第6話




VR-MMO-ARPG スインベルン・オンライン。プレイヤー達がマイキャラクター、アバター作成後必ず訪れる最初の街[スタートルの街]は昼過ぎから更に賑わい、色付く。


2031年3月16日。

正式サービス開始から二日目の日曜日、午後14時。


片手剣使い Lv13 キャラネーム[レイン]のわたしは白染めのクラブクロスを身に纏うβテスト出身のタンカー[メルセデス]と彼のパーティーメンバー、装備をスナッチされ怒り狂っていた[リバー]と共に、スナッチプレイヤーが湧いていたマップ、[ゼリアスロード]へ向かった。

中間地点の安置までサクサクと進めた事から、メルセデス達やリバーのPS ーープレイヤースキルの高さは相当なものだろう。

アクティブが徘徊するゼリアスロードで複数のモブにターゲティングされるも、顔色一つ変えず素早く処理する実力。リバーは防具をスナッチされ、レザーアーマーというDEFが若干頼りない防具でも、アクティブに先手と反撃を与えず攻め続け、勝利し、中間地点の安置でHPが自然回復するのを待ちつつ気持ちを落ち着かせている所だ。


「リバーさんは斧使い...タンクだったのかな?」


先ほど街で出会ったばかりのリバーへメルセデスが話しかける。


「タンクってほどじゃないけど、ある程度なら壁出来ていずれはブレイカーポストを狙ってたんだけどな」


ブレイカー。

ある程度のタフさと圧倒的な破壊力を持つビルドで、ボスモンスターのスキルを潰したり、部位破壊を行うポスト。

斧や大斧は速度が遅い分、一撃が恐ろしく重いのでタンカーを助けるブレイカーやディフェンダーに理想の武器種。


「へぇ、タンクの身としてはブレやディフェ、ヒーラー系は凄く助かる存在だ」


「タンクをやりたがるヤツなんて、そうそういないもんな...俺もタンクの火力だと狩り速度が遅くて、ブレビルドを選んだ様なもんだし」


メルセデスとリバーは性格こそ違うが、さすがβテスターと言った所か。自分の理想ビルドとその役割を理解している...タンクがあまり人気ないビルドだという点も理解している。


「レインさんはソードマン、アタッカー志望かな?」


メルセデスは次にわたしへ質問してくる。こうして自らプレイヤー達と関係を持ち、ボス討伐の際に組まれるレイドパーティに参加してくれそうなプレイヤーを探しているのだろう。

仲がいい だけのパーティではボスに粉砕されて終わる。


「アタッカーってワケじゃないけど、わたしも現時点ではサクサク進みたくてね」


この言葉は嘘ではないが、本当でもない。

アタッカーではなく、高い機動力を持つブレイカー、デバファー、EVAタンク...普通のプレイヤーではまず選ばないビルド[トリッカー]を選び、育成している。

通じるか通じないかはレイドを組んでみなければわからないが、βラストでこのビルドへ自ら進み、楽しさを知ってしまった。


「なるほど。ボスレイドでは二人の力も借りる事になるだろう、その時はよろしく頼む!」


うまく会話をまとめ終わらせたメルセデスは瞳を鋭く光らせマップ移動エリア ーーゼリアスロード最後のマップへ視線を刺し黙る。


「...この先でわたしのパーティメンバーが武器をスナッチされた。リバーさんも?」


「同じだ。移動した瞬間、大斧持ちのデガゴブが攻撃してきやがった」


ヨシとリバーの事故現場はやはり同じ。あれから時間も経っているのでスナッチャーがいなくなっている事も考えられる。


「ただのスナッチャーじゃない。ゾンビでモンスターのAIを操り、自分の手を汚さないMPKスナッチャーだ。油断せず進もう」



MPK。

メルセデスが言い放った言葉がわたし達へただならぬ緊張感を与えた。

死体を漁り武具やアイテムを奪い盗むスナッチスキルを持つスナッチャー。これは死体がなければ発動しないスキル。


死体がなければ死体を作り、奪えばいい。


そんな思考でPKを行いペナルティ対象になるのはごめんだ。と言うかの様にモンスターを使い、ゾンビ戦術をMPK手段とし、スナッチを繰り返すプレイヤー。

正直、頭の切れはいい。そしてPK慣れしている。もし戦闘になればPK慣れしていない、こちら側は不利。


「レインさん。先にマップ移動を頼めるかな?」


「うん、でも...わたしさっき移動済みなんだよね。番人ゴブリンがいるかもって思ってる状態で行動してもいいの?」


メルセデスへ答え、ついでに質問をぶつけると数秒考え、返事をくれる。


「そうだな、番人がいる事を想定したうえの行動を頼む。レインさんが移動して五秒後、俺達も移動する」


「まてまて、メルセデスとリビーラーと俺が五秒後移動、他のメンバーはここで待機して、移動してくるプレイヤーを無理矢理でも足止めした方がいい。マップ移動中ハイディングスキルは消えるからな」


「確かにそうだ...その作戦で行こう!」


メルセデスとリバーの作戦会議が終わり、わたしはベルトポーチからリジェネポーションを取り出し使った。

ゼリアスの森を守る番人が移動した瞬間目の前にいる考えなら、リジェネポの一つや二つ飲むのは当たり前。

MPKスナッチャーがまだいるとして、今のわたし達の行動をどこまで予想し、対策を練っているのか。

プレイヤーの敵はモンスターだけじゃない。同じプレイヤーも、時にはシステムさえも敵になる。

こんなに早くプレイヤーとシステムが敵になるとは予想していなかったが...ゾンビを出来ない様にするとなれば、モブ釣りが出来なくなる。残念ながらこのシステムは変更できないし釣りもゾンビも昔から攻略戦術の一つ。

