第六話 入学にて

 さて、学園に入る前に少しだけ自分のステータスをおさらいしよう。


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状態:良好

職業:子供

レベル:1


筋力:98

敏捷:104

魔力:201

器用:33

精神:50

運:79


<スキル>

【スキルコピー】【すべてをこなせる才能】【剣術の心得】

<魔法>

身体強化フィジカルブースト

<称号>

『転生者』


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 ステータスが微上昇してるのは寝る前にいつも通り訓練したからだろう。これは予想通りだ。問題はほかのスキルの能力の詳細だ。

 【すべてをこなせる才能】や【剣術の心得】はいいとしよう。ほぼ名前通りだと思っていいだろうし。

 問題は【スキルコピー】だが、これは条件が少しあった。ステータス表示と同様に【スキルコピー】を頭に思い浮かべる。


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【スキルコピー】:


 相手のスキルや魔法を視ることによってその能力を手に入れる。ただし、視界に入る、または直接見る以外の方法では不可能で、直接観察することが必要。


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 要は直接見ることが必要ということだった。直接見る以外の方法はおそらく占い師のような、ガラス玉越しに見る的なのがだめなのだろう。もちろん、そんなのがあるかは知らないが。

 しかし、直接視るというのはやっかいな条件ではあるが、これから通う学園では座学もあるがもちろん、実習もあるだろう。その際にいろいろ見て盗めばいい。ただ、実習の際にあまりに簡単にできてしまうのは困るので、そこらへんをうまく演技する必要があるか…?

 まぁ、その時次第だろう。適当にやろう。



 さて、状況分析はここまでにして目の前のことを考えよう。

 ガルドさんに案内され、職員室に案内された。話によれば、試験の時担当だったテムルさんが先生ということらしい。こちらとしては勉強できるなら何でもいいが、あの先生がAクラスの担任というのが何とも不安である。


 「では、放課後また来るように」

 「わかりました、ありがとうございます」


 ガルドさんは職員室の前まで案内するとすぐに来た道を引き返して行った丁寧に礼を言い、ドアをノックし職員室に入る。


 「失礼します」

 「ウィル君きましたか。こちらですよー」


 中に入ると思ったよりも人がいてどこにいるかわからなかったが、すぐにこちらに呼びかける声があり、そちらを見ればブンブンと手を振るテムル先生がいた。


 元気な子供かよ…。


 もともとこの学園、ウォルター学園は冒険者を引退して特に何もやることがない人たちがギルドにスカウトされて教えている。なので実戦経験はもちろんあるし、実用的な話も聞くことができる。なので、Aクラスの担任ともなれば、元A冒険者くらいは回るはずだが…言っちゃあなんだが、ほんとに覇気がない。歴戦の~とかそういうのを一切感じさせない、むしろサラリーマンやってるほうが普通の感じの人間だ。大丈夫なのか?

 さすがに、そんなことを口に出すわけにもいかないのでさっさとテムル先生のほうへ向かう。もちろん、周りの先生の注目を浴びつつだ…恥ずかしい。

 

 テムル先生の机まで行くと、さっきまで書いていたのか、机には書きかけと思われる資料があった。来る途中みていたが、やはり個人デスクとなると先生によっては散らばっていたのだが、テムル先生はわりかし片付いているようだった。その机には編入関連と思われる資料とペンが置いてあった。


 「よくこれたね、迷いませんでしたか?うちはなんだかんだで広いですし…」

 「いえ、学園長に案内していただいたので大丈夫でした」

 「あー…君はそこしか場所を知らないから仕方ないか…」


 苦笑いしつつ、編入の話をしてくれる。


 「もともと入学時点で別の学年に編入することは珍しくないないんだけど、ここまで飛び級するのはそうないですからね。少し異例ではあるのだけども、能力がある生徒はどんどん強くするのがここの目的だからね。頑張ってもらうよ?」


 そういって、テムル先生は手元の資料に目を落とす。


 「あと、8~12歳の勉強はどうなるのかだけど、基本的には日常に必要な勉強だからあとで本を渡しておくのでそちらを読んでくださいね。基本的にはお金の話であったりとか回復薬、魔法やスキルの出し方、それと今の世界の情勢の話ですからね。

