◆11
「隊長!小隊長はドメイライトから馬車に乗った様です。馬車はポルアー村経由です!」
太陽が静かに沈む中、やっと小隊長ヒガシンの足取りが掴めた。
「了解、ご苦労様。数名はワタシと一緒に、残りは村周辺で待機!いつでも動ける様に準備をしておいてね。それと...」
ワタシはここで全員へメッセージを送った。残されたヒガシンのフォンにもメッセージを入れ、ワタシが預かる。
青髪の人物がデザリアと密会していた疑いがある。との内容。
「詳しい情報はないんだけど...とにかく!青髪の人物を発見次第、話を聞いてください」
疑ってかかって、間違えていたら ごめんなさい。で済まされるのが騎士だ。
疑われる身はいい気分ではないだろうけど、ワタシは疑う立場。相手の気持ちを1回1回気にしていては何も進まない。
「全員、任務内容も忘れずに!」
最後にそう言い、ワタシは数名の騎士を連れヒガシンが来るであろう、ポルアー村経由の道を、ドメイライト目指しで進む。
人影もなく、モンスターの気配もない静かな夕暮れ。
このまま何もなく一日が終わり、平凡な明日がくる。
その繰り返し。
この平凡をワタシに壊せるのか?
...自分の心が、意思がこんなにも弱いモノだとは思わなかった。
ギルドを作り騎士を、ドメイライトを、平和壊そうとしてる。
騎士になり、平和に触れ、それを守ろうとしている。
先が見えない。
「隊長!」
1人の騎士が叫び、前方を指差す。
馬車から急ぎ逃げる人々と、馬車を睨む巨大なムカデモンスター。馬車とモンスターの間に1人の人影。
この距離では人影を確認する事しかできない。
「急ごう」
短く言い放ち、ワタシ達はモンスターへ向かう。
人々の避難は済んでいる。ならばモンスターを、危険を排除するのが最善。
夕日が平原を染める中、ムカデモンスターは巨体をうねらせ人影を打ち上げた。
打ち上がる人影がハッキリ見え、ワタシの隊に所属する小隊長ヒガシンである。と知った頃にはもう遅かった。
ムカデモンスターは巨大なアゴを開き、ヒガシンを捕食する体勢に。
「くッ!」
間に合わない。
今のクゥが本気で走っても、間に合わない。
また、また助けられないのか?
眼の前で仲間を失うのか?
どうして。
なんでワタシと関わった人はみんな、ワタシの前からいなくなるんだ。
どうして。
なんでワタシは誰も救えないんだ。
ギリギリと奥歯が鳴る音だけが脳に響く。
誰でもいい。
何でもいい。
ヒガシンを、ワタシの仲間を助けて。
そう思った瞬間、ワタシは眼を疑った。
焼ける様な色に染まる平原を薄緑色の風が空気を斬り進む。風の刃は騎士ヒガシンの鎧を叩き、大きく弾く。
「隊長」
「何でもいい。とにかくモンスターを」
同じ光景を見ていた騎士が呟くも、ワタシはモンスター排除を優先させる。
「おーい!大丈夫ー?!」
風の刃を出した者と思われる...小柄な少女が馬車を越え、ヒガシンへ叫ぶ。
声にいち速く反応したのはモンスター。少女を新たなターゲットにムカデが動き出そうとした瞬間、ワタシ達は既に接近を済ませていた。
クゥは少女を飛び越え、モンスターと少女の間に着地。
ワタシはヒガシンの無事を確認し、言った。
「ここに居たんだねヒガシン」
少女へのお礼が先か、モンスターの排除が先か、そんな事考える余裕はワタシには無かった。
仲間が生きているか。これが今ワタシにとって一番重要で優先すべに事だったから。
「ヒロ隊長!ナイスタイミング!」
ヒガシンは腹部に手をおき、苦しそうな声だが、ハッキリ叫び応答した。生きてる。
ワタシはすぐにモンスターを睨み、冷却された脳をフル回転させる。
大型の虫モンスター...ポルアー村周辺のエリアに生息している巨大虫はムカデ型モンスター【センチペンドラ】か巨大蜘蛛型モンスター【ビネガロ】。どちらも今回の任務のターゲットで、ワタシの前にいるモンスターはムカデ型...【センチペンドラ】で間違いない。
「はぐれたと思ったら任務のターゲットを発見とは、さすがヒガシン!」
ワタシはそう叫び、クゥの背から降りる。
クゥの頭を撫でていると、センチペンドラは不快な咆哮を吐き出し平原を這いずる。
前身を上げ、アゴを大きく開き牙を見せるセンチペンドラ。
...この、虫が。
騎士になって、騎士の自分として、本気で相手の命を奪おうと思ったのは久しぶりだ。
ネフィラ率いる蜘蛛ギルド トワルダレニェの時以来、ワタシの沸点は低くなっていた。
腰に装備している剣へ手を伸ばす。
左手を鞘へ優しく乗せ、右手で柄を握る。
センチペンドラを充分に引き付け、一気に鞘を走らせる。
「セイッ!」
相手が接近してくる時の速度、ワタシが接近する時の速度。その2つがタイミングよく重なり、剣撃の威力を増加させる。
センチペンドラは黄色の体液を溢れさせ、静まる。
一瞬だった戦闘の余韻の中、ワタシは少女を横眼で見て、震えた。
夕焼け色に染まってもわかる程、綺麗な水色の...青髪。
騎士団長から届いたメッセージにあった、青髪の人物か?
