ショールーン・ストーリーズ
パンプキンヘッド
ラヴィング・ユー
『晴れ……空には眩しい太陽……白い雲に抜けるような青空……』
それなりの冒険者でもある武器職人のルード・ヴルスタールは、今まさに冒険の最中にありながら、今から赴く冒険の舞台でもある山間部の遺跡を目指して歩みを続けているその道中で、大あくび一つを上げながら、穏やかな午後の空を見上げてそんな感想を漏らした。
この冒険には一昨日から出立していた。一昨日の朝、惑星ショールーンの一国家ディバリア王国の都市ダンジョン・ヒルズの堅牢な城門を潜り、アルゼィ山脈麓のとある場所目指してこの冒険の第一歩を記したときには、彼の心には何かを期待する気持ちで一杯だった。
そして、ふと視線をおろした彼の目に、この冒険の連れが、何やらニコニコしながら見慣れないものをいじっている姿が映った。
「おい、ティルウェイト。なんだ、その変なの?」
ルードはこの冒険の仲間の一人でもある1mにも満たない兎のような種族、ヴァルナ―の超能力者ティルウェイトが見慣れぬ棒状のものを持っているのに気づき、ふと声をかけた。
ヴァルナ―は力はないが、卓越した頭脳を持ち、超能力者である者も少なくないのだ。
「ああ、これですか? これは先ほど旅の方に貰ったものでして……」
ティルウェイトはさも自慢げに棒状のものを振り上げてルードに見せつける。ルードはまじまじとみつめるが、難解な模様と奇妙な装飾が施されているために、その用途を察することは困難だった。
「これ、さっきのフードをかぶった爺さんだか婆さんだかわかんない人に貰ったのか?」
ルードは棒状のものとトィルウェイトの顔を交互に見ながら、不審げにティルウェイトに問いただした。
しかしティルウェイトはさも自慢げに、
「はい。でも、意外といい人らしい人でしたよ。なにしろこの謎の代物、私はたぶんバヤータ文明の遺産のワンドと踏んでいるのですが、これをただでくれたんですから! このワンドはたぶん凄い秘密を隠していますよ。ええっ絶対。絶対です!」
ティルウェイトは長く伸びた兎のような耳をピンと立て、1m足らずの背でルードに負けじと必死に背伸びし、矢継ぎ早にまくしたてた。
『またこいつの悪い癖が出たか……』
ルードは心の中で毒づいた。
ティルウェイトと冒険に出るのはこれが初めてではない。
以前にも何回か一緒に冒険に出てはいるのだが、その都度、遺跡に入れば謎の宝箱を調べもせずに開けてワナを作動させたり、またある時は謎の人物にもらった薬を勝手に飲んで、最初の頃こそかなりいい効果を発揮したものの、実は後遺症が酷く、しばらく経つと体が麻痺して動けなくなり、その後の冒険では文字通り見事なお荷物になった、ということなどは一度や二度ではない。
そして今回も……
『根はいい奴なんだが、どうにもこうにも警戒心が無さ過ぎる……』
ルードは心の中で密かに舌打ちをする。
『今回はメンバーが少ないんだ。またお荷物なんて御免だぜ……』
「ねっ! なんかいい感じのワンドでしょう!」
ルードの気持ちを知ってか知らずか、ティルウェイトは自慢げにもう一人の旅の仲間、ノースウッドに棒状のものを見せに回っていた。
「それより……今は旅の……途中……」
ノースウッドは口数少なげにそう答える。
名前こそ堅苦しいが、ノースウッドは外見がまだ16歳くらいのマシーネンドロウ、いわゆる人造的に作られたロボットの少女だった。まだ目覚めてから間もないが、彼女の使う銃の冴えは確かなものがあり、以前一緒に冒険したときにも彼女は確実に冒険の成功に貢献していた。
もっともルードにとっては冒険の仲間だったかもしれないが、ノースウッドにとってルードは、仲間、というよりも、もう少し違う、恋、とも違うが、むしろ親への慕情に近い感情を抱いていた。
ノースウッドを最初に見つけたのはルードだった。バヤータ文明の遺跡の中で眠り続けていた彼女の起動スイッチを入れて目覚めさせ、最初に命令を下したのもルードで、遺跡から連れ帰り、人間の世界を教えたのもルードだった。
過去については何も知らない彼女に、世界を教えてくれたのはルードだった。
元々名前がなかった彼女に“ノースウッド”という名前を与えたのもルードだった。
それは彼女をダンジョン・ヒルズの北にある“深き民の森”のバヤータ文明の遺跡で見つけたから、という、極めて単純なところからつけられた名前だったが、彼女にとってその名前は、何よりも大切なものに思えた。
だから彼女は、ルードが冒険に出るといえば文句1ついわずに同行し、彼をサポートし続けてきた。
だが今回の冒険に関してだけは、彼女の勘、ともいうべき何かが、やや行くのを躊躇させていた。
「マスター……この冒険……アタシ……まだ……」
ティルウェイトのはしゃぎようをよそに、ノースウッドは言いにくそうにルードに切り出した。彼女がルードに意見することは非常に珍しいことなのだ。
その言葉にルードは両手をあげて、ややうんざり気味に、