 君なら自分で勉強できるでしょう?」

 「はい、それで大丈夫です」


 目新しい話はお金がほとんどだしな、特にこれといったこともない。実用的な魔法のやり方さえ教えてくれればいくらでもやりようはある。


 「あと、君のステータスは少なくとも13歳クラスじゃ確実に上だ、冒険者としても十分通用するレベルなのだから、あまり派手に動かないように」


 もちろんそんなつもりはないが、くぎを刺されるのは当たり前だろう。まぁ、試験の時にいきなりだったからそりゃあ、くぎを刺されるのもわかるが。

 仕方なしに、うなずいておこう。


 「よし、それじゃあ早速いこうか、時間も惜しいですし」

 「はい」


 テムル先生はそう言って席から立ち、出席簿のようなものをもって出口のドアへと向かう。

 さて、自己紹介が肝心だ。気を引き締めよう。

 人間関係では第一印象がすべてを左右する。当たり前の話、低ければ侮られるし気にもされないが、高ければなにかと気にされる。ただ、それが行き過ぎるとやっかみが生まれるし、少し厄介だ。

 普通にいこう、普通に。といっても編入の時点で嫌というほど目立つのだろうけれど…。


 そこから中庭を通り、階段を上って教室に案内される。廊下で待つよう指示されたので、待機する。中ではワイワイガヤガヤとしていた声が、先生が来たことで落ち着き慌てて座る音なども聞こえた。異世界といえど13歳なのだし、当たり前か。編入の噂はすでにあったらしく、編入生の話が合っても「やっぱりだー!」という声がするくらいだ。というか情報ガバガバかよ。大丈夫か?


 「入ってきてださいー」


 テムル先生がよんでいるので中に入ると、40の目から放たれる視線が…こんなの高校の卒業式以来だ…緊張よりも感動が…ううっ…

 いかんいかん、感動に打ち震えてる場合じゃない、ちゃっちゃと済ませよう。

 

 教室は大学の講義の部屋みたいになっていた。黒板と教壇があってそれを中心に扇形に席が広がっていて、生徒たちはぽつぽつとばらばらに座っている。おそらく好きなとこに座っているのだろう。

 好奇心旺盛な目線を受けつつ檀上まで行く。


 「では、自己紹介を」

 「ウィル=エルスタです。知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、8歳で入らせていただくことになりました。若輩者ではありますがよろしくお願いします」


 そういいつつ頭を下げる。若輩者とまでいわなくてよかったかな、と思ったが。魔ぁ低い姿勢も大切だろう。そう思いつつ頭をあげる。

 何人か目がキラッキラシテルゥ!

 転校生イベントでありがちな質問攻めか何かですかねぇ…。後が怖い。


 「じゃあ、ウィル君の席は…適当でいいか、好きなとこに座ってください」

 「わかりました」


 生徒たちが適当に座っているのだから、当たり前っちゃ当たり前である。

 とりあえず、某憂鬱で有名な主人公が好きな左後ろの端っこをいただこう。端っこってなんか落ち着くよね、端っていう空間がいいよね。どうか届け、この思い。


 通路を通り黒板に向かって左隅に腰を下ろす。ほかは何やらいろいろ話しているが、まぁ、あとで知ることになるだろう。


 「えーそれではHRを軽く済ませたら実技館で入学式を執り行います、終わったらまたクラスに戻ってクラスリーダーを決めますよ。それでは、HRを始めますよー」


 そういって、明日からの少し先までの予定の話をする。まぁ、ここらへんは普通の学校と変わらないんだな。チョーク投げがファイアーボールとかはさすがにないとは思うけどね、軽く死ぬわ。

 そんなことを考えている間にHRが終わりゾロゾロと移動を始める。自分もとりあえず後ろのほうでみんなについていく。実習室はともかく実技館は知らないからな。つか、はぐれたら迷子確定じゃん…。

 見失わないようについていかねば…。そう考えていると、


 「ねぇねぇ、8歳って本当なの?」


 誰かが話しかけてきた。振り返ると前の人が見えなくなるのが怖いが、反応しないのも失礼なので振り返る。


 話しかけてきたのは女の子であった。元々学校では制服というものが存在せず、みんな自由な服装であったが、この子はシャツにふわりとした上着と短めのスカートの服装であった。後ろで青く長い髪をくくり、いかにもボーイッシュという感じの勝気な表情を浮かべている。体は一部分を除き華奢であり、健康的な肌をしていた。一部分がどこかって?言わなくてもわかるだろう?

