第4話




朝8時、わたしの部屋でアラーム一号が雷鳴の如く、鳴り響く。

うるさくシャウトするアラームを止め、途切れそうになった睡眠を再び貪ろうとすると、アラーム二号、後を追う様に三号が鳴る。

一号はベッドに設置してあり、簡単に停止させる事ができる。しかしこの二号、三号が厄介極まりない。

二号はデスクの上、三号はベッドから一番遠い窓付近に設置されているため、ぬくぬくしたベッドから抜け出し、自ら歩きアラームを解除しなければならない。


毎朝、夕夏家のれいん部屋で行われる超高難度クエストーー クソクエとでも言えば理解してもらえるだろうか。

なんと言ってもこのクエストは[デバフ スリープ]が開始直後からかけられるクソクエなのだ。

そのくせ、クエスト報酬は一階にいる家族から与えられる言葉だ。

こんなクソクエを考えた奴、今すぐ出てこい!と言ってもわたしが考えセットしたんだけどね。

デバフに抗いつつアラームを全て解除し、壁のタッチパネルを寝ぼけ眼で操作し、カーテンを開く。

アナログアラームを使っている理由は各場所に設置でき、音がうるさく、自分でアラームを触ってボタンを押し止めなければならないからだ。

こうでもしなければ、わたしは起きられない。

睡眠耐性値-100のユニットには朝は地獄なのだ。


なんとか起きる事に成功した今日、2031年3月16日はみんな大好き日曜日。

仕事も休みで自由に出来る日!日曜日最高!日曜日作った人は神様ですね!と、言ってもうちの会社の運営チーム達はなぜかみんな会社が大好きで、日曜日だろうが関係なしに集まる。

わたしも今日は休み。でも10時頃に会社へ向かいプレイリングルームを借り、スインベルン・オンラインへログインするつもりだ。


結局昨日はトレインやらシステム説明甘い!だのの文句対応まで滝口さんことタッキーのイケメンキャラ[フォル]で対応し、帰宅後マイキャラ[レイン]のレベリングを睡魔軍襲来によってまともにする事も出来ず、即ログアウトし睡眠を貪ってしまった。


わたしの勘が正しければ今日の昼頃にはフィールドダンジョン攻略が始まる時期だろう。一日あればα、βテスト経験者達は新マップや正式サービスで追加された新システムに慣れ、フィールドダンジョンを発見し攻略を始めるだろう。正式サービスから参戦したプレイヤー達もグングン成長していたし...是非そのフィールドダンジョン攻略に参加したい所なのだが、なんせレインはレベル5で初期装備。

こんな状態ではフィールドダンジョンへ潜っても散ってしまうのがオチ。


まずはクエストを受注しーー 昨日はクエスト受注前にトレインの件、そして帰宅後は睡魔に襲われてしまってクエストさえ受注していないので、レベリングと装備集めだな。


そんな事を考えながら頭をガシガシとかき、階段を降り、リビングへ入るとテーブルでタブレットを操作していたわたしの兄[夕夏 れい]が先程終えたクソクエの報酬である家族の有り難いお言葉をくれる。


「おはよう、れいんの部屋は毎朝賑やかだね」


アクビ混じりに「まぁね」と返事し、わたしはソファーへミラクルダイブする。

兄は毎朝このタイミングでイスから立ち上がり、可愛い可愛い妹のためにオレンジジュースを用意してくれる。毎朝何時に起きているのか不思議に思ってしまうが、兄にも兄のペースとリズムがあるんだろう。そしてわたしはスイッチを入れるため、毎朝100%のオレンジジュースを飲まなければ始まらない。錆び付いたスイッチを押す様な苦味あるオレンジジュースを飲み、一旦落ち着きリビングを少し見る。


