さいごの願い

冬空デート

 木枯らしが吹き、落ち葉が舞う。

 吐く息は白くて、空は曇天。だけど雪が降る気配はなくて。寒さだけが身に染みる。

 防寒は完璧にしてきた! もこもこのダッフルに、スカートは外せなかったから、寒さ対策に厚手のタイツだ。タイツはいい。生足も隠してくれるし、暖も取れる。先人はなんて発明をしてくれたのだろう。

 ただちょっと爪先で縫製されてるから、穿くのが手間だけど。薄手のは伝線する危険性もある。地味に春先のなれてないときに何枚かダメにしたことがある……。


 そして、ボクは今、人を待っている。


「よっ、待たせたな」


 待ち合わせ場所に指定したのは学校の校門だ。

 お互いの家から一番近いのはここだし。

 待ち人は瑞貴。夕飯までは流石に家に戻れないだろうから、折角だし沙雪さんに瑞貴を紹介しようかなって。


「待ってはいないよ? 暇つぶしに付き合ってくれてありがとね」

「……暇つぶしだったのか」


 あからさまにがっくりと肩を落とす瑞貴に、ボクは小さく笑う。


「えっと、今日はあんまりデートって感じじゃないから」


 どうせだし、説明はあったときでいいやと後回しにしたツケが来てる。

 だから、早い内に瑞貴に説明してしまおう。


「ふむ……何かあったのか?」

「うん。うちの桜華の両親が帰ってきた」

「と言うことは、家族会議中で閉め出されたのか」

「そう言うことです」


 察しが良くて助かるなあ、ほんとに。


「なるほど……俺は暇つぶしの相手か」

「そういうわけじゃあ!」

「冗談だよ」


 ボクが声を荒げたら、笑ってそんなことを言う。

 無意識にでも頬が膨らんでしまう。全くもう、失礼だなあ。


「沙雪さんから」

「うん? 沙雪さんって、あの沙雪さん?」

「うん、あの沙雪さん。新作できたから着にこないかって。瑞貴だけまだ会ったことないだろうし、会わせたほうがいいかなって」

「ほう……一体どんなおっさんなんだ」


 えー……。瑞貴の中じゃ沙雪さんっておじさんなんだ。

 ボクはそうでもなかったんだけどなあ。受ける雰囲気とか、言葉の選び方が大分女性的な気がする。


「それは会ってからのお楽しみって事で」

「お、おう……」


 どうしたんだろう? 急に顔を背けて。


「どうしたの?」

「い、いや、何でも無い、何でも無いぞ!」

「怪しい!」

「気にするな、ちょっとその、見惚れただけだから……」

「あ、うん……ありがと」


 見惚れたの一言で、自分の顔が真っ赤になってしまってるのがよくわかる。

 頬が瞬間的に熱を帯びて、外気の寒さが心地良く感じてしまう。

 好きな人にそんなことを言われただけで、こんな風になるなんて……。


「そういえばさ、データ渡すの忘れてた」

「んー?」


 なんだろ? 瑞貴だけが持ってるデータって。

 ボクに心当たりは全く無い。


「帰り際に、折角だから写真撮っとこうって話になっただろ」

「あー……。すっかり忘れてた!」


 そういえば、帰る間際に折角だし記念に写真撮ろうぜってなって、写真取ったんだった。ボクと瑞貴のツーショットと、なぜかボクだけのピン。

 写真の写り方は散々沙雪さんに指導されたから、それなりに写りの良い物になっているとは思うけれども。

 まさか、男のボクの写真を撮ることになるとはおもってもいなかった。

 最後にとったのは、高校受験前の写真くらいだったし。


「でもなんで、またボクに?」

「いや、まあ、ほら、一応恋人同士だし、それに男のお前とも友達だと思ってるし」

「ひゃあ……」


 な、ななな、なんて恥ずかしい事を……。

 考えないようにしていたことを面と向かって言ってくるとか、鬼か! 瑞貴は鬼か!

 嬉しいけど!


「そう言う反応は新鮮だな」

「う、うるさい!」

「割といつも通りだったからちょっとな……」

「だって、ボク、割と早いうちから好きだったし……」

「お、おう……」


 なんだこれ……。

 攻められればボクが照れ、攻めれば瑞貴が照れる。

 なんだこれ!! これがリア充か!


「なんというか……あれだな」

「うん、あれだね」


 アレという言葉だけで言いたいことが分かる。同じ気持ちなのは嬉しい。

 いやだって、面と向かって言っちゃった物は仕方ないけど、恥ずかしい。


「よし……いこうか」

「そうだね、いこっか」


 お互いに笑い合って、出発する。


「お手をどうぞ」

「え……あ、うん!」


 こういうのはずるいって思う。一歩先に進んで振り返って、ボクに手を差しだしてくるなんて!

 その手をしっかりと握れば、指先にひんやりとした冷たさを感じ取れてしまう。

 だけど、握った瞬間から、じんわりと溶けていくような暖かさに包まれて。


「手、冷たいね」

「燈佳もな!」


 と、そんなことを言い合ってしまう。

 それだけで、幸せな気分になる。だけど、それは一時的な物で。

 時間が過ぎされば、嫌でも待っている現実がある。


 幸せな思いのまま、なんとかその対処法を考えないとだ。

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