「ノース、まだ言っているのか?今回の遺跡には、バヤータ文明の遺産が幾つもあるかもしれないんだぜ」
「でも……アタシ……」
「そうですよ! バヤータ文明の遺産もそうだけど、謎なんかが待っているかもしれないんですよ! 古代の知識!未知なる遺産! くぅ~、興奮する~!」
ティルウェイトは二人の間に入ってきて、一人で勝手に興奮すると、そこかしこをピョンピョン跳ね回りながら軍楽隊が奏でそうな勇ましいマーチを歌いはじめた。
もっとも彼の素っ頓狂な調子のついた声に、誰も乗りはしなかったが。
「ノース。ここまで来て、今更引き返すというのもないぜ。それにバヤータ文明時代であれば、ノースの生まれた時代でもある。もしかしたら、ノースのことについてもなにかわかるかもしれないんだ」
「……わかりました」
栗色の巻き毛に縁取られたノースのあどけない顔はあくまで無表情を装いながらも、その口調はやや不服ともいうべきトーンの低さを持っていた。
ルードは、ふぅ、と一息つくと、そこかしこを跳ね回っているティルウェイトに向かって一声あげ、冒険の続行を宣言した。
元々、この冒険に旅立つことになったきっかけは、ルードの所属する武器屋の主人からの依頼からだった。
主人はある夜ルードを事務室に呼び出し、こう話を切り出した。
『アルゼィ山脈の麓付近、道から外れた森の少し奥に、手つかずらしい遺跡が見つかってね。なんでも発見した猟師の話では、その扉の表面には今までみたこともないような文様が描かれていたそうだ』
主人はそこで話を切り、机の引き出しを探り一枚の、なにかの記号とも模様ともとれるものが書かれた紙を取り出す。
『で、この猟師がうちの店にきてその話をしたんだが、ワシもこの手の商売をしているおかげで、古代文明についてはまったくのド素人というわけではない』
そして紙を広げ、ルードにその模様を示した。
『その文様、というものを猟師に書いてもらったら、どうにもこれがバヤータ文明のものらしくてね』
ルードも確かにこの模様には見覚えがあった。彼が以前何回か潜ったバヤータ文明の遺跡に、これに近いものは幾つかあったからだ。
ルードが静かに頷くと、主人は手を組み話を進めた。
『ルード、お前がバヤータ文明に最近ご執心なのは知っている。ノース、だったか……あのマシーネンドロウの娘の過去について調べているんだろ?』
再びルードは小さく首肯する。
『もしかしたら、この遺跡にその手がかりがあるかもしれん。もちろん無いかもしれんが、幸いまだ手つかずのようだし、宝物の一つでも見つければ、そこからなにかわかるかも知れんぞ』
ルードは、思いを巡らせる。
確かにこれはチャンスかもしれない。手つかず、であれば、色々資料も残されているかもしれない!
『で、ワシからの依頼なんだが、お前も冒険者ならいっちょこの話に乗ってみんかね? もちろん職人の仕事は冒険中は有給休暇扱いにしてやるし、もし冒険で何か宝物の一つでも見つければ、こっちは情報料として半分貰い、あとはお前の自由にしていいし、それにマシーネンドロウ関係のものであれば全部くれてやる』
主人は、決して人の悪そうな顔ではないが、色々な計算が感じられる笑みを浮かべ、
『どうだ? 悪い話じゃないだろ?』
そう言うと、机に置かれたお茶を口に運んだ。
確かにその話はルードにとっては悪い話ではなかった。彼は雇い主の主人の依頼でもあるために、二つ返事で依頼を請け、そして仲間を募った。
彼にとってはやや足手まといになるかもしれないが、その類稀な嗅覚と知性によって様々な巧妙な仕掛けを見抜く(見抜くだけで解除できるわけではないが)ヴァルナ―の超能力者ティルウェイト。
そして彼の家の居候であり、彼にとっては冒険の頼もしいパートナーとなりつつあるマシーネンドロウの銃の使い手の少女ノースウッド。
そしてワナを探り、戦闘も行えるルード自身が、この冒険のリーダーとなった。
ルードの本心から言えば、もう少し仲間は欲しかったのだが、あいにく他の面子は出払っていたために、集められたメンバーは実質ティルウェイト1人だけ、という、やや不満足なパーティー構成となってしまっていた。
『だがな……』
ルードは冒険に旅立つ朝、ダンジョン・ヒルズの城門を潜り抜けた瞬間、何か興奮に近いものを感じていた。
バヤータ文明……
この時代の文物が手に入れば、ノースのことが何かわかるかもしれない。
そんな期待が胸の奥底からこみ上げてきていた。
それからの旅程は、比較的穏便に過ぎていった。街道を通るものの姿は旅人や荷馬車がチラホラと見え、その他にも武装した騎士の集団などとすれ違ったりもしたが、どれも彼らに対しては無関心で、彼らもこれといった接触を持たず、ただ武器屋の主人が書いた地図にある遺跡を目指して、道を進んでいた。
空は晴れ、野盗の襲撃も、野獣との遭遇もなく、この旅程は穏やかに過ぎていくものと、ルードは思っていた。
