未定の未来
たまごどーふ
行く宛探し
いつもの通り俺はゲームにいそしんでいた。
もちろん、単なるゲーム中ではない、3つ同時プレイだ。
現状、まさかのプレイ中のゲームのうち3つすべてがイベント周回しなければならないほどに重要なのである。
「にぃにぃー!!そろそろいくよー」
遠くで妹の声がする。
ただそんなことは関係ないのだ。奴はまだ周回という事の重要性にまったく気付いていないのだ。それはもちろん、ゲームという
「それらを今、網羅せずにいつするというのダッッ!!」
「は?」
「はっ……ッッ!!」
いつの間に回り込まれた?っというより奴はいつからこんなところに…
「なに考えてるのか知らないけど、にぃにぃ今日出掛ける約束してたでしょ?そのためにわざわざここまで呼びに来たんだけど…?」
「ハイ。」
なんか半ギレ状態なんだけど…。俺が何をやらかしたっていうんだ。
「俺はいいけどミミは学校あるだろ?まさか学校をサボってまで俺とデートしたいのか?」
もちろん冗談を80%かましてある。
「うん。」
「そう真顔で言われると反応に困るんだが…そんなに重要なことなのか?」
ミミは普段から俺の冗談に付き合ってくれたり、ゲームに関しての有力な情報をくれる素晴らしい人材だ。
そんなミミがここまで真顔を見せるってことは…
「子供ができたのか?」
「………」
「戌瀬 文さん。話があるので私の前にうつむけで寝て下さい。」
お、これは妹ルート入って初回のアレですかっ!!!!!
悦んでミミの前で横になる。
まさかとは思ったがこのタイミングでルートに入るとは、なかなかに世の中もうまくいっているものだ、うんうん。
だが…
「ねぇ…にぃにぃ…?ここが気持ちいいんでしょ?(怒)」
首を物凄い勢いで踏まれてるッッ!!
「ハイィッッ!!きもぢいいっっ……ですッッ…!!もっと踏んで下さい、ミミさまああああああぁぁぁぁッッ……!!!!」
部屋中に俺の悦びが響き渡る。
「ハイハイ、さっさと支度してね?にぃにぃが踏まれたいのはよくわかったけど、さすがに午後からは授業行かないといけないから頼むよー」
やめられた。
もっと踏んでほしかった。
「ところでほんとにどこ行くんだよ…」
「いいからさっさとする!!」
「はーい」
言われるがまま支度をする。机の上に散乱したゲーム誌の束をかき分けて財布を取る。
その他にもイヤホンや時計、ケータイとかいろいろ。
あとはいつもの携帯型のゲーム機…と。大体こんなもんだろ。
玄関に急いで向かうとミミがしびれを切らして待っていた。
「にぃにぃおそいよー?そんなに外に出るのいやなの?」
「そらそうだろ?大体、今日に限ってイベントが被りまくるんだからさ?ミミが踏んでくれなかったら我を見失ってたぜ。」
そもそもなんで午前中に授業がない。
大学ならともかくミミの通うのはそんなアブノーマルな場所ではないはずだ。
なにより一番気になることがある…
「お前なんで制服なんだ?」
「モチ、学園に行くためです。」
え?今なんて言ったよ?
学園に行くためって…俺はその間どうしろと?
生徒ではないとはいえ、さすがに学園内でゲームの周回をするわけにもいかないし…。ナニコレ…試練?
結局、ミミに言われるがままに学園内に突入。ミミには廊下にいるだけでいいとは言われたがなんのためだ?
