第315話 吾輩は祈る。『彼らの進む先に幸があらんこと』

セバスチン……お前はバカだ……全然わかってない。

驚くセバスチン前に吾輩は優しく語りかけた。


「お前は自信を無くしてしまったんだな……」

「そうですよ……自分の作品がつまらなくなってしまったんですよ。だって、評価が自分と合わないんだ。まったくもって結果がついてこないんだ!!そんな中でどうやってモチベーションを保ってっていうですか!!」

「……」

「そうですよ!そうですよ!!俺が悪いんでしょ、何かも!!嫉妬に狂った俺が悪いんすね。読まれないものを書いてる俺が全部悪いって言いたいんだろうー、アンタはぁああああああああ!!」

「落ち着け……セバスチン!」

「書いても、書いても読まれないんだよ。どんなに頑張っても報われないんだよ!!努力が足りないとかアホな奴らはいうけど、努力なんてしたって結果はついてこないんだ!!綺麗ごとばっか並べて上辺の言葉で誤魔かすなよぉお!!結果が全てなんだ、この世界は!!」


アカン……思ったよりもずっと闇が深かった……。奈落の底にも近い闇を吐き出す言葉に、吾輩はとまどいを隠し切れない。ここまで進行した感情は、嫉妬を超えている。闇に近い感情――絶望。


「セバスチン落ち着け……さっき会った、あの作者を覚えているか?」

「ハァハァ……なんのことですか」

「吾輩が星ひとつを上げた作者のことだ」

「ツマラナイあいつですか……それがどうしたんですか?」

「彼はきっとツマラナイと思われてることを知っている。自分でも」

「そんな訳ないでしょ……アイツは書き続けてるんだ」

「いや違う。分かってる」

「なぜです?なぜ、そう言い切れるんです」

「だって、彼は星をくれるんですか?と聞いてきたんだ」

「……だって、貧相なやつでしたからね」

「だけど、彼はツマラナイと思われていても続けている」

「……バカだからですよ」

「バカかもな。けど、自分は信じてるんだ。自分の作品を」

「……救いようのないバカですよ」

「バカだといけないのか?」

「当たり前です。バカなんですから」

「勘違いしているな」

「……何がです?」

「バカってのは強いんだ」

「強い?」

「当たり前だ。バカほど強い者はいない」

「さっきから分かりづらいんですよ。言い方が」

「分かりやすく言ってやる。バカは諦めない方さえ知らないから、バカなんだ」

「……はぁ?」


あれ……わかりやすく言ったつもりなんだけど……伝わってない??

くそー、忘れていた。このコウモリバカだった!!


「彼は星を貰える作品でないことも疑いながらも、信じているんだ。自分の作品を」

「……」

「きっと、彼は続けていくだろう」

「いいえ……あいつもいつか気づきますよ。自分の星が増えないことに」

「そうかもな。けど、セバスチン。お前と比べたら雲泥の差だ」

「は?あいつは星1で俺は30です。全然、違いますよ」

「お前は一生星30だろう。けど、彼はこれからの可能性を秘めている。全然違う、お前とは」

「……あいつのクソつまらないものが星が増えると?」

「やめろ、その言い方。簡単につまらないとか言いすぎだ」

「どうみても、最初聞いただけでわかりますよ。つまらない臭が半端ないですからね」

「……お前がそういう見方をしているのにガッカリだ。お前、彼の話の全部を聞いてないだろう?」

「きく必要もありませんよ」

「あの驚きの伏線も知らないとは……愚か者め」

「伏線?」

「そうだ。あれはしっかりしたストーリがある。一話目は設定の説明に使ってるから、人によっては退屈だ。その先に設定を生かすストーリが隠れている。それをお前は、読んでもいないのにつまらないという。それをやめろと吾輩は言っているんだ!!」

