-金銀の魅狐-

◇1





朧気に照る月。

雲が泳ぎ月明かりが少女を照らし影を作り出す。

少女は自分の影を見て恐れ、涙を流し、言葉を漏らした。




「...誰か助けてよ」




その日から少女は死ぬために生き、死ぬために歩いた。


まだ見ぬ世界を知りたいと思い、生きたい と願う少女と出会うまでは。







いつもと変わらない平凡な日常。

ボクは朝起きて、母と父、そして妹がいて朝食を食べて、父は騎士団へ、妹は母と勉強、ボクは武器の稽古へ。


「気を付けるんだぞ、プンプン」


と父が言うと次は必ず母が、


「気を付けてね、プンちゃん」


そして最後は、


「お姉ちゃん行ってらっしゃい!」


妹のモモカがボクを送り出してくれる。


「うん、行ってきます!モモカも頑張るんだよー!」


毎日こうしてボクの1日が始まる。





ボクの住む村は人間ではなく竜騎士族が住む竜騎士族の里。

竜騎士族は髪の色が赤やピンクなんだ。でもボクは金色。

どうして金なの?と両親に聞いても 解らない。と言われるだけで たまたま色が違っただけだと思っていた。でもこの里ではただ髪色が違うだけで鋭く痛い視線がボクを突き刺す。


母は元竜騎士団に所属していて凄腕の治癒術師だったらしい。父は凄腕の剣術使いで今は竜騎士団の団長。


ボク達竜騎士族は自分に合った武器を使う。騎士になったからといって慣れない武器を無理に使ったりはしない。

だから剣の稽古じゃなく、武器の稽古なんだ。



両親が両親だけに直接的な攻撃はないけど...刺さる様な視線とコソコソ話はずっと昔から。そして最近は...、



「...またボクが使う武器にネンチャク草」



稽古の時ボクが使う武器には小さな攻撃、嫌がらせが毎日数えきれない程。

1回1回気にしていると日が暮れてしまうので無視している。


武器の稽古は人間で言う、学校で勉強する様なモノだろう。人間の街に行った事はないし学校も絵本でしか見た事ないボクにはこれが普通で当たり前の日常。



10歳になった里の子供達は剣術か治癒術 どちらかを選び16歳までそれを学び、それから騎士団に入る。

これも普通で当たり前の事。

ボクは父に センスがあるぞ。と言われ剣術を選んだ。


剣、槍、斧、色々な武器を使って毎日毎日稽古をしていく中で自分に合う武器を見つける。

ボクは長めの剣...カタナと呼ばれる和國の剣を選んだ。

稽古は木製の武器を使って行われるので、本物の武器を持った事は1度もない。



木製のカタナを使った稽古は昼過ぎに終わり、ここからは自由に1日を過ごす。

でも決まって..、


「おい金色!決闘しようぜ」


と、言ってくる人がいる。

ボクの武器にネンチャク草を付けたり、色々と嫌がらせをしてくる連中のリーダー。

これで勝ったら明日からさらに酷い嫌がらせが始まる。

木製の武器を使って行われる決闘は参ったと言えば終わるので適当な所でいつもボクが負けを認めて終わりにしている。

今日もそのつもりだ。


「今日勝てば100連勝だ、お前は100連敗だから罰として明日からお前の妹も俺達の稽古相手にするからな!」


突然言われた言葉の意味が一瞬わからなかった。どうしてボクの妹が出てくるのか。ボクは「妹は関係ないじゃん!」と強く言うと、ボクの声を潰す様に「うるせー!お前が勝てばいいんだよ!」と返され、同時に木製の剣をボクへ振り下ろす。

言い返す暇も、返す言葉も見つからないまま決闘は始まってしまった。


毎日、毎日ボクに絡んでは決闘を申し込んでくる。ボクは毎日相手をしている。そのせいか...動きや癖が面白い様にハッキリ解る。

ボクは回避出来る攻撃をわざとガードしたり、当たらない場所を狙ってカタナを振ったりしている。


「おいおいプンプンどうした?今日勝てなきゃ本当に、明日からお前の妹も決闘相手にするからな!」


100戦しても何も変わらない動きじゃ相手が増えても変わっても、何の意味もない。

それに...どうして妹まで、モモカまでターゲットにされるの?髪の色は他の竜騎士族と変わらないボクの妹...色が違うボクの妹だから?


そんなの....、モモカは関係ない。


強く心で叫び1歩大きく踏み込み木刀を振るった。この時ボクは無意識に剣術を使ってしまった様でボクの攻撃をガードしようとした相手の木剣を砕き、それでも勢いは止まらずそのまま相手の腕を叩いた。



「!?、ご、ごめんなさい」



相手に木刀がヒットするまでボクは剣術を使っていた事に気が付かなかった。激しく倒れ木刀がヒットした腕をおさえ苦しみ泣く姿を見て、ボクは何度も謝った。


「うぅ...許さないからな...プンプン」


そう言いボクを鋭い瞳で睨み、連中は帰っていった。

これは大変な事をしてしまった...明日から嫌がらせが強くなるのはいい。でも、今のでモモカがターゲットにされたりしないだろうか?