「...あれ?パパとママは?」


わたしは両親が見当たらない事に気付き、兄へ質問を飛ばし再びオレンジジュースに溺れ返事を待っていると、兄は作り笑い120%の顔で答える。


「デート。帰りは夜になるから夕食は各自勝手によろしくって」


「あー、いつものね」


毎週毎週、父と母はデートをするほど、仲良さげ。

別に悪い事ではないし、むしろいい事なのだろう。しかし先週、クレープを食べた!と父が自慢してきた時は甘ったるい気持ちになったものだ。


「~~ッ...おにぃはさっきから何見てるの?」


わたしは大アクビを炸裂させ兄へ追撃の質問を撃ち込んだ。熱心にタブレットを見ているので少々気になりつつ、トーストが焼けるまでの話し相手になってもらおうではないか。

キッチンでトーストをセッティングし、スイッチを起動させソファーへロケットダイブする華の18歳。

よく「どっちが男なんだかわからないわね」と母に言われるほど、わたしと兄の性格は違う。兄は両親がいない日は朝食を自分でしっかり作り、普段から洗濯も掃除もする。わたしは基本楽に食べれるものをーー 料理スキルを選択していないのでギャンブル飯は避け、洗濯も掃除も熟練度が6くらいなので自らしようとしない。

しっかり者の兄と始まってもいない妹。

このビルドで兄とわたしは家族としてのバランスを保っているんだ。

そうに違いない。


わたしが飛ばした質問に対して兄は言葉ではなく、タブレットを渡してきた。

無言で受け取り確認してみると、それはVR-ゲームを紹介しまくるVR番組[不定期クロニクル]略称フテクロのページだった。


なになに [3月15日に正式サービスを開始した、スインベルン・オンライン] ...ほほう。

早速スインベルン・オンラインを宣伝してくれるとは、フテクロ運営のサーチングスキルは中々の熟練度とみた。

しかしまぁ...サービス開始して一日二日じゃ書ける内容も限られていて、記事として掲載するにはネタが足りないか。

簡単な説明や紹介が書かれたページとSSーー スクリーンショットが掲載されたページだけ。最初はこんなもんだろう。


わたしはトーストがストーン!と飛び出すまでフテクロを楽しむ事にした。トースターもアナログタイプで飛び出す音が何かのゲームのジャンプ音に似ていて、わたしは嫌いじゃない。

その音を逃さない程度に集中してフテクロを見ていると、モンスターを狩るゲームのアップデート情報や有名ファンタジーゲームのオンラインバージョンの攻略記事などが掲載されていた。どっちもプレイした事あるしどっちも好きなので確認しようと指を運ぶも、わたしの指がタップした記事はつい数十分前に更新されたスインベルン・オンラインの最新ニュース。

そこには [フィールドダンジョン発見!植物と亜人が生息する ゼリアスの森]と書かれ、スクリーンショットも数枚アップされていた。

まさかこんなに早く[ゼリアスの森]へ辿り着き、その情報をフテクロへ伝えて、公開希望を出すプレイヤーがいるとは...もしわたしだったならば、ある程度攻略してからスクリーンショットを送り公開希望を出すが、まぁこういう独占欲がなく、行動力の高いプレイヤーの存在は有り難い。

まだ細かい情報は記入されていない事から、本当に発見された段階と言う事か...わたしも早く攻略参加出来るようにしなきゃだ。


「ーー れいん!」


「ん!?なに?」


「なにじゃないよ、朝食作ったから冷めないうちに食べなよ」


不定期クロニクルに集中しまくってたせいか、兄の声もトーストジャンピングもがっつり聞き逃していた。ピーピングスキル熟練度が下がったのか...とりあえずソファーとお別れし、テーブルへ。


「え」


テーブルに用意された朝食にわたしは声を出しフリーズした。

トーストはバターが塗られ斜めにカットされていて、スクランブルエッグの上にはソーセージで生成されたソーセー人が座りこちらを見ている。さらに野菜サラダまで...豪華でも何でもない朝食だが、本日はトーストだけをガシガシかじるのを覚悟していたわたしには、この並べられた朝食達は高ランク食材の山に見える。兄じゃよ、感謝するゾヨ。


