第十八話 実戦試験

 霊的なものの存在は極めて不確定なものだ。見える人にははっきり見えて、見えない人には何も見えない。そこに何かしら物理的な違いは見受けられず、霊感というもので決まるという、はっきり言ってよくわからんわ!という世界だ。

 この世界では霊を信じる人もいれば、信じない人もいるだろうが、私は中立的なところである。



 信じない視点から勝手なことを言うなら、霊感とはその人の恐怖心ではないかと思っている。恐怖から霊という存在が創造され、そして、恐怖が伝播することによりやがて、霊というものが本当にいるかのような状態になる。実体がない以上、そういった可能性は十二分にあるだろう。


 信じる視点から見れば、それはつまるところ死後の存在の証明でもある。その際の記憶というのはどうなっているかはわからないが、果たして、私たちが死におびえなくなる理由ができたともいえよう。

 仏教には輪廻転生という考え方があるが、それにのっとるならば、霊というのはその輪廻の途中に存在するのではなかろうか。道筋からはずれ、さまよっている、といったところか。転生する前の状態に執拗にこだわり続けたから過去祖霊となったという考え方もできる。



 まぁ、こういったところで霊についての存在をどうするかはその人次第というところである。




 もしかするとあなたの後ろに…。




 といった、3流フレーズはさておき、これはファンタジーです。ホラーではないから安心してお読みください。

 だって、こっちの世界は一応ゴーストとかいるんでしょー!ということは、触れる幽霊じゃないですか、やだもー!

 話によれば、魔物の死体などが放置されるとそのままゾンビとなるらしいが、逆にしたいがないとゴーストという形で復活するという話だ。もちろん、ゴーストとして倒されれば消えるらしい。

 これは人でも同じだが、人はそうなる前に供養してしまうのが通例で、水魔法により死体を清めて燃やせばそういったこともなく、無事に死ぬことができるという話だ。ちなみにゴーストになってしまうと、生前の状態に関係なくただの魔物として人を襲う、そこに一切の人間味も存在しないので、さっさと供養するのが正しい。


 だけれど…もしできるなら、死んでしまった両親と話したかったかな…。






 さて、ここまでにして目の前の事実に戻りましょう。ガルド先生がしたり顔で仁王立ちしてるのをそのまま見てるのもあれなので。

 というか、今までの思考の間も時間が進んでるから、俺のいやだなーって顔で1分ほど見続けられて、大丈夫かな…って顔するのやめてください、男には興味ないのでこのまま無視しますよ?

 でも一応テストだし…と思い、さすがにこれ以上放置するのもあれなので先を促しておく。どうせ、拒否権ないですし。


 「実戦試験、といいますと?」

 「おう!もちろん、俺との実戦だ!」


 まるで、ボールを取って来いと言われて即座に駆けていく犬のような笑顔でガルド先生が腕くみしながら答える。

 

 「なんでかは知らないがお前のステータスの伸びが異常な伸びで、正直俺より上かもしれんからな!どうせならお前も対等な戦いをしてみたいだろ?というか俺が戦いたい!」


 待て、最後の一文はどう考えても余計だ。といっても、元の試験はどうせただの持久走とかだろうしなぁ…まぁ、やってみるに越したことはないか。


 「はぁ…わかりました、よろしくお願いします」

 「よしよし、ノリがいいな。ルールはいつもと一緒…といきたいが、能力がおそらく拮抗しているしな、少し追加ルールな。そうだな…大きい一撃入れたほうの勝ちってところでどうだ?腕とか足とかの地味な行動の阻害のための攻撃は別として、いいのを一撃。シンプルだろ?」


 そう言いながら隅っこのほうにおいてあった木製の大剣と爪を持ってきて、俺に爪を渡す。どうせなら相撲的な『場外に出ると負け』っていうのも思いついたが、手数で攻める爪に対して大剣のほうが有利だろうし、特に付け加えないでおこう。


 「わかりました、それで」

 「よし、じゃあ始めるか!準備はいいな?」

 「いつでもいいですよ」

 「おう、言うねぇ…じゃあ始め!」


 掛け声とともにその場から飛び出すように駆け出したガルド先生は、持ち前の筋力を活かして右手片手で大剣を上段から振りかぶる。木製とはいえ重いであろう大剣をやすやすと持ち上げるのはさすがというほかないな…。