現在の時刻は12:30…ただの休み時間である。
「♪~」
なんか朝とは違って異様にごきげんである。
「にぃにぃはやっぱ学校にちゃんと行かなきゃダメだよ~」
「なに言ってるんだ?俺は今後も今までの生活をエンジョイするつもりだ…ぞ……?」
「あ、せんせー!!この人ですよー?この人が前に言ってた例の人ですっ!!」
自信を持って俺のことを紹介するミミはなぜか楽しそうだった。もちろん、俺のことを溺愛している妹のことであるから当たり前であるが、それ以上に今回ばかりは何かを含んでいる気がした。
「おはようございます……」
「にぃにぃ…もう昼だよ?」
俺たちがバカみたいなやり取りをしている間も、まったく動じようとすらしないこの"人物"
……が、口を開く。
「君は自分について人に対し、自信を持って語ることのできることはありますか…?」
その問いに対して行き詰った。
「………っっ!!」
なぜか言葉は出てこない。
もちろん、スマホに限らずパソコンのゲームの世界にまで廃課金勢の中でも名を轟かせるほどの人物であることを俺自身、自分のことをよく知っている。
もう一度自分の長所を整理してみる…
廃課金勢・妹一番・楽しいことなら本気でやる……
あとは?
わからない。
ただでさえ大学を中退して妹にまで迷惑をかけているんだ。それなのに俺は、自分の長所すらも出てこないというのか!?
「…なるほどね………」
なんか腹が立つ。教師というのはいつだって上から目線だ。どんなときでも自分のほうが有利な立場だと思うなよ!!
「わかりました。では、あなたにこれから1週間の間考えてくる課題を与えましょう。1週間後もう一度ここにいらしてください。」
結局なにがわかったのか俺には見当もつかなかった。
「にぃにぃー、お話終わったのー?終わったなら帰ろ?」
そして当然、ミミが楽しそうにしていた理由もわからなかった。
あともうひとつ、わからなかったこと。
"課題"の内容を聞いていない。
結局、ミミに引っ張られて帰ることになった。
次の日。なにが課題なのかもわからないまま俺は昨日同様にゲームを満喫していた。
「ちょっと待って、これマジ…!?1/10000の確率でしか当たらないヤツ来たんだけど!!これはもうミミに自慢するしか手段が見当たらねぇわ!!」
prrrrr
「!?……」
知らない電話番号だ。
いつもなら絶対といっていいほど出ないのだが、今回は例の件が絡んでいるのでとりあえず出ることにした。
「……もしもし?」
「はい、戌瀬 文様のお電話でしょうか?」
丁寧な話し方。誰かはわからないが、こちらの情報は漏れているようだ。
「そうですけど…」
素直にそう答えてしまった。
「では、今から提示します。あなたに未来を摘んできていただきたいのです。」
わからない。
これが誰なのかも。
これが例の課題なのかも。
課題であっても、自分がなにをすべきなのかも…。
「あの…」
もうすでに電話は切られていた。
そんなことがありながら、学園に行く日の前日を迎えた。
"課題"と呼ばれるものはなにもやっていない。
『未来を摘む』ってなんなんだよ。
「にぃにぃー、なんか学園のほうから荷物届いてるよー」
荷物?学園?あんな妙な学園から荷物を発注した覚えはないんだが?
とりあえず1階まで下りる。
EEE学園と書かれた段ボールがある。妹が気を利かしてその箱を開けておいてくれている。
「にぃにぃ、やっぱ学園入るつもりだったんだ!!」
何を言っているのかさっぱろだった。
「んで、何が入ってるんだ?」
「はいっ!!」
そこに見えるのは妹のミミが通う学園の制服である。しかも男子用…。
こんなものを送ってくるってことは…
「ん?なんか紙入ってる……なになに…?」
ミミは段ボールに入っていた紙を手に取ると、それを読み上げる。
「『戌瀬 文様。この度はEEE学園にご入学頂いたき有難うございます』…だって!」
ちょっと待て、俺はあの学園に行ったのはこないだミミに連れられて行ったあの一回だけだ。もちろん自分から入学します、なんて言ったことはまったくない。
いったいどこで入学に至ったというのだ…
まぁ、いいか。どうせ前みたいに続かなかったらやめればいいだけだし、明日行っていろいろ探ってみるか。
そして、入学式。
妹と一緒に登校なんて、いつ以来だろうか…。
小学校の頃はよく一緒に行っていたりしたが、最近はほとんど行ってなかったなぁ……。
「にぃにぃ、緊張?」
「んや。急にいろんなことが決まったからちょっとついていけてないだけ。」
ああ、そうだ。俺はついていけていないだけなんだ。未来なんてわかるわけがない。それなのに『未来を摘む』なんてこと………。
そんなことを考えてうちにいつの間にか学校に到着していた。
「じゃあにぃにぃー、またあとでー。入学式がんばってねー!!」
がんばるってなんだよ…。
ま、あいつのことだから寝るなよってことなんだろーな。寝ませんよ、ハイハイ。
…そして、入学式が始まり何事もなくクラスが分けられた……が
「みんな…席について。」
やる気ゼロの先生かよ…。クラスメイトはヤジを飛ばす。
「せんせーい!!あんまちゃんと学園の説明聞いてないんですけどー!?」
「……………」
先生は黙ったままだ。そして口を開く。
「私は…代表…。先生じゃ……ない。」
代表?先生じゃないなら、いったい何なんだ?