 

 胸だよ。


 目はとび色をしており小動物のようにくりくりとしていた。髪は後ろでくくるいわゆるポニーテールになっていた。そして、再び目線が同じところをむこうとする。どこかって?


 胸だよ。


 ここまで1秒の間。さすがにこれ以上何も言わないと変なので返事を返す。


 「そうだよ。そう見えない?」

 「へぇーいや、見た目はいたってかわいいし8歳なんだろうけど、13歳のクラスに来るなんてすごいなぁ、と思って」

 「グフッ…」


 男の子にとってかわいいはキモイと同レベルでつらいことがわかった。うれしくないよ。今でも不満は全然ないけど、やっぱもっとゴリゴリのイケメンがよかったよ父さん、母さん。

 嘘です、イケメンだからいいです、はい。

 身振り手振りが大きく、元気そうな少女は特に気にもせず自己紹介をする。


 「わたしはエルル=ユーリン!気軽にエルルでいいよ!これからよろしくね、ウィル君!」

 「よろしくお願いします、エルル」


 少し前の団体と離れていたので少し歩きを早める。エルルも意図を察してくれたようで合わせてくれる。


 「それでさ、話は変わるんだけど好きな食べ物は?得意な属性は?体力とかはどうなの?」

 「一気に質問しないで…えっとですね、好きな食べ物は…」


 この子だけで質問が結構出そろいそうだな。ひとまず、能力関連の話は言わないでおくことにした。完全に秘密にすると変に思われるのでひとまず火属性、体力は結構あるという感じで。嘘はついてないからセーフ。


 どうやら話が好きな子らしく実技館につくまで長々と話した。親の話題もあったが、あまり自分としても話したくないことなので流しておいた。聞いた当人は自分でした質問全部を覚えてないのかあっさり流したようだけどね。


 そうしてると、実技館についた。普段通勤で乗っていたバスが20台くらい入りそうな大きさでなるほど、ここなら実技をしてもよさそうだと思った。それに中に入って軽く壁をたたいたが、なかなか丈夫そうであった。

 全体が2階構造で上の階が客席のようになっており、下の階で授業が行われるような感じだろうか。入り口は一階部分にもあり外からはいれるようだ。


 自分たちが入ったのは2階からでそのまま客席のような場所に腰を下ろす。エルルもそのまま横に腰を下ろす。

 

 「エルル、普段入学式ではどんな感じなんですか?」

 「んー、普段はね、学園長が挨拶をして、そのあと学園の上級生が挨拶をするんだよー。それでおしまいだから、何もしない生徒は話を聞いてるか寝てるねー」

 

 そんなのでいいのか…まぁ、入学自由だし、そんなもんなのか…?入学した生徒のあいさつの話がなかったのはまだ8歳というのを考慮してかもしれないな。そういう話があれば俺にも回ってくるだろう。

 

 それとは別の話だが、やっぱり俺というのも合わないな。丁寧に立ち回るために結局しゃべるときに僕って使うし…そもそも私で慣れていたのだから急に変える意味なかった気がするぞ…。もう僕でいいかな…。


 しばらくたつと、全校生徒が集まったのか、学園長が出てきた。さすがに威厳もあるのか、ざわざわしていた空気もすぐに締まる。

 ここはさすが貫禄ということか。

 この世界にはマイクのようなものはないらしく1階のアリーナらしきところのちょうど中央くらいにガルドさんが立った。

 どうするのかと思えば、いわゆる休めの状態をとって…叫んだ。


 「ようこそ8歳に入学した諸君!君たちはこれからここで冒険者の何たるかを学び、冒険者になることを目指す。そこにはたくさんの苦難や試練が待っているだろうし、冒険者になってもその苦難は続くだろう。」