タブレットを返し、変わりにフォークを受け取ったわたしは最初にソーセー人を脳天から突き刺し、クチへ運んだ。

やはりソーセー人の踊り食いはたまんねぇぜ!という様なアクションをしていると、兄はグラスにオレンジジュースを追撃してくれた。

まったく、出来る兄を持つと妹はダメになりますな。


「今日はこの後会社でログインかい?」


今度は兄がわたしへ質問してくる兄のターン。

コーヒーの匂いを感知し、わたしは答える。


「うん、そのつもり。またコーシーですか」


野菜サラダをウサギの様に頬張りアンチコーヒー部 部長としてしっかりコーヒーへの攻撃を仕掛けるも、アンチコーヒー部 部長の攻撃ははずれた。


「スインベルン・オンライン、俺も始めてみようかな」


兄がポツリと溢した言葉をわたしは逃さず拾い、飲み込む様に食らい付く。


「え、やろうやろう!今すぐ!」


兄はわたし以上に色々なジャンルのゲームをプレイし、ハマったゲームでは恐ろしい知識と実力を身に付ける。

武器倍率...武器の攻撃力を言っただけで切れ味ゲージや属性最高値まで答えてきた時は白目になったものだ。

チートを使って不正に武器をゲットしたりする改造厨がいても属性値やスロット、倍率を知り尽くし、バレないギリギリラインを攻めなければ、兄は即リビールしキックする。わたしはそのシーンを何度となく見ている。


「れいんは管理者権限を使わず、個人的にキャラクターデータを作ってプレイしているの?」


わたしがスインベルン・オンラインの運営チームに所属している事を兄は勿論、家族全員知っている。プレイヤーとしてならば気にならないわけがない部分をあっさり聞いてくるとは。


「わたしが使ってるキャラはみんなと同じだよ。レベリングも装備集めも熟練度上げも一緒。ただたまにGMキャラや他の運営データでログインしたりするけどそれとわたしのキャラは別かなー。プレイヤーとしても楽しみたいしレインってキャラはみんなと同じ」


すると兄は「それなら一緒にプレイしても足手まといにはならないね」と言ったが、それはどっちが足手まといにならないと言ってるんだ?勿論自分の事だよね?なんせMMO-RPG熟練度ならばわたしは兄より高い。オンラインゲーム全体で言えば様々なジャンルをプレイした事のある兄には勝てないが、MMO限定ならば歴も感覚的な問題もわたしの方が上だ。

足手まといにならない様、頑張ってくれ。と言おうとしたわたしよりも先に、兄が質問してきた。


「このARPGってアクション戦闘やアクション要素が濃いRPGって事だよね?」


わたしは頷き、残りのトーストをクチへ入れる。

不定期クロニクルを毎回見ていた兄ならばスインベルン・オンラインのシステムを多少なりとも理解しているはずだ。ジョブなしだの武器種は~だの今さら言う必要もないだろう。


「気が向いたらプレイしてみるから、その時はよろしくね」


「おっけー」


平和な会話を終え、朝食後の後始末ーー 高ヘイトのクエスト洗い物を済ませ、軽くシャワーを浴びたり色々準備して、出発する事にした。

17歳の時ーー まだ学生の身分だったにも関わらずわたしはスインベルン・オンライン運営チームに所属するというハイラックを発動させ、学校側も承諾してくれるほどユルユルな感じだったので経験値量は今年卒業した同期よりも一年分多い。

たった一年。それでも経験値量は違う。テキストを見て、話を聞いて得た知識では経験で得た知識に到底及ばない。

勿論テキスト知識も経験者から聞く知識も、あるないでは相当違うが、エアプかリアプかで相当の差がスタート時点で露になる。

いくら知識を持っていたとしても、エアプはボロが目立ち、リアプは感覚的なものも持っているのでサクサク進む。

これはゲームだけではなく、仕事や勉強にも言える事だろう。


なぜわたしはこんな事を考えているか。それは昨日の帰り、スインベルン・オンライン運営チームの代表、わたし達のボスである赤城さんから妙な話しを聞いた。


「今年の2月、サービスを終了してしまった[レジェンディオル・オンライン]の運営プレイヤーがスインベルン・オンライン正式サービスからプレイを始めているとの噂を聞いた」