見た目は幼さが残る少女だが、風の刃は魔術だろう。少なくとも攻撃系の魔術は使える人物。
そんな事よりも、ワタシはこの少女の魔術のタイミングが脳裏に焼き付いている。
ワタシが願った瞬間、風の魔術を放った...水色の少女。
偶然か、必然か、願った瞬間ワタシの脳には水色の蝶が浮かんだ。
偶然、、だろう。
「よし、ヒガシンはこのままあの馬車で村まで来てね」
剣を鞘へ戻し、ワタシはヒガシンへフォンと命令を投げる。
少女を見てニッコリ笑い、お礼も忘れ、ワタシ達はポルアー村周辺のキャンプまで戻る事に。
弱そうで、でもどこか強い雰囲気を持つ、
タイミングが重なっただけでそう思っている?
そうだったとしても、あの瞬間だけは、ワタシにとっての水色蝶はあの少女だった。
「...?」
非現実的と言われればそれまでの事を考えていると、ワタシのフォンにメッセージが届く。相手はヒガシンで、了解との文字だけが。
どうやらヒガシンはメッセージを、青髪の人物がデザリアと密会していた 事を記入したメッセージを確認したのだろう。
今のワタシは騎士だ。
騎士の仕事をするんだ。
1日の最後に衝撃的な出来事が起こったが、ワタシは気を落ち着かせ、キャンプで待機していたメンバーへ命令を下す。
「もうすぐ馬車が到着する。その馬車には小隊長と...青髪の人物が乗ってる。馬車が到着し青髪の人物が降りなかった場合は馬車を包囲、降りた場合は小隊長が後ろにいる事を確認後、その人物を足止めし拘束する」
これが今、ワタシがやるべき仕事。
仲間の命を救ってくれた事には感謝しているが、悪いが話は別だ。
馬車がゆっくり近付き、停止。
馬車から青髪の少女が降り、ヒガシンが降りる。
馬車を見送り、遠くなった事を確認し、騎士が声を響かせる。
「そこの青髪の女!止まれ!」
張りのある声が響き、騎士が眼の前に並ぶも、青髪の少女の表情に不安の色はない。
ワタシは小隊長ヒガシンへ眼線を送ると、ダルそうに頭を掻きながら言う。
「助けてもらったのに悪い。でも君に変な疑いがあるんだ。今はおとなしく捕まってくれないか?」
小隊長ヒガシンはゆっくり剣を抜き、少女へ向け今度は強く言う。
「デザリア王国騎士と森で会っていたのはお前だな。敵国へ情報を流した罪で逮捕する」
この言葉に青髪の少女は驚きの表情を浮かべ反論する。
「は!?なにそれ!?意味解んないんだけど!...ちょ!やめ」
しかしヒガシンの一言で他の騎士達が一斉に青髪の少女を包囲し、有無を言わさず拘束した。
「テントへ」
ワタシは短く言い、その場を後に。
◆
拘束後、テントに送られた青髪の少女は騎士に恐れる事なく...何と言うか、うるさい。
拘束された身だというのに、喧嘩まで売る始末。
今まで騎士として何人も拘束、逮捕してきた。
ギルドマスターとして対話し、戦闘になった事もある。
しかしあの少女は...今までワタシが出会った “相手” とはまるで違うタイプだ。
テント内で騎士の声、少女の声が拡散弾の様に響く。
「...~~、もう!」
ワタシはテントへ向かい、
「ホントにやめなさい。さ、出てって」
そう言いテントへ入る。
ガルルル...と怒ったクゥの様な声を上げワタシを睨む少女。子供の威嚇...か。
ワタシはその姿を見て何一つ迷わず拘束を解いた。
すると少女は一瞬表情をユルまるも、すぐに言う。
「暴れるよ?いいの?」
暴れる、か。
「そんな事しないでしょ?大丈夫、話を聞かせて」