ティルウェイトは相変わらず賑やかに、しかしノースウッドは、顔を俯かせ、目が合えばこの冒険について何か言いたそうな、そんな剣呑な雰囲気が感じられた。
だがルードは敢えてそれを無視し、道を急いだ。
しかしダンジョン・ヒルズを発ってから二日目の昼前、街道に横たわる一つの影を見つけ、彼らは立ち止まった。
それは少し盛り上がった、元は赤色だったのだろうが、今は茶褐色に汚れたボロボロのローブで、その横にはこれもかなり古いものらしいカバンが落ちており、これらを着用していたものが、かなりの時間を旅してきたことが察せられた。
ティルウェイトが好奇心から近寄ると、ローブが何やら蠢き、ティルウェイトのほうに枯れ枝にも似たか細い腕が弱々しく突き出された。
ティルウェイトも最初は驚きもしたが、それがかなりよれよれのローブを纏い、目深くフードを下ろした、たぶん人間と思しきものだと感じとると、その手をとって、
「何かお困りのことでもあるのですか?胸が痛いとか、お腹が空いたとか?」
ティルウェイトの問いかけに、ローブの人影は、極めて小さい老いたしわがれ声で、
「腹が……腹が減っております……」
そう言うと、ティルウェイトの手に縋って何かを求めた。
その言葉に安堵の微笑みを浮かべたティルウェイトは、空いている手でカバンを探ると、今回の冒険で予備としてとっておいた保存食を取り出し、
「私たちは旅の途中なんです。だからあまり美味しいものは持っていませんが、これならたぶん腹持ちもするし、少しは空腹を紛らわすことが出来ますよ」
そう言うとローブの人影に保存食を手渡した。
ローブの人影はそれを手にとるとやや震えた手つきで、最初は鼻に近づけ臭いを嗅ぎ、そしてしばしむしゃむしゃと口にほうばり食べた。やがて食べ終わると、腰をあげ、ティルウェイトに軽く会釈すると、街道をダンジョン・ヒルズに向かってよろよろと歩きはじめた。
その後姿を見ていたティルウェイトだったが、近くを荷馬車が通るのを見ると、彼は飛び出して荷馬車を止め、馬車がダンジョン・ヒルズに行くことを確認した。
そして、しばらく進んでいたローブの人影のところまで駆け寄り馬車のところまで連れてくると、荷馬車の御者に幾らかの賂を渡し、
「この人を、できれば街まで運んでください。行き先はダンジョン・ヒルズでいいんですよね?」
ローブの人影に街まで行くことでいいのかを聞くと、人影は静かに頷き、フード越しにマジマジとティルウェイトを見入るような仕草をした。
そしておもむろにカバンに手を突っこみ、一つの装飾が施された棒状のものを差し出した。ティルウェイトはやや眼を大きくしてそれに魅入ると、
「これ、私のくださるのですか?」
ティルウェイトの問いかけに人影はゆっくりと首を縦に振り、ティルウェイトにしか聞こえないほどの小さな声で、
「これは、どうしても大変なときになったら弧を描くように大きく振ってください。ただし、たった一回しか使えません。時と場所を考え、最適なときに最適な選択を……」
そう言うと、ティルウェイトの手に棒状のものを握らせ、そのまま馬車に乗ってダンジョン・ヒルズの方へと消えていった。
ティルウェイトはその後ろ姿を暫し見つめ、彼の人にささやかな幸せを、と心の中で祈り、そして再び贈られた棒状のものに目をやった。
『これはきっと、バヤータ文明の遺産のワンドに違いない……いえ、きっとそうです!』
そう思うと、ティルウェイトは心の奥底より何か嬉しいような楽しいような心が躍るような感覚が湧き上がってきて、いてもたってもいられなくなってしまった。
『これはきっと遺産のワンドです! 私の目に狂いはない! きっと、いいものです!』
そう、ティルウェイトはこの突然の贈り物に嬉々としていたが、その様子を見ていたルードは、いらない道草を食ったとばかりにつまらない表情をしており、ティルウェイトが何を喜んでいるのか、彼が何を貰ったのかまでは、その時はよくわかっていなかった。
そしてルードは道中歩いている最中、ティルウェイトがその見慣れない棒状のものをいじっている姿を見咎めて声をかけた。
ティルウェイトは嬉々として語り、そしてルードはうんざりし、ノースウッドはこの冒険の続行に難色を示した。
ルードにとっては、幸せな気分がいささか沈んだ。
それから二日が過ぎ、一行はアルゼィ山脈麓の森の中に分け入っていた。猟師などが使う小道しかないが、幸い武器屋の主人の地図は要点を得ており、迷うことなく目的地まで到達できた。
遺跡は、山肌に沿うような形で作られており、一種の石造りの二階建ての館を彷彿とさせた。
ただ、一階部分にも二階部分にも窓はなく、中はかなり暗いものだと推察された。
そして問題の扉には、確かに奇妙な文様が描かれており、それはティルウェイトばかりかノースウッドにさえバヤータ文明時代の文字であることが見てとれた。
「これ、どうやって開けるんだ?」
取っ手も溝もなく、どう扉を開ければいいのかわからないルードは、文芸担当のティルウェイトに聞いてみた。
