自爆、そして……!

 自爆。見事なまでの自爆である。

 お風呂から上がったら、玄関で靴を脱いでいた瑞貴くんとばったり。どうやら一度着替えを取りに戻っていたみたいだ。手には見慣れないバッグがある。


「お、おかえり……」


 目が合って、瞬間的に頬が熱くなる。

 やばい……。ちょっとさっきの事がフラッシュバックして来た。うぅ……。


「ああ、ただいま。顔赤いけど大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよ」

「そうか? ううむ、しかし……湯上がり姫さま。中々に……!」


 まじまじとボクを見つめる瑞貴くんに、ボクは盛大に恥ずかしい想いをしてしまう。

 もう、顔がゆでだこみたいに真っ赤になってるのが自分でもよくわかる。


「ご、ごめん……ちょっと落ち着くまで見ないで!!」

「え、あ、ちょ!」


 逃げた。制止を振り切って、ボクはリビングに逃げた。

 結局顔を合わせるのには違いないんだけど、そのお風呂でしてしまった事を思い出して、二人っきりになるのはちょっときつい。


「桜華ちゃん助けて!!」

「どうしたの……? 顔赤いけど」

「うぅ……」

「えっと……。んー……うーん……。大体想像ついたけど」


 桜華ちゃんが難しい顔をしてる。

 多分凄く分かりやすいのかもしれない。けど、ボクだってわけが分からないんだから、助けてほしい!


「なんか燈佳に逃げられたんだけど」

「ぎゃあああ!!」

「えっと……。俺、マジで何かしたか……?」


 ボクは桜華ちゃんの後ろに全力退避して、首をふるふると横に振った。

 してない。何もしてない! 悪いのはボクなんだけど。ボクなんだけど!!


「瀬野くん先にお風呂……の前に」


 桜華ちゃんがボクに耳打ちしてくる。


「下着とかちゃんと分からないようにした?」

「ふえへ!?」

「……だと思った。行ってらっしゃい」

「い、いってくる!!」


 脱兎である。脱兎の如くリビングを抜け出して、洗面所に向かう。

 入り口に立ち尽くす瑞貴くんに、フェイントを掛けて道を開け、脇を通り抜けて全力で洗面所に向かうのだ!

 危ない。脱ぎ散らかした下着を纏めて、洗濯ネットに入れて、さらにバスタオルで覆う。

 流石に恥ずかしい。だって、実は今日あの時ちょびっとあれで汚れてたし……。うぅ、ちょっとの恐怖で漏れるのは簡便して欲しい。盛大にやらかした訳じゃ無いからいいけど! いいけども!! うわあああん!!

 ばれないように、瑞貴くんが使う用のタオルとバスタオルを用意しておいて、リビングに戻る。


「なんか俺悪いことしたのか……?」

「まあ、存在自体が悪いから。諦めて」

「ひ、ひでえ……」


 ソファーに深々と腰掛けた瑞貴くんは大きく項垂れている。

 違う。違うよ! 瑞貴くんは悪くないんだけど。悪くないんだけど。悪いのボクなんだけど!

 顔合わせられないから、桜華ちゃんの座ってるソファーの後ろに体育座り。無理。顔合わせるの無理。


「瀬野くん、お風呂どうぞ。私長風呂だから」

「ん、ああ。じゃあ先に入るわ。流石にこの時期に人一人負ぶって歩いたら汗かいたしな」


 ちょっと良い匂いだった。ボクはあの匂い好きかも……。

 って、違う違う。違うんだよ!! そうじゃないんだよ!!

 うわあ、もう何これ。どうなってるの……。

 早くこのぴんくいスイッチ切れてええええ……。


「とりあえず、燈佳ちゃん落ち着かせるから、できれば長めに入っててくれないかな。一時間くらい」

「おい、俺に逆上せろというのか」

「一時間で落ち着くかも怪しいんだけど」

「まじか……。頑張ってみるわ……」


 ボクは少しだけ顔をだして、


「む、無理しないでね……悪いのボクだから……」


 そういうのがやっとだった。


 瑞貴くんを送り出して、なんやかやと用意をして。

 ドライヤーを当てられながら、


「一人でしたんでしょ」


 桜華ちゃんがもれなくピンポイントで当てて来やがった!?