ボクのせいでモモカが嫌な思いをするのは堪えられない。

でも...今更どうすればいいんだろう..、、。


結局どうする事も出来ずボクは家へ帰った。


帰り道、ボクは両手を合わせて「神様お願いします、モモカだけは守ってください」と空に願ったり、明日は稽古を休んでモモカの近くにずっといたいなぁ。と考えたりしていると家に着いてしまった。


溜め息を外で吐き出し和國の建築を真似て作られた引き戸を開く。ガラガラと聞きなれた音と手応え、そして毎日必ず届く声がボクを迎える。


「あ、お姉ちゃんお帰りー!」


ドアを開くとすぐに妹が走り寄ってくる。

ボクとは違って濃いピンク色の短い髪を撫で、ただいま。と答える。するとモモカは今日の成果を楽しげに言う。


「今日ね、わたしママに褒められたの!ハナマルもらったんだよー!」


照れ笑いするモモカをボクも褒め、また頭を撫でる。

モモカは8歳でボクは11歳。

武器の稽古を始めて1年だ。モモカはまだ稽古をする歳ではないけど、母と毎日の様に治癒術の勉強をしている。

10歳になる頃にはきっと凄い治癒術師になっているんだろうな...。

母の治癒術知識を教えてもらっているだけで成長スピードは他の子と全然違う。それにモモカは治癒術の才能もあるらしく、1度教えた事をすぐに理解し、過去に覚えた知識と今覚えた知識を上手く組み合わせ、自分の力で新たな発見をする。

体力回復魔法とバフ魔法を覚えた数時間後に自分で状態異常治癒魔法を発見した時はボクもさすがに驚いた。


父も母もクチを揃えて「モモカは凄い治癒術師になる」といつも言っている。ボクもそう思う。

家族だけではなく、里のみんながモモカに期待していて、モモカもその期待を裏切らない成長をしている。

そんなモモカに嫉妬する子もいる。さっき決闘した連中もそうだ。

だからボクは妹を、モモカをそういう人の毒から守りたい。















モモカが産まれた時、ボクは3歳だった。まだ子供の子供だ。でもボクは妹の事をすぐに受け入れ、母や父がモモカに付きっきりになっている様に、ボクも精一杯モモカの面倒をみた。お姉ちゃんとしての自覚とか、そんな難しい事じゃなく、ただモモカがボクの前に来てくれて凄く嬉しくて。


ボクが7歳、モモカが4歳になった頃ボク達は2人でお菓子を買いに行った。手を繋いで離れない様に。

その時モモカは何かを見つけ、手を離してその何かの方へ走ってしまった。ボクは必死に後を追おうとしたけどすぐにモモカは人に紛れ込み、見失ってしまった。

それでも必死にモモカを探して、見つからなくて、探して、泣きそうになった時、モモカが高い所からボクを呼んだ。急いでボクはモモカの所へ行き怒ろうとしたがボクが言葉を言う前にモモカが「お姉ちゃんの色みんなと違うから、離れてもすぐ見つかるね!お姉ちゃんの金色大好きだからモモカ覚えてるんだよ」と笑顔で言った。ボクの髪色が...みんなと違う金色が大好きとモモカは言ってくれた。

子供だったけど、いや....子供だからこそ、言葉1つで心が喜んだ。

みんなと違う色がずっと嫌だったけど、この時ボクは自分の色も悪くないかな、と思えた。


その後モモカは両手で何かを包んでいたらしく、ゆっくり手を開き、驚くモノをボクに見せてくれた。

黄緑色に光る小さな、妖精。エルフではなくフェアリー。

小さな妖精はモモカの手から翔び、ボク達を1度見て優しく笑って遠くの空へ帰って行った。

気がつけば空は真っ赤に焼け、子供の心にも響く綺麗な夕焼け空と竜騎士の里...綺麗な景色を妖精が見せてくれた。



「お姉ちゃん、わたしとずっと一緒にいてね」



笑顔でモモカは言った。

あの日、ボクはモモカとずっと一緒にいる...いたいと心から思った。父や母だけじゃなく、ボクもモモカを守ってあげるんだ。














今ボクはあの日の事を思いだし、モモカを見て言う。


「モモカ、何かあったらすぐお姉ちゃんに言うんだよ?すぐ助けてあげるから」


「うん、ありがとう。お姉ちゃん大好き!」


いつも変わらない笑顔で返事をするボクの妹。


モモカの笑顔を守る為なら、ボクはあの連中にも負けないよ。どんな人にもモンスターにも絶対に負けないよ。



絶対ボクが守ってあげるからね。









母が夕食の準備を始める時間になった頃、モモカがボクを手招きするのが見えた。

左の人指しゆびをクチ元で立て、ボクを呼んでいる。

母にバレない様に来て。の合図だ。


ボクは母の眼を掻い潜り、モモカの所へ到着した。なぜ母にバレない様に なのか解らないが何かあるんだろう。


「ついてきてお姉ちゃん」


何かを大切そうに抱いているモモカは到着したボクへそう言い、里で一番大きな山の山道へ入り進むとボロボロの小屋がひっそり建っていた。

誰も使っていない山小屋...その小屋の扉の前まで行き、モモカは持っていた紙袋からパンを取り出した。


「モモカそれって」


「お家から持ってきたの!パパやママには内緒だよ」


「それお父さんが毎朝食べる堅いパンでしょ?バレたら怒られるよ!」


「うん、だから内緒なの!」



続けてミルクを取り出し、紙袋をポケットへ押し込む。

パンとミルクを内緒で...犬や猫でも隠しているのか?

それなら父や母に話せば飼わせてくれるんじゃ...。


ボクの戸惑いを気にする事なくモモカがボロい木製の引き戸を3回ノックする。

すると内側から3回、妙な間をあけたノックが返ってきて、ガタガタと音がなる。


「お姉ちゃんドアあけて」


両手で大事にパンとミルクを抱えているのでモモカはドアを開けない。ボクが変わりに開けると...小屋の中は小さなランプで照らされていた。





その小屋に居たのは犬でも猫でもなかった。







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