ティルウェイトはしばし扉を見入ると、
「これは、どうやら合言葉で開く仕掛けですね」
「合言葉って?」
ルードはすかさず聞いたが、ティルウェイトはやや興奮気味に扉の横に描かれているバヤータ文明の文字と思しきものを読み、
「ここ、ここですよ!え~と……『我が家に入りたくば入りたるときの礼節を述べよ』と書かれてますよ」
その言葉にルードはやや困惑気味に、
「バヤータ文明時代の我が家に入りたるときの礼節って言われてもなぁ……」
「普通、人様のお宅に入る時ってどういいます?」
ティルウェイトが扉から目を離しルードたちを見返したとき、不意にノースウッドが、
「デェルダ・ヴァル・クス……」
そう言葉短めに告げると、扉の文様が微かに光、静かに横にスライドし、道を開いた。
その突然の光景に、ルードは怪訝な顔をし、次いでノースウッドを見つめ、やや詰問する口調で、
「ノース。今なんて言ったんだ?」
ノースウッドはこの光景に対して、無表情な顔はしていたが少し慌てた仕草で、
「あれは……その……」
突然のことに自分でも驚くノースウッドを尻目に、
「『お邪魔します』のバヤータ文明語ですよ。そうですよね、ノース」
しどろもどろの口調のノースウッドに代わり、ティルウェイトが嬉しそうに告げた。そのやりとりを見ていたルードは、自分の知らないバヤータ文明語を満足な記憶がないノースウッドが何故話せるのか、少し戸惑いにも近い感情が芽生えたが、やや気を取り直して、
「ふ~ん……バヤータ文明語ってそんな感じなのか。まぁ、言葉がわかるんなら、こういったことはお前たちに任せるよ」
そう言うと、一行は開かれた戸口を潜り、遺跡内部に足を踏み入れた。
遺跡の中は思ったよりも明るかった。いや、明るくするための仕掛けがあった、というほうが正解かもしれない。
壁のあちらこちらには、バヤータ文明時代に設置されたであろう照明器具が配置され、しかもそれがまだ生きており、その技術の高さを物語っていた。
そして遺跡内部を調査していくうちに、一階部分にも二階部分にも、目立った宝物だの遺産だのが見当たらないことがわかった。
「空振りか? この遺跡には何もないのか?」
ルードは、やや落胆した口調で周囲を見回した。
広間ともいえる広さを持ったこの部屋を見回しても、あるものといえばなにかの修理に使ったであろう木材と、なにかが書かれた紙片の束数束のみ。
しかし先ほどから床に座り、その紙片の束に難しい顔をして目を通していたティルウェイトが、いきなり大きな声で、
「わかった!」
そう叫ぶと、ルードの静止も聞かずに、一階部分の一隅へと走りはじめた。
そして……
「ここです! ルード、ここを調べてください!」
不審に思ったルードは、事のあらましをティルウェイトに問いただした。
ティルウェイトは語った。
「私は気付いてしまったのです。この紙片! この紙片は、一見ただの落書き、数字の羅列のように見てとれますが、これはこの館の方位と座標、そして角度を表わしたものだったのです!」
「そして、この方位、角度から考えられる地点は、この一隅しかない、と私の直感が訴えかけてきたのです!」
ティルウェイトの目は興奮で充血し、
「だから、ルード! あなたの力の見せ所です! ここから更なる道を開くのです!!」
ティルウェイトの興奮はすでに頂点に達しており、ルードの反論など聞く耳を持たない状態だった。
ルードは無駄ではないかと考えながらも入念にそこかしこを調べると、壁の一部にやや動く気配が感じられた。
『これは……』
ルードはさらに入念に調べた。動く壁、というものは、よく遺跡などでは使われる手段だ。
そしてその先には大概、何かしら重要な秘密の通路なりが隠されていたりもする。
ルードは自身の経験から、壁を叩き、押し、周囲を触ると、壁の一部がスライドすることがわかった。
そしてそこをスライドさせると、その中にはレバーのような取っ手が納まっていた。
それを見たティルウェイトは、
「あぁ、ありましたね! さぁ、それを引くのです!!」
そう叫ぶと興奮気味に催促したが、どういった仕掛けかも判然としない今、このレバーを引くのには多少躊躇われた。しかし……
「あぁ~ん、もう! 引かないんなら私が引きます!」
横からティルウェイトが割って入り、いきなりレバーを手前に引き倒した。その光景にルードは大声で、
「馬鹿っ! どんな仕掛けかもわかっていないんだ!不用意なマネをするんじゃないっ!!」
しかし時すでに遅く、軽い音と共にこのレバーが収められていた右隣の面の壁がスライドし、まだ見ぬ道が開かれた。と同時に、どこか地の底でも、何かが蠢きはじめるような音が響いてきた。
「どうです! 私の勘は当たっていたっ! この先に、きっと宝物が眠っているはずです!」
しかしルードは、その言葉をまともに聞いてはいなかった。
確かに道は開かれた。だが、さっきの地の底から聞こえた地鳴りのような音はなんだ?