ワタシがそう答えると一瞬眼を細める。その瞬間、ワタシは地面に鞘のまま剣を突き立て笑顔で応答する。
「話も何もさ...」
少女は素直に今日あった事を話し始めた。
質問もせずただ少女の話を聞き、一通り終わった所でワタシはクチを開く。
「あなたがこの村に来た目的は、本当に休むため?」
「だーかーらー、そだってば!それとバリアリバルまでの道とついでにお金稼ぎにクエでもしよーかなーって!騎士こそムカデ倒したんだし帰れば?いつまでも村にいてウザイっての」
ワタシの言葉へ素早く返事する少女...嘘を言っている様には思えないし、嘘だったならばこの返事の速度は速すぎる。
ワタシは無言でテントから出て、噂好きの同期の騎士へ連絡する。
「もしもし、ヒロだけど」
『はーい!どした?』
「ドメイライトにある夫妻で営業してるレストランに」
少女から聞いた話しの裏を取る...と言えば大袈裟だがいくつか質問してみようと、ここまで言うと、噂好きの騎士【シンディ】はすぐに答える。
『あー、あの女の子!?自分は冒険者だー!って騒いでる子の話し?』
どこかで聞いた内容だが、今はどうでもいい。ワタシはシンディへ詳しい事情を話すと、すぐに返事が帰ってくる。
『ナイナイ!あの子がデザリアとぉ~なんてナイナイ!残念!冒険者気取りの子供だよきっと。まさか拘束しちゃった!?残念!謝らなきゃだね!今からメッセ送るから自分で確認してみなよ』
そう言われワタシはお礼を言い、シンディとの通話を終了させた。届いたメッセージには噂のレストランの連絡先が記入されていたので、連絡してみると本当にただの冒険者気取りの少女だった。
ワタシはなぜか安心し、テントへ戻り頭を下げる。
「大変申し訳ありませんでした。只今あなたのおっしゃっていた街のレストランへ連絡をした所、間違いなく住んで居たとの事で...大変申し訳ありませんでした」
疑って、間違えてたらごめんなさい。このやり方はあまり気持ちいいものではないな。
「あ、そ。んじゃ教えて。アンタら騎士は何をそんなに焦ってるの?何の情報がヤバイの?言わないと本部に文句言いに行くよ?本部までの道でも叫びながらね」
「うぇ..っと...」
...このガキ。
こちらがミスしたと解ればこの態度。一般人に教えるワケないでしょ、ちょっと考えれば...
「焦ってるのは両国の関係が結構悪いから。流れちゃマズイ情報は あるモンスターの素材からいい武器が作れる。って情報。敵国がそんなの企んでたら黙ってないだろ普通」
「ちょ、ヒガシン!」
突然小隊長ヒガシンがペラペラと一般人へ話を流す。
「大丈夫っすよ、馬車で話したけどスパイとかそれ系じゃないですし、丁度いいじゃないすか?お金欲しいなら」
はぁぁあ!?
この小隊長は何を言い出すんだ?
ヒガシンのお金という言葉に青髪の少女は素早く反応し、うるさいクチを再び開く。
「隊長さん、騎士としてじゃなく、ヒロさんとして冒険者さんにクエお願いしてみない?みんなにはまだ罪が消えた訳じゃないから連れていくって適当に言ってさ」
ニヤニヤしワタシの名前を呼び、言う少女。
テントにある鏡を見て、どこか恥ずかしそうな表情を浮かべニヤニヤ顔を止めた。
でも、考えてみれば騎士が冒険者を雇ってはイケナイと言うルールはない。
「わかりました。宿屋をおさえるので、そちらで後程」
ワタシ個人もこの人物が少々気になるし、ここは彼女の話に乗る事にしよう。
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