じ気づく様子は微塵もなく、あくまでも自分はセツカ様を助ける為に行動する。そんな瞳をワタシへ向け、エミちゃは挑発する様に言った。


このままではエミちゃが本当にギルドへ攻めてしまう。ギルドメンバーもエミちゃも、セツカ様も助けたい。


欲張りだとは思う。それでもワタシは助けたい。全部を。


「素晴らしい騎士道でしょ?その騎士道を最大に使いたいからお願いするね」


ワタシはフォンを操作しながら言った。りょうちん以外のメンバーにメッセージを飛ばし、ワタシはエミちゃの顔を見て、気持ちを伝える。


「助けたいって気持ちは同じ、だから協力して。今のワタシじゃ足手まといになるだけだから、お願い」


取り返しのつかない事になる前に、お願い。

無茶が通じる相手じゃないんだ。だって...マスターはワタシだから。

マスターとしてエミちゃと戦う事になったら、本当に殺さなければならなくなる。


エミちゃではワタシに...マカオンには勝てないよ...だからお願い。


「悪いけどアンタを頼るつもりはない」



ワタシの思いは届かなかった。


エミちゃは短くハッキリ言い、フォンからワインレッドのフードローブを取り出し開かれた窓から飛び降りた。


「え!?エミちゃ」


扉はクゥが守る。これで今は大丈夫だと思っていたが、まさか窓から出るとは...一階だけど傷も癒えてないのに、無茶苦茶だ。



ワタシは追おうともせず、ただ去るエミちゃの後ろ姿を見詰めた。

自分の無力さ。

自分の弱さ。


自分には無理だった。


そう思い諦めるのは、もうやめたんだ。


可能性が1パーセントでもあるなら、醜く足掻いてやる。


エミちゃを止めて、セツカ様を助けて...


ギルドマスターとしてケジメをつけなきゃ。


ギルドを放置していたのはワタシだ。


その結果、ギルドの歯車は狂った。

狂った事にも気付けないで、それを知った時にはもう遅かった。


遅かったけど、やれる事はある。


エミちゃが廃村の事を言ったのは多分...もうりょうちんが人工魔結晶を作ったという事。


バカ者が...なんでフィリグリーと同じ事をしたの。

なんで関係ない人を手に...



もう全部失ったんだね。ワタシは。



...もう戻れないね。


ワタシもみんなも、終わりにしよう。


それがワタシの出来るケジメと、謝罪だ。


もう。疲れた。



「クゥ」


ごめんね。


「ヒガシンの所へ行きなさい。ワタシの分までヒガシンを助けてあげて...お願い」


クゥは数秒ワタシを見詰め、エミちゃと同じ様に窓から出て行った。



すみません。

レイラ隊長。せっかく繋いでくれた命なのに。


ワタシはこの命を今日使います。


これがワタシのケジメで、これしかワタシには思いつきません。



今日ワタシはギルド ペレイデスモルフォを潰して、無意味に奪ってしまった命の清算に、自分の命を使います。


ワタシ1人の命じゃ足りないけど、でも、そうするしかワタシには出来ません。



結局、白にも黒にもなれない半端なワタシが悪かったんだ。


努力も覚悟も何もかも、足りなかったんだ。



最後までモヤモヤして...最後までハッキリしなかったなぁ。



本当に人間らしい人間なんだなぁ。


心が弱くて、迷って...


ワタシは人間だ。

悪魔の様な事を一時期は考えてたけど、人間なんだ。





「...マスター」


「黙って」


もう何も言わないで。

ワタシはもう...揺れたくない。


メンバー数名と合流したワタシ、ペレイデスモルフォのマスターマカオン。

何かを言い出しそうなメンバーをワタシは黙らせ、ギルドのアジトへ黙々と向かう。


歩く度に痛む腕、痛撃ポーションを浴びる様に飲んでも、痛みを誤魔化せない。


全部失ったんだ。


ギルドも、大切なモノも、全部。


今から自分の命も捨てる。


ギルドメンバーは全員騎士団へ渡す。


魔結晶にしてしまった人々の命の重さを考えて、罪を償って、ワタシに出来なかった事をみんながして。


ワタシにはみんなを殺す勇気も覚悟も、権利もないから。


色が無くなる。

過去の色も今の色も、未来の色も。


もう全部、無くなった。



「アジトが強襲されてる!?」


メンバーの1人がギルドのアジトを見て声をあげた。


本当にエミちゃは...