との話を耳に。レジェンディオル・オンラインはわたしもプレイした事があるPSーー プレイヤースキルが重視されるMMOだった。サービスが終了したのも知っていたし、別のMMO運営チームがスインベルン・オンラインをプレイしても何も問題ではない。のだが、わたしの記憶が正しければレジェンディオル・オンラインの運営プレイヤーはわたしより三つ歳上イコールわたしより運営プレイヤーとして三年先輩。

そして対応相手が面倒なプレイヤーだと判断した瞬間、過激なPKで制裁を下す血の気多いプレイヤーだったはずだ。キャラネームまではわからないが、白髪に赤目のキャラメイクを好む、ヴァンパイアの様なアバターだと聞いた事が...ま、オンラインゲームでそういったアバターを好んで使うプレイヤーは、消費アイテムの数ほど存在しているし、わたしもそういったアバターは嫌いではない。

普通にスインベルン・オンラインをプレイしているのならば何の問題もないだろう。


そもそもPK、lstシステムをごり押しした脳みそlstの雨水うすいくんと、PKマニアのFPS脳の神沼かみぬまさんが悪い。

目に余るPK事件が勃発した場合はこの二人に文句を言いまくってやる。


携帯端末で本日の天気を確認し、傘の有無を。

晴れらしく傘は不要と判断したわたしはそのまま家を出ようとすると兄がわたしへ声をかける。


「送っていこうか?」


可愛い可愛い妹が心配で心配で気が狂いそうなのか、わたしを車で送ってくれると言う。勿論、即頷き兄の愛車...なんかおっきい車の助手席を制圧する。


うむ。女の気配はないな。

などと車内を軽く観察し、車は出発する。

夕夏家の城は世田谷区に君臨するかの様に...は嘘で、世田谷区にある。ここから港区にあるcuriosity社まで20分前後。その間わたしは何となく兄へ話をした。


「レジェのサービス終了したの知ってた?」


レジェンディオル・オンラインのサービス終了を兄は知っていたのかどうか。別に聞いた所で何もないが、ゲーム好きならばこの手の話題も少なからず耳にしているだろう。


「知ってるよ、2月にサービスが終了した。理由はたしか...ゲーム内がよろしくない取引場所に使われていたとか」


よろしくない取引?それはRMTで武具やアイテムをトレードしていたと言う事か?たしかにRMTは誉められる事ではないがゲーム外での出来事なので運営はノータッチ。それにゲーム内でRMTの話題をすればすぐフィルターがかかりチャット出来なくなる。


「なんの取引?」


わたしはそこまで考えて質問してみると、兄は短く答えた。


「ED」


「ED!?」


おうむ返し的に言い放った声は兄の声よりもボリューム増し盛りだったが、そんな事気にしている余裕もなくわたしは驚いた。


イーディー、ElectronDrugの略で電子ドラッグだ。


VR技術の発展と同時に電子電脳世界を対象とした違法薬物データの取引も発展してしまった。

このEDの厄介な点は人体検査ーー 体液などでは検出できず、脳に直接ドラッグを打ち込む感覚なので突然トリップする人間がちらほらと現れている事だろう。その人間を逮捕した所で実物がないデータ、電子ドラッグは出てこない。VR世界のバックデータを確認しても[○月×日 プレイヤー△はマップ□で回復ポーションを1つ使用。HPが◎回復した]とのデータしか発見できない。

捌く側にはそのVR世界のシステムに検出されない様、EDの外装データを塗り替えるプロが何人もいる。

リアルでお金を払いヴァーチャルでアイテムを受けとれば、アイテムを貰った程度のデータしか残らない。回復ポーションをプレゼントする行為などなんら珍しくない。

RMTに対して運営は関与しない、ノータッチ。この部分をフル活用した最悪な取引。

それでも、運営がリアル世界でプレイヤーの行動を管理、監視するのは不可能なので、本当に手が出せない。

アップデートやメンテナンス、毎日繰り返されるシステムリソースの計算や確認でも、ED反応は掠りもしないから、相当頭の出来がいいバカがEDに関係しているに違いない。


「レジェはギスギスした世界だったからこそ、取引には丁度よかったんだろうね。スインベルンはプレイヤーとプレイヤーの関係も楽しみの一つだろう?そういう世界では起こらないと思うし、心配いらないよ」


