15.リサイクルされたロボット

 僕はリサイクル工場で働くロボットです。


 運ばれてきた山のような荷物をベルトコンベアーへひたすら運び続けるのが仕事です。


 昔はこの工場にも沢山の従業員がいたそうなんですが、機械化が進み、今では白いヒゲを生やした工場長以外は全員ロボットです。


 代わり映えのない決められた仕事をする毎日。でも、そんな暮らしは結構快適です。


 ロボットなので疲れも空腹も睡眠欲もありませんしね。ただひたすら荷物を運ぶ日々です。


 友達もいます。同型のロボットのピートくんです。ピートくんは僕と同じ時期にこの工場にやってきました。


 ピートくんはロボットなのに感情が豊かです。


 工場長も「感情プログラムは抜いたはずなのに、おかしいなあ」と首をひねるほどです。


 ある日ピートくんは言いました。


「この荷物を開けて中を見てやろうぜ」


 やめなよ、と僕は言ったのですが、ピートくんはガムテープをはがし、ダンボールを開けてしまいました。


 するとそこには、僕と同型とロボットが詰められていました。


 僕はロボットに話かけましたが、返事はありません。壊れているようです。


 僕には感情回路は無いはずなのに、なぜだかひどくぞっとしてしまいました。


 ピートくんは綺麗にガムテープを貼ってダンボールを元の形に戻しました。


「今度はこの荷物がどこに流れていくのか見てみよう」

 

 ピートくんはさらに提案しました。


 僕はとてもいやな予感がしたのですが、ピートくんに強引にさそわれ、ベルトコンベアーの先を見に行くことにしました。


 ベルトコンベアーの先には大きな箱型の機械があり、その先はさらに二つのベルトコンベアーに分かれていました。


 そこで選別され、ある箱は右のベルトコンベアーに、またある箱は左のベルトコンベアーに流れていきました。


 僕たちはまず右のベルトコンベアーの先を見に行きました。


 すると青い扉の向こうへ荷物は吸い込まれていき、その先は見えません。


 次に左のベルトコンベアーの先を見に行くと、今度は赤い扉の向こうへ荷物が吸い込まれていきます。


 なんだ右も左も同じだな、そう思ったその時、悲鳴のような世にも恐ろしい叫び声が赤い扉の向こうから聞こえてきました。


 僕たちは顔を見合わせ、怖くなってその場から逃げ出しました。


 そして何事も無かったかのように仕事に戻りました。




 あくる日、ピートくんは工場長に呼び出されました。


「工場長に何て言われたの?」


 僕は尋ねました。


「僕の機体は古くなっているから、新しい機械に生まれ変わらせてくれるのだそうだ。体は変わっても、コアの部分は再利用するから大丈夫だって言うけど、本当かな」


 不安そうなピートくん。


「大丈夫だよ。いいなあ! 新しいボディ!」


 僕はそう言いましたが、内心は不安でいっぱいでした。


 もしかして昨日のアレがバレて処分されるのではないかと思ったのです。


 そうしてピートくんはいなくなりました。


 僕はピートくんの代わりにやってきた新入りのロボットに仕事をおしえました。


 新入りは新型ロボットなので、ほとんど何も教えなくても沢山のことがプログラムされていて勝手に仕事をこなします。


 僕は新型ロボットはすごいなあ、と思いました。


 二、三日が過ぎました。


 僕がダンボールをいつものように運んでいると、ふと何か違和感を覚えました。


 ダンボールを開けてみると、そこにいたのはピートくんでした。


「ピートくん!」


 しかし返事はありません。電源が切られているようです。


 そこへ別のロボットがやってきたので、僕は慌ててピートくんの詰まったダンボールをベルトコンベアーに下ろしました。


 でも、なんだか気になって後を追いかけると、ピートくんの入ったダンボールは左の赤い扉へ吸い込まれていきます。


「ギャー!」


 ピートくんの叫び声がしました。


 ああ、僕はなんて事をしてしまったんだろう。僕は恐怖のあまりガタガタ震えだしました。


「おや、なぜこんな所にロボットが?」


 すると工場長がやってきました。


「しかも旧式じゃないか。まだいたんだな。来なさい、君も新しく生まれ変わらせてあげよう」


 僕は嫌だと叫びたかったのですが、工場長は僕の電源を無理やり落としました。



  ✳︎  



 気がつくと、僕は狭くて暗くて温かい空間に居ました。


 きっとダンボールに箱詰めされているに違いありません。


 僕は一生懸命体をねじったりダンボールを蹴ってみたりしましたが、箱が開く気配はありません。


 箱が動かされる気配がしました。


 きっと箱詰めされたままベルトコンベアーに乗り、あの扉の向こうへと流されていくのでしょう。青い扉か、赤い扉か、どちらかへ。


 扉が開く気配がしました。


 するといきなりダンボールが開けられ、眩い光の中へ放り出されました。


 ここはどこ!? 僕は――


 目を開けるとそこは、ライトの沢山ついた真っ白な天井。


 僕は看護婦さんと目が合いました。


「元気な男の子ですよー!」


 看護婦さんは僕を持ち上げ言いました。


 僕はようやく理解しました。

 僕は人間として生まれ変わったのだと。

 そして色々な事を思い出しました。


 前世で僕は過労のため心身を病んで自殺したこと。


 死んでからは、感情も痛みも疲れもないロボットのような状態にされ、延々と労働を強いられたこと。


 しかし、その状況に満足しきっていた僕への罰なのでしょうか。


 僕の魂はリサイクルされ、また人間に生まれ変ることになったのです!


 ああ、嫌だ!また汗水たらして働く人生に戻るなんて!



「オギャアアアアア!!」



 僕は絶望のあまり声をあげたのでした。

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