言葉を棄てる少女
とりをとこ
言葉を棄てる少女
人生はゲームだ、まるで。
私には未来が視える。
ビジョンで視える。選択肢として浮かび上がる。
生まれた時からそうだった、私にとって最善の選択を小さい時から選び続けた。
みんなもそうやって生きているのだろうと私は思っていた。
それが違うのに気付いたのは高校生1年の時だった。
さて季節はいつ頃だったか、記憶を巻き戻そう。
春。
あの頃の私ときたら色ボケていて、好きな男の子とどうしたら付き合えるかを本気で悩んでいて、その未来を目指して選択をしていた。
結果、私は幸せを掴んだわけなのだけれど、彼と話しているとうまく話が噛み合わない時があった、それは未来を語るとき。
私はこんな未来を創る、と言っても、彼は「そうなるといいね」としか言わなかった。
私は困った。なんでそんな表現をするのだろう、と。
そんな、ぐにゃぐにゃな表現に板挾まれて私は夏を迎える。
夏。
関係はうまく行っていたけれど、ぐにゃぐにゃな表現は私を不安にさせた。
高校生活は選択肢を選び、着実に私の描く未来へと舵を切っていた。
部活は文芸部に入った。
恋に部活に勉強に、と行きたかったけれど流石に未来が視えると言っても勉強は知識の蓄積だ。
だから、勉強に関しては中の下といったところだった。
そして彼と未来を語り、不安になる。
秋。
その頃、私はとうとう彼との未来の捉え方の違いによって生まれる違和感に我慢がならなかった。
「ねえ、なんで?なんでなの?なんであなたは私と考え方が違うの?未来は選ぶだけでしょう?だけれどなんで、もうしかしたらそんな未来もあるかもしれない、という表現なの?おかしいのは私?」
私がヒステリックに叫んだのは屋上だった。
あぁ、そうだここで私は気付くのだ。
私の観ている物語は選択肢によって選択する物語なのだと。
他のみんなは無地のページに物語を書き記していくのだと。
冬。
彼とは別れていた。
私はとても疲れていて選択肢を選ぶのも適当になっていた。
高校はやめた。
バイトで毎日を凌ぐ。
私には親が居ない事にもここで気付いた。
そう、産まれてこの方、私には親とか育てる人とかそういった人とは一度も会ったことがなかった。
産まれてこの方、とか言ったものの私はどう産まれたかもわからない。
未来はいくらでも選べても、過去は、過去は、過去は。
私は誰なのだろう。
おへそはある、これはへその緒でおかあさんと繋がっていた証でしょう?でもおかあさんの記憶もないし、おかあさんと呼べる育ててくれた人の記憶なんか私の頭の中になんてなかった。
父親だってそうだ、記憶がない。
春。
人生はゲームだ、まるで。
私には未来が視える。
ビジョンで視える。選択肢として浮かび上がる。
生まれた時からそうだった、私にとって最善の選択を小さい時から選び続けた。
小さいときってなに?
いつから私はここにいる?
私は誰なの?
私は誰でもない。
私は誰でもなかった。
私は概念だった。
人がいつの間にか言葉を覚えるように私は私の事を理解していた。いつの間にか。
人は言葉を操る。
言葉は人を動かすし、騙すし、泣かせるし、躍らせるし、黙らせるし、高揚させるし、いろいろ。
そんな言葉が交わされる社会の中で私はルールとして生まれた。
私は産まれなかった。
私は生まれたのだ。
噂に尾ひれがつくように、言葉のルールには尾ひれがついて、肉がついて、人を形創った。
言葉は物質に変換されたのだ。
言葉のルールはすなわちその言語の思考に寄り添っている。
私は、私一人でルールで思考そのものだから、それが形作る社会の空気を理解できた、それを私が選択して導く。
未来は選べていた。
だけれど、もう私はみんなと違うってことが辛い。
絶望。
簡単に絶望という言葉を使えるコミュニティがネットを支配してるけど、私は今、絶望している。重みのある絶望をしている。
だから私は死ぬ。
ルールを破る。
重みのある絶望でルールを埋め尽くす。
夏。
誰もが言葉のために口を開かなくなった。
あー、とか。
うー、とか。
それのために開く。
この国から言葉のルールが抜け落ちちゃったから。
それでも世界は廻っていた。
そしてまた、新しいルールが創られるだろう。
言葉に変わる新たなルールが。
言葉を棄てる少女 とりをとこ @toriwotoko
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