代表と呼ばれる人物は、どこかよくわからない場所に焦点を当てながら自己紹介を始める。
「代表の…紗季ノ…舞です。では、質問にお答えしましょう。」
どうせ、先生じゃないといっても同じようなものだろう。
「まず一つ。きみたちはこれから未来を摘んでもらいます。」
え?それは、課題だったはず……。それに質問に対して答えが通っていない。
「その二。きみたちは今から……先生です。明日からは…指定された
「………………」
一同は困惑に支配されていた。もちろん俺自身も。
「じゃー…よろしくー……。」
代表…紗季ノ舞はいなくなっていた。
何もわからなくなっていた。怖くなっていた。逃げたくなっていた。
……だいたいなんのためにそんな課題をこなさなきゃいけないんだ。
戻ろう。わからないのは当たり前だ。ゲームだって最初からうまいわけじゃないんだ。人のプレイを見たり、攻略wigiをみたりして上達していくものだ…俺みたいな廃課金が言えたことではないけど…。
「あなた…新入生…?」
俺は帰ろうとしていた。その時になぜか声を掛けられた。
「あの?どちら様ですか…?」
「…………。」
なんだこの学園。やけに黙り込むヤツ多すぎだし。そもそも新入生に対してさらっと声かけてくるとか…それにしてもなんで俺なんだ?
「あなたは…戌瀬文は、戌瀬文を知っていますか。」
「へ?」
思わず声が出てしまった。すぐに口元を抑える。
「まぁいい。そのうちわかる。」
そのうち……か………。
そのあとは、帰ったあとすぐに寝てしまった。
翌朝、代表である紗季ノさんはいなかった。だが、メモ書きが教卓上に置かれていた。
『今日から
それを見たとき、俺はどうせ最初に来た人なんて断言できるわけないから大丈夫だろうと思った…が、
『尚、各教室には監視カメラが設置されておりますので逃走にはご注意。以上。』
………。これはやられた。
案の定来ていたのは俺のみ。
「しゃーない…いくか。」
はぁ…なんで今日に限ってこんな早くに登校してしまったんだろうか。そもそも昨日のあの女はなんなんだ。なんで昨日入学したばかりの俺の名を知っている。確かに入学式ではそれぞれの呼名をしたけど、そんな中から俺の名前だけを覚えているなんてありえない。
「早く行けよ…」
まただ、またあの女だ。
何か言いたいわけでもない。何か伝えたいわけでもない。なのになんで俺に対してこんなに俺に突っかかってくるのかがわからない。とにかく早く職員室に向かわないと…。
「…職員室に行くなら私も行こう。」
やっぱり変な女だ。俺は一言もこいつの前で職員室に行くとは言っていない。
とにかくついていく。
到着。
「紗季ノ代表。例の人を連れてきました、よろしくお願いします。」
「はーいっ☆んじゃあ、今日はふみちゃんがせんせーをやってくれるんだねっ?」
この人って昨日説明してくれた代表の紗季ノさん……だよな…?
「はーいっ♪私が、紗季ノ舞ことさきのんですっ!!」
なんかキャラ豹変してるんですけど!?ってか、さきのんってなんだよ。自分でいうようなことなのか?