ルードはそんな思いを抱きながらも、開かれた通路へと歩みを進めた。
通路はしばらく行くと下に向かう階段へと繋がっていた。
だがそこには、人型をした動く人形とでも言うべき歩兵の守護者、サーバントが二体おり、一行の行く手を塞いだ。
しかし、一見手強そうに思えたこのサーバントたちは、ルードの剣術とノースウッドの銃の前では敵ではなく、いとも容易く撃退され、一行は事なきを得て、更なる地下へと進んだ。
地下は思ったよりも広かった。そして地上の階とは違い、様々なバヤータ文明時代の遺品が安置されていた。
ルードたちはその中で価値がありそうなものを選び、それぞれのバックパックに収めると、さらにその先を進んだ。
そしてさらに地下へと続く階段で、先ほどと同じサーバントたちと遭遇し、軽い戦闘の後、その行く先をさらに地下へと求めた。
この戦いでティルウェイトが怪我をしたが、それは傷薬と応急処置でどうにかこうにかやり過ごすことができた。
だがここにきて、ノースウッドの表情がやや曇りはじめてきた。
ティルウェイトの怪我の手当てをしながら、ノースウッドはルードの顔をちらちら見て、何か言おうとしている様子が見てとれた。
ルードもそんな状況にややイラつきながら、ノースウッドに声をかけた。
「ノース。何か言いたいことがあるんなら言ったらどうだ。何か溜め込んでいるのはマシーネンドロウでも体に悪いぞ」
ノースウッドはその問いにやや俯き、少し目を閉じ、そしてキッとルードを見つめ、
「アタシ……もういいです……過去のことは……」
ルードはその言葉を予期していたのか、深い溜め息をつき、
「ノース……今回のお前、どうかしてるぞ。いつもなら俺の言うことにもやることにも口を出さないお前が、なんで……」
ルードの胸ほどしかない背丈のノースウッドだったが、まるでルードに挑むかのような態度で、
「ティルウェイトさんも……怪我をしました……だから……アタシ……」
その反抗的ともとれる言葉にルードはついカッとなり、
「いい加減にしろっ! 冒険者に怪我はつきものだ! 特にティルウェイトが怪我をすることなんていつものことじゃないか!」
「でも……」
「じゃぁ何か? 俺たちの誰かが死んじまうとでもいうのか!?」
「……いえ……」
「じゃぁ、お前の心配は杞憂だ! ありもしない心配で不安になっているんだっ!」
そう言うとルードは大きく手を振り、この話題の中止を宣言した。
ノースウッドはそのまま俯きルードに背を向けたまま、再びティルウェイトの治療に戻った。
気まずい空気が流れたのを察したティルウェイトはノースウッドを慰めていたが、その様子を見てルードは、言い過ぎたかな? と、少し良心が傷まないでもなかったが、どうせ杞憂だ、と、気分を変えることにした。
そしてさらに地下へと到達し、一本道の通路を少し行ったとき、一つの大きな扉の前に出た。それは今までの扉とは異なり、かなり大きな鉄製の扉だった。
「この中! たぶんこの中に、この遺跡の最重要秘密が眠っているのですっ!」
杖を突き出し、ビシッ! っとポーズを決めたティルウェイトの言葉に、一行は少し緊張した。
ルードは慎重に扉に取りつき、ワナの有無を調べ、ないとわかったらかかっていた鍵を解除した。扉は、一人で開けるには重すぎるが、ノースウッドの力を借りれば容易に開けられた。
中はかなり広いドーム状の円形の空間だった。
周囲の壁には本棚がびっしりと置かれ、本が整頓されて納められており、扉の対面にあたる奥には、巨大な機械のようなものが設置され、それは鈍い音と微かな光をそこかしこから発していた。
「ここは・・・?」
ルードは部屋に足を踏み入れると、周囲を見渡した。ティルウェイトやノースウッドも続いて入り、ティルウェイトは周囲の本棚を一瞥すると、
「たぶんここは、この遺跡の心臓部。いわゆる古代知識が収められた書庫です!」
ティルウェイトは興奮気味に近くの本棚に駆け寄ろうとした。
しかし……
「気をつけろ! ティル!!」
突如として部屋のドーム天井が開き、一つの巨大な影が、今まさにティルウェイトがいたであろう地点に落下してきた!
