ふたりのこれからと、ボクのきもち

 朝、自然と目が覚めた。日は昇り始めで、まだ待ち合わせの時間には余裕があるはずだ。

 流石にちょっと眠い……。


 昨日の夜のキスを思い出す。凄かった……。キスを求めたくなる意味が分かる……。ボクも瑞貴とするときはあんな風に積極的になれるのかな……。


 でもあれはボクの与り知らぬ事だ。

 隣には泣き疲れて寝ている桜華がいる。

 腫れぼったい瞼があの後相当泣いたのだろうと言うことは想像に難くない。そもそもが桜華が寝付くまでボクは眠れなかったわけだ。

 ずっと、どうして私じゃダメなのって言っていたけれど、最終的におまじないをした自分を責め始めたから寝返りに託けて、桜華を抱きしめてあげた。

 ボクを責めるのはいい、だけど、自分を責める事をしちゃダメだ。


 桜華を振った事に対する罪悪感、親友でいようと言った自分の卑怯さ。

 結構来るものがある。好意を利用しているようで……。いつか、耐えられなくなる日が来そうだ。

 その時、ボクは桜華に相談を持ちかけてもいいのかな……。


 その時のボクらの関係がどうなっているのか次第だと思う。

 それに、ボクは多分この家にいない方がいいんだとも思う。

 ボクがいれば桜華はずっとボクに振られた事を引きずるだろうし……。


「ん……」


 どうやら桜華も起きたみたいだ。ボクが起きたからつられたのかな。


「おはようってひゃあ!!」

「よかった……燈佳まだ居てくれた……」


 急に抱きしめられてびっくりした。

 ボクがいなくなってると思ったのだろうか?


「ねえ……私の事は気にしないでいいからね」

「どういうこと?」

「いなくならないで。この家にずっといていいから」

「うん……ボクも行き先がないから、居ていいって言ってくれるのは嬉しい、けど……」


 実家には帰れない、ボクのこの姿を見て、榊燈佳だって信じる人は居ないだろう。あまりにも別人過ぎる。

 瑞貴は性別が違うからダメ。ボクは別にいいんだけど、瑞貴が嫌がると思う。あの処理って大変だと思うし……。

 緋翠ちゃんは事情を話せば暫くは泊めてくれるだろうけれど……。やっぱり迷惑は掛けられないし、瑞貴を好きなライバルとして、決着がついた時にまた今日みたいになりそう。

 鈴音先生の所も考えられるけれど、論外かな。先生の家からボクが登校なんてしたらあらぬ噂が立って、鈴音先生の立場がなくなりそうだし。

 すでに、八方ふさがりだ。だから、笹川家に居候していいって言うのはとても嬉しい申し出だ。

 甘いかも知れないけれど、今のボクの居場所はここしかない。


「大丈夫……私振られたからってタダじゃやられないから。諦めてないから」

「えっと……」


 困った……。

 桜華っておすましで甘えん坊で、そして往生際が悪いんだった。

 ボクのお気に入りのぬいぐるみを奪う位駄々こねるんだった。忘れていたよ。


「ボクが振り向かなくても辛くない?」

「辛い……だけど、欲しいものは欲しいから。まだ色々手段あるし……癪だけど、奴の愛人とか……」

「待って待って、不穏な言葉が……」

「寝込み襲ってもいいって許可貰ったし、これからもっと激しいことするのもありかなって」

「待って待って待って。ボク許可出してない。ただ寝てたら何しても気付かないって言っただけ!!」

「大丈夫、気持ちいいよ?」

「それはちょっと……気に、なる、けど……ダメだって。瑞貴に悪いから……!」

「その瀬野くんはひーちゃんを選ぶかもしれないのに……?」


 ぐう……。痛いところを突かれた。

 そうなるとボクは悲しい。けれど、結果は受け入れるしかないし、もし振られたら……ボク生きていけるのかな……。


「私、二番目でもいいよ。燈佳がこっち向いてくれるなら」

「えっと……。今は考えられないよ。だってボク瑞貴が好きだし。それに多分ボクも往生際悪いと思うから」

「そっか……やっぱり奴のハーレムに入るしか……癪だけど……」

「あのう、桜華ちゃん? ここ、日本だからね?」

「重婚できる国に移住すればいい。パパに探して貰う」

「こういうときだけ、親の権力使うのやめようか!?」

「ぶー……」


 可愛くそんな事言っても、ボクは瑞貴の方しか向いてないんだって……。そりゃあちょっと夜のキスは悪くないなあって思ったけど……。後女の子の気持ちいいところとか気になるけれど……。