「じゃあ今日の
「あ、はい。」
「まず、ふみちゃんは朝の9時20分になったら出席点呼を取ってほしいの。」
「普通の日直とおんなじじゃないですか。それなのになんで
「まーまー、とりあえず2個目は5限目のEEEの授業を担当してほしいの。」
「じゅ…授業ですか!?」
あまりにさらっと言われて驚いてしまったが、そんなことよりその授業なんだ?
「せんs…じゃなかった。代表、そのEEEって授業…学園名でもありますよね?何する授業なんですか?」
「うーんと…まぁその辺はこのマニュアルに沿ってやってくれたら問題ないから大丈夫だよっ!!あと、代表でも先生でもなくてさきのんって呼んでねっ♪」
なんか…さきのんって…。調子取りづらいな………。結局、ほとんどこの学園について説明を聞くことができなかった。それは自分で見つけろってことなのか?
それにしてもあまりにもいろいろと説明が曖昧過ぎるだろ。
「とりあえず今日はそれだけだから。それ以外の授業は基本的に、私たち
「わかりました。」
「じゃ、あとはよろしくねー!」
俺は深々とお辞儀をして職員室を去っていく。
もちろん疑問が全くないというわけではない。むしろ疑問しか残るものがないくらいだ。それにしてもさっきさきのんが
そんな呼び方聞いたの今さっきが初めてだし、あの内部ではそんな言い方があるのか…。
まぁいいや。とりあえずめんどくさいけど点呼取りに行くか。
教室に行くと大体の生徒は揃っていた。
時間はもうすでに9時10分。もう少ししたら出席点呼を取らなければならない。なんとなくで教卓の前でうろついていると…
「あ、ふーみんじゃん!」
「え…なんて……?」
今、ふーみんって言わなかったか…?そもそもふーみんって呼ぶ奴なんて前の大学にはいたけどここには入ったばっかりだし、いるわけが…
「ふーみん今日せんせーなんだー、おつかれー。それより、うちのこと覚えてんの?」
「も、もちですとも……。」
「なんでそんなに震えてんのさ。」
もちろん覚えている。こいつは前大学でも同じだった美瀬谷 真冬…きれいな名前である。だが、きれいなのは名前だけであり、それ以外というのは……
「ねー、ふーみんー。一日せんせー終わった後、暇だったらオススメのバイトあんだけどさー……やってかない?」
「どっかのホモネタみたいな言い方すんなよ。」
そう、こいつはなにかとバイトの押し売りばかりをしてくるし、暴言ばっか言ってくるし、なにかと面倒なことばかり押し付けてくるし…少しどころかかなり面倒だわ。それになんかあるとすぐに突っかかってくるし、ほんとに面倒。
はじまりのチャイム。
本日最初、このクラス最初の
「こんなんでいいのかなぁ…。」
説明書は机の中に毎日配布されるシステムらしい。俺は入学式の日、意識がもうろうとしていてはっきりとは覚えていなかったが、それに関しては真冬が教えてくれた。こういう面だけはほんとに助かる。
「とりあえず、今日の1個目のお題はなんとかクリアしたからオッケーっと…。」
これって報告とかいるのか?そもそもカメラなんてどこにも見当たらないし、確認のしようがないんじゃ…。そんなことを考えていると……
「ねーふーみん。今から職員室行って、さきのんに結果報告しにいこ?」
「は?そんなこと聞いてねぇし。そもそもお前、今日は違うだろ?」
「まぁ、そうなんだけどー。なんかミミちゃんが兄貴の面倒よろしくーって言ってたからしゃーなし。ほんとはいやなんだけどねー…。」
嫌なのかよ、期待はしてなかったけどさ。まぁ、なんだかんだ面倒見がいいのは大学にいたころからまったくと言っていいほど変わってはいない。
「あと……」
「…?」
なにかに気が付いたのか、続きを言わない真冬。もちろん周囲に代表役員はいない。
「真冬、どうかしたか?」
「いや、なんでもないよ…。」
俺もさすがにいつもの真冬とは違ったので思わず聞いてしまったが大丈夫だろうか。
こいつが話を途中で切るときは基本的になにか抱えているはずなんだが…。さすがに2年もの間会ってなかったんだし、まぁ気にしないようにするか。
「ところで真冬はなんでこの学園に来たんだ?」
「うちは、単純に前の学校が気に入らなくて…それにここなら感性を磨くのに最適だと思ってね。」
「感性を磨く?そんなことどこに…?」
急いでスマホを開く。真冬はゲーム関係や情報網に関しては俺と同じくらいのレベルだが、少なくとも2年間無心で鍛え上げた俺に比べれば大したことないはず…。
「まぁ、少しでも変な学校ならもうちょい自分らしくなれるかなって思ったっていうのもあるかなー。」
自分らしく、ねぇ。
そんな風に俺は思えるのかなぁ。少なくとも今の俺にはこの学園でこなすべき目標も将来の夢のためにすることも…そもそもその夢もない。
今いるのはどこ?
