第十六話 休日のその後

 よくラノベだとヒロインがあっさりと落ちて、こんな簡単に落ちるわけないだろ!なんて思う方もしばしばいるだろう。実際、現実で似たようなことをしたからといって落ちるわけがないわけで。


 でも、少しここに認識の違いがあるのだ。


 その世界でのそのヒロインを取り巻く環境があって、初めてあの世界は成立するのですよ。大金持ちのお嬢様なんてこの世界には…まぁ、めったなことがない限り会うことはないでしょう!多分!

 でも、仮にそういう娘がいたとして、例えば、親の愛情がない系統であればやさしさに飢えてる可能性が高くて…というところを主人公に持ってかれるのですよ。

 ここで主人公補正がかかってそのやさしさがうま~くマッチして落ちるわけですね。いわゆるチョロインがこれで完成するわけですよ。


 ただし、現実はイケメンに限る。これが違うのです。


 まぁ、そういったことに気づけたからと言って特にどうともならなかったのがわたくし、田中太郎です。鈍感係主人公?あんなもんはよほど人の好意に恐怖心があるか、ただのすっとぼけ野郎ですね、はい。


 まぁ、こんなぼやきは一切本編には関係ありませんがね!というわけで後日談の話を始めましょうかね。





 戦闘訓練はそれから数日続いた。まぁ、学園側が施設の整備だとか、おそらくだけど俺がやったことに対する対策なんかを考えてるんだろうなぁ。でも、さすがにただのかけっこで何かやらかすほど頭はいかれてないよ…たぶん。

 そんなわけで休日の間に思いついた方法で自分なりに有意義に過ごした。昼間はフィーと遊んで午後から日没までは【疑似空間】でルーテシアと訓練…うむ、実に有意義だ。


 そういえば、最初の訓練の際に爆散した某時間制限システムだが、何重にも氷の壁で囲って、そこに攻撃が行かないように工夫するくらいしかなかった。まぁ、実のところルーテシアのほうは気を付ければ問題ないのだが、いかんせん、俺のほうが弱いので、自分で張った氷の壁を自分で破壊して…なんて話が何度もあった。


 いや、だって仕方ないじゃん。最初の戦闘なんてこういった訓練場所でやんないと死ぬ可能性が濃密な攻撃が飛んできたんだから。あれからも似たような攻撃あったんだよ?




 確か、1回目のルーテシアのやった技がかっこよくて火の魔法で同じことをしてみたのよ。威力もルーテシアほどではないし、速度もないからあっさりよけられたけどさ?

 そしたら、ルーテシアが精霊であるゆえになのか、真似されたことに感心して、


 「さすがマスターです。でしたら、このようなのはいかがでしょう」


 といいながら、また瞬間移動よろしくの速度で4mの距離を一気に縮めてくるから回避も間に合わないし防御態勢に移ったんですよ。


 ちなみに防御態勢に移るときは両腕を前に出して普通に構えてるだけだと、あっさりと闇で強化したルーテシアの拳で思いっきり腕を粉砕されて胸を貫かれます。あれは本気でいたかった。というか防御貫いてくるとかでたらめかよ、と。

 なので、防御の姿勢に装備した爪…あ、地魔法で作ったあれから腕を覆うようにして装甲を増やしそこに全力で硬化を付けた。そのおかげでなんとかルーテシアの右ストレートくらいは防げるようになったよ。腕がひしゃげるかと思うくらい痛いけどな。


 まぁ、何はともあれ防御に移ったのだが、一気に近づいたのはフェイントだったようで、そこから人2人分程、ルーテシアが再び距離を取って、



 全力で右回し蹴りをした。



 もちろん、これだけなら俺には攻撃が届かない。なんせ、彼女の身長は男性平均の身長を持つ俺がまっすぐ立っていた場合、彼女がまっすぐ立っていても俺の胸くらいに頭が収まるほどだ。たぶん、150センチメートルくらいか?特に足が長いとか変なバランスでもないので、物理的な攻撃は届かない…のだが、


 

 その次の瞬間には、俺の上半身と下半身がグッバイしてました。



 いやぁ、あとで聞いたら闇で鎌鼬かまいたちみたいなのしたんだってさ。つま先くらいからソニックウェーブ的なのらしい。その鋭さはもちろん、硬化した装甲を平気で切り飛ばして俺の体に到達しました。ルーテシアがチート主人公でいいかなって思うレベルですね。

 


 そんな感じで休日は毎日訓練させていただきましたとも。

 そういや、ガルド先生は忙しそうに走り回ってたなぁ。なんでも俺に担当教師を付けて、実戦授業は別で教えるとかなんとか…。そんな話を夜の食事の際に言われたのだが、ふーんと他人事のように流したら呆れられました。いやだって、ステータスが伸びに伸びてるからさ…普通の人だと…うん。