 一言一句、すべてはっきりとした声が館内全体に響き渡る。

 その圧倒的な声量はしっかりと生徒たちの耳に、心にも響いていく。


 「だが、君たちならばその苦難を乗り越えいつか、憎き魔王を打ち滅ぼすことができよう!ここにいるたくさんの仲間たちとともに研鑽をつみ、強くなることを期待している!」


 言うことを言い終えたようで、先生たちのもとへと歩いて戻っていくガルドさん。


 生徒たちと先生たちから盛大な拍手が送られる。現代では校長といえば、長ったらしい無意味な話を延々とするだけだからな。さすがに必要な士気をあっさりとあげる手腕はすごいものだ。

 

 「えーガイアス先生、ありがとうございました。では上級生代表としての挨拶をお願いします」

 

 そういわれて生徒と思わしき人が真ん中に出てくる。

 その人は、一見すると、金髪で目がトゲトゲとした感じのする荒々しい見た目だが歩き方は理知的で落ち着いた雰囲気を漂わせる男だった。服も奇抜というよりはむしろ貴族が来ていそうなしっかりとした服装であった。

 確かに強いと思わせるだけの力がそこにはあった。


 「上級生代表のヴェンス=ダルデだ。新入生、入学おめでとう。ガイアス学園長がいったようにこれから精進し、頑張ってくれ。そして、在校生のわれらも、彼らに負けないよう、よき手本として頑張っていこう」


 再び拍手をする。メインはこれだけとはざっくりとした入学式だな。まぁ、こういうのは形式も大事だが、必要なのは意識をしっかりさせるための内容だからな。これくらいがしっかりするだろうし、ダれないだろう。

 そのあとは学園の規則の諸注意、といってもむやみに魔法を使わないなどだが、そういったことを伝え、教室に戻るよう言われる。早く終わるのはいいことだ。


 そして再び、全員でぞろぞろと教室に戻る。クラスリーダー決めというのがあるようなので、早く済むことを祈るのみだ。今はガルドさんの訓練が気になる。

 教室につき、エルルと談笑しているとテムル先生が来たので全員席に着く。いつも通りの特徴のない頼りなさを漂わせながら壇上にあがり、話を始める。


 「では、今からクラスリーダーを決めます。皆さん知ってのとおり、クラスリーダーはクラスを導く存在です。といっても基本的には私たち先生の連絡やお手伝いですね。いざとなれば、先生の不在時にクラスの指示をお願いしますが、まぁ、めったにありませんね」


 なるほど、いわゆる委員長だな。まぁ、雑用になるのは目に見えてるし、編入したての僕が入ることもないだろう。眺めていよう。


 「ではクラスリーダーの立候補はいますか?」


 まぁ、案の定やりたがる人もいない。正直雑用なのはここでの生活でみんな分かっているのだろう。ガヤガヤと友達同士でやるように話をしている。

 このまま、時間が費やされるのかなぁ、と思っているとスッと手を挙げる人が一人いた。


 「お、ランテさん、やってくれますか?」

 「…(コクリ」


 黙ってうなずく少女、物静かな雰囲気がする子で、銀髪の長い髪に水色の瞳、白い服に青のカーディガンを羽織ってジーパンのようなタイトな長いズボンをはいていた。動作が少なく氷のような印象を受けた。

 

 「ほかのみんなもそれでいいですかー?」


 特に異論もなく「はーい」といってクラスリーダーが決定される。


 「では、すべて決まりましたので今日は帰っていいですよー。明日から授業を行いますので遅刻しないようにー」


 そういって解散がなされた。そして、解散されればもちろん誰かまた来るだろう。13歳も行ってしまえば子供なのだし当たり前だ。

 なので、終わる前にはすでにドアの近くで待機していた。質問攻めとか面倒だし。

 うれしいことにドアは教壇側だけでなく後ろのほうにもあるためそそくさと退散させていただいた。急いでその場を離れていると後ろから「あれ?いないぞ?」との声が聞こえましたが、知りません。校長室にダッシュです。


 あ、学園長だから学園長室か?まぁ、どうでもいいか。


 

 タイムイズマネー、さっさと行かせていただこう。

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