ノブのないドア

@peebeens

第1話

 私は気が付くとそこにいた。その部屋のドアには、ノブが無い。

 自分の意思で部屋から出ることができない。

 窓がある部屋、窓も無い部屋もあった。個室だったり、広間だったり、棟だったりした。3方向を白い壁に囲まれ、残りをガラス張りの鉄格子の壁であったりした。座卓がある部屋、座卓さえ無い部屋、あるいは部屋には水が出るボタンだけの部屋だったりもした。腕をくくられていたり、管を通されていたりした。

 日常生活ではおよそ入ることのないであろう、ノブのない部屋。

 そこでは月日を数える日もあれば、昼なのか夜なのか分からない時もあり、数字を羅列させたり、文言を羅列させたりした。泣き叫んだり歌を歌ったり、あるいは表情を出すことさえ抑えなければならぬような空間であった。

 ドアにノブのない部屋の中には時間だけが贅沢に与えられている。

 そこはどこであるか、なぜ時間だけが与えられているのか。それは自分以外の第三者によって、時間が必要と判断された場合に入れられるような、そんな場所だ。

 おおよそ想像の出来かねるであろうそのノブのないドアの内側の話である。

 

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