 お互い近接戦闘がメインなので、こちらも同様に近づき爪で大剣を両手の剣先で下に受け流しながら、右に体を1回転させ頭に向かって右手でそのまま殴りつけようとする。

 もちろん、最初の一撃で終わるとは思っていなかったようで、なにやらグーにした左手に赤いオーラを集めたガルド先生はそのこぶしを左にいた俺にぶつけようとする。


 オーラをため始めた時点でルーテシアの念話が脳内に響く。


 『マスター、左に向かって火魔法を使ってブーストしてください』


 有能ナビゲートすぎますねぇ…と感慨に浸りたいが、すぐ目の前にはオーラをためた拳があるので即座に指示通りに両手から火を噴射し、体が右に吹っ飛んでいく。

 勢い余って壁に激突では話にならないので風魔法でクッションを作り壁との激突を避け、一気にガルド先生と距離をとる。先ほどのオーラはいったい…。

 と、考えているとなにやら嬉しそうな声でガルド先生が呼びかける。


 「おー!今のよくよけたな?結構初見殺しなんだがなぁ!」

 「そんなもん使わないで下さいよ!」


 試験ということを忘れてるのではないだろうかこの筋肉め!


 「よけたんだから別にいいだろー?技の解説は後でやってやるから、とっとと来い!」


 といって、左手でカモーンをしてくる。



 8歳相手に挑発するおっさん。

 なんちゅう図だよ…。



 若干…どころかだいぶあきれるところだが、能力が拮抗しているのだ。あちらもそこまで余裕はないだろう。ならば、とこちらも一気に攻める!

 ルーテシアの補助のもと、風魔法により体を軽くする補助をかけたうえで火魔法で筋力を上げる。


 休みの間、補助魔法をイメージしようとしたのだが、うまくいかずルーテシアにイメージ補助を頼むことにした。なぜできないかといえば、事象をわかりやすく起こす攻撃魔法などに対し、能力上昇系は目に見えた変化はない。なので、感覚をイメージしなければいけないのだが、どうにもうまくいかなかった結果だ。バフができない魔法使いとか泣けるんだが…。


 補助により一気に近づいたことでガルド先生の顔が驚きに染まる、がそれも一瞬ですぐに後ろに下がりながら右手の大剣で迎撃を始める。だが、最初と違い下段からの振り上げ攻撃のために体重が乗らず、こちらの爪攻撃に合わせるのが精いっぱいではじけないようだ。

 こちらも近づきながらガルド先生めがけて爪をぶつけていく。強い一撃を撃たせなければ手数では有利。どうにか隙を作る…!


 後ろに下がればもちろんいつかは壁に当たる。壁までの距離が1mかそこいらになったあたりでガルドさんは振り上げた大剣を受け止めた俺をそのまま持ち上げるようにして上に吹き飛ばす。


 「ぐんぬおらァッ!」


 獣のような掛け声とともに打ち上げられた俺に対し、ガルド先生が再びオーラをだしてそれを大剣にまとわせていく。

 空中でいまだ滞空しているときにルーテシアが解説を挟む。


 『【闘気】と呼ばれるスキルです。あれを直撃されますと、私たちのいわゆる『魂』と言われる部分に直接響きます。基本は実体のないゴーストの類にも物理攻撃が通るようにするのですが、生物に使ってももちろんガードの上から響きますね』


 防御無視かよ、最強か?


 いったん俺を上に飛ばしたのは貯める時間が必要ってことか…ならそれを俺にできないわけがないよな!?


 『ルーテシア、覚えたてのスキルの発動補助頼む!』

 『了解です、ご主人様イエス・マイ・ロード


 受け答えしてすぐに両手にガルド先生と同じように赤いオーラがまとわりつく。見ているガルド先生は再び驚愕だが、すぐに切り替え俺に剣を合わせようと振り上げの準備にかかる。


 まぁ、これだけじゃ怖いからな!もうひとつおまけだ!


 「光点ライト!」


 オーラをまとった両手を光らせることにより、彼の視界を奪う。


 「グッ…だがッ!」


 視界をやられてなお、第六感で俺に攻撃を合わせようとするのはさすがというところだ。もし、これで押し負けたならやられるのは確実にこちらだろう。


 それでも引かない。彼と同じく。


 「来い!ウィル!」

 「はい!」





 目をつぶりながら振りかぶってくる大剣にこちらも両手の爪を合わせ、そして…。

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