ティルウェイトはルードの声に機敏に反応しピョンと横に飛んだからいいものの、もしそこにいれば、間違いなくヴァルナ―のミンチ肉が出来上がっていただろう。
「な、なんですっ!?」
ティルウェイトはとっさに振り返り、自分を踏み潰そうとしたものを確認した。
床に積もっていた埃をまき散らし落下してきたそれは、次第に埃の晴れる中、その姿を顕わにした。
金属で出来た3mはあろうかと思える巨体、その体の上部に球形の砲塔と思しき物が見え、まるで野獣の荒々しさを体現した四本の機械の足が体を支えていた。
そしてそれは、以前上の階で聞いた、あの地響きともとれる轟音を発しており、それは地面に転がってそれを見ているティルウェイトに向きを変えようとしていた。
「ガーディアンかっ!?」
ルードは苦虫を噛み潰したような顔をした。
ガーディアンとは、バヤータ文明時代に作られた四本脚の体と光線銃を搭載した砲塔を持つ機械兵、いわば戦闘用のロボットだった。その体は頑強な金属で出来ており、生半可な攻撃では効果がなく、そのため以前駆け出しだった頃の彼が出会った時も、しこたま痛い目にあわされたことがある敵だった。
『さっきの地鳴りみたいな音はこいつの起動音だったのか……だが……』
しかしルードには多少の勝算があった。あの時は駆け出しだったが、今は違う。それに力強い仲間もいる。なんとかやれるっ!
ルードはガーディアンとの距離を考え、やや後ろに下がると、
「ティルウェイトは後ろに下がって超能力援護! ノースは距離をとりこいつを狙撃しろ!」
そう素早く指示を出すと、ティルウェイトを後方に下げるために、自身が囮になりガーディアンの注意をそらす作戦に出た。
なるほどガーディアンは戦闘機械だが、頭はよくないらしい。ルードの軽い陽動にもまんまとひっかかり、その向きをティルウェイトからルードに変え、重々しくルードに向かって一歩を踏み出した。
『くるな……』
ルードはガーディアンの次の行動を予測した。次はたぶん、上部の砲塔にある機銃を撃ってくる……
そしてそれは的中した!
砲塔から派手にビーム弾を放つガーディアンに対して、ルードは機敏な動作でその攻撃をことごとく避ける。しかしふと、周囲の本棚のことが気になり目をやると……
「……!?」
このような事態を想定していたのか、本棚や部屋の奥の機械にはいつの間にか鎧戸のようなものが下り、万が一にも流れ弾が飛んできても大丈夫な作りになっていた。
『ご丁寧な作りなことだ……だが、これで思う存分暴れられる!』
ルードはそのことを確認すると、俊敏に部屋の各所を飛び回った。
その都度ガーディアンは、ルードめがけてビーム弾をばら撒いた。それらの弾の幾つかはルードの体を傷つけ、彼の額からはいつしか血が流れ落ちていた。
「ルード! 私はもう大丈夫だ! 指示を!」
扉付近まで下がったティルウェイトが叫ぶ。ルードはその声に応え、
「こいつにサイコバーストを撃ち込め! ノース!」
「はいっ!」
呼ばれたノースは銃を構え、準備にはいる。
「お前は十分狙いを定めて、こいつの急所を突け!」
その言葉と共にルードはガーディアンから距離をとった。サイコバーストは範囲攻撃型の超能力であり、ガーディアンの近くにいては巻き添えを食らってしまうからだ。
そしてティルウェイトの詠唱が終わり、ガーディアンに向かって突き出した杖の先端に拳大の光球が出現したかと思ったら、その光の玉はガーディアンに向かい一直線に飛んでいき、そして弾けた!
ガーディアンはその爆発を受け、激しくよろめいた。
しかしその四本の脚は崩れることなく、今なお健在だった。
だが……
爆発がおさまったのと同時に、今度はノースウッドの銃撃がガーディアンを襲う!
急所を狙う必殺の一撃だったが、残念ながら急所を射ることはできなかったようで、その攻撃によってもガーディアンは倒れずにいた。
『だけどな……』
ガーディアンはこれらの攻撃を受け、向きをティルウェイトたちに変えようとしていたその時、後方からルードが一気に飛びかかり、その巨体をよじ登り砲塔に取りついた!
「ティル! 俺にエンチャントをかけろ!!」
ルードの声にティルウェイトは超能力を発揮する。そしてルードの剣が、黄金の輝きと共に光の炎を吹き出した。
「これで、どうだっ!」
激しい光の奔流がルードの剣からほとばしる!