「……」

「お前は楽しみ方を全然わかってない。読むのも考えると一緒だ。色んなストーリー構成や設定、キャラがあるんだ。それをお前は全然わかってない」

「だけど、あれは星1です。あなたが慰みであげた応援の1だけですよー。それがあの作品の価値です!!」

「全然違う。今☆1だ。これから先はわからない。さらに言えば、いくらでも書き直し可能だ。どうなるかなんて予測もつかん」

「はぁ~??正気ですか???さっきから!!」

「正気だ」


正気も正気。何も間違っていないと思ってる。吾輩、バカだから。


「彼を見ていて何も感じなかったのか?」

「……」

「彼は楽しそうに自分の作品を語りだしたのを見ただろう」

「……」

「今のお前とどっちが幸せそうだ?天国に近そうだ?」

「……あいつもすぐに絶望しますよ……この世界に」

「それはどうだろうな。わからないさ。もしかしたら天国にいくかもしれないぞ」

「あなたの言ってることはずっと希望的観測ばかりです……無意味な意見ばかりだ」

「そうかもしれない。だとしても、吾輩は彼を信じるよ」

「……」

「だって、彼の熱量は心地よかったから」

「……そんなのがなんだって言うんですか?」

「そんなの?大事なことだよ。人は好きなことをやってる時が一番輝くんだ。お前にもあったはずだ、そういう時期が……セバスチン」

「……」


うむ、塩らしくなってきた。やっと、絶望の淵にまで戻ってきたな。あと少し。間違えないように頑張ろう。


「もし、悪い奴がいたとしてもだ、お前が作品を捨てる理由にはならないんだよ」

「……」

「もう一度、もう一度でいい。自分を信じることから始めてみろよ。セバスチン……」

「……ダメだったら……どうしたらいいんですか?」


うっ……。これを言われると辛い。なんでもかんでもうまくいくとは言い切れない。


「ダメだったら……そうだな……」

「何ですか?」

「ダメでもいいんじゃないかな?」

「……良くないです」

「書籍化できなくてもいいんじゃないか?」

「書籍化しなきゃ意味ないじゃないですか!」

「どうして?」

「読まれない!!」

「それは違うだろう。5人は読んだだろう」

「えっ?」

「それにこれから先は増えるんだ。もっと多いかもしれない。100人になるかもな。千人になるかもよ!」

「……だからなんですか?」

「読者を持って、作品は完結する。お前の物語は100人の心の中で生き続けるんだ。それ以上に何が必要なんだ?」

「……」

「お前が求めてるものは読まれたいってことだろう?」

「……そうです」

「なら、目的は達成しているんだ。数に違いはあれども」

「……」

「評価に答えを求めすぎるな、セバスチン。お前の作品をおもしろいと思ってくれた人がいた時点でお前の勝ちなんだよ」

「……それで満足していいんですかね……」

「いいんだ」

「……天国にいけないといいことないんですよ?」

「それは天国を過信しすぎだ。天国もこことさして変わらない。読む読まれ内の競争が、買う買われないの競争に変化するだけだ。書籍化を天国なんていうのはおかしいよ」


よし!!あと一押し!!


「考え方を変えれば、どこでも地獄でどこでも天国だ。忘れるな。お前がやりたかったことを。書きたかったものを」

「……ハ……イ……」


人は結果が伴わない時、自信を無くす。明確な目標があればあるほど。勝ちたいという想いが強いことは悪いことではない。それが原動力になるなら。足を引っ張るようなものになるなら――切り離した方がいい。いつでも見方を変えろ。考え方を変えろ。そうすれば、違う景色が見えてくると思う。


吾輩は町にセバスチンと一緒に戻ってきた。あるところで足を止めてしまう。


「あっ!」

「……星が増えてますね」

「だな♪」


さっき星1つ渡した作者の星が2つに増えていた。彼の可能性が一歩膨れ上がったのだ。


「セバスチンも読んで来いよ」

「えっ?」

「きっと、いい友達になれると思うぞ!彼はお前にない初心の気持ちを持ってるからな♪」

「そうですか……ちょっと行ってきます!」


セバスチンは彼のもとに羽ばたいていった。これから先どうなるのかわからない。けど、もしかしたら彼らの出会いが新しい物語を生むのであろう。


どうか、彼らの進む先に幸があらんことを――



《つづく?》


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