死ににくい生けない世界
川崎涼介
第一話
気が付くと朝になっていた。昨夜から点けたままのテレビは、午前7時になったことを告げていた。映る人々が明るい声で「おはようございます。」と言って今日が始まっていることを知らせている。おそらくこの人達は、カメラのむこう側では何事もない平穏な日常が行われていると信じたいのだろう。その証拠に挨拶の後、真面目な口調で伝えたのは、無理心中を行った家族のニュースだからだ。
ニュースの内容は、一家が乗った車が猛スピードで崖から海へ飛び下り、通報を受けた警察やレスキュー隊が救助活動を行い、一家の内、女の子だけが意識不明の重体で助けられ、他の家族は死亡が確認されたというものだった。そしてニュースは最後に、「女の子、助かってほしいですね。」と言ってしめた。
けどそれが本音だと信じた人は、何人いるのだろうか。大人でさえ世知辛い世の中なのに、女の子が助かっても生き地獄が待っているだけではないのか。だから親は、道連れに死のうとしたのだろう。でも結果は、女の子だけが死にきれなかった。親は楽にするどころか、逆に苦しめてしまった。女の子は、理解出来るだろうか。自分が独りぼっちになったことを。両親達がもうどこに
もいないことを。その原因が親だということを。何より、親が自分を殺そうとしたことを。そしてそれを理解した時、女の子はどんな反応をするのだろか。嘆き悲しむだろうか。怒り猛々るだろうか。笑い喜ぶだろうか。
兎に角はっきりしている事は、先に待っているのは辛い現実だ。女の子を救済出来る者は誰もいない現実だ。その証拠に、テレビのニュースは既に全く関係ない経済のニュースを伝えていた。そのニュースを流したテレビの持ち主は、その為に行動を起こす気持ちが芽生えなかった。
人間は、世の中によって他人に気を回す余裕がなくなりかけている。けどその世の中を変えようとする人間は、未だにいない。むしろ享受しよう努力している人間が多い。けど世の中に馴染めないあの親のような人間は、無理矢理死のうとする。しかし世の中は、人間の生き死にの自由さえ認めなくなってしまた。あの女の子やなテレビの持ち主の彼女のように。
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