どうにかプレイヤーとして、この問題を解決しなければ運営チームに苦情メッセの波が押し寄せるだろう。

運営チームのプレイヤーとしてのわたしの仕事の1つ、プレイヤーとして処理出来る問題はプレイヤーとして処理する事。


波紋を打つ様に揺れるゼリアスロードのラストマップ。


「リビールとスナッチ阻止頼むよ」


メンバーに言い、わたしは一人マップ移動する。

ふわっと身体 ーーキャラアバターが浮かぶ感覚に襲われ、すぐ地に足が付く。

そして耳障りな叫び ーーと言ってもこの叫びボイスも数種類の中からこの番人ゴブリンに合う、違和感がないボイスをわたしが決めたのだが。


午前と同じく番人ゴブリンはマップ移動した先で、現れるプレイヤーを待ち構えている様に徘徊していた。

引っ掛かる様な荒い叫びと共に振り降ろされる大斧、わたしはクエスト報酬の剣[クラブソード]に手を伸ばし、番人ゴブリンの攻撃を回避しカウンターの一撃を狙い踏み込んだが、トスッ と軽い音が響き、アバターが力を失う。

視界が一瞬うねる様に揺れ、クラブソードが左手から溢れファンブル。

脳は動き回転しているのに身体 ーーアバターは言う事を聞かない。

これは常態異常だ。現段階でモンスターが使う常態異常は無視できるレベルの毒。

プレイヤーが使える常態異常はモンスターと同レベルの毒と...目眩デイズ


脳が素早く状況予想と現状整理を始めるも、アバターは言う事を聞かずゼリアスロードに力なく倒れる。

直後、わたしの頭に分厚く重い斧の刃ば通過し、地面まで抉った。

全身に一瞬、凄まじい重さがのし掛かり、揺れる視界の左上にあるHPバーは焦らす事なく、緑、黄色、赤と染まり右端から左端まで走り抜けた。


赤く染まった視界に複数名のブーツが映り込むも、音は聞こえない。

視界の中心に[game over]と定番の文字が浮かび点滅、その下の数字が表示されカウントが始まる。

55、54、53と減る数字。

あと50秒、わたしのアバターはこの場に残り、カウントが0になった瞬間、スタートルの街へワープし蘇生されるか...この場でキャラデータが消滅するlstになるか。


こんな呆気なく死ぬなんて...デイズ中の無防備常態で弱点の一つ、頭に重強武器の攻撃がクリティカルヒットすれば一撃...いや、防具を強化しV振りにしたビルドでなければデイズなしでも頭栗が出れば一確で乙る。


はぁー...dead中に視点変更も何も出来ないのは変更すべきだな...ボスのステータスは変更しなくていいかな。ソロで挑んで勝てるボスなんて、よくゲームに登場する色違いで強いだけの雑魚モブと一緒、ボスとは呼べないし...。


メルセデスやリバーは上手くやってるだろうか...それにしてもデイズスキルを使ってくるとは予想外だった。

赤靄なんて知った事ではない、または...殺しではない靄ならば教会クエで何とでもなるからか?


頭良すぎだ。攻撃しただけで殺しはモンスターがする、自分から犯罪プレイヤーの象徴と言える靄が溢れても、攻撃しただけの靄なら教会クエでどうにでも....いや、3日間街に入れないというペナルティを我慢すれば教会クエをする必要もない。

安置でログアウトして3日放置するも良し、安置を拠点にプレイするも良し。


あー、もう、こーゆーのがあるから、わたしはPKが嫌いなんだよ。

ログアウトしたら雨水くんと神沼さんに文句言ってやる。


視界のカウンターは16、15、14と減る。

00になった瞬間、わたしのアバターは青白い光に包まれてスタートルの街まで戻り、蘇生される。

そう思って疑わなかったが、00になった瞬間、視界に亀裂が走り、Lv13レインのアバターは粉々に爆散。視界が真っ暗になり、すぐにコンソールの様なマップに送られ、目の前に文字が浮かぶ。


[キャラクターデータがロストしました。ログアウトまたはキャラクター作成を選択してください]


....、


これは...この文字が出るという事は...わたしのキャラクターレインは、、、lstした。


アバターも、装備も、アイテム、ありとあらゆるものが消滅した...。


1/5の1を引き当てるbadLUKをレインは見せてくれた。


コンソールで数秒フリーズし、わたしはログアウトする事を選んだ。


lstする危険性は確かにあったが、まさか本当にlstするとは...何と言うか、何も言えない。



いややっぱり、一言だけ言う。







泣きそう。





2031年3月16日。

正式サービス開始から二日目の日曜日、午後14時47分。


片手剣使い Lv13 キャラネーム[レイン]は呆気なくlstした。







スインベルン・オンラインの世界から現実世界へ戻ったわたしは、大きな溜め息を吐き出し泣きそうになっていた。


「1/5だよ、何で引き当てるかな...」


lstする瞬間は本当に呆気ないものだ。

え、lst?って感じだ。

キャラデータが消滅してから、やっと実感が湧いてくるレベルだ。


ーー lstしてもまだ取り戻せるレベルだよ。


わたしはそう言ったが、多分あの時は「lstするワケない」と思っていたのだろう。

レベルは取り戻せる。だって13だもん。でもアイテムは取り戻せない。

クラブ装備が報酬で貰えるあの手のクエストは一度クリアすればクリアしたデータは残り、lstしてキャラを作り直してもクリア済み常態。

クラブ装備はプレイヤーから買うしかない。


次の街でクラブ装備を一つでも装備していれば、続くクエストの受注は可能。

売りがなかったらメルセデスかリバーに一瞬借りて、クエスト受注するしかない。


はぁ...。




「プレイヤーも楽じゃない」







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