いつもと違う日

 休みを挟んで、火曜日。ボクの手荷物はいつもより多い。

 ちょっと気合い入れてホールケーキなんて作ってみた。何が好きか分からないから、オーソドックスなフルーツを間に挟んだ生クリームたっぷりのケーキだ。

 スポンジがちょっと固めになっちゃったけど、美味しいと思う。


 ちなみに余った材料で作られたものたちはボク達のお腹の中に消えていきました。甘いの美味しい。太るって分かっててもやめられない……。おいしかった。


 登校して来て、いつもと違う感じがした。

 というより、下駄箱の中に何通か手紙が入ってる……。

 ボクはもう学習したんだ。この手合いには碌な事がない。きっとまたボクをレイプするんだよ。そうに違いない。怖いから見ずに捨てるべきか……。


「どうしたの?」

「おてがみいっぱいだあ、わあい……」

「目が死んでる。普通にトラウマになってる?」

「流石に怖いです……」


 桜華に束を見せつけた。

 枚数は五枚とかそこら辺だけど、封筒が全部違うから差出人が違う事だけは類推できる。ついでに宛名の字体も全部違う。角張ってたり、達筆だったり……総じて男の字だ。もうそれだけで怖いんだけど。

 律儀に差出人の名前が書いてあるのが三通。どれも上級生だ……。


「大丈夫……?」

「大丈夫じゃない……」

「まあ、あれだけ派手に目立てば、上級生からも来るよ。燈佳は可愛いんだから」

「やっぱりあの劇なのかな……?」

「初日に衣装着て練り歩いたのもあると思うよ」


 そうだったのかあ……。

 うーん、ボクも大分祭りの気に当てられてた感じだなあ……。

 まあ、いっか。人の目に晒されるのはなんか大分なれてきた。気にしなければどってことない。


「返事はどうするの?」

「勿論全部断る。ボクが好きなのは……」

「うん、分かってる。中身読んで、返事の仕方考えよっか」

「ありがと。ホントはこういうの一人でやらないといけないんだろうけど……」

「ううん。私が好きで、燈佳の手伝いしてるんだから気にしないで」

「ありがと」

「それより、あの後、瀬野くんから何かあった?」


 ……実はちょっとだけ期待したんだけど。ボクが暴走しちゃって抱きついたせいで、何もなかった。でも、流石に緋翠を振ってすぐなんて、瑞貴の事だし無理だよね。ボクだって、同じ立場だったら無理だ。


「なかったよ」


 首を振って答える。


「そっか……」

「というより、良く我慢したね、聞くの」

「うん。聞きたかったけど、聞いちゃいけない気がしたから。それにケーキ焼いてたし何かあったのかなって」

「今日、瑞貴の誕生日だから」

「あ、そうなんだ?」

「ボクも忘れててふと思い出したんだけどね……」


 本当に失礼だと思う。瑞貴は律儀に覚えててくれたのに、ボクは文化祭の三日目にふと思い出した位に記憶の彼方に追いやっていた。

 誕生日プレゼントまで貰っておいてね。

 クリスマスは、ちょっと気合い入れよう。何がいいかな? 冬場にならないと何身につけてるか分からないし。

 ただ手作りの形に残るものは重そうだからやめよう。ケーキとかの方がボクらしいし。そっちの方が気軽だ。


「だから、慌てて作ったんだね」

「うん」

「お返しは大事だもんね、偉い偉い」


 そんなことを言って、桜華はボクの頭を撫でる。

 子供扱いされているようでちょっと気分が悪い!


「子供扱いはしない!」

「えー……」

「それより、これの対策考えてよ」


 ボクはずいっと五枚の封筒を見せる。

 本当に今までこんなことがなかったから、どうしたらいいか分からないんだ。

 こんな急にどちゃっと来ても本当に困る……。


「うん、じゃあ、教室に行こうか」


 桜華がそう言った。ボクも頷いて後に続く。

 そういえば、下駄箱に瑞貴の靴も緋翠の靴も見当たらなかったけど、まだ来てないのかな……? 緋翠はなんとなく予想出来るけど……。

 瑞貴が休むのは珍しいかも。

 基本ボク達の登校時間はギリギリだし、主に桜華の寝ぼすけのせいで。

 だから、二人より先に到着するって言うのがちょっと珍しい。

 登校時間もいつも通りだし。だからほぼ確実に休みなんじゃないかって思う。


 教室についてバッグから荷物を取り出していたら、スマホに通知が入っていた。

 瑞貴からのメッセージだ。時折朝から他愛のないメッセージが届くことはあるけど……。一体どうしたんだろう?


『風邪引いたから、休むって伝えてくれ』


 嘘。あ、そういえば抱きついたときに若干体が熱かったけど……。

 そっか……風邪かあ……。まさか緋翠も一緒にいるって事はないよね……?

 二人でえっちなことしてるから休むとかってないよね……?

 風邪が口実って事はないよね……?


「ごめん、ボク瑞貴の所行ってくる」

「いきなりどうしたの……」

「風邪引いたって。怪しい」

「怪しいって何が?」

「緋翠と瑞貴の二人で……、その……」

「えっちなことしてるかも?」

「……うん」


 二人ともいないのが怪しいんだ。

 口では断ってても実は裏でって事も考えられるし。

 でもだからといって、そうなったらボクにはどうしようもないんだけど。

 でも、瑞貴が本当に風邪なら心配だし……。


「それより、瀬野くんの家の住所知ってるの?」

「あっ……」


 そうだった……。

 瑞貴の住んでいる所知らないや。


「とりあえず、落ち着こう? ひーちゃんには私から連絡するから」

「うん」


 頷く。

 緋翠と連絡がつくまで、ボクは貰った手紙を読んだ。というか読まされた。

 中身は全部ラブレターだった。差出人の名前が書いてある三通は、律儀にも返事の手紙を置く場所と返信用の便せん及び封筒が入っていたし、残りの二人は呼び出しだけで名前すら無かった。


「ひーちゃん、今日来ないって。瀬野くんと顔合わせられないからって」

「そっか……」

「後、二、三日はこなさそう……」

「そんなに辛いんだ?」

「ん……私も最初は無理してたし」

「そっか……」


 失恋をしたことがないから分からない。

 だけど、桜華がそういうんだから、きっと相当辛いんだろう。

 はあ……。なんだろうなあ、このケーキちょっと無駄になっちゃった。

 また回復したときに作ってくればいいんだけどね。

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