ワタシも急ぎアジトへ眼を向けると、本当に...。


凄いよ。

勝算なんてないのに、自分の気持ち...セツカ様を助けたいって気持ちに正直になって、行動するなんて。

本当に凄いよエミちゃ。


でも、ごめんね。


ワタシはアジトへ走った。

こうなってしまった以上、エミちゃを殺して、ギルドメンバーは騎士団へ、そしてワタシは最悪の騎士で最悪の犯罪ギルドのリーダーとして、死ぬ。


それが一番いいんだ。


それしかもう、ないんだ。



アジトの扉を魔術か何かで吹き飛ばしたのか、扉はどこかへ消えている。


中にはメンバー数名と、知らない男性、そしてエミちゃとセツカ様。



「何が何だか解らんが...俺があのフード相手にするわ。雑魚はよろしく」



そう言い知らない男性はナックルタイプの武器を両手に装備し、入り口へ...ワタシをターゲットに走り迫る。


...速い。


他のメンバーは男性のスピードと行動に反応出来ていないが、ターゲットはワタシ。

慣れないフード装備で男性の左拳を回避、右手拳は右腕で止めた。


男性は止まる事なく蹴りでワタシを外へ。他のギルドメンバーは中へ向かった。


せめてエミちゃは、ワタシの手で。


「...邪魔をするな」


ワタシは男性へ呟き、腰背から剣を抜いた。鞘は邪魔なので捨て、剣を男性へ向ける。


「お前がボスか?」


「お前は誰だ」


「俺はアスラン様や。今噂の」


全く聞いた事ない名だが、彼も何処か自信に溢れる表情。


「関係ないなら今すぐ消えて。じゃないと殺しちゃうよ」


「悪いな、エミリオが女紹介してくれるゆーから消えるワケにはいかん」


なんなんだ...