ルードは砲塔めがけて剣を突き刺した。軽い爆発と共に破壊される光線銃。そして、その攻撃は確実に本体にもダメージを与えていた。
「×○△□×△!?」
ガーディアンは奇妙な悲鳴ともとれる声を発すると、ルードを振り落とそうと必至に体を左右に振りはじめた。
しかし、ルードはしぶとくしがみつき、その手にした剣は、確実にガーディアンにダメージを与えていった。
『やったか!?』
ルードは勝利を確信し、少し手を緩めた瞬間、激しい衝撃と痛みが彼の体を襲った。
それは彼には唐突な出来事のように思えたが、周りで見ていたティルウェイトやノースウッドは気づいていた。
ルードはしがみついていることに夢中になっていたからわからなかったが、ガーディアンは振り落とせないのを見てとると、その体を壁にぶつけ、ルードをガーディアンの巨体と壁の間にはさんで押し潰す作戦に出たのだ。
そうとは知らずにルードはまんまとその策に乗ってしまい、しこたま壁に体を打ち据えられ、激しく床に落ちていった。
満身創痍のガーディアンがその姿を見て、不気味な咆哮をあげる。
「マスター!?」
悲鳴にも似たノースウッドの声。
しかし全身に痛みを感じながらも、ルードはノースウッドに精一杯の声で指示を出した。
「ノース!もう一回だっ! もう一回狙撃しろ!!」
今まさにルードを踏み潰さんとするガーディアンの姿を目の当たりにして、ルードは死を覚悟した。その刹那、
ゴウンッ!
ガーディアンの胴体をなにかが貫いたと思った瞬間、小さな爆発が起き、そしてゆっくりと後ろに倒れていった。
「……?」
ルードは最初そのことを理解できなかったが、すぐにノースウッドが駆け寄り、ついでティルウェイトが駆けつけて説明してくれると、全てを理解した。
ルードが最後に出した指示、ノースウッドの狙撃が功を奏し、ただでさえルードの攻撃で弱っていたガーディアンに最期の一撃を見舞い、そして倒したのだ。
ルードは全身の痛みを我慢しながら起き上がると、そこにノースウッドが寄り添ってきた。
「マスター……怪我……大丈夫?」
ルードは、いつもとは違い心配げな表情を浮かべるノースウッドの頭に手を置いて、
「ああ……ちょっと痛いが、まだいけるよ。さぁて、ここの宝物でも漁るかなぁ……」
そう、いたって陽気に振舞うと、部屋の奥の機械目指して歩きはじめた。
だが……
ガーディアンの残骸に目をやっていたティルウェイトは、ガーディアンの機能がまだ完全に停止していないことに気付いた。そしてガーディアンが微かな声で、バヤータ文明語を発したことも聞き漏らさなかった。
「大変です!」
ティルウェイトは叫ぶ。その声にルードもノースウッドもビックリして振り返ると、ティルウェイトが真剣な面持ちで、
「今、こいつが言ったんです! この遺跡の自爆装置を起動させた、と……!!」
「なにっ!?」
ルードたちは慌てふためいた。あれだけの戦いを乗りこえたというのに、ここでこんなことが待っているなんて……
「早く逃げ出しましょう!」
ティルウェイトがそう言った刹那、部屋全体を激しい揺れが襲った。
その揺れによって壁や天井のそこかしこが崩落を始め、すでに出入り口が瓦礫に塞がれてしまっていた。
「馬鹿な! ここまで来て……」
その光景と現実を目の当たりにして、ルードは激しく後悔した。
この冒険に出る前、そして旅の途中、遺跡に入ってからでさえも、ノースウッドが引き返すことを進言したのに、それを小馬鹿にしたように一笑に付して、まるで相手にしなかった自分を。ノースウッドの気の迷いと嘲った自分を。
「逃げ道は……ない……のですか?」
ノースウッドが、苦渋に歪んだ顔をして佇むルードにそう聞いたが、ルードには何も言えなかった。
そうこうするうちに部屋全体の壁は崩落の一途を辿っていた。
「そうだっ!」
いきなりティルウェイトが大きな声を出した。しかし、その声は絶望ではなく、何かの希望に満ちていた。
「これ、これですよ! これを使えばいいんです!!」
ティルウェイトはカバンの中から、旅の途中のローブの人影から貰った棒状の物を取り出した。ルードは諦め顔でティルウェイトを見て、
「ティル……何かの冗談か? この状況でそれがなんの役に立つ?」
しかしティルウェイトは陽気さを変えずに、
「いや、大丈夫ですよ。うん、大丈夫! これはきっとバヤータ文明の遺産のワンドです。私はこのワンドの力を、そしてこれをくれたあのローブの人を信じます。いや、今は信じるしかない!」
そう自分にも言いきかせるように力説すると、棒状のものを弧を描くように振り回しはじめた。
『何やってんだか……』
何回か振り回してもまったく変化のない様子を見ていたルードは、崩落してきた天井の破片の幾つかがすぐ近くの床に落ちて砕けたのを、失意の底で俯きながら無感動に眺めていた。
いずれ俺も死ぬんだな……
しかし奇跡は起きた。
しつこく棒状のものを振り回し続けていたティルウェイトと、それを眺めていたノースウッドが、互いに歓声を上げた。