どこに向かっている?
自分ってどこにいればいいの?
それって簡単に見つかるものなんだろうか………。わからない。
「きっと見つかるよ。」
「真冬…今何か言った……?」
真冬が何を言ったかなんてわからない。けど、俺のほうを向いて微笑んでいた。俺が信用できる
「さっきのーんっ!!真冬さんがお越しですよー!!」
真冬は遠慮…というより問答無用で職員室に押し入っていく。
「真冬、仮にも職員なんだからちょっとは遠慮しろよ。」
軽い注意。俺もさすがに手慣れたものである。
「あー!真冬ちゃんと文ちゃんじゃん!なーにー?沈んじゃった?」
「沈むとかうちはそんなことなりませんよー!せいぜいふーみんだけですよー!!!!」
二人とも俺をなんだと思っているんだ?
特に真冬に関しては冗談にすら聞こえないんだが。
「じゃあさきのん、後処理よっろしくー☆」
「はーい☆」
そう言って俺を残して真冬は職員室を去った。
この場にいるのは紗季ノ舞と俺の2人。今日は授業初日。まだこの人を完全にわかったわけではない。まだ不振に感じる部分はある。
紗季ノ舞の性格。
真冬の情報量の多さ。
…………ESP。
その言葉がなんなのかはわからない。でも、これから生きる上で重要になっているというのはなぜだか理解できた。
「じゃー文ちゃん、移動しよっか?」
「………はい。」
抵抗は無駄だ。この場はこいつの領域内である。
移動場所は屋上。何のへんてつもない……。
グラウンドの生徒たちは元気に体育をしている。教室で授業中の生徒の声も
少しながら聞こえてくる。
「……戌瀬 文。」
「はい。」
静かに聞こえる紗季ノ舞の声。俺は静かにそれに応える。
こいつはさきのんではない、明らかな紗季ノ舞だ。
「あなたは……なにが知りたい?」
「…………。」
言いたいことはすぐにわかった。もうすでに逃げ場なんてなかった。俺に迫られた選択肢は答えるか答えないか。
聞きたいことはたくさんあった。さきのんがなぜ俺にだけESPという言葉を口走ったのか。真冬がなぜ俺をこのタイミングでこいつのところに連れてきたのか。
俺がなぜこの場所にいるのか。
「わかりません。」
「そう…それがあなたの未来ですか。」
まただ。未来。なんでそんなに自分の未来を気にしないといけないんだ。なんでもいいじゃないか!俺が何をしようと。お前たちが何をしようと。
「わかりますよ…もうすぐですから………。」
もうすぐ?授業が終わることくらいじゃないのか?