兄は笑顔でいい、わたしの心配や不安を排除してくれた。





うちにも頭の出来がいいアホが沢山いる。

EDの検出だけに集中すればすぐ発見出来るだろうし、そうなった場合ボスが色々と指示を出すはずだ。


それにスインベルンではまだそう言った問題は発生していないし、兄が言った通りプレイヤーとプレイヤーが関係する場面はレジェと比べるまでもなく、多い。

関係をもつプレイヤーが多いと言う事は違法アイテムなどを捌く隙がなく、裁いたとしてもバレる確率が高いという事になる。フィールドダンジョン[ゼリアスの森]のデータを即、不定期クロニクルへ投げた行動力◎のプレイヤーも存在しているし、大丈夫だろう。



そんな会話をしていると目的地へ到着、わたしはお礼をいいドアを閉じ、プレイリングルームを目指しせっせと走った。




今日はレインのレベルを10前後まで上げて、装備を新調して、フィールドダンジョン[ゼリアスの森]攻略へ参戦出来るまでに育てなければ。




日曜日だからプレイヤーの数も多いだろう。



楽しみだな。








正式サービスを開始して二日目の日曜日。

プレイヤーの数は予想よりも多く、スタートルの街はプレイヤー達で賑わっていた。


街のログインポイントに召喚されたわたしレインは辺りを見渡してなんだか嬉しい気持ちになった。

設置されているベンチの数からその角度や並び、木々の大きさ、太陽の光加減まで案を出して、設定してログインして調整して、完成したスタートルの街にわたし以外のプレイヤー達がいる。

正式サービス開始されたので当たり前の事だが、この当たり前が、わたしを嬉しい気持ちにさせてくれた。


うんうん。と頷くモーションをして、わたしは街の雑貨屋へ走った。雑貨屋のNPCへ話しかけNPCも挨拶を返してきた所で、ある変化をプレイヤーは拾わなくてはならない。勿論スルーしてもいいが、明らかに “困っている顔” をするNPCには「何かお困りですか?」や「どうしました?」などの言葉を投げかけてあげるとクエストの話を持ち掛けられる。その困っている顔は眉を寄せわざとらしいため息をつき、NPCの頭上にモヤモヤアイコンがたっぷり5秒も浮遊する。わたしはすぐに話しかけクエストトークへ進む。ここでNPCがプレイヤーへフォンを持っているのか聞いてくるので、このタイミングでフォンを出せば、画面にクエストリストが表示される。

序盤のNPCだけがフォンの有無を会話に混ぜてくる。先へ進めば、クエスト受注イコール フォンを出す。と当たり前になると運営チームは予想し、この会話をカット。序盤マップのNPCからしか聞けない内容になっている。


早速フォンを取り出すと画面に赤い旗のアイコンが表示され、タップすると目の前のNPCが持つクエストをリストアップしてくれる。スタートルの街にいる雑貨屋NPCはクエストを一つしか持っていないため、迷う必要はない。

〈商品どろぼう〉という名のクエストをタップすれば内容をNPCが話してくれるが、クエストリストでも確認でき、画面に表示される[skip]をタップすれば話しは途切れる。雰囲気も楽しみたい人は親身になって会話を聞いてあげよう。無慈悲なわたしは迷わず[skip]をタップしクエスト受注を済ませる。

次に朝6時から夕方18時まで街中を歩いているNPCへ話しかけ、同じようにクエストを受注する。

複数個のクエストがあるスタートルの街だが、今はこの二つ〈商品どろぼう〉と〈父の形見〉を攻略する。同時に10個までクエストを受注できるので受注しまくって街から出るのも手だが、クエストにレベルが設定されていて、5以下だと受注不可能、5以上だと報酬アイテムは受け取れるがクエスト報酬経験値はゼロになってしまう。