 そういうのって瑞貴に開発されたいし……って、ボクが変態見たいじゃないか!!


「うん、元気出た。燈佳、私諦めない。絶対燈佳と一緒になる、どんな手使っても」

「元気になったならいいけど、言葉がいちいち不穏なんだけどー……」

「ん、大丈夫。諦めないってだけだから。ちょっと今日は早くでようか、美容院行きたい」

「いいけど、髪着るの?」

「うん。心機一転で燈佳を落とすために」


 振られたら髪を切る人がいるのは存在だけは知っていたけれど、まさか桜華もだったなんて。でも、微妙に意味が違ってる気がする。

 ボクは落ちないよ? 瑞貴が一番だよ……?


「勿体ないなあ……。桜華の髪綺麗で好きなのに」

「……ちょっと気持ちが揺らぐ。けど、また何年かかっても伸ばすし」

「そっか」


 桜華が決めたなら、ボクに文句はない。

 だけど、なんか結局元通りって感じなんだけど……。いいのかな。

 諦めないって言ってるし。


「でも、寝込みを襲うのはダメだからね。お風呂は……たまになら一緒に入ってもいいけれど……」


 だって、ボク的にその脂肪の塊がどうやって発育していくのか理由が知りたいし……。あわよくばボクも……せめてBくらいに……! 揉めるくらいほしい。今でもちょっとは揉めるけど……


「それは、エッチなことしていいってこと?」

「だーめーでーすー」

「ぶー……ちょっと燈佳、どうしたの?」


 言われて、頬を伝う涙に気がついた。


「あれ、おかしいな……」


 泣くつもりなんて無かったのに。

 ボク、どうしてほっとして涙を流しているんだ……。


「ご、ごめん……なんか涙が止まらない……」

「ん……私の為に辛い決断させてごめんね」


 桜華にはボクが流してる涙の意味が分かってるのかな。

 ボクには分からない。

 ただ、いつもみたいな会話ができてほっとしたら、流れた。


「いつも通りでいいから……。私、諦めないから。燈佳のこと諦めないから、いつも通りで、いてね?」

「うん……うん……ごめん、すぐ泣き止むから……ちょっとだけ、待って」

「ん。分かった」


 もう一度、今度は桜華に優しく抱きしめられてボクは少しの間だけ涙した。

 少しは変わったけれど、いつも通りの関係性でいられること、他にも様々な事がちょっとだけ解決した。

 そして、確かに自覚したボクの恋心。

 瑞貴に取っては男から向けられるこの気持ち悪い恋心……。

 緋翠ちゃんみたいに純正じゃないこの気持ちは、果たして抱いても良いものなのだろうか。


「……緋翠ちゃんに負けたくないよぅ」

「私だって、瀬野くんに負けたくない」


 ああ、この気持ちが、桜華がずっと瑞貴に抱いていた気持ちなのか……。

 辛いなあ。負けたくないなあ。

 ……それに知られるのが怖いなあ。

 桜華はよく、この恐怖に打ち勝ってボクに想いを告げてくれたと思う。

 本当に凄い……。それだけでも尊敬できる。


「桜華って凄かったんだね……」

「今から惚れてくれてもいいんだよ、そしたら私は嬉しい」

「んーん、今は瑞貴の事で一杯だから」

「そっか、残念」


 これから、こうやって事ある毎に責めてくるのかな。

 うう、それはそれで少し辛いかも知れない。けど、諦めないって宣言されたし……仕方ないか。

 ボクもこれから、緋翠ちゃんに勝つ為に頑張らないと!!

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