「うん。未来を摘む……放課後、もっかいここで……。」
紗季ノ代表はそう言い残して俺を独りにした。
5限目。最後の授業だ。この授業には代表役員はいない。
ヒントはひとつ。真冬が教えてくれた説明書。
「じゃあ、今からEEEの授業を開始します。」
ほんとになんで今日に限って朝早くに来てしまったんだろうか。
「せんせーがんばれー!」
「俺も応援してるぞー!」
ああ…こんなこと普通の学校の先生に対してならありえないことなんだろうな。俺のもといた学校でも応援なんてなかったし、それどころかヤジばっかだったし。
「はーい、ありがとなー。とりあえずひとりずつこの学園でやりたいことを書いていってください。」
この時間内にやることとして挙げられていることはこうだ。
1:EEE学園でやりたいことをメモや黒板に書いてもらう事
2:その中から気になった人に自分に何が足りないかを聞いてもらう事。
3:その人を……
4:以上。
その人を…?その先が全く見えない。俺が見えないんじゃないんだと思う。
わからない。わかるわけがない。
とりあえず、2までこなせば何とかなりそうだ。3はわからないけど…。
「せんせー?」
「ああ、すまん。とりあえずみんな書き終わったからちょっと待ってな。」
黒板を見つめる。
ほかの生徒たちを見つめる。
それを何度も。
けれどもみんな普通の内容だ。卒業する・大食い大会に優勝する・部活動と学業の両立…などなど。たまに変なの混ざってるな。
でも…ひとつだけ見つけた。
『見つける』
ふざけてるのか?目的がはっきりしていない。
「あの…これ書いた人ってどなたですか?」
誰も反応しない。周囲を見渡した。
「…………。」
窓際でひとりたたずむ少女。綺麗というよりかは神秘的だ。なぜだか彼女にだけ反応してしまった。
「このあと大丈夫ですかね……?」
「うん…そんなことより早くしたら…?」
でも、どこかで会ったような…。
「えっと…じゃあ未至磨さん?俺に足りてないものって何だと思うかな?」
「…………。」
「あの…。」
「戌瀬文。」
「……っ!!」
急に悪寒が走った。あの時のだ、あの時俺に声をかけてきた女だ。でもなんで俺はこいつに目が行ったんだ?気になる奴なら真冬とかがいる。
でもこれでやることはやった。あとはこいつを屋上に連れていけばいいだけ。
なんで…?なんで俺はこの未至磨 悠希を屋上に連れていくって考えたんだろうか。
教室に在るのは沈黙。
未来を摘むなんて馬鹿なことを考える隙間なんてない。
「じゃあ授業を終わります。未至磨さんはちょっとついてきてください。」
「ああ。」
やっと終わって解放されて帰宅、なんてわけにはいかない。
とはいえ、綺麗だ。しゃべらなければOKという発想を初めて実感できた。
「ところで未至磨さん、さっきの授業で書いてくれた『見つける』ってどういう意味かな?」
「今までは見つけられなかったから…だから書いた。」
答えになってませんが。とは口に出したくても出せない、なんか殺されそうだし。
屋上の扉を開けると紗季ノ代表が待っていた。
そこにいたのはやはり紗季ノ舞。
「おつかれさま…。」
「お、おつかれさまです。」
相変わらずの口数の少なさだ。この2人が同一人物だとは思いたくもない。
「じゃあ…未至磨さん、もう大丈夫だから……。」
紗季ノ舞は未至磨さんに帰るよう促す。
「じゃ…昼間の続き。あなたがここに来た理由は?」
「特にありません。」
特にない。自分にこの学園に入る理由なんてなかった。あえて言うなら妹のミミに連れられていつの間にか入ってしまっていた…としか言いようがない。
「言い方を変えます……教室で変わったところは?」
「変わったところ…ですか?」
言い方?言い方どころか内容もろとも変わってるぞ。こいつほんとに大丈夫なのか?