スタートルの街のクエストはほぼレベル5で受注可能になっているのでレベル5まで適当に狩りをして上げ、5からは街でクエストを攻略すればいい。


ベルトポーチのポーション数を確認し、わたしはスタートルの街からスタートル平原へマップ移動する。

わたしと同じ初期装備でレベル1プリンと戦闘するプレイヤーや黒布にチェストプレートがついた装備で平原を走るプレイヤーがわたしの視界に入る。

おしゃれアイテムが課金でまだ販売されていないのでみんなゲームで入手出来る武具を装備している。スインベルン・オンラインでおしゃれアイテムの販売はするのか...まずはここから話し合わなければならないレベルだ。


ログイン時にポーチの課金アイテムボックスへ、ログインボーナスとして〈レベル1~10までのプレイキャラは1時間経験値二倍〉になる素敵なアイテムが朝5時~早朝4時59分までにログインしたプレイヤー全員に配布されている。

わたしはその素敵アイテムを取り出し、ベルトポーチへ押し込み[スタートル平原 エリア2]へ向かう。エリア2と言ってもマップ移動はなく、橋を渡った先がスタートル平原のエリア2、さらにその先の橋を渡ればエリア3だ。

エリア1はレベル1~2のプリンだけがポップする。

エリア2はレベル2~3のプリンと鳥系モンスター[チッチ]がポップする。

エリア3はレベル3~5の[チッチ]と植物系モンスター[ベリーヌ]がポップする。


橋を渡り、緑色の鳥系モンスター[チッチ]を発見したわたしはターゲティングし、素早くベルトポーチからログインボーナスで入手した経験値増加ポーションを取り、コルクを弾き飲み干す。

視界左上に自分のキャラネーム、HP.MPバーが表示されていて、その下に赤文字でEXP↑と書かれアイコンが追加された。これが経験値増加中のアイコン。

横目で確認したわたしは背から初期装備のショートソードを手に取り、鳥モンスター[チッチ]へ攻撃する。スタートル平原のモンスターは全身弱点ーー どこを攻撃してもクリティカルダメージが発生する設定になっているので、レベル5もあればどのエリアでもスキルなしで楽に討伐出来る。

一撃目でチッチのHPを半減させ、チッチのくちばし攻撃を回避し、トドメの一撃を放ち戦闘は終了。

視界中心に〈商品どろぼう・商品券1/10〉との文字がカットインする。文字は左から流れ、中心で2秒停止し、右へ流れ消える。目で追っても中々のAGIを持つ文字はすぐに見失ってしまう。フォンでクエスト状況を確認する事も可能だが、こうして半透明の文字がカットインする事で、フォンを操作する作業を省略できる。

その後もチッチを討伐し、10分ほどでクエストアイテム、商品券は必要数揃った。


次はそのままエリア3へ向かい歩く花[ベリーヌ]をターゲティングし、同じように攻撃。スイーツみたいな名前だが立派なモンスター。この[ベリーヌ]から父の形見である[花のピアス]を奪い返すクエスト。クエストを受注していなければドロップしない。

この[花のピアス]のドロップが渋い渋い。ここで経験値を稼ぎつつクエスト攻略出来る様に、エリア3にポップする[ベリーヌ]はレベル5しかいない。面倒な攻撃もなく戦闘は楽に終わるが目的のアイテムをドロップ出来るまで、わたしは35分かかった。

レベルは5から9まで上がり視界下にあるEXPバーのパーセンテージは76%、経験値ブーストアイテムは残り15分なので、時間まで[セリーヌ]を相手にレベリングをし、経験値ブーストタイムが終了した頃、レベルは12手前の11で終わった。


クエスト報告をするためスタートルの街へ戻り、最初は雑貨屋で〈商品どろぼう〉を報告する。NPCへ話しかけ、フォンを出し〈商品どろぼう〉をタップすると[クエスト報告します]の文字が表示されるのでタップすると、クエスト報告後のセリフをNPCが語り、報酬アイテムと経験値が自動的に送り届けられる。