 なぜかっていえば、訓練のおかげでもレベルが上がり、夜のルーテシアの散策でもレベルが上がっていたようで…


_______________________


状態:良好

職業:武爪家

レベル:83


筋力:4165

敏捷:4378

魔力:5007

器用:3742

精神:3461

運:79


<スキル>

【スキルコピー】【すべてをこなせる才能】【剣術の心得】

【看破】【大剣術の極】【槍術の心得】【斧術の心得】

【武闘術の心得】【武爪術の極】【精霊召喚】

【危機察知】【限界突破】【隠身ハイド

【成長度上昇】

<魔法>

【身体強化】【火魔法】【風魔法】【水魔法】【地魔法】

【闇魔法】【光魔法】【魔脚】【疑似空間】

<従精霊>

ルーテシア

<称号>

『転生者』『精霊創造主』『精霊を従えし者』


_______________________



 お分かりいただけただろうか、このステータスの異常さはいつだったかガルド先生のステータスをのぞき見したときのことを思い出していただけるとうれしい。


 この世界ではレベルという概念がちゃんとある。といっても、自分が思うレベルとこの世界の住人とでは少し相違もある。

 それは俺が考えるレベルが「全体的なステータスのランク」に対して他は「神の祝福をどれだけ受けたか」となるのだ。なんせ、レベルが上がる際になる音楽は某RPGに酷似しているためそれも仕方ないといえよう。どこからともなくファンファーレが聞こえたら、そりゃそういう考え方もあるだろうからな。


 しかし、この世界ではRPGとは違う要素として『基礎能力の向上』があるのだ。


 某RPGであれば素早さの種とかがその類だろう。もちろん、そういったアイテムは手に入りにくいため、簡単にあげられるものではない。

 だが、この世界であればいわゆる筋トレでも力が上がるのだ。ある意味当たり前だが、ある意味ではチートだろう。しかも、老化を除きステータスが下がらないのはアスリート泣かせといえよう。



 さて、話がそれたがステータスは面白いくらい伸び、気づけば【成長度上昇】なんてスキルも入っていた。話によれば、魔物の中には突然変異という形でまれに追加スキルを持っているものがいるという。しかし、その数はごくわずかで出会ったら不運、ということでしかないらしい。

 さて、この【成長度上昇】だが、これはレベルによって能力値の上昇する割合が大きくなるというものらしい。もちろん、これを持っていたのはワーウルフだったのだが、この辺りは縄張り争いが身内だけで戦闘事態は少なくあまり生かすことはなかったために、ちょっとつよい程度だとルーテシアが淡々と語っていた。


 うわっ、もしかして私の精霊強すぎ…?


 気にしたら負けということであきらめているのでいいとしよう。ちなみにガルド先生はおそらく俺のステータス上昇に気づいているだろう。なんせ、高ランクの冒険者だ、ステータスの見破りを使っていたのは彼だろうし、のぞかれてもおかしくない。なので、休日スタートから2日目に早めに危ないことはしていないとだけ言っておいた。言った直後は変な顔をしていたが、すぐに察したようで、わかった、とだけ返された。さすがです。




 そういった日々を過ごして無事一週間。

 朝の食事をおいしくいただいて、先にガルド先生が学園へ行く。その際ステータスがでたらめになった事には気づいていたようだが、クラスは変わらずでいい、と言われた。その代わり、実戦訓練はガルド先生に担当してもらうのだそうだ。まぁ、そりゃ、ここまで伸びるとさすがに辛いわなぁ。なんかごめんなさい。

 それから少しして、フィーがいつものぼんやりとした目で


 「いってらっしゃーい」


 と手を振って見送ってくれる。これだけであと10年は戦える。


 


 それから無事に教室へ着きいつもの定位置に着くと、いつか見た光景と同じように全員がワイワイと集まってきた。その内容の一部を挙げるなら、


 「おまえすげーなー!魔法をほとんど時間かからずに撃ってたじゃん!」

 「コツとかあるの?あったら教えて!」

 「ずばり、好きな女子のタイプは!?」

 「ちなみに好きな男子のタイプは!?」


 などなどである。一部変なのがあるがスルーしておく。

 13歳にもなるとスクールカースト的なのが普通にありそうなものですが、まだ至って純真な子が多いらしく、元気だなーという印象を受けた。変な絡みをしそうなのが一人くらいいると思ったが、ある意味では拍子抜けだろう。

 見知った中でいえば、エルルも質問に混ざっている。最も元気旺盛な生徒たちのために囲いが厚く、エルルも無理やり体を押し込んで聞いているために…んー2つの柔らかなものが…いや、なんでもない。


 「あ、やはり噂にあるウィル×ガルドなのかな!?」


 なんだその噂は。というか、お前が犯人か!


 このままほっといてもいいが事態の終息が怪しいので、とりあえず和気あいあいとした一同が出す質問に苦笑を浮かべながらも丁寧に一つ一つ答えていく。

 ちなみにクラスでおとなしいランテさんは相変わらず離れたところで座って読書をしている。少し違うのはたまにこちらを見ていることか。好意なのかそれとも敵意なのかは測りかねるが。


 

 ある程度落ち着いたところで時間になったようで、テムル先生が教室に入ってくる。


 「はーいみなさん。座ってくださいねー」


 出席簿らしきものをわきに挟みながら手を叩いて座るように促す。その合図に従って、はーい、と返事をしながら生徒一同も座っていった。最初の時にすぐにやってくれたら言うことなかったのになぁ、ほんと。


 「じゃあ、出席を取ったら、今日の日程のお話ですよー」


 さて、今日は何事もなく終わりますように…。

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