とにかく変わったところだ。みんな元気だし、俺がEEEの授業で焦ってた時も優しかったし…。あえて言うなら………。
「教室にカメラが無かったんですが?」
「うん、正解。あの部屋にカメラなんてものはない。」
「じゃあなんでカメラが無いのに隠すことができないんですか?そんなの透視能力みたいなものでもないと…。」
「うん…ある。」
ある?あるってそんな、ゲームの中の世界じゃあるまいし…。まだ信用しきれない。納得できない。もしそうであったとして、なぜ俺にそんなことを伝える必要があるのか。
「この学園には目的がある。表面上は、みんなを立派な社会人として…常識を持った人に育て上げていくこと…。」
「表面…上……?」
「本質は、ESPを確認次第…自分を確認してもらうこと……。それが、私たちの
「それをなんで俺に?」
「…………。」
それ以上は答えなかった。こればかりはわからないとは言い切れなかった。それをこれから見つけていけということなのだろう。
ただ、それだけならわざわざ俺に言う必要はないだろう。
「わかりました、精進します。」
「じゃー帰ろっか!!さきのんもおなかすいてきちゃったしっ♪」
も?ってかいつキャラ変わったんだろ。ほんとによくわからない人だな…。
「とりあえず私は職員室行ってから帰るからまた今度ねー?」
「はい、またよろしくお願いします!」
と言って俺は屋上へ続く階段をさきのんと一緒に降りていると…
「あっ…。」
「紗季ノ代表……っ!!」
思わず手を掴んでしまった。ただ…なにか自分じゃないものが入ってくる気がした。
——これは…紗季ノ代表の子どものころ?
親…だろうか。しがみついて泣きわめいているのが見える。でも、今の自分にはなぜ泣いているのかもわからない。もちろんこの目の前の景色が見えている理由も。
「こいつどうします?どうせ嘘ばっか言ってるし、事実でも気持ち悪いだけだしガキの言うことなんかほっとけばいいか。」
「そうね。だいたいこの子は私の娘でもなんでもないし捨てておきましょ?こんなの人間じゃないんだから死にやしないでしょう?」
やめろ。そう言いたかった。でも、声は全部かき消される、身体は消えていく。ただ泣いている少女を見つめながら…。
「…みちゃん……文ちゃん?」
「あ、はい!ごめんなさい!」
「なんであやまってるのー?だいたい、謝るのは私の方だよー。こけそうになったところを助けてもらったわけだし。」
気付いたら俺はさっきの階段にいた。たぶん、数分間の間突っ立ってたんだ。これはさすがにさきのんに迷惑かけたから謝らないと…。
「すみません、せっかく職員室に行く途中だったのに長い間棒立ち状態になっちゃって…。」
「何言ってるの?文ちゃんが棒立ちだったのは20秒くらいだよ?」
20秒?確かに俺はあの風景を長い間…少なく見積もっても3分は見ていたはず。
「ごめんなさい…。」
「もー、いいって言ってるのにー。とりあえず、今日はもうおしまい。おつかれさまっ!」
悔しかった、何もできなかった自分が。
目の前で起こってるはずなのに止められなかった。でも、もしあれが今の紗季ノ舞に直結してるとして自分に何ができるの?
紗季ノ舞にはこう言われた、”自分を確認する”って。確認して何になる。
それなら他の生徒と同じようにお気楽に過ごして、社会に出るときに常識人でいられる方がよっぽどマシじゃないか。
とりあえず、深く考えてもしょうがない。今日は帰ってゆっくり休もう。
意味わかんないことの連続で脳ミソが追いつかねえ。
そんなことを考えている間に校門の手前まで来た。
校門に立つ人影。知ってる人。声をかける。
「真冬、こんな時間まで何やってたんだ?」
「暇だったから待ってただけじゃん、なんか文句ある?」
よかった。いつもの調子だ。
だいたい、おかしいよな。自分を確認するとか…そんなの教育的にもおかしいし、そもそもそれで人を救えるなんてこと…
「生かすも殺すもふーみん次第ってこと。」
もしかして俺の声漏れてたか?でもあいつ地獄耳じゃなかったはずだし。
「あ、そうだ。お前なんで今日先生担当でもないのにあんなに詳しかったんだ?まだ初日だろ?」
「あ…あのねっ、なんかたまたま職員室の横通りかかったときに聞いただけだよー!!」
キャラ崩壊してるし。でも、どう考えても焦っている。
とにかくこの学園でやることはたくさんある。考えることはゲームなんかよりも断然増えた。
特に重要なのは自分を確認すること。あと、”未来を摘む”こと。
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