「マスター! これを……これを見てください!」
「外ですよ! 外に出られるゲートが出来たんですよ!」
ルードが視線をティルウェイトたちに向けると、今さっきまでティルウェイトが棒状のものを振り回していた軌跡の空間に、ポッカリと外の光景が写っていた。
そして、ティルウェイトが半身をその中に入れている光景も目に入った。
「これで助かります! さぁ、このゲートが閉じないうちに、早く!」
ティルウェイトがゲートの向こう側から声をかけてきた。
ノースウッドもルードの腕を引き、必死な顔で、
「マスター……今は……早く……!」
ルードは自分の腕を力一杯引くノースウッドの顔を見て、ふぅ、と深い溜め息をついた。
「俺は……お前の過去を見つけてやりたかった……でも、今回もダメだったな……」
しかしそんな情けないことを呟くルードの気持ちをよそに、ノースウッドはルードの腕を激しく引き、
「そんな……ことより……早く!」
天井が激しく崩落を始め、本棚も、機械もすでに砂礫の埃で見えなくなり、すでに部屋の原形は失われつつあった。
ゲートも縮まり行く中、ルードはゲートを潜る一瞬前、崩落の音にも負けじと、大声で一言こう叫んだ。
「くそったれ!」
ゲートは遺跡の外の森に繋がっていた。ルードたちがゲートを潜り、轟音がしたので後ろを振り返ると、そこでは、今まさに脱出してきた遺跡の館が、激しい土煙を立てて崩壊する様が見てとれた。
「生きて……出られた……」
ルードはやや呆けた表情でその光景を見ていたが、ノースウッドがしがみついてきて、震える小さな声でこう囁いた。
「アタシに……過去はいりません……ただ……今のアタシには……マスターが……必要なんです……一人ぼっちにしないでください……」
ノースウッドは今にも泣きそうな顔でそう告げた。
たぶん、涙を流せるのであれば、その瞳には大粒の滴が浮かんでいたのだろう。
ルードは傷だらけの手を、そんなノースウッドの頭にやり、しばし柔らかい手つきで撫でたあと、悔恨とも自嘲とも、ノースウッドへの愛情とも懺悔ともつかない優しい声で、こう呟いた。
「……くそったれ……」
それから休憩もかねて五日かかってダンジョン・ヒルズに戻った一行は、とりあえず手に入った遺産や宝物の分配に入った。
あまりめぼしいものは手に入らなかったが、それでもそれなりの額になり、半分は武器屋の主人が、あとの半分はそれぞれに分配した。
もっとも、ノースウッドの分け前もルードに入るのではあるが。
幾つかの宝物の中には、バヤータ文明時代の機械や文物を伝えるものもあったが、それが直接ノースウッドの過去と繋がりそうなものはなかった。
だがそれでも、今回の冒険ではそれなりの成果が出ており、各人は満足しながら冒険の終わりを迎えた。
そして、冒険成功の打ち上げが行われた翌日の朝、ルードは自宅の一室に間借りしているノースウッドの部屋を訪ねた。
すでにいつもの生活に戻っていたノースは、小さな首飾りをつけた衣装を纏い、無表情で戸口に現れた。
それを見て、ルードはやや照れた笑みを浮かべ、
「ノース。この前は世話になったな。これは俺からのプレゼントだ」
「なんですか……?」
ノースウッドは、ルードから手の平サイズの小箱を受け取るとしげしげと眺めた。
その表面には綺麗な装飾が施されており、女性的な雰囲気を漂わせていた。
「雇い主が鑑定してくれてね、この上についているボタン。これを押すとな……」
ルードが、ノースウッドの手に収められている小箱の上にある小さなボタンをちょこんと押すと、箱は小さな金属音でメロディアスで可愛らしい曲を奏ではじめた。
「わぁー……すごーい……」
ノースウッドは手にした箱から流れてくる曲に耳を傾け、静かに目を閉じる。
うっとりと聞き惚れるノースの姿を見て、ルードは満足げな笑みを浮かべながら、
「今回の冒険でもノースの過去については何もわからなかったけど、それを聞けば何か思い出すんじゃないかと思ってね。まぁ、もっとも本当に気休めだけどな」
そう照れ臭そうに言うルードだったが、ノースウッドは珍しく口元に笑みを浮かべながら聞き惚れている。
そしてふと、ルードに向かってこう尋ねた。
「この曲……なんて名前……なんですか……?」
その質問にルードはちょっと困ったような顔をして、
「曲名かぁ……確かな曲名かどうかはわからないんだが、武器屋の主人の話では、その箱に“あなたを愛してる”って書いてあったそうだ」
「へぇ……“あなたを愛してる”……」
そう言うと、再びノースウッドはその小箱から流れる曲を瞳を閉じてうっとりと聞き入っていた。
ふと、ルードが窓の外に目をやると、そこには白い雲と、どこまでも抜ける青い空が広がっていた。
『今日も晴れるかな……』
ルードはそう思うと、ふと、心の底から幸せな気持ちがこみ上げてくるのを感じずにはいられなかった……
ラヴィング・ユー(END)
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