ここでレベルが12に上がり、わたしは次のクエスト報告へ。

同じようにするとフォンを操作し[クエスト報告します]をタップすると〈クエスト報酬の種類を選択してください〉との文字が表示され、次に武器類が表示される。このクエスト〈父の形見〉の報酬は経験値と武器だ。わたしが片手剣を選択するとNPCがクエスト報告後のセリフを言い、クエストは終了。ここでまたレベルがアップし、レインのレベルは13まで上がった。


クエスト終了後、わたしはスタートルの街の広場にある木箱から伸びるコードをフォンへ挿し、フォンを操作する。

まずはステータスポイントを振る。DEX型AGI振りなので迷う事なくステフリは終わり、次はスキルツリーの確認。

スキル[片手剣スキル]のスキルツリーは一つ伸びスキルが追加されているが、このスキルを取る前に、わたしは別のスキルツリーを選択した。


スキルツリーは最初の一つを覚えて、プレイヤーレベルが上がればツリーは自動で派生する。その派生が一本なのか二本なのかはそのレベルにならなければわからない。

勿論スキルを覚えるのに必要なスキルポイントも派生するまでわからない。

α、β経験者ならば攻撃スキルを取る前にこのスキルツリーを取り、派生先も取るだろう。

最初のスキル、ツリーの一番目のスキルは最低限のスキル情報を表示しているので[アビリティアップ]のツリーをタップすると最低限の効果説明と〈スキルポイントが7必要です〉との文字が出る。わたしは迷わず[YES]をタップし[アビリティアップ]のツリーを解放した。ツリー解放イコール新スキル取得。[アビリティアップ]はレベル15になる瞬間からその効果を発動するスキルなので今急ぎ取る必要はないが、レベル15になる前、14であと少しでレベルアップするという時点で[アビリティアップ]を取っておかなければ後悔してしまう。その[アビリティアップ]の先...プレイヤーレベル10で派生するスキル[HPup] [MPup] [SPDup]はスキルポイントに余裕がある場合、是非とも解放しておきたいスキルだ。

HP、MP、SPDupはそれぞれスキルポイント2で解放できる。解放すると文字通り最大HP、MP、常時SPDがupし、キャラクターのレベルがアップすればこの三つが普通のレベルアップ時よりも微量だが多く伸びる。スキル解放した瞬間にその効果は発動され、今までスキルを解放していなかったとしても問題なく今までの分ステータスが伸びる。

[アビリティアップ]はレベル15にアップしたその瞬間から効果を発揮し、レベルアップする度に全ステータスをプラス1してくれる神スキル。この[アビリティアップ]はレベル14後半から取っておかなければup系とは別で、スキル取得した瞬間、15から現在のレベルを計算して効果を発揮するわけではなく、その瞬間からレベルアップ時ステータスプラス1の対象になるわけだ。25で取ればレベル10分、ステータス10ポイント分損をする事になる。だからこそスキルツリーの一番目にこの[アビリティアップ]が設定されていて、次のツリーにup系スキルが設定されている。

この情報は街の本屋さんでも紹介されていて、スタートルの街のNPCがNPC同士の会話でも話している。


ここでわたしは全てのスキルポイント13を使いきってしまい、[片手剣スキル]の派生先を取る事が出来なくなったが問題ない。


次に装備を新調するため、ステータス、装備確認・変更まで進める。

装備可能スロットはメイン、サブ、防具、追加、アクセサリーの5つ。今埋まっているのはメイン装備の[ショートソード]と防具装備の[レザーチュニック]の2つ。


最初に防具の[レザーチュニック]をタップしする。すると現在所有していて装備していない防具名が表示される。現在所有していて装備していない防具は1つ、先ほど〈商品どろぼう〉の報酬で入手した[クラブクロス]という固有名の防具。その防具名をタップすると〈装備しますか?〉の文字と[YES] [NO]が表示され[YES]をタップする。装備中のレザーチュニックがフワッと優しい光を放ち、一瞬で姿を変える。