本当にもう、なんなんだ。


ワタシは剣を握りなおし、本気でこの男性を殺す事を決めた。


その直後だった。


感じた事のない、重く冷たい魔力が溢れ出し、ワタシの全身を撫でた。


「!?」


「!?...なんやコレ」


この魔力は嫌でも気付く。

男性も知らないらしく、アジトを睨む。

ウチのメンバーにこんな魔力を持つ人間はいない。

セツカ様にもこんな魔力があると聞いた事はない。


男性はワタシを無視し、アジトへ向かう。ワタシも遅れて向かうと先ほどより濃く、痛い程の魔力が充満していた。


「...エミリオ?」


セツカ様が呟いた名前。

それにワタシは驚きを隠せなかった。


エミリオの魔力...これは、人間のモノではない。


ワタシの眼がエミちゃを捉えると、そこにはワタシの知るエミちゃはいなかった。


全身から魔力を溢れさせる.....【魔女】だ。


魔女はゆらりと身体を揺らし、ワタシへ一直線に。


「...ッ!?」


風属性魔術を纏った魔女の腕が剣に触れた瞬間、外へ一気に飛ばされる身体。


左肩から地面に叩きつけられ、灼熱の痛みが全身を駆け回り、声が溢れる。



しかしエミちゃは...魔女はワタシを気にする事なく、見た事のない魔術を放つ。


炎の渦が空を廻り、地面は深くエグる。唇が微かに揺れている事から詠唱していると思われるが、実質的には詠唱なしと変わらない速度。


風の刃、炎の槍、水の針、岩の弾丸。


全ての魔術が速く、高威力。


炎と風が交わり、炎の竜巻がうねり、地面を揺らし氷の岩が現れ、黒紫の魔法陣が男性の足下に展開され、重圧をかける。



ウィカルムで遭遇した【氷結の女帝】に負けない程の冷たく鋭い瞳。



なんでもいい、どんな方法でもいい。とにかく魔女を黙らせる事が最優先。


ワタシの命で魔女を止められるなら、安いモノだ。


剣を強く握り、ワタシは魔女へ斬りかかる。しかし剣は薄く揺れる風の壁に弾かれワタシの手から離れる。

男性は背後から魔女を攻撃するも結果は同じ。


薄い風の壁だというのに、こちらへの反動は恐ろしく重く、ワタシも男性も押し返され、倒れる。


魔女は男性を見る事もせず、ワタシへ迫り、腕を軽く振った。


「!?」


反応が遅れた。

魔女が腕を振った瞬間、地面は砕ける様に抉れ、風の圧力がワタシの全身を叩き吹き飛ばす。


「今のは効いた...」


ワタシは呟き、立っている事が難しくなり膝をついた。

内側を叩かれる様な痛みに、クチから血液が溢れる。


魔術を受けて、ダメージが内側から...こんな魔術聞いた事ない。



「おいお嬢さん!エミリオに何が起こったんや!?」



男性はセツカ様へ叫ぶ。

するとセツカ様は何かを思い出した様にアジトへ急ぐ。


ここまで魔力を底上げし、魔術の威力を増加させているのに、姿形に変化がない。


これはバフでもディアでもない。


魔女 としか説明がつかなく、魔女ならば納得出来る。



「コレをエミリオに!」



セツカ様は叫び男性へ何かを投げ渡す。その間エミちゃはワタシから眼をそらす事は無かった。


「アイツに手錠かけるから一旦手伝え!」


男性は受け取ったアイテムをワタシへ見せ叫ぶ。

もうそれに賭けるしか魔女を止める方法はない。

それが失敗すればワタシだけではない、ここにいる全員が死に、多分他にも人々が死ぬ。


男性へ頷きワタシは再び魔女へ攻める。


地面に刺さる剣を抜くと、両眼の奥がまたあの痛みを。


ズキン。


今までよりも重い痛み。


その痛みを置き去りに、ワタシは一気に斬りかかると、世界がズレる。

地面が何重にもズレ、直後無数の岩の槍がワタシを迎撃する。


この眼が無かったらワタシは今死んでいた。

見知らぬ力のおかげで回避に成功しそのまま接近、魔女の首を狙い剣を振るった。




─── 同じ事が自分にも起こる覚悟は、勿論してるでしょ?



昔ワタシがネフィラのギルド、トワルダレニェへ言った言葉。


それが今、脳内で再生された。


ブレなかった。この眼でも先が見えなかった。



ワタシはトワルダレニェのメンバーを斬った。蜘蛛と言い、手足を奪った。



ワタシにも同じ事が起こるとは...笑える。



剣を振っていた右腕が宙を舞う。

一瞬の出来事で何が起こったか理解出来なかったが、ワタシの腕はワタシから離れた。


いいんだ。腕がなくなっても。

それでも魔女を...エミちゃを助ける事が出来るならいいんだ。


ワタシはその場で跳び、打ち上がった腕を魔女へ蹴り飛ばす。

腕から溢れ出る血液が魔女の顔を染める。

視界を失った魔女は血液を拭き取ろうとする。この動きで産まれた隙を男性は逃さず飛び込み、魔女の腕にブレスレットを腕に装備した。


直後苦しみ暴れる魔女。

無差別に魔術を発動するも、誰もいない場所を撃つ。



泣いている様で、必死に自分を掴んでいる様で、どこか寂しそうな姿の魔女。



ワタシは後悔していた。

自分の意思の弱さと覚悟の無さに。


でもね、エミちゃ。


左腕を無くした事に後悔はないんだ。


今右腕を無くしたけど、それも後悔がない。



だって、ワタシの腕でエミちゃを止める事が出来たんだもん。


安いくらいだよ。



冒険者になりたい。そうだよね?


違う形で出会っていたら、ワタシも一緒に行きたかったな。



きっと世界は、もっともっと沢山の色で溢れてるんだろうなって、今になって思うんだ。



魔女は泣きつかれた様にその場で倒れ、ワタシも力が抜けた。



エミちゃは生きてる。


殺そうと決めたのに、また助けちゃった。


最後までワタシの心は揺れて、最後までワタシは、弱い意思だった。



「うまくいったな...次は貴様等の手当てや。中借りるで」



男性はそう言い、ワタシの無い腕を指差した。



「死ぬならどっか他所で頼むわ。俺様の近くで死なれると迷惑や。今は意地でも生きて、どっかで勝手に死んでくれ」


「....わかった」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る