「……うん」

「やり方知ってたんだ」

「詳しくは知らないよ。だけどその、磨りガラス越しに見えた桜華ちゃんのを見様見真似で……」

「燈佳ちゃんのえっちー」

「うぅ、返す言葉が無い、です……」


 ちくしょー……。

 瑞貴くんが居なくなってくれたお陰でちょっと平静にはなれたけど。桜華ちゃんがいつもの四割増しくらいでボクを弄ってくる。ひどいと思う。


 桜華ちゃんがボクの髪を櫛を器用に使って二つに分ける。それから、片方を三つにわけて、目の粗い三つ編みを編んでいく。

 最初は二つ結びだったんだけど、朝起きたら酷い事になっていたから、一応編むことにしたのだ。だけど、ボクにはできないから桜華ちゃん任せ。いい加減これも自分でできるようになった方がいいと思う。けど、そう言うと必ず桜華ちゃんが覚えなくていいって言ってくるのだ。


「で、なんかあって、瀬野くんの事考えたんでしょ」

「まさしくそのとおりです」

「それは顔合わせづらい。ちょっとその気持ち分かるから。アドバイスはしたくない」

「なんで!?」

「もっと恥ずかしい思いをすればいいのです」

「ひどい!」


 珍しく桜華ちゃんがボクの敵だ。いつも味方だとばかり思ってたのに! 肝心なときに裏切りやがって! どこの竜騎士だ!!


「……なんか変なこと考えた?」

「いいえ」


 でも、余計な事を言って痛い目に遭うのはボクなので今は何も言いません。


「大丈夫、その内慣れるから」

「ぐぬぬ……」


 今すぐにでも解放されたいけど、どのみちこれは抱えないと行けない想いな訳で。

 受け入れるしか無いのかな……。


「そういえば」

「んー?」

「流石にまだ寝るには早いから、暇つぶしがほしいって言ってた」

「誰が?」

「瀬野くん」


 あ、そっか。いつもならこの時間帯瑞貴くんはマスターとして、シェルシェリスにログインしてる。確かに暇つぶしが無いと辛いかも……。


「えっと……」

「私の部屋はダメよ」

「ええー……」


 つまり、眠くなるまで、ボクの部屋に居て貰わないといけないの……?

 本とか適当に渡して、ボク布団被って、がたがた震えながら寝てるのじゃダメなの……。


「燈佳ちゃんが寝るまでは私も燈佳ちゃんの部屋にいるから」

「狭くなりそう」

「じゃあ、部屋に戻るけど」

「嘘ですごめんなさい。居てください、お願いします」


 ボクのパソコンを使って貰うのが一番かな。

 瑞貴くん……ううん、マ・ス・タ・ー・って本読まないからなあ……。漫画は辛うじてだけど、ボクの持ってるの全部読んでそう。

 というか、壁を向いてて貰うのが一番いいかも。顔見えないし!

 うん、そうだそうしよう! マスターには、ボクのパソコン使って貰ってシェルシェリスやってて貰おう。それが一番だ!


 完璧だ。

 完璧なボクのシナリオだ。うむ、これで部屋に居られたとしてもボクと顔を合わせないし。ボクは適当に本読んでいつの間にか寝落ちしてれば完璧だ!


「何か良からぬ事を考えてる感じ」

「今のボクに隙は全くないから」

「まあいっか……。楽しそうだし」


 あ、桜華ちゃんが呆れた。ついでにいうと髪も終わった。

 大丈夫。落ち着いた。そしてプランも完璧だ。だからどんとくればいいんだ!

 ボクの完璧な夜プランにひれ伏せばいいのだ!

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