黒のポリエステルのような生地に胸当て...チェストガードを付きの防具。チェストガードにはトランプのクラブマークが小さく彫られているので[クラブクロス]という固有名になっている。店売りの[ハイレザーチュニック]より防御力は数点低いが特種効果エクストラスキルがついていてHPとATK(魔法ならばMATK)が微量上昇する。

そのまま次は武器をタップしリストに表示された[クラブソード]を装備する。茶色の鞘が艶消しの黒鞘に変わり、剣も変化する。ショートソードより大きく、ずっしりとたしかな重量を肩に感じたわたしは装備変更メニューを閉じ、初期装備を倉庫へ収納しコードを抜いた。


一新した装備を肌で確認し、少しニヤッと笑い今すぐ平原を爆走したいが、雑貨屋で必要ない素材アイテムを売却しポーション類を少々補充して、街から平原、そして平原の先[ゼリアスロード]へ出た。

ここは短いマップだがレベル8~レベル10のアクティブモンスターが徘徊するマップ。ここからスインベルン・オンラインが始まると言っても過言ではないほど、モンスター達はウザく絡んでくる。この[ゼリアスロード]のモンスターは全種アクティブ。レベル13になったわたしはレベル8モンスターには絡まれない。

クエスト報酬経験値同様にアクティブモンスターが絡んでくる条件はレベル5以下のプレイヤーが対象。13なので8のアクティブはわたしを恐れ絡んでこない。しかし9、10のアクティブはガンガン絡んでくる。ここを走り抜ければ噂のフィールドダンジョン[ゼリアスの森]に到着するのだが、ゼリアスロードのモンスター数は酷い。マップをホロ化すれば短いマップに赤点が大量に浮かぶだろう。アクティブにターゲティングされた状態で走り[ゼリアスの森]へ行く事は可能だが、それはトレイン行為。ここからのマップでトレインは本当に他のプレイヤーを殺しかねないので、プレイヤー反応がない事を確認したうえで、最速ダッシュする必要がある。勿論わたしはしないけども。


短くて、長い、[ゼリアスロード]。テストプレイの時点で結構大変だったマップの1つでパーティを組むか他プレイヤーと行動する事を進められるマップ。



わたしは近くの岩場へ移動し、手頃な岩へ腰掛けプレイヤーを待つ事にした。



新装備の[クラブクロス]と[クラブソード]。この名前から予想出来るプレイヤーもいるだろう。α、βの時代は何もなくただ先へ進む様なゲームに近かったが、正式サービスからはある世界観が追加され、メインクエストは存在しないままだが、続編的に続くクエストーー サブストーリークエストまたはキャンペーンクエストが存在する。メインストーリークエストが存在しないスインベルン・オンラインではこのサブクエまたはキャンクエこそがストーリークエストなのかも知れないが、その呼び方はプレイヤー達が決める事。運営はクエスト追加!とだけ言っていればいい。そのクエストの1つがクラブ王国ーー スタートルやゼリアスなどがある王国のクエスト。しかしそれは次の街でクラブ装備を所有した状態でなければ発生しない。


勿論このシリーズクエストをプレイしなくても先へ進めるのでガンガン先へ進みたい人は無視して問題ないが、クエスト報酬の経験値やアイテムは他のクエストとはひと味もふた味も違うので、強さやアイテムコンプリートを目指すならば是非プレイしたいクエストでもある。この情報も街のNPCがそれとなく話しているし、近々不定期クロニクルへ運営チームの誰かが情報を提供するだろう。



そうこう考えているとプレイヤーの気配ーー は感じないがそんな気がしたので、スタートル平原の方向を見た。

黒のポリエステル的な素材の布防具にチェストガード、そして艶消しの刃、艶消しの杖、艶消しの斧を背負ったプレイヤーが[ゼリアスロード]へ進んで来た。




わたしは岩の上に立ち、そのプレイヤー達へ手を振った。





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